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迫り来る魔の手、玉面公主 前編

おかしいなぁ・・・・

5千程度で抑えるはずが、前後偏に分かれた上に前編だけで一万文字超えてるんだけど??

あ、今回は別視点になります。



 時間は幻想機関殲滅作戦終了時まで遡る。

 激戦の末、洗脳され敵の尖兵となっていたスターゴールドとスターシルバーを取り戻し、新たな力と彼らの協力を得て、幻想機関首領“ドクターナイトメア”を打ち倒すことができた。

 その後、竜座の戦士スターゴールドとケルベロス座の戦士スターシルバー、本名竜光寺(りゅうこうじ)竜牙(りゅうが)犬弥けんやは検査のため入院、牡牛座の戦士スターグリーンこと牛沢玲司は重傷を負ったサイバーガールに付き添って病室に泊まり込み。山羊座の戦士スターホワイトと烏座の戦士スターブラック、山羊(やぎ)唯香(ゆいか)烏丸(からすまる)惠太(けいた)は比較的軽傷だったので現場にて警戒、頭脳労働担当の蛇座の戦士スターブルーこと蛇川(へびかわ)美波(みなみ)は限界までその類まれなる観察眼を酷使させた結果作戦終了時には途轍もない睡魔に襲われており、彼女が未成年と言うこともあり自宅へと帰された。

 そして残ったスターレッドこと獅子郷慎一であるが、彼もまた未成年であるために帰宅を余儀なくされた。

 また翌日に彼も残党警戒任務につくことになるが一つ問題が起きた。

 彼らの一族、遥か昔から世界の平和を守るために星辰戦隊として活動し続けている星座の守護をうけた一族、星辰族(せいしんぞく)の隠れ里にある彼の生家からも星辰戦隊の拠点基地からも距離があったのだ。

