第42話「新たなる帝国」
「おい、起きろ、もうすぐ着くぞ」
「ふぁ……?」
揺れる馬車の中、アレクシオスの声で目が覚めた。
(いつの間にか眠っていたのね……)
呼ばれてすぐ目が覚めたのか、今回はすねを蹴られずに済んだようだ。
「ん〜っ!」
アレクシオスの前だが、気にせず両手を上げて行儀悪く身体を伸ばす。
アレクシオスが変なものを見るような目でこちらを見ている気がするが、私はもう貴族ではないからと、自分に言い訳をして知らんぷりする。
窓の外を見ると、もう陽が落ちて辺りは暗くなっていたが、少し先に城の灯が見えた。
しばらくすると、見覚えのある立派な城門が近付いてきた。
あの時は、アレクシオスに見透かされているとも知らずに部屋を抜け出し、この城から出て行こうとした。
今思い返すだけでも、安直な行動をとった自分がとても恥ずかしく、必死に記憶を遠くへ追いやる。
馬車が止まり、アレクシオスのエスコートで城の中へ入ると、相変わらず赤いカーペット以外は何もない、寂しいグランドエントランスが広がっていた。
荷下ろしは他の者達に任せ、アレクシオスは私を連れて正面の階段を上がっていった。
また執務室に連れて行かれ、足枷を付けられるのだと思い、疲れている心を奮い立たせる。
(もう怖いものなんてない!徹夜だってなんだってやってやるわ!!)
そう気合いを入れていたら、夫婦の寝室の隣にある元王妃様の部屋へ連れてこられた。
「……へ?」
私は肩透かしをくらったような気分でアレクシオスを見上げる。
この部屋は、以前アレクシオスが監視用として私に与えた部屋だった。
以前同様、大きな天蓋付きベッドと応接セット、ドレッサー以外は何もない殺風景な部屋だった。
「ここを使え」
「あ…まずは服を着替えろということですね」
冬なので汗はあまりかいていないが、より動きやすい服に着替えた方がいいだろう。
今回はアレクシオスにプレゼントされた平民用のワンピースを含め、動きやすい服は結構持ってきている。
「いや、晩餐の前に風呂に入れ」
「え、入浴の上にお食事までしていいのですか!?」
「………」
前回は到着が日中だったが、今回は夜遅くに到着したとあって、まさか入浴と食事を許可してもらえるとは思わなかった。
私はなんて良いタイミングに着いたのだと、幸運に感謝した。
その後入浴を済ませ、迎えにきたアレクシオスのエスコートで晩餐室へと向かった。
服はアレクシオスがくれた中で、一番きれいそうな藍色の平民用ワンピースを選んで着た。
中に入るとローランと侍女がおり、長いテーブルには私達二人分の食事しかなかった。
「あの、陛下……」
「なんだ?」
「私はもう貴族でもなんでもありませんので、陛下と食事をご一緒することはできません……」
「あの時も貴族として同席させたわけではないが?」
……そうだっただろうか……?
確かに、当時は公爵令嬢だったとはいえ、捕虜として捕まえてきた人間と共に食事をするのはおかしかった気もする。
二日目にはメイド服を着て同席したりと、いま思えばなかなか奇天烈なことをしていた。
「面倒なことを言わずに早く食え」
そう言って強引に座らされる。
(面倒って…… 他に言い方があるでしょう!?)
相変わらず顔はとてもいいが、言葉遣いと中身がとても残念な御仁である。
不満に思いつつも、食事に手をつけると、その美味しさに一瞬で思考を奪われる。
「美味しい……!」
急いで支度をして喉がカラカラだったので、つい出されたワインを水のようにゴクゴク飲んでしまった。
すぐにつぎ足されたワインをまた一飲みする。
三杯目を飲み干した頃には、疲れも相まって酔いが回り、あっという間に上機嫌になった。
「これなら例え徹夜でも仕事を頑張れそうれす!」
私はへらへらしながら笑う。
「……ん?今日はもう寝るのだぞ」
「へっ!?」
「疲れた身体に鞭打っても効率的な仕事などできないだろう」
「えっ!人間を虫ケラのように扱っていたアレクシオス様がそんなことを言うなんて!!いつの間に人間の扱い方を覚えたのですか!?」
アレクシオスの後ろに控えていたローランが盛大にぶふーっ!!と吹き出し、それをアレクシオスがじろりと横目で睨んでいた。
私は酔いが回ったせいで、それすらも面白くなり、大きな口を開けてあははと笑った。
アレクシオスが眼光鋭くこちらにも冷たい視線を向けてきたが、何もかもが楽しくなった私はただひたすら笑ったのだった。
最後に見たのは、諦めたように深くため息を吐くアレクシオスの姿だった気がする……
◇◇◇
ーーそんなわけで、翌朝、私はアレクシオスの腕の中で目を覚ました。
(………え!?え!?どうして……!?)
