何もしない院長パート94医事課湯先先生の解説!
DPC病名と副傷病の扱い
― 脳梗塞+誤嚥性肺炎を例に ―
1. DPC制度における病名選択の重要性
DPC(診断群分類包括評価)は、**主病名(入院のきっかけとなった病名)**と、**副傷病(合併症・併存症)**の有無によって包括点数が決まります。
同じ患者・同じ治療であっても、病名の置き方で「包括点数が大きく変わる」ことが現場ではよくあります。
2. 典型症例:脳梗塞+誤嚥性肺炎
症例設定
75歳男性
基礎疾患:脳梗塞後遺症(軽度右片麻痺・嚥下障害)
今回の入院理由:誤嚥性肺炎
治療:抗菌薬点滴+吸入治療+リハビリ
ケース① 主病名=脳梗塞
DPCコード例:010060xx99x0xx 脳梗塞(発症から相当期間経過後)
副傷病:誤嚥性肺炎
⇒ 「脳梗塞Ⅱ期」扱いとなり、加算が少ない
包括点数:約 8,500点/日(参考モデル)
ケース② 主病名=誤嚥性肺炎
DPCコード例:040081xx99x0xx 誤嚥性肺炎
副傷病:脳梗塞後遺症
⇒ 呼吸器感染症群でⅡ期延長が有利
包括点数:約 11,000点/日
→ 同じ治療内容でも、主病名の置き方だけで日額約2,500点(=25,000円)差が生じる。
10日入院すれば25万円近い差額となり、病院収支に大きく影響する。
3. 医療倫理と経営の狭間
臨床的には「誤嚥性肺炎が主病名」とする方が自然
しかし紹介状や入院サマリーでは「脳梗塞の既往管理で入院」と記されることも多く、主病名の設定は迷いやすい
保険者査定も厳しく、「不適切な病名付け」と判断されると減点対象に
4. 現場での対応策
主病名は臨床実態を正確に反映すること
「誤嚥性肺炎が主な治療対象」と明記
脳梗塞は「副傷病:嚥下障害あり」として必ず併記
診療録の記載強化
「今回の入院目的は肺炎治療である」と明文化
嚥下リハ開始日・抗菌薬開始日などを明確に記録
医事課との連携
医師が迷う症例は、退院時に医事課へ事前確認
「TransMedica」のような自動候補はあくまで参考と位置づけ
5. まとめ
DPC病名と副傷病の扱いは、単なる「事務作業」ではなく、
臨床現場の判断
経営的な収支への影響
患者・家族への説明責任
これら三つを天秤にかける作業です。
誤嚥性肺炎を例にすれば、病名一つで数十万円単位の差が生じる現実がある。
「病名は二つでも、病人は一人や」
——野上院長の言葉は、このジレンマを最も的確に言い表しているのかもしれません。