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袋、温めますか?

作者: 江口サイト

間違えることってありますよねー。

私も間違えることがよくあります。

ちょっとした間違いは良いんですが、人生の選択肢を間違えた時は最悪です。

そんな時は…どうしよう。

あ、この物語はフィクションです。

 仕事も終わり、帰路に就く。

飯を食うのも怠い。

コンビニに寄って何か買って帰ろうと思った。


 俺は缶コーヒーと菓子パンとニンニクチューブを手に取り、レジに向かう。

「あ、袋お願いします。」

店員に先制攻撃を仕掛けた。

最近は袋が必要だと事前に言わないといけないんだ。

「はい、袋、温めますか?」

「あ、はい。お願いします。」

店員は袋を一枚取り出し、缶コーヒーをレンジに入れた。

時間をセットし、温めが始まる。

コンビニのレンジは回転しないのな。

「ポイントカードはお持ちでしょうか?」

俺は、はいと答え、免許書を裏返しで出す。

店員がバーコードを読み込んだ。


 ああ、ため息が出る。

店員もそうらしい。

そうだよな。深夜の対応は楽じゃない。

せめて俺だけでも楽に対応してもらおう。

そう思いつつ、俺はカウンターに片手を置き、体重を預ける。

そうするとレンジからバチバチと聞こえてきた。

店員がレンジの蓋を開け、取り出したものを袋に入れた。

「ありがとうございました。」

その言葉を合図に、俺はコンビニを後にした。

自宅について一息つく。

仕事用のカバンを放り投げ、眼鏡をケースに仕舞い、スーツを脱いだ。

椅子に掛けられた上着を置き去りにして、安物のソファで横になる。

そして、そのまま肉体から魂が出て行ったかのように眠りに落ちた。


 次の日。定時にセットした目覚ましが俺の起床を強制的に告げた。

お前も大変だな。鳴らしたくもないだろう音を奏でる仕事をセットさせられているのだから。

しかし、誰もいない部屋で言う「おはよう」は響くな。

洗面台にある歯ブラシを手に取り、鏡を見ながら顎をなぞる。

半目開きで全然見えないが、いつもの行動だ。慣れているさ。

昨日も洗っていないタオルで顎を撫で、剃り残しがあることは分かるが気力がない。

まあ、これでいいだろう。

そういえば今日は残業が確定しているんだ。

気力が出ないわけだ。


 スーツを着てスリッパを履いた俺は、いつものコンビニ前を通り過ぎて駅に向かう。

電車に乗って会社に着く。

パソコンに電源を入れて勤怠を操作する。

ああ、今日も仕事が始まるんだ。

憂鬱な気持ちで午前の仕事をこなした。


 昼休憩では煙草を吸う。

吸わない人より税金を多く収めているんだ。これくらいは許してくれ。

喫煙所で遭遇したのは同僚だ。

「おつかれ。」

「ああ、おつかれ。今日も残業か?」

「うん。いつも通りさ。」

定型文でのあいさつもそこそこに、俺は煙草を咥えた。

同僚はペンを口から離し、大きく息を吐きだす。

疲れ果てた表情だ。

灰皿にペンを擦り付け、去っていった。


 どうしてこんな大人になっちまったんだろうな。

そう思いながら吸う煙草は残念ながらうまい。

子供を懐かしみながら火のついていない煙草を吸っていると、変な疑問が浮かんだ。

『仮面ライダー』子供のころはよく見ていた。

ライダーって『乗る人』って意味だよな。

バイクだったらバイカーでいいんじゃないか?

車が登場することもあったし、あれでいいのか。

でも、それだと仮面に乗って登場する変な奴にならないか?

馬鹿なことを考えて、つい、笑ってしまう。


 時間切れ。

そう言われた気がしたため、仕事用の携帯で時間を確認する。

昼休憩はもう終わりだ。

俺は携帯を灰皿に擦り付け、喫煙所を後にした。

自分のデスクに戻り、パソコンに向かう。

マウスを頭に乗せ、キーボードを叩いた。

このパソコン、最近交換されたんだが、なんか使い辛いんだよな。


 俺にも部下はいる。

キーボードを持った部下が俺に質問をしてきた。

「先輩、この書類を確認してもらっていいでしょうか?」

ああ、と返事し、キーボードを受け取る。

なんだこれ?日本語で書けよな。

一通り確認し、特に問題はなさそうなので部下に返した。

「ご確認ありがとうございました。」

そういって部下は会社から去っていった。

大変だろうけど、頑張れよ。

 

