何もしない院長 パート29 「“院長室に飾られた写真”がSNSで話題に」
誰かの記憶の中にいる“あの人”のように、この物語の院長も、静かに誰かを支えています。
ある日、大学から見学に来ていた医学生が、
野上院長に案内されて院長室を訪れた。
部屋の片隅には、少し色褪せた額縁が一つ。
学生が思わず聞いた。
「……あの写真、どこですか?」
■ 古びたモノクロ写真
額に収まっていたのは、
30年ほど前の南方市民病院の正面玄関前。
だがそこに写っているのは、
今とはまるで違う、小さな平屋の“町の診療所”のような建物。
その前で、7〜8人の職員が笑って並んでいる。
よく見ると、前列の端に――
まだ若く、髪が黒々とした野上の姿があった。
■ SNSで拡散される
数日後、その学生がその写真の話をSNSに投稿した。
「野上院長の部屋にあった、創設当初の病院の写真。
なんで、これ1枚だけ、額に入れて飾ってあるんだろう。
他は何もないのに」
この投稿が、医学生や地域医療関係者の間で地味に話題に。
「あの写真……今の病院になる前のやつだ」
「写ってるの、うちの父です!」
「あの頃の病院、覚えてます。院長はもういたんですね」
「あの人、何もしないようで、何十年も変わらず“そこ”にいたのか」
■ 病院内でも話題に
看護部長・吉永は、
「……そういえば、あの額縁、昔からずっと変わってないわね」
副院長・熊田は、
「野上さん、自分の写真なんか絶対飾らないのに。
病院そのものの原点は、忘れんようにしてるってことか……」
その週末、事務局長・中西が聞いてみた。
「院長、あの写真……なんで飾ってるんですか」
「ん? ええ写真やろ」
「それだけですか」
野上(缶コーヒー片手に):
「“ここから始まった”ってこと、
ワシが言わんでも、見てくれたらええやん」
この物語に登場する人物・団体はすべて架空です。




