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第1話「断罪式」

今回3作品目となります。軽さとしては、

1作品目=スタンダード「地下牢」

2作品目=ライト「ドS王子」

3作品目=ヘビー気味「今回」

という感じで、今回はじっくりゆっくり書いていきたいと思いますので、よろしくお願いします!






「お前、どうして泣いているんだ……?」


宮廷舞踏会の夜、静まり返った会場の外で、今しがた王子に婚約破棄された私を見下ろすように立っていた彼は言った。


少し目にかかる紺色の艶やかな前髪から覗かせる赤い瞳は宝石のように透き通っていて、この世のものとは思えない美しさと危うさを放っていた。


私は、おもわず完成された芸術品のようなその美しさに一瞬で目を奪われた。


ただならぬ雰囲気の美青年が目の前に跪いたと思ったら、次の瞬間彼は思いもよらない行動に出たのだった……




◇◇◇





ーーー1時間前、宮廷舞踏会の会場にて。




「クリスティア・マリッシア!貴様は僕の婚約者の座を狙って、あたかも自分が本物の聖女であるかのように振る舞い、皆を欺いた!その罪は重い!よって、ここで僕と君の婚約破棄を宣言する!!」

そう言って婚約誓約書を目の前で破り捨てた。


「………」


私は心の中で深いため息をついた。


遂に危惧していたことが現実となってしまった…


目の前で勝ち誇ったように笑みを浮かべる婚約者のミハイル王子。私はその彼の隣にピタッと寄り添う女性に目を向けた。


準男爵の娘であるイザベラ・グレク。


先日突如聖女として名乗り出て、審議の結果、見事に本物の聖女として選ばれた女性だ。

本来であれば、平民である彼女はこのようなパーティーに参加することも叶わない立場であったが、数ヶ月前の仮面舞踏会でミハイル王子と出会い、彼に気に入られてからは、彼の許可で特別に参加が許されるようになった。


ふんわりカールした黄色みがかったモカブラウンの髪を揺らし、灰色の目には涙をいっぱい溜めてうるうるさせ、ミハイル王子の後ろで震えている。



「どうした、クリスティア!ショックで言葉も出ないのか!?お前が陰でイザベラに嫌がらせをしていたのは知っているんだ!!今日はそんなお前の今までの罪をみんなの前で断罪してやる!公爵令嬢の地位にあぐらをかいて、それくらいのことをしても許されるとでも思っていたのだろうが、この俺がもうそんなことは許さない!!」


「ああ、ミハイル様…!こんな私のために、あえて悪者になって汚名をかぶってくださるなんて…イザベラは幸せ者です…!」


「いいや、イザベラ!君があの女から受けた仕打ちを思えば、俺のしたことなど、大したことはないさ!」


「ミハイル様…っ!」


感極まった二人は、情熱的に見つめ合い、完全に二人の世界に浸ってしまっている。



「あの、よろしいでしょうか……?」

そんな二人に、私が冷ややかに声をかける。


「なんだ!?」

先程までイザベラを見つめていた優しい顔から一転して、怒りを滲ませた顔で私を睨みつけてくる。

その態度に胸がズキリと痛む……


でも私はそんな感情はおくびにも出さず、淡々と話し始める。



「先程殿下は、私が殿下の婚約者の座を狙って聖女の名を騙ったために婚約破棄を宣言するとおっしゃいましたが……」


「それがどうした!?」


「その件について誤解があります。第一に、私は自分が聖女だと名乗ったことは一度もありません。周りの方々が勝手に私が次期聖女と予想してそのように呼んでいただけです。そのため、物心ついた頃には既に殿下と婚約することになっておりました。従って、婚約者の座を狙ってわざわざ聖女を騙る必要がありません」


「は!?そんなの、俺とどうしても結婚したかったお前が嘘をついたに決まっているだろ!?」


「すみません、何をおっしゃっているのかよく分かりません」


「なんだと!?」


「第二に、私が本物の聖女ではないと判明した時点で、自動的に私との婚約は解消される約束になっていたはずなので、このような他国の王族の方々が参加される夜会で、わざわざ婚約破棄を宣言される必要はないかと存じます」


「な…っ!!」


「お前は…!いつもそうやって人の揚げ足ばかり取って、つまらん理屈をこねるのだな!だから可愛げがないと皆に言われるのだ!!この俺がいつも肩身の狭い思いをしているイザベラのために、1日でも早く彼女が俺の大事な婚約者だと皆に知らせてやろうと思ったのだ。お前の悪事も皆に知らしめてやらねばならんしな!」


「………」


……なによ、結局イザベラと結婚したいから、邪魔になった私を排除したくなっただけじゃない……


理不尽な彼の言葉に内心で腹を立てながらも、可愛げがないと言われた言葉が胸に突き刺さった。


いいのだ……


イザベラか現れてから、覚悟はできていた…


そう自分に言い聞かせた。



私は胸の痛みを誤魔化すように顔を上げた。


それにしても、一国の王子がこんな公衆の面前で婚約破棄を宣言して、一体何の得になるのだろうか……


結果的に、他国の要人や自国の貴族達に、宮廷の醜い内部事情を晒すことになってしまっただけではないか……


特に隣のコンタンディオス大帝国は、近年軍事力に力を入れており、周囲の国を侵略しては、次々と領土を拡大していっている。

我がルーマ国との戦力差は明らかで、いつ攻め込まれてもおかしくない緊張状態がここ数年続いていた。


今日の夜会では珍しく大帝国の新しい国王が参加することになっていたので、ルーマ国の次期国王であるミハイル王子の醜聞を広めている場合ではないのだが……


私は痛む頭を押さえた。

「……殿下の言い分はよく分かりました。しかし私はイザベラ嬢と会ったことも話をしたこともありません。ましてや嫌がらせなど、出来るはずもありません。疑うのであれば、後日別の機会に話し合いを致しますので、この話は今日はこれで終わりに致しましょう」


私が丁寧にカーテシーをしてその場を去ろうとすると、ミハイル王子が「待てっ!」と力任せに肩を掴んできた。


「そんな見え透いた嘘をついて、この俺が騙されると思うなよ!すべてイザベラが言っていたんだ!!」


「!?」

イザベラが言っていた……?


私が嘘をついていないということは、イザベラが私に嫌がらせをされたと嘘をついていたことになる。


本物の聖女と謳われた彼女がなぜそのような嘘を吐く必要があるのか……?

私の頭には疑問がいっぱいだった。



「……だが、俺もイザベラもお前と違って慈悲深い人間なんだ」


「……?」


まだこの話を続けるのかと、内心うんざりしながら彼を見返した。今度は一体何を言い出すというのか……

気付けば私達の周りには大きな人だかりができていて、皆んなが私達の会話に注目していた。



「俺に婚約破棄をされた後は、嫁の行き場がなくなって困るだろう?大公爵家の令嬢とはいえ、王子に婚約破棄された嘘つき偽聖女なんて誰も欲しがらないだろうからな」


「………」


「だから喜べ!俺がイザベラと結婚した暁には、お前を俺の愛人にしてやる!」



ミハイル王子は悪辣な表情でこちらを見下ろした。









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