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何にもしない病院長  作者: しゅんたろう
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何もしない病院長

改革を叫ぶ者は目立つ。けれど、何も叫ばずに居続ける者が、組織を保っているのかもしれません。


Gordon Selfridgeの言葉


”The boss drives his men; the leader coaches them.

The boss depends upon authority, the leader on goodwill.

The boss inspires fear; the leader inspires enthusiasm.

The boss says 'I'; the leader, 'we'.

The boss fixes the blame for the breakdown; the leader fixes the breakdown.

The boss knows how it is done; the leader shows how.

The boss says 'Go'; the leader says 'Let's go!'”

挿絵(By みてみん)

「病院の経営? 放っておけばいいよ。風呂の残り湯と同じだ、下手にかき混ぜると濁る」


そう言って笑うのが、南方総合病院の病院長・野上だ。


国の補助金は年々減り、DPC点数は頭打ち。

地域は高齢化と人口減少で、患者数も診療報酬も右肩下がり。

看護師は都会へ逃げ、医師は引く手あまたで売り手市場。


周辺の公的病院とは、統合しようにも合意が取れず、

「ウチはウチで」と言って施設改修の名目で借金を重ねる病院もある。


——そんな中で、なぜか南方総合病院だけは、毎年“そこそこの黒字”を出していた。


「何をやってるんですか?収支改善策とか」

視察に訪れた若手経営コンサルが聞くと、野上は飄々と答えた。


「いや、特に何も」


職員は自由な勤務形態、稟議はゆるゆる、週に一度は病院職員で昼寝大会。

院長は毎朝、近くの川に釣りに出かけ、昼過ぎに戻ってきては「今日もなーんも釣れんかったわい」と笑う。

職員は職員で、「あの人が何も言わんから、こっちも勝手にがんばれる」と不思議なモチベーション。


気がつけば、周辺の病院から看護師が「南方に行きたい」と辞めていき、

医師も「あそこは空気がいい」と集まり、

地域住民も「あそこは“病人の気持ち”がわかってくれる」と口コミで通うようになっていた。


あるとき、県が主導して行った「地域医療再編計画」で、

南方総合病院と近隣3病院を統合して“地域センター化”する案が出た。


——が、南方病院だけが、断った。


「うちは特に何もしないんで、混ぜても面白くないと思いますよ」と。


県の担当者は困惑しつつも、結局、南方だけが取り残されたまま、再編は宙に浮いた。


だが、それから2年。

統合された3病院は、管理職の調整や設備投資で赤字続き。

「理想の統合」が「現場の悲鳴」に変わる頃、南方だけが、変わらず静かに黒字を維持していた。


そんなある日——


古びた釣竿を片手に、野上がぽつりと呟いた。


「人が人を見なくなったら、医療なんて終わりじゃ。

数字や組織が人を動かすようになったら……釣り竿で魚釣るより難しい」


「じゃあ、院長。あなたはいったい何をしてたんですか?」


若手記者が問いかけたその瞬間。


野上は笑って言った。


「……なにもしてない。

でも、“なにも邪魔しない”ようには、してたよ」


そう言って、今日も川へ向かう背中は、病院の誰より頼もしく見えた。


これはフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。


豊田章夫会長の言葉


静観ではなく、行動を

沈黙ではなく、発言を

説得ではなく、共感を

利己ではなく、利他を


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