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第13話「アレクシオスからのプレゼント」

アレクシオスによって掻き乱された心を誤魔化すように、午後は仕事に没頭した。


治水・利水計画の草案はあらかた出来上がったので、次はそれぞれの役職の選任を始めた。


これには相当苦労した。

なにせ経験がない。


本を読んだって、代々どの家柄でその役職に就いていたのかくらいしか分からない。


更に困ったのは、最近のそう言った記録がほぼなかったことだ。

記録係の怠慢か、単にアレクシオスの代になってからそれらの資料を取り寄せた者がいなかったのか、いずれにせよ困った事態だった。


いまの段階で誰が適任かどうかなんて、分かるはずもなかった。


とりあえず……


「この国の宰相に意見を仰ぎましょう……」


私は椅子から立ち上がり、座りっぱなしの身体を伸ばすと、足枷を引きずりながら、呼び鈴を鳴らして侍女を呼んだ。

(日中も2階に侍女を一人配置してもらうことになった)



宰相に話を取り次いでもらうため、やってきた侍女に秘書か執事を呼んでもらうよう尋ねたところ、この城に秘書はおらず、執事が時々そのような仕事を任されていたと聞いた。


なので、侍女に頼んで執事を連れてきてもらった。


執事のオルテス。

この宮殿にきた初日に挨拶をしてくれた。

身長は私より少し高いくらいで、恰幅のいい体格でお腹が前にせり出ている。

年は40代後半といったところだろうか。

アレクシオスが女性を連れ帰ってきたということで、えらく驚いていたのを覚えている。

あの日以来、彼は私にとても好意的な態度で接してくれている。


「これはこれはクリスティア様、どうされましたか?」


恭しくお辞儀をしてくれるオルテスに、私は官僚の人事について尋ねた。


「宰相の名前ですか?そんなもの、あなたが知ってどうするのですか……?」


藪から棒な質問をされて、些か不審そうな顔をされたが、それでも答えてくれた。


“宰相は然るべき家柄の者だったが、アレクシオスによって殺されてしまった”と……


「そんな……」

宰相から役職の適任者など、人事の相談をしようと思っていた私は途方に暮れてしまった。



代わりに執事のオルテスが協力を進み出てくれて、アレクシオスに殺されてしまった官僚達の代わりになる人選をすぐさま選んでくれた。

こちらもなんとかなりそうでホッとし、後は机の上の書類の処理に没頭したのだった。



◇◇◇



「婚約者殿、晩餐の時間だ」



気付けば窓の外が薄暗くなっており、アレクシオスが内側のドアをノックする音でハッと我に返った。


どうやら時間が経つのも忘れて執務に没頭していたようだ。



彼の顔を見ると、昼間のことを思い出して一瞬胸がドキッとしたが、肝心の彼は何事もなかったかのような様子だったので、私も気にしないことにした。


(彼に振り回されていたら心臓がいくつあっても足りないものね……気にしない気にしない……)


私は気持ちを切り替えた。



彼は私の足枷を外すと、今日は真っ直ぐ晩餐室へ向かわず、階段を通り過ぎて婦人の部屋の前へ来た?


「陛下、どうしてこちらへ……?」


尋ねても何も答えず、代わりに顎でその扉を自分で開けるように促された。


「……?」


彼の表情からは何も読み取れない。


仕方なく、恐る恐る扉を開ける。



カチャリ……



「!!」


ドアを開けると、目の前に真っ赤なドレスが目に飛び込んだ。




「へ、陛下これは……?」


「俺からのプレゼントだ」


アレクシオスが真顔でこちらを見ながら答えた。

ドレスと同じ真っ赤な瞳が私を静かに見据え、思わず胸がときめく。

そのお顔の美しいことと言ったら……


(……ん?)


(瞳と同じ……?)


「!?」


「ま、まさかこの色は……!?」


「ああ、俺の瞳と同じロイヤルカラーだ。この色を身に付けられるのは、この国では王妃だけだ」


そう答えたアレクシオスは、いつものように黒い笑みを浮かべてニヤリと笑った。



ひえぇぇえぇぇっ!!