 仕方なく彼は近くのホテルに宿を取ることにした。

 彼が熟睡していると、ベッドの側に置いていた彼ら専用の変身アイテム“スターチェンジャー”が激しく鳴り響いた。

 スターチェンジャーには彼らの武装を収納する機能の他に通信機能など戦闘に必要な機能が設けられているのだ。


「はい、こちら獅子郷」


 日々の訓練の賜物か、すぐに目を覚ました彼はスターチェンジャーを左腕に装着し、通信を開始する。


『あ、慎一君! 良かった無事なのね』

「唯香さん? どうしましたこんな時間に」


 通信の相手は数時間前に別れた山羊唯香であった。

 彼が宿泊室内の時計に目をやると、時間はすでに深夜に差し掛かろうとしていた。


『慎一君って確か来来猿に泊まるって言ってたわよね。今そこにいるの?』

「はい、丁度寝ていたところですが」


 彼がそう答えると通話越しに『あちゃ~』と軽く落胆しているような声が聞こえる。


「あの? 唯香さん?」

『ああごめんね。いい、よく聞いて。今そのホテルはね極大魔王の大幹部、牛魔王一派によって占拠されてるの』

「何だって!?」


 急ぎカーテンを開け外を見る。

 すると建物の外周を囲むように夥しい数のパトカーがホテルを取り囲んでいるではないか。

 仲間の言うことを疑っていたわけではないが、僅かながら誤報かもしれないと思った彼の希望は容易く打ち砕かれることとなった。


『今急いで周囲に残ってたヒーローを集めてるところなの。ホテルの名前を聞いてもしかしたらと思ったけど、やっぱり巻き込まれてたのね』

「巻き込まれたのは俺一人か?」

『ええ、他のヒーローは所在確認が済んでるわ。そこにいるのは慎一君一人よ』

「確か牛魔王は上級の下位怪人だったはず、ゾディアックフォーム有りなら互角の勝負に持ち込めるかも知れないが、連戦だときついか」


 ゾディアックフォームとは、星辰戦隊のうちスターレッド、スターグリーン、スターホワイトが得た新たな形態のことである。

 ゾディアックとは日本語で黄道と書く。黄道は地上から見た太陽が通る道のことである。

 この世に存在する八十八星座の内、特殊な一つを除いて十二星座がこの黄道上に存在していて、黄道十二星座と呼称されている。

 スターレッドの守護星座である獅子座、スターグリーンの守護星座である牡牛座、スターホワイトの守護星座である山羊座もこの黄道十二星座の一つである。

 黄道上に存在するこれらの星座は特殊な特性が備わっている。

 それは常に太陽のエネルギーを間近で受け続けたことが原因であり、その結果太陽の力の一部をその星座に吸収してしまったのだ。

 星座たちはそれを自身の加護を与えた戦士たちへと付与することができ、その力を経て新たな形態へと変化した彼らの姿を“ゾディアックフォーム”と呼称されている。

 その力はたった一人で星辰戦隊と渡り合えるほど強力な物であるとされているが、習得できるのが現八十八星座の内十二星座だけということと、星座が認めた人物にしかその力が与えられないこともあり、中々その形態へと至る者が現れなかったのだ。

 更にこの力は強力な反面消耗が激しく、長時間の戦闘には使用できないというデメリットが存在する。

 この事件が牛魔王一人ならばゾディアックフォームの力で解決することも可能であるが、もしも彼に近い実力を持つ手下がいた場合、戦闘は長期化し勝率は著しく下がることになるのは想像に難くない。

 故に、迂闊に動くことはできず、今の彼には増援が来ることを待つしかなかった。

 山羊唯香もそれは理解していた。

 だからこそ率先して彼に連絡を取り、増援野ヒーローとタイミングを合わせ、中と外から人質を救出しようと考えていた。

 しかし、その望みは辛くも崩れさることになる。

 彼の部屋の扉が荒々しくノックされたのだ。


『!? 慎一君』

「……逃げ延びた人質が助けを求めている可能性も捨てきれないので、一応確認してきます。一旦、通信は切りますす」


 彼は慎重に扉に近づく。

 覗き窓から外を見ると、そこには帽子を深く被ったホテルマンらしき人物が佇んでいた。


「どうしました?」

「すいまセん。緊急の事態デスので、トびラを開けテ、下さイ」


 おかしな口調で話すホテルマン。

 限りなく怪しいが、このまま立てこもっていても強行突破されるかもしれないと考え、左手で扉を開ける。

 勿論、空いた右手には獅子を象った赤色の結晶体を握りしめていた。

 これをスターチェンジャーにセットすることで彼らを星辰戦隊スターセイバーへと変身させることができる重要な装備であり、“スタークリスタル”と呼称されている。

 彼ら星辰戦隊はそれぞれがモチーフとなる星辰と同じ形を象ったスタークリスタルを肌見離さず身につけていて、これはヒーローの半数が持つとされる人並み外れた力を齎す未知の物質超人因子が凝固し結晶化したものなのである。


