何もしない院長パート111「デトロイト大松 気づく!医療再編は?」
南方総合病院の会議室。
ホワイトボードの前に立つのは、デトロイトオオマツのシニアコンサル、大松健三郎。黒縁眼鏡に細いスーツ、いかにも“数字で語る男”といった風貌だ。
「まず確認させていただきたいのは――」
彼はスライドをめくる。
南方市:人口約6万人、高齢化率40%
公立病院:南方総合(175床)、南方中央医療センター(150床)
医師数:両院合わせて常勤40名弱
入院患者数:コロナ前から年々減少、特に若年・中堅層は市外流出
「この規模の市で、急性期機能を“2病院で維持する”のは、率直に申し上げて不可能です」
場が静まる。栗林医師が腕を組み、熊田副院長は無言で頷く。
■デトロイトオオマツの分析
「例えば…」
南方総合:救急搬送件数 1,200件/年、手術件数 約800件
南方中央:救急搬送件数 400件/年、手術件数 約250件
「2つの病院が同じように“急性期”を名乗っているが、実態は“片方が準急性期にとどまっている”。このままでは双方とも基準を満たせず、診療報酬の減額と赤字の拡大が待っています。設備の集約化によるコスト削減が必要です。」
河添診療部長が口を開く。
「……つまり、急性期は南方総合に寄せ、中央は回復期・在宅連携にシフトせよと?」
大松は淡々と頷いた。
「はい。それが“持続可能な医療”への唯一の道です」
■行政の反応
同席していた医療課の杉岩、大原が顔を見合わせる。
「しかし…中央から外科手術がなくなると、市民から“格下げだ”と批判が出る」
「政治的な摩擦も必至です」
その場に重苦しい空気が広がった。
■野上の一言
沈黙を破ったのは、いつもの昼行燈・野上院長。
「……格下げやあらへん。進化や。
市民に必要なんは“2つの半端な急性期”やのうて、1つの確かな急性期と、1つの安心できる回復期や」
一瞬の静寂のあと、吉永看護部長がぽつりと漏らす。
「進化……ですか」
熊田副院長は苦笑しながらも、「先生にしてはええこと言うやん」とつぶやいた。
その場にいた誰もが、少しだけ背中を押された気持ちになった。
これはフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。