何もしない院長パート93「TransMedica入退院支援ソフト2」
■ 会議室に響いた湯先の声
「この脳梗塞+誤嚥性肺炎のケース……。
主病名は“脳梗塞”でDPCⅡ期を延ばしても、治療量に見合わないんです」
医事課のブレイン・湯先がスクリーンを指し示した。
「実際は誤嚥性肺炎の加療が中心になっている。だったら“誤嚥性肺炎”を主病名に据え、副傷病に“脳梗塞後遺症”を置いた方が、Ⅱ期の点数は有利です」
会議室が一瞬シーンとなった。
医師たちは「なるほど」と頷きつつも、どこか複雑な顔をする。
■ 医師たちの反応
「治療の本質は同じなんやけどなあ……」
「でも、病名の付け方で収入が全然変わるってのも変な話や」
熊田副院長が腕を組みながら唸る。
「臨床的には“脳梗塞に伴う嚥下障害→誤嚥性肺炎”という流れやから、医学的には両方正しい。けど、DPCは病名の置き方で点数が天地の差……やな」
河添診療部長は真顔で口を挟む。
「要は、医療と制度の乖離をどう埋めるかです。
適切な病名選択は“経営行為”であって、“臨床行為”とは別物と認識すべきでしょう」
真面目すぎる正論に、場が少し凍る。
■ 能生原師長と森川師長の現場感
包括ケア病棟の森川師長が笑って言った。
「でも先生方、患者さんに“あなた誤嚥性肺炎で入院です”って言うと、“私は脳梗塞の後遺症やろ!”って怒られることもあるんですよ」
議長の能生原も頷く。
「だから臨床と制度、両方の顔を見ながら調整せなあきません。
結局、人がバランスを取るしかないんですわ」
■ 野上院長のひと言
オブザーバー席の野上院長が、羊羹をつまみながらぽつり。
「……病名は誰が決めても、病人は一人。
数字に縛られすぎて、人を見失わんようにな」
その場がふっと和み、会議は「臨床と経営の両立を探る」という結論に落ち着いた。
■ 会議録の末尾
《本日の野上語録》
「病名は二つでも、病人は一人や」