 残業をしていると、明日が水曜日であることに気付き、笑みがこぼれる。

定休日は日曜日なのだ。

ようやく来た休みにより、俺は残業を頑張れた。

少し早めに残業を終えた俺に着信が来る。

彼女からだ。

「もしもし。会えない?」

「明日なら大丈夫。」

「わかった。明日ね。」

彼女とは付き合って3年になる。

甘え上手で、1つ年下だ。

既に俺の両親にも紹介していて、結婚も視野に入れている。

明日こそはいい日になるだろう。

希望で胸がいっぱいだった。


 いつものコンビニに到着する俺。

明日のために何か買うものはないだろうか。

特に買うものがなくてもコンビニには入ってしまう。

なんだろうな。花に集まる蝶の気分だ。

手に取ったのは整髪剤とカップラーメンと缶コーヒーだ。

レジに行ってそれを並べる。

「あ、袋お願いします。」

「はい、ストローは必要でしょうか?」

「お願いします。」

いつも通りの掛け合いだ。

店員はため息をつきながら缶コーヒーを手に取り、レンジに入れた。

「ポイントカードはお持ちでしょうか?」

はい、と返事をし、プライベート用の携帯を差し出す。

いつも通りに店員がバーコードを読み込んだ。


「1022円になります。」

あれ、思ったより整髪剤が高かったのかな。

まあ、買うけど。

俺は財布を取り出し、免許書を渡した。

「お預かりします。」

店員はレジを開け、免許書を仕舞い、1000円札を渡した。

「1000円のお返しになります。」

そのうちレンジからバチバチと聞こえてくる。

店員がレンジの蓋を開けて缶コーヒーを取り出した。

レジのカウンターに置き、箸を添えた。

俺が商品を受け取ると、機械の様にありがとうございましたと言う。

今日もお疲れ様。俺は心の中でそう呟いた。


 自宅に帰り、テーブルの上に商品を並べた。

缶コーヒー、整髪剤、金銭受け渡しのトレー。

台所に行き、湯を沸かす。

準備をしながらスーツを脱いだ。

明日はクリーニングにでも出そうかな。

携帯を取り出してメールを打つ。

彼女には昼前くらいから会えることを伝えた。

彼女から返信が来る。

『わかったー!楽しみにしてるね!』

短いがこっちも楽しみになってくるよ。


 お湯が沸いたので、整髪剤の蓋を開け、お湯を注ぐ。

あんまり入らない気がするが、具沢山なのかな。

蓋を閉じて3分待つ。

整髪剤のいい香りが部屋をうろうろするのと同じで、俺も部屋をうろうろしていた。

ついでに缶コーヒーを取り、洗面台に置く。

明日使うからな。

そうこうしているうちに3分経っただろう。

特に測るもしていないが、体感で決定する。

ちょっと硬くても大丈夫だもんな。

俺は頭の上のマウスを下す。

ラーメンを食べるときに曇っちゃうのが嫌なんだ。

コンビニの箸を使い、俺は整髪剤を食べた。

思ったよりうまいな。

初めて買った味だが悪くない。

そうして夜は更けていった。


 次の日。定時アラームが俺を起こす。

残業もしたし、まだ疲れが残ってるな。

はいはい、と言いつつ気怠そうな俺は風呂に入った。

今日はデートなのだ。

風呂から上がり、着替えをする。

前回のデートで彼女からもらったシャツを着た。

似合うかな。鏡を見つつ、缶コーヒーで髪を整える。

準備が完了し、俺は椅子を持って出かけた。


 クリーニング屋に到着し、椅子を出す。

「すみません。クリーニングお願いします。」

「はい。お名前は?」

俺は名前を告げ、椅子を引き渡した。

「明日の朝にはできますよ。」

「では、明日取りに来ます。」

良かった。今日は客も少なく対応が早いようだ。

前払いのようで、会計を済まし、クリーニング屋を後にする。

いつもの待ち合わせ場所に向かう足取りも軽い気がする。

裸足の俺は、駅の時計下に向かった。


 待ち合わせに場所に着くと、彼女がすでに待っていた。

まだ待ち合わせには早いと思ったが、ちょっと嬉しい。

だが、彼女も仕事で疲れているらしく、ため息をついていた。

「お待たせ。」

「あー。…シャツ。」

「うん。着てきた。」

「はあ。」

彼女のプレゼントしたシャツだ。気づくよな。

ちょっと恥ずかしい気持ちを持ってしまったが、彼女も嬉しさを感じている様子。

もらった時は本当に嬉しかったんだ。

立ち話もなんだし、俺はファミレスを指さし、そこに行こうと提案する。

彼女はそれでいいようで、一緒に移動した。

さすがに手は繋がないよ。近いし、恥ずかしいもの。


 席に着くと店員が来る。

「いらっしゃいませ。」

この店では水がセルフになっている。

店員からメニューを受け取った。

俺と彼女は何度かここにきている。

デートの相談とか近況報告なんかはここで行う。

俺はいつものお決まりがあり、彼女はここのメニューを色々試したい様子。

前回はパスタを頼んでいたが、今日はパンケーキにするようだ。

俺はランチメニューを頼んだ。

店員はメニューを聞き終え、奥に下がっていく。

その間にセルフの水を取りに行く。

もちろん、彼女の分も忘れずに。


 逆さまに重ねられたグラスを二つ手に取り、氷を入れる。

まだ疲れが残っているのが、氷の重さで分かってしまう。

いかん。今日はデートなんだ。楽しまないと。

ちらっと彼女を見ると、机に頭を乗せて待っていた。

俺だけじゃなく、彼女にも楽しんでもらわないとな。

そうは思うが、体が怠い。

まあ、彼女も怠そうだが、こうして会おうとしてくれていることが嬉しい。


 テーブルに戻り、彼女に氷のみが入ったグラスを渡す。

彼女はグラスを傾け、氷を口に入れ、バリバリと砕いた。

結構のどが渇いていたんだろうか。

今日はちょっと暑いもんな。

エアコンの効いた店内はいいね。感謝だよ。


 店員が料理を運んできた。

彼女にはパスタ。俺にもパスタ。

彼女が箸を手に取り、パスタを食べる。

「どう?」

「あー。うん。」

おいしいらしい。

次は俺もいつものやつじゃなくて、それを頼んでみようかな。


 食事を済まし、映画を見に行く。

店員に彼女が話しかけた。

「あー、大人2名。」

「はい。大人2名。」

子供向けアニメのチケット2枚がすんなり出た。

俺は財布を取り出したが、彼女はそれを制止する。

「いいから。」

彼女はこういう優しいところがある。

さっきの食事は俺が出し、映画は彼女が出す。

次の場所では俺が出そう。

持ちつ持たれつ、寄りかかり。

「ありがとう。」

俺は感謝を送るのであった。


 今日見る映画は『風に吹かれる恋人たち』だ。

巷ではチープなストーリーだと言われているが、分かりやすい内容の方が入り込めることだってある。

チケットの席はR22とR23だ。

席を見つけた俺たちはL30とL31に座った。

彼女は楽しみだったのか、虚ろな目でチケットを眺め、口が半開きのまま上映を待つ。

俺はこの無言の時間も心地よく感じていた。


 そのうち上映が始まる。

始まると終わりがあるものだ。

内容はありきたりな恋人通しのやり取りだったと思う。

俺たちは席を立ち、映画館を出て近くのコーヒーショップに移動した。

内容については、彼女は残念ながら覚えていないらしい。

そりゃそうだ。寝てたもの。

うん、俺も寝てたけど。

一通り談笑し、コーヒーショップを出た。

そういえば店員は来なかったな。

まあ、いいか。


 辺りも暗くなり始め、彼女は俺の右腕にしなだれる。

言葉を交わすことなく、駅へ向かった。

彼女は俺の家へ向かう駅の切符を買った。

俺も自宅に向かう切符を買う。

変に緊張しているのか、無言が続く。

もう3年目だというのにな。


 自宅に着くと荷物を適当に下した。

彼女はカーディガンを脱ぎ、ベッドに座る。

俺も隣に座り、彼女を見つめる。

彼女は少し頬を赤らめ、俺を見ていた。

俺は静かに彼女の胸に手を添える。

「あーん。」

彼女は声を漏らしつつ、ベッドに倒れ込んだ。

俺も追従するようにベッドに倒れ込み…。

二人で寝た。


 目覚ましは働き者だ。

定時で起こされた俺たちは準備を整える。

一緒にシャワーを浴び、一緒に着替え、一緒に家を出る。

もうそろそろ同棲してもいいかもしれない。

そうすれば、毎日一緒にいられるものな。

彼女はどう思っているのだろう。

俺はまだ同棲を切り出せないでいた。

彼女を駅まで送り、俺はクリーニング屋に行く。

頼んでいた椅子を取りに行くのだ。

「はい。こちらお預かりしていたものです。」

店員からランドセルを受け取り、一旦自宅に帰った。

出社のために着替え、ランドセルを揺らしながら駅に向かった。


 会社に着くと課長が話しかけてきた。

「君、有給余ってるだろ。使えよ。」

そういえば有給の消化が必要だった。

俺はパソコンでメールを作成、送信する。

明日は大丈夫らしく、申請は無事通ったようだ。

明日も休みか。どうしようかな。

急にできた暇を考えつつ仕事をこなしていた。


 本日の業務も完了し、帰宅する。

まあ、残業のせいで遅くなり、終電ギリギリになってしまったわけだが。

明日が休みだからか気にはならなかった。

いつも通り、駅から自宅までのコンビニにすんなり入る。

カップラーメンばかりだと体に悪いことは理解しているが、手軽さには代えられない。

俺はカップラーメンと缶コーヒーをもってレジに並ぶ。

今日は先客がいるようだ。


 「おい!なんで缶コーヒーをレンジに入れるんだ!」

おっさんが怒っている。

そんな怒鳴り声は聞きたくないんだけどな。

目が血走り、指を相手に向けて怒鳴る様はイライラするね☆彡

「コンビニバイトでこれじゃダメだろう!お前には努力が足りない!言わなくても袋を用意しろよ!分かるだろ!」

「はあ。」

「なんだその態度は!接客をもっと良くしようとは思わんのか!いい仕事をして、金を稼いで、もっと上を目指しなさい!そもそも、こんなミスを連発していたらどこに行ってもやっていけないぞ!」

「…。」

首を軽く傾けて聞いていた店員は、急に白目を剝いて倒れてしまった。

あーあ、ここも終わりか。

「今の奴らはこんなに耐性がないのか!俺の若いころはもっとキツイことを言われていたぞ!ほら!起きろ!」

おっさんは店員を足で蹴って起こそうとしている様子。

俺はおっさんの肩に手を当てた。

「なんだお前は!」

「おっさん。店員倒れてんじゃん。」

「こいつが、俺がコーヒーを買おうとしたらレンジに入れやがったから!」

「で、これがおっさんの望んだ結果なの?」

「うう…!」

「そんな元気があったら働けよ。」

自然に体が動いてしまった。

後で考えたら、仕返しされたりするかもと思った。

おっさんは顔を真っ赤にしながら両手に拳を作っている。

俺はそれを無視してお金をカウンターに置いた。

そのままコンビニを後にして自宅に帰る。


 つけられてないだろうな?

まあ、大丈夫だろう。

そんなことより、明日は降って湧いた休みだ。

ゆっくり寝よう。

床に捨てられたランドセルを置き去りにして、安物のソファで横になる。

そして、そのまま肉体から魂が出て行ったかのように眠りに落ちた。


 ああ、疑問に答えてなかったな。

コンビニの店員が倒れたのに救急を呼ばない理由。

呼ばないんではなく、呼べないのだ。

政府が崩壊して数日。

路頭に迷った人たちがいる中、今までの生活を心がけている者もいる。

いつかは元に戻るだろうと信じている感じだろう。

店員がいたコンビニはオーナーと店長がいなくなった。

給料も出ないし、品物も届かない。

だから、店員が倒れたら終わりなんだ。

映画館横のコーヒーショップも店員がいない。

警察も機能してないし、うちの会社もおかしくなった。

だから、どんなミスがあってもだれも怒らなかったんだ。

おっさんが店員を怒鳴っても、もうどうしようもないもんな。

俺もそのうち限界を迎えるだろう。

だから、せめてそれまでは人生ごっこを続けるんだ。

彼女だって部下だって、同僚や課長もそうだ。

残業しているのも、元に戻った時に少しでも多くの給料を払わせる、ささやかな嫌がらせかもしれない。

パソコンの前に座って勤怠管理を行うだけなんだ。

そのために会社に行っている。


 誰も救われないし、救っている余裕もない。

明日は有給だけど、課長も飛ぶのかな。

部下は会社を去ってしまったし、でも彼女は捨てていけないし。

ああ、明日からどうしよう。

ゲームならポストアポカリプスとか好きですが、現実ではちょっと遠慮したいですね。

自分は安全圏にいて、自分以外の世界が壊れることは見てられるんでしょうね。

平和に胡坐をかいて生きていることを自覚したくないので、コンビニでアイスでも買ってきますね。

読破お疲れさまでした。ありがとうございました。

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