何もしない院長パート101 女子学生ナディアとナズワの場合
■ 病院見学に来た2人の医学生
インドネシアからやってきた医学生、ナディアとナズワ。
南都大学医学教育学講座が主催する交換研修プログラムの一環で、夏休みを利用して南方総合病院を訪れた。
彼女たちのテーマは「地域医療と包括ケア」。韓国や台湾でも注目される領域だ。
見学予定はドクターカー、医療アート、包括ケア病棟、退院時カンファレンス……と盛りだくさん。
だが問題は一つ。
——英語しか話せない。
■ 翻訳機ポケトークの限界
野上院長は英語に自信なし。
「How are you?」までは言えるが、続かない。
ポケトークを導入するも、ちょっとした間が致命的。
“ER”を「え?」「Air?」と誤訳し、ナディアが爆笑。
■ 陳麗明という救世主
そこへ現れたのが、地域医療実習で2か月研修中の研修医・陳麗明。
中国系マレーシア出身、日英中トリリンガル。
通訳はほぼネイティブ級で、しかも雑談力が抜群。
「ジャカルタ48知ってる?」
「恋するフォーチュンクッキー踊れる?」
気づけばナディアとナズワは大盛り上がり。
野上院長は「?」を浮かべつつも、嬉しそうに頷いている。
■ JCI英語パワポの再利用
病院紹介は、かつてJCI受審のために作られた英語版パワポを引っ張り出して対応。
「This is our Emergency Department...」と読み上げる野上。
途中で“包括ケア”を「Inclusive Care?」と迷い、
陳がすかさず「Comprehensive Community Care」と直す。
学生たちは深く頷き、拍手すら起きた。
■ おっさんと女学生の温かいエピソード
見学後、カフェで休憩。
ナズワが「地域医療って、患者さんと家族の“生活”まで支えてるのね」と感想をもらすと、
野上はゆっくりした日本語で「そうそう。病気だけちゃう。人をみるんや」と伝える。
陳が完璧に訳すと、ナディアもナズワも目を輝かせた。
帰り際、ナディアが野上に握手を求める。
「Thank you, sensei. You are... very kind man.」
院長は少し照れ、「ええんちゃう」と答える。
..................訳さなくても、伝わった♥
「言葉は国ごとに違うけど、笑顔と優しさは通訳いらん。
医療はいつも、“通じる心”でできてるんや。」
ナディアとナズワは深く頷き、陳麗明はにっこり。
野上院長は、照れ笑いを浮かべながらポケットのポケトークをそっとしまった。