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第23話「波乱の婚約パーティー③」〜痴話喧嘩?〜

今回はキリが悪いのでちょっと短めです。




「どういうことでしょうか……?」

リオルが依然として顔を青くした状態で尋ねた。


先程の尋常ではない殺気を放っていたアレクシオスに対して、どちらの選択肢も断るなんて、リオルには到底考えられないことだった。


(やはりこのお方は、常識の枠に捉われない大きな心の器をお持ちなのだ……)


リオルはクリスティアに対して更に尊敬の念を寄せた。


「それがね……!」


クリスティアは興奮冷めやらぬ状態で話し始めた。




◇◇◇




「恐れながら申し上げますが……どちらもお断りさせて頂きます」


「なんだと……!?」


アレクシオスの鋭い視線がクリスティアに向けられた。


「貴様……一度ならず二度までも、そんなことが許されると思うのか……?」


不機嫌をあらわにしたアレクシオスはいつも以上に恐ろしく、思わず全身が震え上がるほどだったが、私は拳を握りしめて言葉を振り絞った。


「私はあなたが提示したどちらの選択肢でも生きる気力を失い、あなたの帝国で政務を行うどころではなくなります。その方法はむしろ逆効果です!」


私がまたもや仕事を盾に反論したことが気に食わない様子で、アレクシオスは眉の皺を更に深めた。


「じゃあ貴様はどうしたいというのだ?今ここで永遠の眠りにつきたいのか……?」


彼が背中に隠している短剣に手をかけたので、私は全身から嫌な汗が一気に吹き出した。


「わ、私がなんとか両親を安全に取り返します。できたらミハイル王子達を説得して自らの足で帝国へ向かいます。それでどうでしょうか……?」


「はっおめでたい頭だな。そんなことが可能だと思っているのか?できないから、お前は今このような状況なのだろう!?」

アレクシオスは、クリスティアの見窄らしい部屋を見回して嘲笑った。


「……それとも、この場をやり過ごすために、くだらない妄言を吐いているのか?そんなに我が帝国が嫌か……?」

アレクシオスが顔に暗い影を落とした。


「いえ…帝国の現状が気になっているのは事実です。本当は1日でも早く帝国の体制を整えて、一人でも救える命を救いたいという思いはあります!」


「ならば…」


「ですが!一度帝国へ渡ったら、当分こちらに戻ることはできませんよね……?」


「それの何が問題だ……?」


「……この国は、前聖女のエヴァ様が力を尽くしてお守りしてきた土地です。私はあなたの帝国と同じくらいこの国が大切なのです」


「……」


「この国のとある村を見ました。想像以上に酷い状態になっていました……他にもあのような村があるのだとしたら、私は放ってはおけません……」


「はっ!くだらん!死んだ者の思いに縛られているのだとしたら、それはもう怨念だ」



「いえ、これはエヴァ様が望んだことではなく、私がそうしたいと願ったことなのです……!」

「だがお前はこの国の聖女でも王女でもない、ただの平民だ。平民の分際で何ができる?」


「……たとえ力はなくとも、その土地その土地を回ってお手伝いすることはできます!」


「お前が何かしたところで、民を大きく左右するのは国の施策だ。お前も我が帝国を見てそれを痛感したのではないか?だからあのような計画を練ったのだろう?」


「………っ!」


「お前がやりたいことは、政権をもつ王族や貴族にならねば叶わない」


「………」


「クリスティア……いいから俺と来い」

アレクシオスは、私の顎をつかんで引き寄せた。


「い、いやです……!!」

名前を呼ばれて思わず心臓が跳ねたが、私は渾身の力でその手を振り払った。


「あちらへ行ったら、この国はどうなるのですか!?」


「そんなの俺の知ったことではない」

彼は何の感情もなく答えた。


「知ったことではない…!?」

私は信じられないような気持ちで聞き返した。


「………絶対絶対に嫌です!!」


「ちっ……強情な女だ……!」

再びアレクシオスに怒りの表情が蘇った。


「……いいだろう、平民の女がどこまでできるか見ものだな。言っておくが、今後俺の目の届く範囲でうろちょろしていたら、お前の計画は全てぶっ潰してやるから心しておけ」


「な…っ!どうしてそんなことをする必要があるんですか!」


「お前が気に入らないからだ」


「そんな理由で……!?」


「……ご心配せずとも、金輪際あなたの帝国へは足を踏み入れませんので、ご安心ください!!」


「ふっ!お前の国とやらがいつまで存在するのか、無力な部外者として、その間抜け面で傍観してるんだな!せいぜい俺の機嫌を損ねて国ごと潰されないように気を付けることだ」


「〜〜〜!最低っ!!!」

私が興奮していきり立つと、アレクシオスはさっと足を後ろへ引き、わざとらしく丁寧にお辞儀をした。


「では、永遠にさようなら、無力な偽聖女様」

アレクシオスが悪意たっぷりの顔で舌を出して見せた。


「もうっバカーー!!」

「ふん!」


彼が乱暴に締めたドアに向かって、私は思い切りべー!っと舌を出した。


自分の人生でこんなに醜い争いをする日が来るなんて、夢にも思わなかった。


後悔は一切ないが……




◇◇◇




「……というわけよ!」

クリスティアは、珍しく苛立ちをあらわにした様子でリオルに事細かにその内容を伝えた。


「はあ……」


リオルは顔を青くしながらも、普段は冷静沈着そうな二人の珍騒動に、後半は痴話喧嘩でも聞かされているような、なんとも言えない気持ちになった。


「クリスティア様はそれでよろしかったのですか……?」


「知らないわ!」


口を尖らせて不貞腐れるクリスティアは、年相応の少女の姿で、リオルは不謹慎ながらも思わず彼女を可愛いと思ってしまった。


それと同時に、二人にとって最悪の事態にならなかったことにも、内心安堵した。



「よかったら、何か温かいお飲み物でもお持ちしますので、お部屋に戻りましょう」


「……うん……」


渋々差し出されたリオルの手を取って、再び階段を登り始めたクリスティアを見て、リオルは人知れず微笑んだ。




彼女が冷静になった時、きっと今日のことをとても後悔するだろうと考えたリオルは、その時は自分がそばで支えようと、心の中でそっと誓うのだった。





ーーーそれからアレクシオスとクリスティアが再会するのは、実に4ヶ月も後のことになるのだった……





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