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何にもしない病院長  作者: しゅんたろう
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何もしない院長パート3 〜項羽と劉邦と事務局長〜

この物語に登場する人物・団体はすべて架空です。

ただし、思い当たる節があっても、口には出さないのが大人のマナーです。




南方総合病院の伝説には、二人の院長が必ず登場する。


一人は、かつての「清原前院長」。

全てをトップダウンで決めたがり、数字と命令で病院を動かそうとした男。

「ワシが決めたことに逆らうな!」が口癖で、職員からは陰で“項羽”と呼ばれていた。

彼の在任中は、病院は一見整然としていたが、現場は不満の坩堝だった。


もう一人は、現院長・野上。

釣りと昼寝と忘れ物が趣味で、口癖は「すまん、任せるわ」。

何も決めないのに、なぜか病院が回る。

気づけば優秀な部下たちが自然と集まり、現場が勝手に最適解を見つける。

その様子は、項羽と対比されて“劉邦”と称される。


 


ある日、病院に危機が訪れた。

県から突然、病床再編の打診がきたのだ。

南方総合病院を中心に、近隣2病院を統合・集約する再編計画。

条件次第では、病院の独立性も失われかねない。


野上は、事務局長・中西にこう言った。


「俺、これ考えると頭痛いから……釣り行ってくる。すまん、任せた」

「いや、院長!? 県との交渉ですよ!」

「中西くん、君のほうが絶対いい判断する。俺が口出すと、失敗する気しかしない」

「……(でもそれは事実かもしれん)」


 


中西、無双開始。

元銀行マンで、交渉術と数字の読みは一級品。

だが、前院長の時代は彼の能力は完全に押さえつけられていた。

「提案するな、命令を待て」と項羽型トップが全てを決めていたからだ。


今回は違う。

野上が“空席”を作ったことで、中西は自由に動ける。


・再編案の弱点を即座に分析し、県の財政シミュレーションを逆算。

・2病院の経営データを洗い出し、統合リスクを数字で“見える化”。

・医療スタッフと一緒に現場の意見を吸い上げ、代替案を練り上げた。


さらに、中西は現場の有志メンバーをまとめて「南方未来プロジェクト」を立ち上げた。

診療科の垣根を越えたブレーンが自然発生的に集まったのだ。


「前の院長の時代じゃ考えられなかった。

 あの人(野上)、何もしないけど、邪魔もしない。だから、やる気が出るんだよ」


現場は熱気に包まれた。


 

交渉の場。

県庁での会議。

中西が緻密な資料と穏やかな口調で再編計画の欠点を突き、代替案を提案した。

同行した医師・看護師・薬剤師たちが現場の声を誠実に伝えた。


「……驚いたな」

県の担当者が思わずもらす。

「南方病院、こんなに一枚岩だったか?」


 

会議後。

中西たちが勝利の報告をしようと院長室に戻ると、

野上は書類の山に囲まれて昼寝をしていた。

しかも、頭にアイスノンを乗せたまま。


「……終わったのか?」

「はい、県は再編案を修正、南方は独立性を保ったままです」

「おお、やっぱり君たちがやると早いなあ。俺が行ってたら、多分、10倍長引いた」

「……そうかもしれませんけど!」


「な、俺は“なにもしない”けど、“なにも邪魔しない”だろ?」

「……(ぐぬぬ、確かに)」


その週、職員食堂の掲示板に貼られた手書きのメモ。

“院長:野上

功績:特になし

だが邪魔もなし

→結果:◎”


なぜか、その紙を見て職員全員が笑顔になった。

これはフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。何もしない上司が嫌いな人へ。でも、何かしたがる上司はもっと面倒です。

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