何もしない院長パート112リハ科長・飯窪女史、大演説
都南総合病院で開かれた「リハビリ連携会議」。
南方市・都南市・小代市、三地区の病院が一堂に会し、地域リハのあり方を議論する大事な場だった。
南方総合からは副院長熊田、事務局長中西、そしてリハビリテーション科長の飯窪真理が出席。
冒頭の形式的な挨拶が一巡したのち、場を震わせたのは飯窪の声だった。
◆ 飯窪の切り込み
「本日は、地域をどう支えるか、率直にお話させていただきます」
会場が一瞬静まり返る。
彼女は配布資料を置き、真っすぐに都南総合の幹部や行政担当者を見据えた。
「南方市には2つの公立病院がありますが――現実として、急性期整形外科手術を安定して担うだけの人材は、南方総合にはもういません。
整形外科は大学出身の2名で必死に支えていますが、正直に申し上げて、都南総合で手術した患者の術後フォローすら“責任が持てない”という発言が出る状況です。
連携を無視した態度や、患者さんへの接遇でご迷惑をおかけしているのも事実。ここは、私たちが深くお詫び申し上げるべき点です」
身内である整形外科をバッサリ切り込む言葉に、南方チームも一瞬息を呑んだ。
◆ “後方”の意味を再定義する
飯窪は続ける。
「けれども、だからこそ、都南総合との連携を強めて“後方病院”の役割を積極的に担いたい。
運動器リハや脳卒中後リハ、地域での生活再建は、私たち南方総合の強みです。
外科を独力で抱え込むのではなく、都南総合と南方総合が“役割を分け合う”ことで、Win-Winの地域医療を実現できます」
◆ 会議の空気を変える
彼女の言葉に、都南総合の事務方やリハ科長も大きく頷いた。
「たしかに、リハは都南だけでは回せない」「後方の役割を担ってくれるのはありがたい」と、会場の雰囲気が柔らかく変わっていく。
行政から出席していた医療課の杉岩も、「こういう率直な発言が一番ありがたい」とコメント。
◆ 参加者の感嘆
最後に飯窪は言った。
「地域包括ケアの時代です。
病院単位で“勝ち負け”を競うのではなく、どうすれば地域全体として患者さんを支えられるのか――その視点で動きたいと思います」
その場は大きな拍手に包まれた。
熊田副院長が小声で「やっぱり飯窪先生は頼りになるな」と漏らしたのを、隣の中西事務局長が聞き逃さなかった。
この日から「リハ科長・飯窪」の名前は、南方総合の顔として地域に広く知られることになる。
会議を終えた後、副院長の熊田が院長室に立ち寄った。
熊田:「いやあ、飯窪先生、すごかったですよ。堂々と整形を切って、地域連携の旗を振って……会場が一気に変わりました」
野上は新聞をたたんで、ぽつりと一言。
「……あの人な、南方のサッチャーやな」
熊田:「えっ、サッチャー首相のことですか?」
「そうや。“鉄の女”やろ。
でも、鉄って言うてもな、冷たい金属やのうて――あったかい鉄瓶で淹れたお茶みたいなもんや」
熊田は思わず吹き出した。
「なるほど……“ぬくもりある鉄の女”ですか」
野上はにやりと笑い、また新聞を広げた。
これはフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。




