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第12話「隣国での楽しい生活」

二日目の夜は、彼が手枷の鎖を長くしてくれたおかげで、前日のように腕の痛みに苦しまずに寝ることができた。


……まあ、彼のおかげも何も、連日手枷をされているのは彼のせいなのだが……


しかし、今回のアレクシオスはまたもや様子がおかしかった。


昨日同様、ベッドの上で私に手枷をはめたと思ったら、私を抱きしめるような形でアレクシオスも横になった。

そして私が呆気にとられて固まっている間に、すぐさま寝息をたてて深い眠りに入っていくのだった。


(え、何??どういうこと!?)


(昨夜といい、一体何なの……!?)


(そもそも、どうしてこんなに早く眠りにつけるの……!?)

すべてにおいて、訳が分からなかった。


おかげで、初日のような貞操の危機は感じずに済んだが、相手はあのアレクシオスだ、同じベッドで寝ている以上、何が起こるか油断はできない……


私は身体をこわばらせたまま、身じろぎもせずアレクシオスの腕の中で眠りについた。




◇◇◇




翌朝、再び至近距離で美男子のご尊顔を見て目が覚める。


長いまつ毛に整った鼻筋、女性顔負けの美しい白い肌に流れる綺麗な紺色の髪。


相変わらず心臓に悪い顔だ……



朝食だと言うので、アレクシオスが朝の支度で部屋を離れた隙に、天蓋の影でナイトドレスから昨日のメイドのお仕着せに着替えた。

思えば、服は何もないと言いながら、このナイトドレスだけは彼女達が用意してくれていた。

女性の物など何もなさそうなこの城で、どうしてこのような物があったのだろうか……?


しばらくして私を迎えにきたアレクシオスがその姿を見て、また怪訝そうな顔をしていたが、私は気付かないふりをして、彼の差し出す腕に手をかけた。



「まったく…頑固な女だ……」

アレクシオスが呆れたように呟いた。


「あいにく、一張羅のドレスは洗濯中でして、そのドレスも乾かす部屋がないので彼女達に預けてしまいましたの。どうかご無礼をお許しください」

私は白々しく申し訳なさそうな顔をしてみせた。



アレクシオスはそれを見て、ふんっと鼻を鳴らし、顔を逸らした。





◇◇◇




本日も豪華な朝食を摂り終え、大満足な様子で再びアレクシオスの腕に引かれて2階へと階段を上っていく。


いつもはそのまま執務室へ向かうはずが、今日はまた先程の寝室へと案内された。


「?」


不思議に思っていたら、アレクシオスは寝室を通り過ぎ、隣の部屋で立ち止まった。


「陛下こちらは……?」



「お前の部屋だ」

アレクシオスはこちらを見ずに言った。


その顔はいささか不本意そうに見えた。


「私の部屋……!?」


予想外の答えに、一瞬理解が追いつかなかったが、少し間をおいて、徐々に喜びが湧き上がってきた。


(私に部屋を用意してくれたの……!?)


思わず心が浮かれそうになったが、ふと我に返り、唖然とする……


(待って……)


夫婦の寝室の隣の部屋ということは……


「ここは婦人の部屋……つまり元王妃様のお部屋ということですか……!?」


私が慌てて振り返ると、アレクシオスは面倒臭そうにため息を吐いた。


「そうだが、今は誰も使っていない。監視するにも部屋は近い方がいいからな」


「ですが、この部屋は……!」


「お前は俺の婚約者なんだから、何も問題はないだろう……?」



「で、でも……」


「……本当は、捕虜に部屋を与える必要などないと言ったのだが、ローランがうるさくてな……」



……いま捕虜って言った……


……いま捕虜って言った……!!


口では婚約者とか言いながら、やっぱり捕虜だと思ってたのね……!!



