何もしない院長パート97「ケアマネのシャドーワーク」
フィクションです。でも、“あれ、うちの○○に似てる…”と思っても、それはたぶん偶然です。たぶん。
■ 地域リハ研修会にて
野上院長は、オブザーバー席で静かに羊羹をかじっていた。
テーマは「地域共生社会を支えるケアマネの役割」。
会場の前列では、ケアマネや介護福祉士たちが熱く議論を交わしていた。
事例は「身寄りのない高齢者の退院支援」。
ケアマネが病院と在宅を行き来し、電話、調整、代筆、果ては冷蔵庫の中身の確認までやっている。
ある若手ケアマネが苦笑しながら言った。
「……でも、これって“仕事”ですか? それとも、影でこっそりやってる“シャドーワーク”ですかね?」
会場にざわめきが走る。
■ 竹ノ内の一言
地域包括ケア局の竹ノ内課長が手を挙げた。
「行政的に申し上げると……多職種で合意が形成されれば、それはもう“シャドー”ではなく“役割”です」
「影でやってるんじゃなく、地域が認めて担っている。ならば堂々と“地域の役割”と胸を張っていいんです」
会場から安堵の笑いがこぼれる。
「なるほど、合意すればシャドーじゃなくなるのか」
「影が役割になるなら、私たち、影武者ってことですね」
冗談も飛び交った。
■ 野上の観察
そのやりとりを聞きながら、野上はぽつりとつぶやいた。
「……影が役割に変わるんは、人の目が当たった時やな」
隣にいた大原が首を傾げた。
「院長、それってどういう意味です?」
「せやなあ。みんなが“見てるで、ありがと”って言うた瞬間から、それはもう影やなくて表や。
……ケアマネはな、地域の光あてるスポットライト係なんちゃう?」
会場の後方でその一言を聞いたケアマネ数人が、くすっと笑った。
研修会の最後、司会が「まとめ」を促すと、野上は短く言った。
「影やと思てても、ほんまは地域を支える柱や。……ええんちゃう、胸張って影武者で」
会場は大きな拍手に包まれた。
これはフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。