目の前には、異様に綺麗な芸術級の寝顔があった。
一瞬呼吸が止まり、全身から一気に嫌な汗が吹き出てきた。
私は身動きせずに視線を動かし、服を着ているか確認したが、ちゃんと寝る前と同じ物を着ているようなので安堵した。
続いて両手の感覚を確かめた。
(手枷も……されていない……!?)
どうやら拘束もされていないようだ。
私は昨日の記憶を遡ったが、晩餐室以降の記憶がなかった。
(やってしまったーーー!)
両親のことで心身共に疲労困憊だったとはいえ、これから働く相手の城で、(しかもこの帝国で一番偉いお方の御前で)初日から酔って記憶を失い、相手の世話になるなど言語道断だ。
私は悶絶したい気持ちを抑えながら枕に顔を沈めた。
(はぁ〜〜〜………)
(なんだか、いつもこの人には一番見せたくない姿ばかり見せてしまっているわ……)
ガックリと落ち込む。
しかしもう挽回しようがないほど酷い状況だ。
自分の精神を保つために、もはや“アレクシオスならいいか”と思う諦めと投げやりな気持ちで自分を納得させた。
枕から僅かに顔を上げると、ルビーレッドの瞳がこちらを見ていた。
「うぎゃーーーっ!!」
驚きのあまり後ろにのけぞる。
「それが淑女の驚き方か」
アレクシオスが冷静に指摘する。
「あの陛下……昨晩なのですが、私途中から記憶がなく……何か失礼なことなど、なさっておりませんでしょうか………!?」
私は居住まいを正してベッドの上に小さく座る。
「なんだ、覚えてないのか……」
アレクシオスは気だるげに肩肘をついて頭を上げる。
「泥酔して大声で歌い出すわ、服は脱ぎ出すわ、なかなかに騒々しかったぞ」
「え、歌!?服!?え、嘘ですよね!!?」
「しまいには、弓の練習に行くと言って、突然外に飛び出して行ったりもしたな」
(うわっ!それはなんか本当っぽいっ!!)
私は頭を抱えてうずくまった。
「嘘……ですよね………?」
「信じられないなら、他の者達にも確認するか?」
「いえ!大丈夫です!!」
記憶がないのは確かなので、万が一の真実を突きつけられるのが怖かった。
私は再び居住まいを正す。
「あの、アレクシオス大帝王様……昨晩は大変ご迷惑をおかけしました!金輪際そのようなことは致しませんので、どうぞ今すぐ記憶からお消しください!!」
「それは無理だな。あんな刺激的な夜はなかなか忘れられそうにない。やはりお前は興味深い女だ……」
アレクシオスは無駄に破壊力のある笑みを浮かべながら、私の頬に触れた。
そのタイミングでアレクシオスが呼んだ侍女が現れ、また意味深な目で見られてしまった。
(ああ……ドツボにはまっていく……)
◇◇◇
朝食の後、ようやく執務室へと案内された。
執務室は、以前と打って変わって綺麗に整理され、書類が山積みだった机の上には必要な書類以外は何も乗っていなかった。
「わぁ……!」
部屋の中は清掃が行き届いていて埃っぽさもなく、空気も清浄だった。
棚には土地や税収関係、法令関係など、書類がジャンルごとにわかりやすく整理されていた。
(アレクシオスは几帳面なタイプなのね……)
そう思って内心で笑う。
「お前の机はそっちだ」
アレクシオスが隣の机を指した。
新調されたばかりの執務机だった。
(私のために?まさかね……)
「その箱に入っている書類がお前の分だ」
……どうやら私のために用意されたもののようだ。
こちらに向かってくる時にでも、先回りして手配させたのだろう。
私は机の書類を手に取って見る。
「上下水道と用水路を整えた次は、貯水池を整備されるおつもりなのですね……」
「ああ、冬が終わると雪解け水による川の氾濫が毎年各地で起こっているようだからな」
貯水池は干ばつや防火対策の他に、洪水被害の軽減にも効果がある。
もちろん、その前に堤防の強化が先であるが、書類を読む限り、その問題は既に対応済みのようだ。さすがである。
災害記録で過去の出来事を確認するが、できる限りの情報を補完をしたのか、以前見た時の数倍の量になっていた。
「貯水池には食用の魚を放つ予定なのですか……!?」
「ああ、規則を整え、領主達に管理をさせる。ゆくゆくは各地で大規模な養殖を行い、農民にも安価に魚が手が入るようにしていく」