「………」


私は改めて自分の立場を再認識し、冷静になる。




カチャ……


婦人の部屋のドアを開けると、これまた異様なほど殺風景な景色が広がっていた。


部屋にあるのは、大きな天蓋付きベッドと応接セットにドレッサーのみで、それ以外には何も置かれていなかった。


ここは、恐らくアレクシオスの母親であった元王妃様が以前過ごしていた部屋に違いない。


よく見ると、壁などには絵画が飾られていた跡などが残っていた。

ここで使われていた小物や装飾品などは、彼によって処分されてしまったのだろうか……

だとしたら、エントランスホールの異様な閑散さも納得できる。



部屋へ入ると、昨日のドレスを持った侍女達が使用人の控え室から出てきた。


(え、昨夜の今朝でもう乾いたというの……!?)


この暑い陽気でも今日の午後までは乾かないだろうと踏んでいたのに。


先程の食事中に、アレクシオスが執事にいろいろと指示を出していたようだったけど、まさかこのことだったのかしら……


ドレスに触れると、まだ少ししっとりとしていて、暖かい。



「まさかこのドレスを乾かすために、一晩中火を焚いてくれたの……?」


着替えの支度を手伝ってくれる侍女達に尋ねた。

その中の年上らしき一人が戸惑いながらも控えめに答えた。


「ええ、このドレスしかお持ちでないと伺いましたので……」


「まあ……!」

朝とはいえ、いまの季節は夏だ。

この時期に火など焚いたら、一気に部屋が蒸し風呂になってしまうだろう。



「私のわがままで無理させてしまってごめんなさい。でもこんなに早くに用意してくれて嬉しいわ、ありがとう」


私は申し訳なさと感謝の気持ちを込めて侍女達にお礼を伝えた。


言われた彼女達は、ポカンと不思議そうな顔をしていた。


(あら、またやってしまったわ……)


公爵令嬢が一使用人にお礼を言うなんて、常識がないと思われてしまったかしら……


“使用人に礼を言うなど、王族の品格を貶める軽率な行いだ!お前はどうしてそんなことも分からないんだ!?”


……かつての婚約者であったミハイル王子に幾度となく咎められていたことを思い出し、思わず苦笑した。




◇◇◇




侍女に手伝ってもらって支度を整え、ドアの前で待っていたアレクシオスの元へと戻ると、ようやく令嬢らしい格好に戻った私を見て、やれやれと言わんばかりにため息を吐いた。


そして、同じ階の執務室へ連行されると、今日も今日とて足枷をはめられるのだった。


(ええ、ええ、どうせ私は捕虜ですよ……)



そして、何食わぬ顔で部屋を出て行こうとするアレクシオスを見たら、不意に恨めしい気持ちになった。


(大事な公務をサボって、この人は一体どこで何をしているのかしら……?)


(まさか、この期に及んで一日遊んで過ごしてる訳じゃないわよね……!?)



私の視線に気付いたアレクシオスが振り返った。


「なんだ……?」



「いえ、一体どちらへ行かれるのかと思いまして……」




「気になるのか……?」


「ええ、まぁ……」


私の言葉を聞いて、ゆっくりとこちらに向き直った。


「お前もついてくるか?」


「……はい?」


(どこへ……?)


私の返事を待たずに、彼は私の目の前にしゃがみ、再び足枷を外し始めた。


「???」




足枷を外し終えると、エスコートもせずに足早に部屋の外へ歩き出したので、私も慌ててその後をついていった。

彼の歩く速さに遅れないように小走りでついていくと、途中でローランが合流した。


「おはようございます、クリスティア様!今日は陛下とご一緒されるのですね!」


ローランは、優しげな紺色の目を細めて穏やかに微笑む。


「え、ええまぁ……」

何をご一緒するのかはまだ聞いていないのだが。


「ところで陛下!クリスティア様が歩きづらそうですよ!紳士たるもの、女性を同行する際はきちんとエスコートをして、女性に歩幅を合わせませんと……!!」


相変わらず気配り上手のローランがすぐにアレクシオスに助言してくれた。


(さすがローラン……!!頼りになる男だわ!!)