「い、いりません!!」


「そうか、残念だ」


「!?」


「お前のためにわざわざ大金を叩いて急ぎで作らせたというのに。夜通し作らせた職人達には悪いが、これは即刻燃やすことにしよう……」

「おい、誰か……」


ガシッ!!


私は侍女に指示を出そうとしたアレクシオスの腕を無意識に掴んでいた。


そんな私の顔を見て、フッと表情を和らげると、

「じゃあ着てくれるな……?」

と顔を近付けて甘く囁かれた。



「着ますよ……」


(着ればいいんでしょーー!?)


完全に彼のペースで、悔しい気持ちのまま、半ばヤケクソで侍女達にドレスを着せてもらった。


仮初の関係の私が着るには重過ぎるロイヤルドレスだった……



このドレスは、スカート部分が一番ボリュームのあるベルラインタイプで、どのスタイルよりもゴージャスで華やかに見える。

ルビーレッドの艶やかな生地の上に何枚もの赤いレースが折り重なり、その至る所に大小様々な宝石が散りばめられ、ドレスが揺れるたびにキラキラと輝いて見えた。


極めつけに、大きなルビーのネックレスと同じデザインのイヤリングまで用意されていた。

ルビーの周りには小さなダイヤモンドが散りばめられ、精巧に作り込まれていた。


恐らく昨日の夜辺りに注文したと思われるが、これらを仕上げるのに、一体何人の職人達が総出で眠れぬ夜を過ごしただろうかと思うと、申し訳ない気持ちになってきた……


しかも…財政が破綻していそうなこの国で、これまた贅沢の限りを尽くしたようなドレスやアクセサリーを作るなんて……

考えただけでクラクラしてしまうが、これはアレクシオスが初めて私のためにくれたプレゼントで、彼なりに王族の婚約者としての礼儀を尽くしてくれたものだと思い、ありがたく受け取ることにした。


何より、誰かからプレゼントを受け取るなんて、久々のことだったので、それが素直に嬉しかった。




◇◇◇



「ど、どうでしょうか……?」


身だしなみを整え、アレクシオスの前に現れた私は遠慮がちに尋ねてみた。



「ああ、美しいな」

「!!」


表情を変えずに、とてもストレートな感想をぶつけてくるアレクシオスに心臓が跳ねる。


「あ、ありがとう…ございます……」


「なんだ、そんなしおらしい態度を取られると、からかいたくなるぞ」

そう言って腰を抱き寄せられる。


「!!」


顔を見上げると、いつものように意地悪い笑みを浮かべて私を見つめる彼がいた。


「さあ、晩餐の時間だ、婚約者殿」

そう言って、私の耳元で優しく囁いた。


「!!」

私の反応を少しも見逃さんとばかりに見つめるアレクシオスの視線に耐えられずに、思わず赤くなった顔を背けた。


隣からはくくく…と笑いを堪えるような声が聞こえた。




◇◇◇



晩餐室にて。


気持ちを切り替えて、今日も今日とて豪華なコース料理を幸せな気持ちで頬張る。


新しいドレスをプレゼントされたということもあり、今日は食事も殊更に美味しく感じる。


ふと視線を感じて目線を上げると、真正面で無表情のまま、無言で私を見つめるアレクシオスと目があった。


「!!」


「な、なんですか!?」


「いや、毎度飽きもせず、うまそうに飯を食うと思ってな」


(飽きもせずって……!!)

この方は食に関心がないのだろうか……!?

