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何にもしない病院長  作者: しゅんたろう
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何もしない院長パート110「デトロイトオオマツ登場」



■医療限界社会ルポ


近年、テレビや新聞でたびたび耳にするようになった言葉――“医療限界社会”。NHKスペシャル「ドキュメント 医療限界社会 追いつめられた病院で」では、地方の病院が医師不足・過重労働・採算割れと戦う姿が描かれていた。

(NHKオンデマンド)


取材班が訪れたある地方病院では、診察時間を短縮せざるを得ない医師、処方ミスが頻出する薬剤師、不在がちな専門外来、採血や検査結果の待ち時間が長くなる看護師――すべてが「人が足りない」「時間がない」「これ以上は無理かもしれない」という空気に包まれていた。

(日経BPメディカルワークス)

その病院では、「もうこれ以上は患者を断らざるをえないかもしれない」「安全な医療を保てないかもしれない」という医療スタッフの小さな悲鳴が、いつしか大きな叫びとなっていた。

(NHKオンデマンド)


■南方総合病院に迫る現実


医療限界社会のレポートを見た南方総合病院の幹部たちは、他人ごとではないと強く思った。コロナ明けで、なんとか黒字を保っていたが、制度的・構造的な課題は日に日に増していた。人件費、薬剤・資材コストの上昇、手術数の減少、救急医の負担、働き方改革のプレッシャー……。これらが積み重なって「このままでは医療の質も安全も危うい」という共通認識が広がっていた。


■ コンサル導入の背景


コロナ禍をなんとか黒字で乗り越えた南方総合病院。

しかし物価高・人件費高騰・医師不足という三重苦がのしかかり、単独努力だけでは限界に達しつつあった。


市長や医療課の杉石、大原の調整のもと、ついに民間コンサル「デトロイトオオマツ」に支援を依頼することになった。


■ 初めてのミーティング


大会議室。

南方側は栗林(診療部長OB的存在)、熊田副院長、河添診療部長、中西事務局長、吉永看護部長。

そこへ黒いスーツのデトロイトオオマツチームが入室する。


若いアナリストがスライドを出す。


「収益構造の課題は大きく三点です」


手術件数の低下


病床稼働率の乖離


人件費と診療報酬のアンバランス


吉永看護部長が手を挙げる。

「……それって、現場ではずっと分かってたことなんですけどね」


中西事務局長が苦笑い。

「数字で突きつけられると、まあ耳が痛い話でして……」


熊田副院長は腕を組んで黙り込み、河添は真面目にメモを取っている。

栗林は、後ろから「ドーナツの差し入れまだか?」と小声で茶化す。


■ 野上の珍しい一席


会議が白熱する中、普段は沈黙の野上がゆっくり口を開いた。


「……オオマツさん。ウチが守りたいのは“黒字”そのものやあらへん」


一瞬、室内がしんと静まる。


「黒字は手段や。目的は、地域に医療を残すことや。

人を減らせ、効率化せえ、言われるんはわかるけどな。

そのせいで、患者が“安心できん病院”になったら、黒字の数字に意味はないんちゃうか」


コンサルチームも思わず姿勢を正した。


吉永が続ける。

「だから、私たちは“質と安全を守りつつ収支改善”という二兎を追わなきゃならない。数字だけでなく、現場を一緒に歩いてもらえますか?」


オオマツのリーダーが深くうなずいた。

「……承知しました。机上の空論でなく、現場と共に数字を作りたいと思います」


■ 会議後

中西が小声で「先生、今日はずいぶん雄弁でしたね」と笑うと、

野上はいつもの調子で肩をすくめた。


「ええんちゃう? たまには昼行燈も光らな」

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