「ふん!その女の足に合わせていたら、1日かかっても目的地には辿り着かないだろう」


「陛下!!」

「私そこまで遅くありません!!」


2人の声が人気のない廊下に響いた。




◇◇◇




広く長い廊下を何度か曲がった先にある渡り廊下から別の塔へ入り、最後に階段をひたすら上がっていった先には、大きな扉が外に向かって開け放たれていた。


その先に進んでみると……



「!!」



そこは視界に収まりきれないほどの大きな広場に、重厚な鎧を身につけた大勢の兵士達がきれいに整列しているのが眼下に見えた。


アレクシオスが姿を現すと、一糸乱れぬ動きで全員が礼をとった。


その様はまさに圧巻だった。


「我が国の軍隊だ、どうだ……?」


そのいつになく誇らしげな彼の表情から、アレクシオスがこの隊をどれだけ大切にしているかが分かった。

確かにこの軍隊は素晴らしいとしか言いようがない。


しかし、ここで大きな疑念が湧き上がった。


(まさか……)


「……いつも陛下のお姿が見られないのは、一日中この軍隊の訓練をされているからなのですか……?」


顔を引き攣らせながら、やや確信をもって尋ねると、


「そうだが?」


と、至って当然というような返事が返ってきた。


(なるほど……)


(この人は軍備にばかり力を入れて、政治を疎かにしてきたんだわ……)


確かにこの大規模な軍隊は帝国の象徴であり、その存在自体が他国への牽制になっているのであろう。

今後更に国を拡大していく上でも必要な存在なのは分かる。


だからといって……



(偏りすぎでしょ!!!)

私は声にならない声で叫んだ。



「何か言ったか?」


「いえ……」



目の前に広がる圧巻の風景を遠い目をして眺めていたら、不意にアレクシオスが私の腰に手を回し、声高に話し始めた。


「聞けっ!」


「この者は、ルーマ国のマリヌス公爵家のクリスティア・マリッシアだ」



「!!?」


突然何を言い出すのかと、隣で目を見開く。



「この度俺の婚約者となった。小国の女だからと侮るな。手出ししたら殺す、よく覚えておけ」



「!!!!」


全体の空気が大きくどよめくのを感じた。

何千人の視線が自分に突き刺さるのを感じた。


陛下……


何をおっしゃってるんですか……!?


陛下ぁぁあ!!!?



一体急にどうしたんですか!!!?

こんな公衆の面前で!!!!




ほんの数日前に公衆の面前で婚約破棄をされたばかりの私だが、たとえ不幸なことでなくとも、人前で晒し者になるのは嫌なのだと実感した。




「よって、今後はこの者を俺の妃と思って最上の扱いをするように」




「!」




距離はかなり離れているはずだが、それでもこちらを見る兵士達が酷く驚愕している様子が伝わってきた。



そっと後ろを振り返ると、後ろで控えていたローランが、感極まったように目を見開いてわなわなと震えていた。


(それは一体どういう感情なの……!?)