というか、毎度毎度知らぬ間に観察されていたことに動揺する。


私は誤魔化すように一つ咳払いをした。


「当然です。食事は活力の源ですし、美味しいものを食べれば身体は喜びます。食べる物で私達の身体は作られていますから」


「それに、美味しい物を美味しく食べるのは、手間暇かけて作ってくれた方や命を分け与えてくれた生き物への感謝の気持ちの表れや礼儀でもあると私は思っています」


「なるほど。聖女様らしい立派なお考えだな」

アレクシオスが小馬鹿にしたように鼻で笑う。


……でしょうね。



「……だが」


「食物で身体が作られるというのは納得だな。明日から兵士達にはしっかり昼食の時間をとらせることにしよう」


思わぬアレクシオスの言葉に、席を立ち上がりそうになってしまった。


「それはとてもいい案だと思います!!兵士の方々も喜ばれることでしょう!」


「……なんだ?まるで自分のことのように喜ぶとは。本当におかしな奴だな」


「もちろんです!人の幸せは、巡り巡って自分にも返ってきますから!」

私は顔を綻ばせて微笑んだ。


「そうか。もっとも、俺は今後も昼食をとるつもりはないがな」


「!!」


(それじゃ意味ないでしょうが〜〜!!)


「陛下……それだと他の者達が休みたくても休めません。陛下は明日から私と一緒に昼食を食べてください」


「俺が貴様と……?」


鋭い目で睨まれて、一瞬心臓が凍りつきそうになる。


「ひ、一人で食事を摂るのは寂しいですし、一緒に食べると、食事はより一層美味しくなるものです……!」

なんとか声を絞り出して適当な理由をつける。


「………」

静寂が部屋を包む。

私も緊張で両手を握りしめる。



「……なるほどな、だからローランを食事に誘ったわけか」


「え?ええ…そうなんです……」


突然斜め上の理解をされて、頭に疑問符が浮かびつつも頷く。

ともあれ、要求には応じてくれそうな雰囲気なので、このまま一気に畳み掛けてしまうことにした。


「では、明日のお昼もご一緒できることを楽しみにしていますね」

私はにっこりと笑いかける。


「………」


「あ、そうだ!せっかくだから天気がよろしければ、訓練場近くの中庭でお昼を食べましょう!その方が陛下も安心でしょうし」


私は今日訓練場の行き帰りで見かけた中庭のことを思い出した。


中庭は今も誰かが整備しているのか、生垣はすべて同じ長さに切り揃えられ、ガゼボのテーブルなどもきれいな状態だった。

あの場所を使わない手はない。


「野戦でもないのに、外で飯を食うのか……?」

アレクシオスは怪訝そうな顔をした。


(ああ、そういう考え方ですか……)



「平時にも外で食べることはあります。外で食べる食事は、部屋で食べるのとは違ってまた格別な美味しさがありますよ」


私は外の解放感、木陰の快適さに加え、緑が心身の不調を整えてくれる効果があることなどを熱弁した。


「……ふむ」


(少しは伝わったかしら……?)


「お前がそれほどまでに外で食事をしたいのならば、付き合ってやっても構わないが」


(伝わらなかった……)


「あ、ありがとうございます……」


なんだか、結果的に私がおねだりを聞いてもらった形になってしまって恥ずかしいが、何はともあれ、アレクシオス(とその部下達に)に昼食をとらせることができそうなのでよかった……


私自身、今日は一日中執務室にこもっていたので、明日の予定が楽しみになってきた。


「ふふ、約束ですよ!」


「ああ、約束…だからな……」

一人で百面相をしている私を眺めながら、アレクシオスは囁くような声で返事をした。







「お食事中失礼します!」


するとそこに、慌てた様子の執事オルテスがアレクシオスの元へ走り寄ってきた。

「何事だ」


途端にアレクシオスの表情が険しいものに変わり、空気が張り詰める。


オルテスは私をチラリと見ると、アレクシオスの耳元で何かを囁いた。


「……?」

一体どうしたのだろう……




「どうかされたのですか……?」


オルテスが去って行った後に、アレクシオスに尋ねてみた。


「………」


「……?」



「先程、ルーマ国から早馬が届いたのだが……」


(ルーマ国から?もう……?)


両親へ手紙を書いたのは昨日の夜だから、早馬を出しても届くのは今日になることを考えると、その返事というわけではなさそうだ……


私が首を捻っていると、アレクシオスの口から思いもよらない言葉が出てきた。



「お前の両親であるマリヌス公爵夫妻が、爵位剥奪の上、投獄されたそうだ」



「………えっ!?」


私は理解が追いつかずに、その場で凍りついた。









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