何もしない院長パート107:Meet the院長
南方総合病院の院長室は、今日もドアが半開き。
隣の総務課からは電話の声が響き、廊下を掃除する嶌田さんが「センセイ、きょうも腰だいじょうぶ?」と声をかけていく。
そんな日常に混じって、この日は少し特別なお客がいた。
■ 学生たちの来訪
小浦先生が連れてきたのは、医学部2年生のふたり。
大阪通天閣高校出身で南方大医学部に通う山田沙織さんと、城北大医学部の南慎太郎さん。
「えっ、通天閣?わしの後輩やないか!」
野上の顔がぱっと明るくなる。地元ネタで盛り上がる二人を見て、置いてけぼりの南君は負けじと質問攻めにした。
「院長先生、この地域で総合診療をやるって、どういう意味があるんですか?」
普段は「ええんちゃう」で済ませる院長が、このときばかりは目を輝かせ、身を乗り出した。
■ 昼行燈、珍しく熱弁
「患者さんの病気だけ見てたらあかん。
その人の暮らしや、家族や、働き方まで見なあかん。
ウィリアム・オスラーも言うとった。“病を診るな、人を診よ”やで」
お茶請けは、売店のおばちゃんお手製のフィナンシェ。麦茶の代わりに、学生の好みに合わせて缶コーヒー。
ふたりの学生はメモを取りながらうなずき、小浦先生は「いやあ、院長がこんなに饒舌なの、学生の前だけですよ」と小声で笑った。
■ 学生たちの感想
山田さんは「地元で医療に携わるイメージが、ぐっと近くなりました」と笑顔。
南君も「大病院じゃ学べない“町の医療”を体感できる気がします」と感想を述べた。
扉の外では掃除のおばちゃん嶌田さんが耳をそばだて、「ふふん、うちの院長も捨てたもんじゃないね」とにやり。
最後に学生たちが帰ったあと、
野上はひとりごとのようにつぶやいた。
「いやあ、若い子らの前やと、わしもつい熱うなってまうな。……まぁ、ええんちゃう」