何もしない院長 パート22 ― この病院、なにかおかしい ―
もし“ウチの病院もこうだったら…”と思ったあなた、それはすでに感染しています。ご注意ください。
春。
新年度に入って間もなくのある日、南方病院に「外部視察団」がやってきた。
構成は、県の医療政策課、大学病院の医局長、そしてJQ事務局の担当官という混成チーム。
視察目的は、
「中規模公的病院における持続可能な組織運営と人材定着」
……いかにも堅苦しい名目だった。
だが、彼らは口には出さずとも、本音ではこう思っていた。
「南方病院、最近やけにうまくいってるけど……なんで?」
「院長が何もしてないってウワサ、本当なの?」
「JQも学会も大学連携もうまくいってる。裏に強烈なNo.2でもいるのか?」
院内ツアー開始:まず、驚き
視察は、事務局長・中西が案内。
各部署を回るたび、視察団の誰かが小声でつぶやく。
医局の若手:「え? 院長?……あの、昨日は畑にいたって聞きました」
看護部長:「野上院長? そうですね……“口出さないのが最高の支援”って」
放射線技師:「え? 何が“おかしい”って、えー……静かなのに回ってるとこ?」
リハスタッフ:「逆に、院長が何か言い出したら皆ドキッとします。珍しいので」
会議室:報告を受けて
1時間半の視察後、会議室でまとめの時間。
事務局長の中西は、
人事データ・経営数字・研修プログラムを示しながら、淡々と説明した。
最後に、担当官がぽつりと漏らす。
「……やっぱり、“何かおかしい”んですよね。
普通、これだけ成果が出てたら、誰かが前に出て“功績”として語りたがるものなのに……」
大学病院某医局長:「うん。どこ行っても“野上院長が何もしてない”って言われた。
でも、誰ひとりとして“不満そう”じゃなかった」
政策課:「逆に、不安になりましたよ。“本当に機能してるのか?”って」
その時、会議室のドアがノックされる。
コン、コン
野上:「すんません、差し入れだけ……。
皆さん甘いもん好きかどうかわからんけど、きんつば置いときます」
それだけ言うと、深々と頭を下げて去っていった。
視察団、しばし沈黙。
「何かおかしい」の正体
JQの担当官が、帰りの車中でふとつぶやいた。
「……あの院長、たぶん“何もしない”んじゃなくて、“何も乱さない”んですね」
某医局長:「ああ。“成功”の真ん中に、自分がいないことを許せる人なんだ」
政策課:「それって……一番難しいリーダー像かも」
数日後、院内メモに貼られた手書きの紙
「視察団のメモ置き忘れ」として見つかった紙。
そこにはこう書かれていた。
“この病院、なにかおかしい。
それは『誰も偉ぶらない』という、
現代組織では極めて稀な現象である”
その紙を見た中西が、ぼそっとつぶやいた。
「……そりゃ、野上が“座ってる”だけで、偉ぶるやつ消えるからなあ」
そしてきんつばを口に運び、にやりと笑った。
これはフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません




