少年少女、始まりの物語
何年か前に書いていたメモ書きを発見したので、せっかくだしと思い投稿します。
-起-
【ダウジング】
それは紀元前5世紀頃より続けられてきた占い方法であり、主に棒を使って行う。水脈や鉱脈を発見するために使用されてきたが、19世紀以降は科学的根拠が乏しいとされ次第に使われなくなっていった。
47世紀を迎えるまでは。
「っはぁ、…はぁ、あー、やっと見つけた」
10cmほどある空色の"石"を手に取り、見つめながら少年は呟く。顔は泥で汚れ、汗が張り付き肩で息をしている。己で掘り進んで作った洞窟は暗く、ライトが無ければ何も見えない。
しかしこれでようやく外に出られると安堵し、背中のリュックを担ぎ直すと外へと向かった。
「ご依頼の品です」
「…ああ、確認した。噂以上の仕事の速さだ」
西暦4755年。人類は地球上のほぼ全ての資源を使い切り、自然エネルギーに頼らざるを得なくなってから早300年。
だが人口増加に伴いそのエネルギーすらも足りなくなった100年前に、とある画期的な装置が開発された。
鉱物をエネルギーに変える機械だ。貴重な鉱石を1cm消費するのみで国内全世帯の1年分のエネルギーを補えるようになった。
「さすがダウザーだ。次も依頼させてもらおう」
「よろしくお願いします」
世界中の政府は鉱石を見つけるため、色々な装置を莫大な予算をかけて膨大な数作った。だがどれも発見率は10%に留まり、諦めかけた時。ダウジングにより次々と鉱石発見に成功した人物がいた。
それからというもの、政府はダウザーと呼ばれる鉱石探索能力を持った人間に鉱石探しを依頼している。
俺もその1人だ。来る日も来る日も依頼の鉱石を見つけるべく、廃墟や森や未開の地といった場所で探し続けている。
「疲れた…」
ボスン、とホテルのベッドへそのまま倒れ込み、泥のように眠りについた。
-承-
プルルルル
耳障りな音で意識が戻る。どうせまた依頼の電話だろう、昨日の今日でこれかよ早すぎるだろ、などと不満を思いつつ携帯を見れば、時刻は午前4時前。普通の依頼ではありえない時間帯だった。
「…はい」
「ダウザーのベルだな?最寄りの政府直轄鉱石センターまで来い。依頼の話をする」
「は?ちょっ…」
こちらが言葉を発する間もなく電話は切れた。政府直轄の鉱石センターといえば、貴重な鉱石を保管している場所だ。厳重なセキュリティで管理されており、ネズミ1匹入ることも、出ることも叶わないと噂されている。
そんな場所に、なぜ俺が…?
怪訝に思いながらも、その場所へ向かうことにした。
「センター長のヴァーンだ。こんな時間にご足労をかけてすまないね」
「…はあ」
人の良さそうな50代ほどの男性は、人懐こい笑みでソファへ座るよう促した。
素直に座ると、聞いてもいないのにペラペラと話し始める。
「君が国一番の仕事の速さだと聞いてねえ、是非頼みたい依頼があるんだ。とても貴重な鉱石で、これまで数人に依頼したんだけど全員見つけられなくてねえ…、君なら…と。君たちダウザーは探し当てる石を持ちながらじゃないと探れないだろう?とても貴重な鉱石だから人目を避けてこの時間に呼ばせてもらったんだ。すまないねえ、寝ていただろうに」
「いえ、まあ仕事なので…。いつも通り鉱石を探せばいいんですね」
「…ああ、そうとも。内容はいつもと同じ…、コレを探し出して欲しい」
包まれた布から、少し細い形状の1cmほどの鉱石を見せられる。
少し黄色っぽい…薄橙色のソレを手に取ろうと伸ばした時、ガッシリとヴァーンに横から手を掴まれた。
驚き、顔を見ると先程までの顔とは打って変わった様子で低く呟く。
「くれぐれも…この鉱石は丁重に扱ってくれ。国宝と言っても過言ではない」
「…分かりました」
そうして手を離され、鉱石を手にセンターを去った。
-転-
1cmほどの小さな鉱石。ダウザーは目当ての鉱石を手に取り、その気配を辿って掘り当てる。
しかし今回の鉱石の気配はいつもと違い、歪なものを感じた。色々なものが混じり合っているような、そんな気配が。
まずはよく観察しようとじっくり見ていく。透明より少し濁ったそれは、少々角ついているがどことなく"指"にも似ていた。
足そっくりの大根とか、たまに話題になるよなあ。
そんな事を思い出しながら、ベッドの上で意識を集中させる。どれだけ遠くにあっても、僅かな気配を探るため。
じわりと汗が出始める。静かな鼓動音は段々と速くなり、息苦しさを覚える。
「………っぷはっ…はっ」
何時間そうしていただろうか。
頭が割れるように痛み、いくら吸い込んでも呼吸が楽にならない。腕を動かせばギシギシと骨が鳴り痛みに顔が歪んだ。
いつもならもっと手前の段階で見つかるのだが、今回はよほど珍しい鉱石なのだろう。
だが、大まかな場所は捉えられた。
早速その場所へ行くため、ホテルを出る準備をした。
山の奥、更に深い森の中。人が足を踏み入れぬような場所に目的のものはあるはず。
鬱蒼と茂る木々たちの合間を縫っていたところ、運悪く大きなヒグマと遭遇した。
ギラギラと、ようやくご馳走に有り付けると言わんばかりの鋭い目。目を合わせながら静かに後退するが、その分ヒグマは一歩近づいてくる。
後ろの道は平坦な森が続き、走って逃げたとて追い付かれる可能性の方が高い。
つう、と額の汗が流れ落ちる。覚悟を決めて上着のポケットから、”弾丸”を一つ取り出した。
途端、襲い掛かろうと一気に距離を詰められる、が、ベルは慌てる様子も無く正確に、己の手から弾丸を真っ直ぐ熊の額へ飛ばした。
「ごめんな」
言い終わるが早いか、その場に崩れ落ちる熊。小さな弾丸は熊の頭を突き抜けて後ろの木の幹へ、めり込んでいた。
ここは方位磁石が役に立たなくなるような場所のため滅多に人が入ることはない。景色も似たような木や植物が多いので道を覚えることも困難な所だった。
しかしダウザーであれば迷うことはない。野生動物に注意しながら、所々で気配を探りようやく近くまでたどり着けた。
「…ここら辺のはずなんだけど…」
気配は地面の下の方からだ。まあ鉱石なので下にあることも珍しくはない。簡易スコップを組み立てていざ掘ろうと地面に突き刺した時、カツンッという金属同士がぶつかり合う音がした。
「ん?」
変だと思い、グローブをした手で土を掘る。深さ5cmほどのところに、金属で出来た扉を見つけた。
おそらくは過去の遺物だろうと思うが、問題は気配はここの下にあるだろうということ。怪しみながらも扉に手をかけて回せば、すんなり開くことができた。
ライトを付けて、梯子を降りる。しかしそんな必要はないとばかりに自動で電気が付いた。人感センサーによるものだろう。
一直線の廊下を進んだ先に、もう一つ扉があった。ドアノブの近くに小さなメモが貼られているが、外国の文字のようで読めない。
気にせずドアを開くと……そこには、機械の中で凍り付いた少女がいた。
-結-
「……嘘だろ」
信じられないのは人間が凍っていたからだけではない。
この少女こそ……探し求めていた"鉱石"の気配、そのものだったから。
あり得ない、そんな、そんなわけ…ないだろ…?
フラフラと引き寄せられるように、氷漬けの少女の元へ歩き出す。
思わずガラス越しに手を置いた時、機械音がけたたましく鳴り始めた。
ピーーーピーーー
「え!?何!?」
プシューという空気が吐き出される音と同時に、ガラスの中の少女に付いていた氷の結晶が次々と溶け始めた。
何が起こるか分からない、逃げた方がいい。本能がそう告げるが、ベルは少女から目を離せずにいた。
機械音がしなくなるとともに、ゆっくりと、少女を保管していた機械の扉が開き、そのまま少女は床の方へ倒れ込んだ。
「…うおっ」
思わず抱き留める。先ほどまで凍っていたとは思えないほど温かかった。
ただの…人間、だよな……?
まじまじと顔を眺めていたその時、少女の瞼が開かれた。
透き通るような琥珀の目と視線が絡み合い、一瞬時を忘れる。
「…誰?おじさんの知り合い?」
「………え、っと…違う、と思う」
そのまま少女と語り明かした。自分の携帯食をあげると物珍しそうにした後、美味しそうに食べ始めたのが可愛いと思った。
少女はリンという名前で、病気だったこと。同じ病気を持つ患者を集めた治験に参加したこと。完治に成功したがなぜか家に帰れなかったこと。毎日髪であったり、爪であったり、血液であったりを取られて痛かったこと。治験に参加していた患者が次々と居なくなっていったこと。医者のおじさんと一緒にここまで逃げてきたこと。
色々聞いていくうちに違和感を覚えて、誕生日を聞くと驚愕の返答が返ってきた。
「4632年3月8日生まれだから、16歳だよ」
「……4632年?」
「うん」
驚くことに、どうやら100年ほど眠り続けていたようだった。
次に俺はこの施設の中を調べた。資料が膨大な量あったが、気になったのはとある一冊の日記。
そこに、全てが記されていた。
研究者の名はシュウジ オダギリ。医者であり難病の治療に携わっていた。
研究の末に治療薬の開発に成功し、患者は完治。だがその薬には大きな副作用があった。
髪であったり、爪であったり、血液であったり。人間から切り離したそれらが鉱石化していったのだ。当時、鉱石のエネルギー化に成功していた自国は研究の一環として患者から作られた鉱石を使用してみた。
結果、多大なるエネルギーを生み出すことに成功した。
これ幸いにと患者全員から毎日鉱石を取っていたが、ある時精神を病んでいた患者の1人が日々の搾取に耐えかね自殺した。
するとどういうことか、自殺した人間そのものが鉱石となった。それからは人体実験が重ねられ、苦痛を感じれば感じるほどに莫大なエネルギーを産む鉱石が生まれることが判明。患者は1人、また1人と拷問の末、鉱石に変えられた。
元々身寄りの無い患者のみを危険性の高い治験に参加させていたので、世間にバレることもなく日々、人間が石へと変わっていく。
リンは子供だったために最後の方に回されただけであり、いずれこの子も死ぬことになる。
その未来を嘆いたシュウジ オダギリは、彼女を連れて研究資料とともに脱走。その際に治療薬のレシピも完全に消去し、政府に追われながらこの山へとやってきた、ということらしい。
「…私、100年も眠っていたんだ」
「そうみたいだ」
「…みんな…だんだん居なくなっていったのは、退院したからだって思ってた。…それ、なのに」
「……俺は、この鉱石を探し当てるよう政府から依頼されていた。国に見つかれば君も殺される…、でもそんなの間違ってる。犠牲の上に成り立つ平和なんて、あり得ない。………今までその恩恵を受けてきた俺には言えたもんじゃないかもしれない、けど、君を守りたいんだ。…俺と一緒に、逃げてくれないか」
「…………うん。私にはもう、何も残っていないから。でもおじさんが助けてくれた命だから、生きて、大事にしたい」
ベルの手にリンの手が重なる。
行く宛などない。けれど少女を外に出したかった。小さな箱庭で守られていた雛を、危険は承知で連れ出してしまいたかった。
「はしご、俺から先に行くから…気をつけて」
「このくらい平気だよ」
100年間眠り続けていた少女は、心配とは裏腹に元気そうにクスクスと笑う。
そうはいっても体に影響があるかもしれないし…と、ベルは苦笑した。
入り口から出た後、どこに行こうかと思案した時。4人の軍服を着た男たちに囲まれた。
自国の政府の人間だろう。ベルは心の中で舌打ちをする。
…クソ。付けられてた。
「おい、どこにある?」
「あの女がそうだ…でも生きてるぞ。話ではもう死んでいるはず…」
「それはどうでもいいことだ。ダウザー、ご苦労だった。その女を渡してもらおう」
生きている少女を見ても渡せと言うあたり、鉱石が元は人間だったというのは真実なのだろう。
鑑定のためかあちらにもダウザーがいるため、適当に誤魔化すことも不可能。
不安そうに、リンがベルを見つめる。
守らなきゃ。
ベルは安心させるように、少しだけ微笑み返した後。まっすぐ敵へ視線をむける。
「あんたら、本当に政府の人間なのか?」
「そうだ。この手帳を見れば分かるだろう」
示されたのは政府の人間しか持つことのできない、模様の描かれた黒い手帳。残念ながら本物のようだと、落ち込む。
「あー…じゃあ捜索用にって渡された鉱石も返すからさ、上着に手ぇ入れていい?打たないでくれよ」
「許可する」
上着の内ポケットへ手を入れ、”5つ”の小さいものを握り込む。
ゆっくりとそれを上着の外に出し、手のひらを開けて見せる。そこには薄橙色の”1cmほどの鉱石のみ”が置いてある。
「これですよね?」
「そうだ、こちらに渡すように」
「はいはい、今差し上げます…よ、っと」
パン、と短い破裂音と共にベルの指から弾丸が飛ぶ。
4つの弾丸は目の前のそれぞれの頭へと正確に飛び、そして貫通していきゆっくりと土の上へ人間だったモノが倒れ込む。
4人だったのは本当に運が良い。装備を奪って今のうちに逃げよう。
「ひ…死ん、じゃったの…?」
「リンを連れて行って殺そうとしたんだ。仕方ない。できるだけ早くこの場から去ろう」
「…うん」
上着や防弾チョッキ、非常食や武器などめぼしい物は全て剥ぎ取り、死体を地下施設に隠してから歩き出す。
より深い森の中へと、二人で手を繋ぎながら。目的のない旅なんて初めてだった。それでも、守らなきゃいけないと思える存在が隣にいた。
「リンは俺が守るよ」
「私も、ベルと一緒に戦えるように強くなる」
互いに互いを離さないよう、しっかりと抱き合いながら闇深い森の中、二人は瞼を下ろした。