「あの? 何かありました?」

「獅子郷慎一サマ、で間違イ無いですネ?」


 彼の質問には答えに、名前を尋ねるホテルマン。

 ふと彼が視線を下げると、そこには小さな瓢箪らしき物が握られていた。

 少々気にはなったが、とりあえず目の前の男と話をしようと、彼は返事をしてしまった。


「はい、そうですが。──何!?」


 彼が返事をした途端、瓢箪からものすごい吸引力が発生し、彼の体を内部へと吸いこみ始めたではないか。

 いや違う、吸い込まれているのには違いないが、それは体ではない。

 現に、彼が身につけている衣服やその他の物体はこの吸引力の中で一切影響を受けている素振りがない。

 じゃあ何が、と戸惑う彼が目にしたのは自身の左腕だった。

 吸い込まれまいと必死に扉にしがみついている左腕が()()()()()()()()()()()()ように見えたのだ。

 そして見間違いでなければ、その増えていた方の腕は半透明だったように思えた。


「まさか、これは魂か!? 名前を呼び返事した相手の魂を、その瓢箪へ封印するというのか!!」


 彼はこの短期間でその瓢箪の正体を見破ったが、時すでに遅く彼は返事をしてしまっていた。

 このまま彼は瓢箪へと魂を吸い出される、そう思った時だった。

 彼の右手を中心に、暖かな金色の粒子が周囲に満ちる。

 金色の粒子はまるでバリアのように彼を包み、ホテルマンを弾き飛ばす。

 その際に瓢箪から発生した吸引力をも無効化し、彼を窮地から掬い上げた。


「はぁ、はぁ……危ないところだった。獅子座の意志がなければ、俺はここで死んでいたかもしれない」


 スタークリスタルには星座の意志が宿っている。

 たかだか物体に意志が宿るなど通常では考えられない話だが、それが超人因子でできた物体ならば話は別だ。

 高純度の超人因子でできた物体は、時として意志を持ち、自身で活動し始めるという話を彼は祖父から聞いていた。

 どういう仕組みなのかは判明していないが、似たような事例は世界各地で報告されており、星辰族の中でもスタークリスタルに星座の意志が宿ることは常識となっていた。


「獅子郷慎一、サン」


 彼が己のスタークリスタルを見つめていると、再びホテルマンが立ち上がり、その瓢箪をこちらへ向けて問いかけてきたではないか。

 返事をすればまた吸い込まれる。

 そう確信している彼はホテルマンの呼びかけを無視し、左腕を前にし、天高く獅子座のスタークリスタルを掲げ、叫ぶ。


「スターチェンジ!!」

『スターチェンジ!! クリスタル・レオ!!』


 彼がスタークリスタルをスターチェンジャーの中央の窪みに差し込むと、スターチェンジャーから力強い男の声が発せられる。

 その直後、赤い光が彼を包む。

 これは獅子座のスタークリスタルから発生した超人因子だ。

 スターチェンジャーを介しスタークリスタルの超人因子を体内に取り込むことで、彼らは星辰戦隊スターセイバーへと変身することができるのだ。

 体内に取り込まれた超人因子は彼の肉体と強く結びつき、その肉体を活性化させた。

 一部の超人因子は彼の体表へと溢れ出ると、そこに鉄よりも硬くそれでいて布のようにしなやかな外殻を創り上げた。

 それはまるで獅子の毛皮を被った勇ましい戦士のような風貌であり、見る者全てに勇気を与えるような美しい赤で全身を染めていた。

 そう、これこそが星辰戦隊スターセイバー。そのリーダー、獅子座の戦士スターレッドの姿なのである。


「はあああ!!」


 彼はまず回し蹴りでその瓢箪を弾き飛ばし、次にホテルマンが反応するよりも早く、二撃目の蹴りを胴体へと叩き込んだ。

 ホテルマンは悲鳴も上げずに廊下を二三度跳ねて転がり、そのまま動かなくなった。

 彼は警戒しつつ、ホテルマンに近づくとその額に妙なものを見つけた。


「これは、お札か?」


 帽子で隠れていた額に、お札のようなものが貼られている。

 なんと書いてあるかは彼には読むことができなかったが、なんとなくその文字の雰囲気からお札であると判断した。


「取り敢えず話を聞くか……おい! おい!」


 ホテルマンを揺すって起こそうとするが、起きる気配がない。

 力を入れ過ぎたか、そう思った彼であったが、外装越しに伝わるホテルマンの体温が()()()()()()()()()