隣を見上げると、勝ち誇ったように悪い笑みを浮かべるアレクシオスの顔がすぐ近くにあった。


「!!」


片手で腰を抱かれて、今にもキスでもしそうな勢いの距離感に思わず狼狽え、身をよじろうとするが、強固として動かない大きな手の中で阻まれる。


それをすべて見越した上で、彼は更に笑みを深めるのだった。





「ローラン、こいつを執務室へ送ってやれ」

後ろへ下がると、用は済んだとばかりにさっと私を解放した。


「はっ!」

呆気に取られていたローランが、我にかえって走り寄る。



「……ああ、足枷を付けるのを忘れるなよ、帝王命令だ」



振り返るアレクシオスは小気味いいくらいに悪い顔をして笑っていた。






◇◇◇





「申し訳ありません……」



ローランがとても申し訳なさそうに、しかしその手でしっかりと私に足枷をはめながら謝った。


「いえ……」


そう答えるしかなかったので、ひとまずそう返した。


ローランもそんな私の心情を察したように、困ったように目を細めて笑った。


「また後で様子を見にきます。何かありましたら、いつでも私をお呼びください」


そう微笑みながら胸に手を当て丁寧にお辞儀をした。

赤いくせ毛の髪がさらりと顔立ちの整った顔にかかる。

年上ながらにやや幼いその顔立ちは、笑うと更に愛嬌が増した。


「ありがとう、ローラン」


優しいし、この顔立ちだし、きっと女性達に人気があるに違いない。


まあ、この人さっき私の足に足枷はめたけど……





◇◇◇




「さて……」



気を取り直して、私は机に向かった。



まずは昨日考えた案を具体的に詰めていこう。

この国の現状とこれまでの流れをしっかり調べた後で。

これは溜まっている書類よりも優先されるべき事項だ。


私は本棚を物色し、関連のありそうな書物を全て取り出した。

執務机の上は、書類の山の中に更に高い山が出来上がり、机の周りにも、所狭しと本が高く積まれた。


「ああ、腕が鳴るわね……」


大量の本の中から、短時間で必要な情報だけを効率的に読み取る訓練も、今まで数えきれないほどしてきた。

今日はその頃のことを思い出して、懐かしくも少しワクワクした気持ちになる。


こんな部屋の状態をアレクシオスが見たらまた何か文句を言うかもしれないが、もう気にすまい。

あんな軍隊バカのことなど。


「さてと!」


私は気合いを入れると、あっという間に本の山の中へ没入していった。




◇◇◇





「ふぁあ……」



気付けば時計は12時を回り、少し小腹が空いてきた。

そろそろ休憩しようかと思っていたところに、昼食が運ばれてきた。


持ってきたのはローランだった。


「お疲れ様です。陛下より昼食はこちらへ運ぶようにとのご指示があり、お持ちいたしました」


(つまり、昼食場所へ移動する時間も惜しんで働けと……?)


(しかもローランにちゃんと仕事をしているか監視までさせにきて……)


本当抜け目がないというか、人間不信というか……


「ありがとう!それで、陛下は……?」


「陛下は、昼はお食事をとりません。食事を摂る時間がもったいないとお考えのようで」


「へ!?」


思わず顔を上げると、ローランが肩をすくめて笑った。


「陛下が休まれないと、他の兵士達は休みづらいのですけどね」


それはそうだ……

権力者たるもの、そういう部下の心情も鑑みて、時には休みたくなくても休まなければならないのだ。


「全く、困った方ですね」


「ええ、本当に!」


握りこぶしを震わせながら返事をするローランから、これまでの苦労が滲んで見えた。


「お察しします……」


私は苦笑いで返した。






◇◇◇




昼食を食べるために、足枷を引きずりながら応接セットのソファに座る。



「………」


私の昼食の片付けまで行うつもりなのか、ローランが私の目の前に立って、黙ってこちらを凝視している。



「………」

「…………」



はっきり言って食べづらい……


「ローランは、お昼は食べたの……?」


「いいえ、先程申しましたように、陛下が昼食の時間をお摂りにならないので、必然的に私も食べなくなりました」

ローランが穏やかに答える。


……あの悪魔……!



「じゃあ、よかったら一緒に食べましょう。この量は私一人では食べきれないから」


そう言ってお皿のパンを一つ差し出す。


「いえ!私は結構でございます!」

ローランが恐縮して断ってきた。


「確かにお行儀が悪いことだけど、ここには私とあなたしかいないんだし、お昼を抜いてる人の前で私だけ食べてるのも気が引けるから、どうかお願いを聞いてもらえないかしら……?」


「しかし……!」


「それに、聞きたいこともあるし……」

困ったように顔を赤くするローランに、私は笑いかけた。




◇◇◇




「なるほど……上下水道の整備に貯水池に干ばつ対策……素晴らしいですね!」


向かいの椅子に座ったローランがパンをかじりながら、私のまとめた資料を読む。


「私、この国の仕組みがまだよく分かっていないから、是非ローランの忌憚ない意見を聞かせてほしいわ」


「そうですね……クリスティア様のこの計画は完璧だと思います。我が国の農耕文化はルーマ国とは異なると聞いていますが、よく調べられてこの国に合った計画を立てられていますね。この資料があれば、すぐにでも計画を実行できるでしょう!さすがは次期王妃と謳われた方です!」


