何もしない院長 パート31 「院内で起きた窃盗事件。防犯カメラに映っていた“手”」
“何もしない院長”はフィクションです。でも、病院の空気を一番乱さない人は、だいたいこのタイプ。
12月中旬のある午後。
外来スタッフのひとりが、ナースステーションで小声で言った。
「……財布が、ないんです」
■ 小さな異変
それは昼休みの時間帯。
外来スタッフ用の更衣ロッカーで、財布や現金がなくなる被害が3件続いた。
警察に届けるには“微妙な額”。
だが、職員の間にはじわりと不安が広がっていた。
■ 防犯カメラに映っていたもの
事務課の中西と情報担当が、防犯カメラの記録を確認。
しかし更衣室の前は死角になっており、決定的な映像は映っていない。
唯一、廊下の映像に――
ロッカーに向かって消毒用カートを押しながら手を伸ばす人物の姿。
「あの手……誰やろな……」
「うちのスタッフ……ちゃうと思う」
事務課が対策に動き出そうとしていたそのとき、
あるファイルが、中西の机にそっと置かれていた。
差出人は、院長・野上。
■ ファイルの中身
それは1枚のプリントアウトされた画像。
件の廊下映像の静止画だった。
赤ペンで、こう書かれていた。
「手袋が左右で違う。カートの持ち手にも白い汚れ。
多分、“掃除のバイトの名札”借りた誰かや。
台車の返却履歴、夜間清掃業者と照合を。
あと、この通路、鏡に映ってるから、別角度あるで。
……ま、警察には任せるとして、
職員には“変な不安”が広がらんよう、先に伝えといてな」
中西は、鳥肌が立った。
■ 職員ミーティングにて
事務局が外来職員に説明を行う。
中西:「今回の件は、外部業者の制服の一時貸与ルールに起因するものでした。
本人はすでに特定され、警察の指導が入り、返金の手続きも始まっています」
「院内の安全は、まず“安心”から。
どうか、変に疑い合わず、また元の雰囲気に戻ってもらえたらと」
ミーティング後。
スタッフのひとりがつぶやく。
「結局……あの画像、誰が見つけたんだろうね?」
「……まさか、院長じゃないよね」
「だって、あの人、何もしてないじゃん……普段は」
■ 院長室にて
中西が言った。
「あのファイル、いつの間に……」
「ワシ、ほら。夜、エレベーターによう乗るやろ?
見とっただけや」
「それ、“何もしてない”って言います?」
野上(缶コーヒーを振りながら):
「“何もしない”んと、“見てない”んは違うんやで
この物語に登場する人物・団体はすべて架空です。