「まさか…………やはり、死んでる」


 首筋に指を当て脈をとるが、反応がない。

 瞳孔は開いているし、心音もない。

 生体反応そのものがなくなっていた。

 一瞬、自分の過失のせいかと思ったが、それでも死ぬのが早すぎる。

 百歩譲って心音がしないのは納得できるとしても、体温がなくなるのが早すぎる。

 考えていても答えは出ない。故に彼は仲間に頼ることにした。


「こちらスターレッド。唯香さん、聞こえますか」

『聞こえるわ。大丈夫だったの?』

「ええ、襲われはしましたが、取り敢えず無事です。それより見てもらいたいものがあるのですが」


 そう言ってスターチェンジャーをそのホテルマンへと向ける。

 スターチェンジャーに内蔵された小型カメラがホテルマンの姿を遠くの仲間の元へと送信していた。


『これは……僵尸ね。牛魔王たち極大魔王が使う死者の兵隊よ。ホテルマンの格好をしてるってことはきっと服を奪って成り代わったのね』

「死者の兵隊……それは死んですぐに僵尸になるということですか?」

『ええっと、手元にの資料によると死んで間もない者は僵尸にできないみたいね。肉体が完全に死んでても、魂が解離するまで僵尸にはできないみたい』


 ペラペラと紙をめくるような音と共に彼女がそう解説してくる。

 恐らくヒーロー関係者全員に今回の首謀者の資料が配られているのだろう。


「俺はこの人の事を見たことがある。この人はホテルの受付にいた男だ。鍵をもらった時に少し手に触れたけど、その時は確かに生きていた」

『そうなの? レッドがそこまで言うのなら間違いないと思うけど、この資料は中国のヒーロー組織から直で送られてきたものだから、ミスがあるとは思えないのだけど』

「なら、魂を完全に抜き取る方法があれば、死にたてでも僵尸にできるということですよね?」

『……そうね。ここに載ってる作製方法に間違いないなら魂が完全に抜けていたら僵尸にできるようね』

「なるほど、じゃあこれについて何かわかることはありますか?」


 彼は蹴り飛ばした瓢箪をスターチェンジャーで映す。


『…………ごめん資料には載ってないみたい。それは何なの?』

「恐らくは名前を呼んで返事をした人間の魂を吸い出す道具だと思われます」

『そんな物が……ねえ、本当に何事もなく撃退できたの?』

「はい、獅子座の加護に守られて助かりましたが、俺も危うく魂を奪われるところでした」

『それ全然大丈夫じゃないよね!? 普通に死にかけてるじゃない! 慎一君が無茶するのはいつもの事だけどさ、そう言うことは隠さないでキチンと報告なさい!!!』


 スターチェンジャーから彼女の怒鳴り声が響く。

 どうやら、いや確実に慎一のことを心の底から心配しての発言に違いない。


「すみません。気をつけてはいるのですけど、つい」 


 これには流石のリーダーも平謝りする事しかできずにいた。同じようなことを何度も仲間のスターブルーに言われているにも関わらず、自身のことを軽視しがちなその癖を治せずにいる彼が悪いことを自覚しているからである。

 しかし今は緊急事態、説教も程々にしてその瓢箪について片手間に調べていたことを話し出す。


『ちょっと情報が殆どないから断定はできないけど、話を聞く限り中国の昔話に似たようなのがあるのよね。けど、それって今は金角銀角っていう中国のヒーローが厳重に保管してるはずだし、こんな所にあるはずが』

『いや、そうとも言えないかもしれないよ』


 山羊唯香が話している最中に若い男性の声が割り込んでくる。

 その声に彼は聞き覚えがあった。

 

「何か知ってるんですか、恵太さん?」


 同じ星辰戦隊の仲間、スターブラックこと烏丸恵太である。

 彼の家系は星辰族の歴史を管理する家系であり、幼い頃からその手伝いをしていた彼は気がつけば星辰戦隊随一の情報通として有名となっていたのだ。


『ああ、少し前に中国のヒーローと話す機会があったんだが、そこで極大魔王が魂だけを吸い出す兵器を開発したと聞いた。丁度今映ってた小汚い瓢箪と特徴が一致するから、まず間違いないね』

『なるほど、それさえあれば即席で僵尸が作れるわけね。で、魂が抜けた状態で体が僵尸にされた場合、助ける方法ってあるの?』

『それは簡単。その瓢箪を割ればいいんだよ。彼らが使う僵尸の術は魂が肉体に留まった場合には成立しない。そして正式に死んだわけじゃないから解放された魂は元の肉体に戻ろうとするから、魂が戻った瞬間に術が破綻して元の人間に戻るって寸法さ』

「もし、元に戻る肉体が存在しなかったり、著しく破損していた場合は?」

『ん〜、あまり事例がないから確証はないけど、前者はそのまま死んで後者は破損具合によるね。脳や心臓が無くなってたりしたらアウトだけど、バラバラにされた程度なら魂が戻った瞬間にくっつくよ』

