何もしない院長パート95 「重症度看護必要度と病棟移動のはざまで」
■ 数字と人の間で
病床運営管理検討会。議長の能生原が配布資料を手に取った。
「本日の議題は、“重症度看護必要度”をどう病棟移動に反映させるか、です」
スクリーンには、TransMedicaが示した病棟移動プラン。
“包括ケア病棟へ転棟候補”と表示された患者が並ぶ。
だが、看護師長たちの表情は晴れない。
■ 森川師長の訴え
「数字上は“看護必要度が下がった”と判定されても、実際は夜間に不穏で転倒リスクが高い患者さんなんです。包括に送ると、スタッフ数が減る分、かえって危険になる」
■ 内科病棟師長の声
「逆に、必要度の点数は高いけど、家族が毎日付き添っていて、日常生活動作も安定している患者さんもいます。数字だけで移すと、実態と乖離します」
■ 事務局と臨床の溝
医事課の湯先が冷静に言う。
「でも“7対1”を維持するには、必要度基準を満たす患者割合を守らないと病院収入に直結します。臨床的な安全と収益バランス、どちらも無視できません」
リハ科長好岡も補足した。
「リハの進み具合と必要度の数字は必ずしもリンクしません。ここは現場と数字のすり合わせが必要です」
■ 野上院長の一言
沈黙が続いた後、オブザーバーの野上院長がぽつり。
「……数字は病院を守るけど、人を守るんは現場や。
どっちも落とさんようにするんが、うちらの仕事ちゃうか」
会議室にゆっくりと頷きが広がった。
結論は、「TransMedicaの提示を“たたき台”にして、毎週の検討会で最終判断する」という方針。
■ 会議録の末尾
《本日の野上語録》
「数字は病院を守るけど、人を守るんは現場や」