「まあ、それはいい案ですね!」
私にはなかった発想だった。
彼に触発されて、他にはどんなことができるだろうかと考えを巡らせると心が躍った。
「それから、執務がある程度落ち着いたら雪が降り始める前に視察に行く」
「はい、貯水池と災害の確認ですか?」
「それもあるが、いろいろと対策を行っても、どうにも作物が育たない村がいくつかある。それをお前の力で浄化してほしいのだ」
「え……」
「聖女としてのお前への正式な依頼だ。報酬も支払う」
「え……だって私は……」
「偽聖女でもなんでもいいから、見よう見まねでやれ」
「わ、分かりました……」
彼の突然の言葉に戸惑いを隠せなかった。
聖女の力をバカにしていたのはアレクシオスなのに。
しかも偽物の私の見よう見まねでいいと言う。
本当に彼はどうしてしまったのだろうか……
◇◇◇
「失礼します」
ノックの音で我に帰るクリスティア。
いつの間にか目の前の書類を片付けるのに夢中になっていたようだ。
「入れ」
隣の席のアレクシオスの言葉で入ってきたのは見知らぬ男だった。
「お初にお目にかかります、クリスティア様。私は新しく執事となりましたカーティスと申します。昨夜は外出していたため、ご挨拶が遅れてしまい、大変失礼致しました」
そう言って礼儀正しくお辞儀をしてみせた。
やや細身のカーティスは、前の執事だったオルテスとは見た目も態度もえらい違いだった。
「よろしくお願いします、カーティスさん。私はクリスティアと申します。私のこともどうぞ呼び捨てでお願いします」
「それはいけません。クリスティア様は陛下の大切なお客様ですから。私のことはカーティスとお呼びください」
そう言って、温かい笑みを見せる。
「ありがとう。ではカーティスと呼ばせて頂くわ」
「はい」
「それで、何の用だ?」
「昼食の用意ができましたので、お呼びにあがりました」
時計を見ると、もう昼だった。
それに気付くと、途端にお腹が空いてきた。
「分かった、仕事を片付けたら向かおう」
お互いにキリのいいところまで仕事を終わらせ、アレクシオスのエスコートで昼食場所まで移動した。
「執事を変えられたのですね、オルテスはどうされたのですか……?」
「多数の不正発覚により処分した」
「えっ!?」
「オルテスが斡旋した連中も、全員裏で不正に加担していたから、まとめて処分した」
「………っ!」
まさかオルテスが陰で不正をしていたなんて……!
そうとも知らず、私は空席だった役職の人選をオルテスに任せてしまった。
それがまさかこんなことになるなんて……!
(以前ローランが“一つ大きな問題がある”と言っていたのはこのことだったのね……!)
「申し訳ありません……!」
私が至らないばかりに、多くの人間の命を奪ってしまった……
全身の血の気が引いていくのを感じた。
「結果的に、お前のオルテス任せの人選のおかげで、汚職者達を一網打尽にできた」
人任せという言葉がグサリと刺さる。
でもそれは陛下だって人のこと言えないじゃないですかとは、口が裂けても言えなかった。
「でも人の命を奪うのは……」
妥当な措置なのは分かっている……
我が祖国でも同じ対応をとるだろう。
それでも、アレクシオスにはこれ以上、誰かの命を奪ってほしくないと思ってしまう……
「別に命までは取っていない」
「へ?そうなのですか……?」
「監獄の厳しい監視の元、公共事業の強制労働をさせている」
「そうなのですか!?なんという寛大で素晴らしい措置なのでしょう!!」
「殺した方が餌代がかからなくていいが、死ぬまでタダ働きをさせる方がより益があると分かったからな」
「餌代って!」
「ははっ」
悪魔のような笑みを浮かべるアレクシオスを見て、感心しかけた気持ちが急速にしぼんでいった。
しかし、監獄収容者に強制労働をさせるという概念がないこの時代に、彼の案は画期的と言うより他なかった。
(彼は本当に優秀な統治者なんだわ……今までその才を発揮されなかったのが惜しいほどに……)
私は彼を見上げた。
彼の変化には、目を見張るものがある。
あのまま縁が切れていれば、彼を一生誤解したまま終わっていただろう。
(今の彼に再び出会えてよかった……)