『何それすごい、どういう理屈なの?』


 常識外れの治癒作用に驚いて聞き返す。


『さぁ、詳しい人が言うには破綻した術から溢れ出たエネルギーが回復作用をもたらすらしいけど、詳細は流石に聞いてないな』

「なるほど、なら死体か僵尸を確保するまで、瓢箪を破壊するのは控えた方が良さそうですね」


 スターレッドは他にも僵尸化している者もしくは魂を抜き取られて放置されている者がいると考え、今瓢箪を破壊するのは悪手であると判断した。


「取り敢えず、この瓢箪はスターチェンジャーの中に保管します」

『え──なん────通────』

「唯香さん? ……おかしい、急にスターチェンジャーの調子が」


 唯香との会話にノイズが混じり始めたかと思えば、通話が途切れてしまう。

 仕方なく瓢箪だけでも回収しようとしたその瞬間、突然何かに引き起こされるように瓢箪が立ち上がったかと思うと、そのままスターレッドの顔面に向けて飛翔してきたのだ。


「何!?」


 咄嗟に体を少し横に倒すことでそれを避けることができたが、それよりも問題はその瓢箪が飛んで行った先にいた人物であった。

 その人物は体格からして年端もいかぬ少女のようであった。

 顔を狐の面で覆い隠し、白い道服を纏ったその少女は飛翔してきた瓢箪を右手で掴み取る。

 瓢箪が無事だということを確認すると、それを後ろの腰あたりにしまい込んでからスターレッドへ向き直る。


「何体も僵尸の反応が消えたかと思ったら、こんな所にヒーローが混ざっていたのですね。ついてないですね、貴方も私も」

「君は……一体?」


 スターレッドがそう問いかけると、彼女は驚いたように口の近くに指を当てながら、問い返す。


「あら、中国語がわかるのですね。よかった。私、日本語って苦手なのです」


 どうやら彼女は中国語で話していたようで、スターレッドが中国語で問いかけたことに驚いていたようだ。

 しかし、実はスターレッドは中国語を話していたわけではない。彼は最初から最後まで日本語でしか話していない。

 なぜ彼の日本語が中国語として彼女へと届いたのか、それは彼が纏っている戦隊服に秘密があった。

 彼が纏っている戦闘服にはあらゆる困難な状況を想定し、様々な機能が搭載されている。

 これはその一つであり、彼が被っているヘルメットには彼が聞いた外国語を瞬時に分析鑑定し、日本語に変換して彼へ届ける機能と彼が発した言葉を外国語へ変換する機能、つまりは翻訳機能が搭載されているのだ。

