何もしない院長パート109「ピンピンコール」誕生の巻
(場面:院長室。城方が、分厚い書類を片手にドアをノックする)
「失礼します、院長先生。例の Lifeline+、登録まだですよね?」
Lifeline+。それは通信大手MTTが企業向けに提供する、災害時安否確認システムである。
「……ああ、あれな。めんどいんや」
「いや、めんどいじゃなくて!訓練できないと意味ないんですから!」
「訓練やろ?わしは“本番”で頑張るタイプや」
城方(深いため息):「先生、“訓練で頑張らない人は本番でも頑張れない”って、医局でネタにされてますよ」
「うっ……わかった、やってや。頼む」
(やっぱり、できんかったのね。)
(城方がスマホを取り出してサクサク登録。5分もかからず完了)
(数日後。抜き打ち訓練開始。職員の携帯に一斉メール)
「安否:元気/軽症/重症」
「来院可否:可/不可」
「フリーコメント」
ほとんどの職員:
→【元気/来院可】(コメントなし)
ところが一件だけ、異彩を放つ返信。
安否:重症
来院可否:いつになるか不明
フリーコメント:苦しい、助けて、死ぬかも。早よ、みつけて!
城方(目を見開く):「……先生!? これ、院長ですよね!?」
野上(悪びれず):「せや。ちゃんと“重症”で返さんと、テストにならんやろ?」
「いや普通“重症”なんてわざわざ入れないですよ!」
「だって“訓練”やろ?システムが本気で反応するか、試さんと意味ないやん」
城方(絶句しつつも内心納得):「……あ、いつものおふざけじゃなくて、本気でテストしてたんですね」
「そうや。“ええんちゃう”で登録は済むけど、“死ぬかも”って書いてちゃんとアラート鳴らせたら、本物や」
(その後の反省会)
野上:「でもな、“Lifeline+”って名前、ちょっと固すぎひん?緊急のときほど、余裕あった方がええやろ」
城方(少し考えて):「じゃあ……“ピンピンコール”とかどうです?“ぴんぴん”してるか確認するってことで」
「おっ、ええなあ! 城方くん、いいセンスやん。忘れへんし、縁起もええ。ええんちゃう」
(その場に居合わせた中西事務局長が苦笑い)
中西:「……市にどう説明するんですかね、その名前」
「ええやん。“生きてるかどうか確認する”んやろ?だったら“ピンピンコール”。覚えやすいやろ」
(なぜか妙に説得力があり、職員たちに笑いが広がる)
翌日、病院内の掲示板には大きく貼り出されていた。
「次回災害訓練は ”ピンピンコール”(旧呼称 lifeline+) を使います!」
(売店おばちゃん):「……先生、やっぱり名前のセンスだけは天才やわ」
(命名は城方くんやけどな! 野上は飄々と微笑みながら羊羹をかじるのであった)