何もしない院長パート103「重症度看護必要度ピーンチ」
■会議招集
炎暑の続く夏、臨時の病床管理運営会議が開かれた。
議長は能生原、出席は各病棟の看護師長、医事課の湯先、リハ科長の好岡、MSW野守。
湯先が淡々と報告する。
「現在、当院の重症度看護必要度IIの該当患者割合は19.6%。急性期一般入院料1を維持するには25%以上必要です。このままでは来月にも施設基準を割り込み、基本料が下がります」
会議室が一気に重苦しくなる。
■看護師長たちの声
外科病棟の看護師長:
「手術件数が減ってるのは、整形の先生方が高齢で、件数が出ないからです。眼科や歯科にお願いして何とか数字を積んでもらってますが……」
内科病棟の看護師長:
「猛暑で高齢者の脱水や廃用症候群は多いですが、酸素も点滴も不要となると“軽症”扱い。現場の負担は大きいのに、必要度に反映されないのが辛いです」
包括ケア病棟の森川師長:
「急性期から“まだ動けない人”が降りてきて、こちらもパンパンです。リハは必死でやってますが、在宅に返せないケースが積もっています」
■医事課・リハからの提案
湯先(医事課):
「まずは病名の精緻化をお願いします。誤嚥リスクや褥瘡など、合併症があればしっかり拾いましょう」
好岡(リハ科長):
「ADLが低い患者さんも、適切な評価をすれば“必要度該当”にできます。リハ職と連携して記録を厚くしましょう」
■野上の一言
ずっと腕を組んで聞いていた野上が、ぼそり。
「……“数字の患者”はおらんのや。みんな“人の患者”や。せやけど数字がなきゃ病院は倒れる。
だから……まぁ、“人を見ながら数字もつける”。ええんちゃうか」
会議室に笑いが漏れ、張り詰めた空気が少し和らいだ。
その日の午後。売店のおばちゃんが会議室に顔を出し、アイスキャンディーを配りながら一言。
「院長さん、重症度がどうとか知らんけど、あんたら顔が“重症”やわ。ほら、冷たいもんでも食べて元気出し」
数字も大事、人も大事。南方流の“現場と経営の両立”は、こうして続いていくのだった。