そんなことを考えていると、気付けば食堂ではなく、中庭にたどり着いていた。
「………?」
案内されたのは中庭のガゼボだった。
「まさか……」
私は見覚えのある景色を見て呟いた。
私が城を抜け出す日、アレクシオスと中庭で昼食を食べる約束をしたのを思い出した。
「……覚えていらしたのですか……?」
「ああ。約束というものは、守らなければならないのだろう?」
その言葉に胸がズキリと痛んだ。
何気なく交わした約束を大切なことのように覚えていてくれたことに。
そして、これまで誰とも約束を交わしたことのないかのような口ぶりに。
「……嬉しいです。約束を守ってくださって」
嬉しいような切ないような気持ちを隠すように瞳を伏せ、ガゼボに足を踏み入れた。
テーブルには既に食事が用意されており、私達が席につくと侍女が紅茶の準備を始めた。
「コックが張り切り、少々量が多くなってしまいました」
執事のカーティスが恐縮したように弁明する。
きっとアレクシオスが遠征以外で、初めて外で食事をすると聞いて、料理人達も腕が鳴ったのだろう。
存外、彼はこの城の者に愛されているのかもしれない。
テーブルには、食べ切れないほどのオードブルやサンドイッチがいっぱいに並べられていた。
アレクシオスはやや煩わしそうに眉を寄せていたが、何も言わなかった。
少し大人になった彼に嬉しくなり、クスリと笑う。
「何を笑っている」
「アレクシオス様が城の皆さんに慕われているようなのが嬉しくて……」
アレクシオスは意味が分からないと言ったように怪訝そうな顔をした。
私はその反応に微笑みで返した。
「ところで、いつまでそんな呼び方をするつもりだ」
「え、“アレクシオス様”ですか……?」
「そうだ。お前の柄ではないだろう。アレクシオスと呼べ。敬語もいらぬ」
「…………」
いいわけがない……
「お前は俺の婚約者だろ?」
「そうでしたっけ?確か捕虜の友人だったと思いますが……」
私はとぼけた顔をして答える。
「そうか、俺はお前を婚約者だと思っていたのだが、誤解を与えていたようだな」
アレクシオスがわざとらしく肩をすくめる。
「なっ!どの口が……っ!!」
「この口だが?そうか、今ここで俺の気持ちを知りたいということか。なるほど……」
そう言ってゆっくりと立ち上がった。
「あ、大丈夫です!そうでした!婚約者でしたね、アレクシオス!」
と慌てて笑顔で肯定する。
あのアレクシオスのことだ、執事や侍女達の前でキスくらいしかねない。
私は片手で嫌な心臓の音を押さえた。
そんな私ににっこりと笑いかけるアレクシオス。
(そういう強引なところは全っ然変わってないわ!!)
私は彼を恨みがましく睨んだ。
◇◇◇
「あぁ、美味しい……!」
シェフの作った絶品料理と美しい景色で、単純な私の心は一瞬でほだされてしまった。
そんな私を眺めるアレクシオスが僅かに表情を緩める。
「ーーお前が言っていたように、外での食事も悪くないな」
心地よい風がそよそよと私とアレクシオスの髪を揺らす。
「そうでしょう?緑は人の心を癒す力があるそうですよ。この庭を見かけた時から、ここで食事をしたいと思っていたんです。誰も使っていないのに、庭師がいつも管理をしてくれていたみたいですし」
私は美しく整えられた中庭を見渡す。
ここは以前と変わらず庭師の手が行き届いていた。
ただ、花がないのが残念だが。
もし長く滞在できるならば、来春には花も植えてもらおう。
「そうか。庭師には褒賞を与えよう」
「まあ、それはきっと喜ばれますね!!」
陰ながらの仕事を主人に認めてもらえたならば、この上なく嬉しいことだろう。
「はっ相変わらず変わった奴だな……」
彼は優雅な仕草で紅茶に口をつけた。
そんなあなたは相変わらずお美しいですね……
私は遠い目をして笑う。
「クリスティア様……!」
「クリス!!」
食事を終えた頃、フェリシアとルイスが中庭に顔を見せた。
「ああ、二人とも!!」
私達はきつく抱き合った。
姿が見えなかったから、きっと城のどこかで働いているのだろうとは思ったが、アレクシオスに“彼女達に会いたい”という要望を聞き入れてもらえてよかった。
