何もしない院長パート108「院長室で見た日常のワンシーン」
南方総合病院の院長室は、今日もドアが開け放たれていた。
「どうぞどうぞ」と促され、山田沙織さんと南慎太郎さんの2人の医学生は、ちょっと緊張気味に院長室へ入る。
■ 売店おばちゃん登場
そこへ、タイミングよく売店のおばちゃんが顔を出した。
「院長、きのう入った新作フィナンシェ持ってきたよ。学生さんも食べてって!」
おばちゃんはにっこり笑いながら紙袋を差し出す。
「え、売店ってこんなサービスまであるんですか?」と学生が驚くと、院長は一言。
「いや、逆にわしが常連すぎて、もはや友だち扱いやねん」
学生たちの緊張がふっとほどけ、部屋に笑いが広がった。
■ 掃除の嶌田さんも乱入
さらに、廊下を掃除していた嶌田さんが、モップを片手にひょっこり顔を出した。
「センセイ、学生さん? ほな、うちも自己紹介しとこか。毎朝院長より早くここに来てる掃除のおばちゃんです」
「嶌田さん、ここの大事な“情報源”やで」
と院長が笑いながら言うと、嶌田さんは「しーっ!」と指を立てて、学生にウインクした。
学生たちは、「院長室って、まるで休憩所みたいですね」とこぼす。
「うん、まぁ……ここでしか拾えん情報もあるんや」と院長は肩をすくめた。
■ 若者の目に映った“オープンな院長室”
帰り際、学生たちは顔を見合わせて、ぽつりと言った。
「なんか、“病院のトップ”っていうより、“町内会の集会所の会長”みたいですね」
それを聞いた院長は、照れくさそうに笑いながら、いつものひと言で締めた。
「まぁ、ええんちゃう」