「本当!?それはよかったわ!!」


午前中を潰して本を読み漁った甲斐があるというものだ。


「ですが、こちらを実施するにあたり、一つ大きな問題があります……」


ローランはやや難しい表情をした。



「問題?」


「それは……」

ローランが口を開こうとした瞬間


「ローラン!」


「!!」



いつの間にかドアの前にアレクシオスが立っていた。


思わず反射的に2人で立ち上がる。



「今日は新しい武器を第一騎士団に配る日だと言うのに、なぜ総監督のお前がこんなところで油を売っているんだ……?」


「俺はその女に昼食を運ぶついでに様子を見てこいと命令しただけだぞ?なぜこんな所で悠長に食事などを摂っているのだ……?」


その声は静かではあるが、底知れぬ恐ろしさを感じ、一瞬で心臓が凍りついた。


「申し訳ありません!」

いつもはアレクシオスに言いたい放題のローランだが、こと仕事中となると忠実な部下らしい。

言い訳もせずに、速やかに部屋を退出して行った。


「申し訳ありません、陛下。彼に相談したいことがあり、私が無理に引き留めてしまいました」


「ついでに食事も摂っていないようだったので、無理に食べてほしいとお願いしたのです。どうか彼を責めないであげてください」



「ふん……」


彼はそれでも納得がいかないような顔でそっぽを向いた。


私はお辞儀をしながら、彼が出ていくのを待った。




「………」



待っていたのだが……



「ふぅ…」


ドカッ



「!?」


なぜか彼は、出ていくどころか、先ほどローランが座っていた目の前の椅子に腰を下ろした。


先ほどの殺気はそのままに。



「座れ」



彼に命令されて、私は断る術もなくそのまま椅子に座った。



気だるげに足を組み、ゆったりと肘掛けに寄りかかりながら、こちらを推し量るように見た。


テーブルの上の分け合ったパンに飲み物、その脇に散乱している施策案、部屋にはまだ本が至る所に散乱している。


それらすべてが良くないもののような気がして、なんだか居た堪れない気持ちになった。



「…………」

気まずい時間が永遠のごとく流れた。

にも関わらず、彼はその間も私を凝視し続けている。



「任務中に食事とは、後で罰を課さねばな……」

ようやく口を開いたかと思えば、ローランに対してそのようなことを言うので、思わず身を乗り出して反論した。


「先程も申し上げましたが、食事には私が無理矢理誘いました。ローランは何も悪くありません!」



「お前はあのような男が好みなのか?」


「へ?何を言って……」


「!!」


同じように身を乗り出したアレクシオスに顎を掴まれ、今にもキスしそうなくらい顔を近付けられる。


「なんだ?さっきまでの勢いはどうした……?」


茹でダコのように真っ赤になった私を意地悪くからかって笑う。


「監視役をあっさり引き込むとは。今度は猿ぐつわでもかましておくか?」


「えっ!?」



そう言いながら、私の唇を親指でゆっくりとなぞった。


「あいにくの初夜は婚約者殿に拒絶されてしまったからな。今ここで続きをするか……?」


「えっ!!?」


アレクシオスの顔がゆっくりと近付いてきたので、このまま唇を重ねられるのかと思い、思わず目をつむった。


唇に極限まで近付いてきたと思ったら、唇をすり抜けて、左頬に唇が触れた。


「!!」


反射的に目を見開くと、目の前にはまだアレクシオスの顔が真近にあった。


「………っ」



「なんだ?何か別のことでも期待していたのか?」


「え、違っ…!!」

私はあり得ないほど顔を真っ赤にして全力で否定した。


「くくくっ!」

その様子を至極楽しそうに眺めているアレクシオスはいつの間にか機嫌を直したようで、満足気に手を離すとすぐに部屋から出て行った。



私は脱力してソファに座り込んだ。

「はぁ〜〜っ!一体何だったの……!?」


彼の気まぐれな行動に、またもや心が振り乱されるのだった。







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