遠くではジュドーが遠慮がちにこちらに向かってお辞儀をしている。
ジュドーもきれいな使用人の服を着せられていた。
(よかった……)
「すぐに会えなくてごめんなさいね、二人とも元気にしていたかしら?」
「いえいえ、私達も慌しかったので」
「オレ騎士のところで騎士見習いやってる!ます!」
慌てて敬語に直すルイス。
「ふふ。騎士見習いを続けさせてもらえたのね、よかったわ。みんな優しくしてくれるかしら?」
「リオルみたいに優しくない!でもいっぱい教えてくれる!オレもっと強くなってクリスティア守る!!」
「まぁ……!」
私は嬉しくなって顔が綻ぶ。
「ルイスは私の護衛騎士だものね。強くなってくれたら嬉しいわ。でも無理はしないでね」
ルイスの頭を撫でると、彼は頬を染めて満足げに頷いた。
いつの間にか背も伸びて、あと頭一つ分くらいの差になった。
ちゃんと食事と睡眠がとれて、正常な成長ができるようになったのだろう。
私はそんなルイスを見てじんと目頭が熱くなった。
「クリスティア様、私はいま侍女見習いとして、この城でのノウハウを学んでおります。すべてが学び終わりましたら、必ずクリスティア様に恥ずかしくない侍女となりますので、お待ちください」
「フェリシア……ありがとう……」
平民であるこんな私にここまで尽くしてくれるなんて、返す言葉がなかった。
私も残りの人生をかけて、彼女達のためにできることはなんでもしようと思った。
「クリスティア様……」
ジュドーがおずおずとやってきた。
「ジュドーはどうしていたかしら?」
「わしは主に庭の手入れを手伝う仕事を任されました」
彼も言葉遣いの指導を受けたのだろうか、まごまごと喋りづらそうにしながら話す。
「まあ庭師の!?それは楽しみだわ!!私ここのお庭が好きなの。きっとジュドーが手伝ってくれたら、更に素敵なお庭が出来上がるわね!」
私が笑いかけると、大げさなジュドーはまたしても少し涙ぐんで「はい、必ず……」と頷いてくれた。
私もそれにつられて涙ぐんでしまった。
今日はやたらと涙腺がゆるむ日だ。
◇◇◇
感動の再会と大満足な昼食を終え、満たされた気持ちで執務室へと戻る。
「俺は軍隊の面倒を見てくる。お前はこれまでの記録のまとめを頼む」
「かしこまりました」
相変わらず軍隊の育成にも精を出しているようだ。そこの彼らしさは変わっていないようで安心する。そこまで変わっていたら、もはや別人と言えるだろう。
あ、性格と口の悪さも変わっていなかったわ……
あと強引さも……
執務室を出て行こうとしたアレクシオスが不意に扉の前で止まるので、心を読まれたのかとドキッとした。
「……お前の身分だが、近いうちに公爵位を与えるつもりだ」
「!」
(この前の話は本気だったのね……)
(公爵位ということは、私自身が公爵となって領地を収めるということ……?)
「準備が整うまでしばし待て」
「はい……」
どのみち断る権利はないだろう。
私は頷き、彼の用意する提案を待つことにした。
◇◇◇
そうして、満足がいくまで仕事をし、入浴と晩餐を済ませた後は、アレクシオスのエスコートで夫婦の寝室までやってきた。
……今日は今朝の失敗を鑑みて、ほとんどワインを飲まなかったのでシラフ同然だ。
侍女に普通の寝巻きに着替えさせてもらうと、アレクシオスは当然のように私をベッドへと連れて行く。
「あの……」
緊張に身を固めていると、抱き上げられてベッドに運ばれる。
目を見開いてアレクシオスを見ていると。
「なんだ?寝るだけでは不満か?」
と私の顔を覗き込んだ。
「い、いえっ!!とんでもありません!!」
慌てて背を向けると、
「何か期待でもしていたのか?」
と後ろから手が伸びてきた。
「まさか!そんなはずありません!!」
「そうだろうな」
「……へ?」
思わぬ反応に振り返ると、彼はまた私を後ろから抱きしめるような形で寝入った。
とても何かするような雰囲気ではなかったので、私もそれ以上は何も言わずに目をつぶった。
(なんだか調子狂うわ……)
そうして、彼の寝息を聞いているうちに私も深い眠りに入っていった。
そんな穏やかな日を過ごしていたある日、ゾルド領で偵察をしていた兵士がアレクシオスの元へ戻ってきた。




