何もしない院長 パート30 「病院公式SNSに“謎の予約投稿”。内容に涙する職員続出」
病院には、白衣だけじゃなく、人の気配と時間が積み重なっている。これは、そんな空気を描いたお話です。
12月のある朝。
広報係の若手職員・大谷は、いつも通り病院のSNSアカウントを確認していた。
すると、9時ぴったりに自動投稿された1本のメッセージが目に入った。
■ 投稿内容
【写真】
病院中庭の桜の木と、ひとり座る職員の後ろ姿
【本文】
「忙しい日も、うまくいかない日も、
君がここにいてくれるだけで、病院はちゃんとまわる。
感謝を伝える機会は多くないけど、
今日までのすべてに――ありがとう。
南方市民病院 院長 野上太郎」
投稿者名もアイコンも公式アカウントそのもの。
だが、誰もこんな予約投稿をセットした記憶がない。
■ 病院内に広がる動揺と感動
職員たちは動揺した。
「え、これ本物?」
「公式アカウントからだよね……」
「いつの間にこんな投稿を? 誰が写真撮ったの?」
「この後ろ姿……私かも……」
コメント欄には、次々と反応が寄せられる。
「疲れてたけど、ちょっと泣いた」
「誰かに“いてくれてありがとう”って言ってほしかった日だった」
「この言葉、心に沁みました。院長、ありがとう」
■ 広報係・山上が確認を進める
サーバーの記録を調べた結果、
1か月以上前、アカウントの“管理者権限”で予約投稿が設定されていた。
設定したのは――院長本人。
その頃、院長はインフルエンザで数日休んでいた。
「SNSの設定方法、教えてくれへん?」
と、広報にひそかに聞いてきたことが思い出された。
■ 院長室にて
山上が事情を報告しに行くと、院長は缶コーヒーを振りながら言った。
「ワシ、発信とか向いてへんしな。せやけど、
せめて1回くらい、“みんなおるだけでええ”って伝えたかったんや」
「それも、“ワシがおらん日”に流れた方が、
ちょうどええやろ?」
■ 翌日、職員のデスクにて
投稿のスクリーンショットを印刷し、
自分のデスクに貼る看護師や技師たちの姿。
「ここにいていい」と思えた朝のひとことは、
“何もしない”院長からの、とても大きな贈り物だった。
この物語に登場する人物・団体はすべて架空です。