 まあ、どのみち今の彼に中国語が伝わることには違いないので、スターレッドは特に訂正もしない。


「私は牛魔王様にお仕えしている玉面公主と言うものです。貴方はヒーローで間違い無いですよね?」

「だから、どうした?」

「今すぐに無駄なことはやめてここから逃げてください。仮にもヒーローならビルから飛び降りた程度じゃ死なないでしょう」

「何?」


 彼女の口から出てきたのは、まさかの退避勧告だった。

 ご丁寧に左手をスターレッドの背後、夜景が見える小窓へとむけていることからそこから飛び降りろと言っているように思えた。


「ここにいる怪人は恐ろしく強大で、たとえ上級であっても手こずる程に。だから逃げてください」

「それは、ホテルの宿泊客を見捨てて逃げろ、ということか?」


 静かに問いかける。

 彼の胸の内に、少しずつ熱が溢れてくるのが彼にもはっきりと理解できた。


「はい。残念ですが彼らは諦めてください。このホテルに泊まった彼らの運が悪かったのですから」

「なら俺は逃げることはできない。なぜなら俺は誇り高き星辰族の戦士だからだ!」


 強く拳を握り締め、彼女へと突き出す。

 その拳はまるで炎のように熱気を帯び、まるで小さな太陽のようでもあった。


「そうですか。それなら仕方ないですね……」


 彼女は左手に僵尸がつけていたのと同じような呪符を数枚取り出すと、それをスターレッド目がけて射出してきたではないか。

 それは紙とは思えないほどピンと伸びたまま、まるで矢のように彼へと迫る。


「スターガントレット!!」


 彼が叫ぶと彼の右腕が光り輝き、そこに獅子の顔を模した籠手のような物が装着されているではないか。

 これは彼専用が特殊装備、スターガントレットである。

 獅子郷慎一は空手のみならず様々な徒手空拳を習得した天才であり、彼の戦闘力が十分に発揮されるように開発された唯一無二の装備なのである。

 彼はスターガントレットを身に着けた右腕で呪符を殴りつける。

 まるで鉄板でも殴りつけたような固い感触がスターガントレットを通じて彼に伝わるが、その程度で傷つくほど彼の専用装備はやわではない。

 彼の拳は呪符を粉々に打ち砕くとそのまま次々とセマリ来る呪符を打ち落としていた。

 勢いを殺すことなく、彼は彼女へと迫る。

 その有様はまるで荒野をかける獅子を連想させる力強さがあった。

 このまま彼女を無力化し、牛魔王一派のことを聞き出さねば、彼はそう考えていた。


 だが、それは彼女の想定の範囲内の行動であったことは後に知ることとなる。


「ごめんなさい」


 彼女に拳が触れる寸前、スターレッドの動きが止まる。

 見れば彼の身体のいたる所に呪符でできたロープのような物が絡みついていて、それが彼の身体の自由を奪っていたのだ。


「私が姿を見せた時点で勝敗は決していたのです。赤龍よ、我が元へ来たれ」


 彼女が一枚の呪符を宙に投げるとそれは直ぐに炎に包まれ、徐々にその体積を増していく。

 更にあろう事かその炎はまるで赤い龍の如き姿へと形を変え、本当に生命を持っているかのように身体を波打たたせている。


「ごめんなさい。けど牛魔王様の手にかかるよりかはマシだから……やって赤龍」


 赤龍と呼ばれたそれは口内に炎を溢れさせる。 

 まるで十字架にかけられた哀れな罪人へ火を焚べる執行者のように、灼熱の炎を彼に向けて解き放った。

 その熱量は明らかに戦闘服の防御装甲では防ぎきれるものではなく、このままでは彼の命はない。そうも思われた。


「はあああああああああああああ!!」


 彼は叫ぶ。

 我こそが野生動物野王であると宣言するライオンのように、戦場で敵を殲滅せんと襲いかかる勇ましい武士のように、彼は叫ぶ。

 彼は渾身の力を込めて、右腕の拘束を無理矢理引きちぎった。


「天に輝く大いなる獅子よ、俺に力を!!」


 彼の体を巡る超人因子が活性化を始め、まるで小さな原子炉のように常識外れのエネルギーを発し始める。

 それは彼の右腕へと集まり、溢れ出たエネルギーは炎となってスターガントレットを覆い始める。

 その姿はまるでゆらゆらと風に靡く雄々しい獅子の(たてがみ)のようであった。


「レッド・レオ!!」


 空を殴ったように思えたそれは彼の右腕から解き放たれ、直ぐに炎のライオンの姿となって赤龍が放った火炎へと突撃した。

 獅子は炎の激流を掻き分けて突き進む。

 赤龍はその獅子を驚異と感じたのか、吐き出す炎の量をひと目でわかる程に増加させた。

 獅子が吠え、龍が迎え撃つ。

 その拮抗は刹那にして崩れ去った。

 遂に全ての炎を押し退けて、獅子が赤龍の喉元へと食らいついたのだ。

 苦しみのあまり赤龍は痛々しい悲鳴をあげる。

 だが、たとえ炎で出来た偽物であろうとも龍たる威厳を見せることとなった。


「何!?」


 獅子を振り切れないと判断した赤龍は食らいついた獅子ごとスターレッドへと突撃したのだ。

 未だ呪符に縛られ身動きが取れないスターレッドはその突進を防ぐことができず、赤龍は彼の胸部へとその顔を叩き込んだ。


「ぐぁっ!?」


 衝撃で拘束していた呪符は千切れ、赤龍の勢いは衰えることなく彼を天井へと叩きつけたのみならず、強固な素材で出来たそれを破壊し、スターレッドを数階上の階層へと押し出したのだ。

 最後の天井を破壊すると赤龍は力尽き、空気に溶けるように消えていった。

 同時に赤龍へ食らいついていた獅子も赤い粒子となって霧散した。


「く、これが牛魔王一派の力だというのか」


 ふらつき、膝をつく。

 それは身体の何処かの骨が折れていたとしても不思議ではない衝撃であった。


「だが! この胸に正義の星が煌く限り、俺たちは負けはしない!!」

 

 しかし、彼は叫び立ち上がる。

 その叫びは相手に向けたものではなく、自身を鼓舞するためのようであった。


「悪いですけれど、あなたじゃ彼には勝てません。お願いですから退いてください」


 廊下に開いた大穴から、玉面公主が飛び出してくる。

 見た目に反し異常なその脚力は、やはり彼女も立派な怪人ということなのだろう。


「彼ら極大魔王には誰も敵わないのです。彼らは日に日に力を強め、残虐さをましています。だから退いて下さい。あなた一人戦ったところで意味はないのです」


 漢剣を突きつけ、再び彼が逃げてくれるように懇願する。

 その怪人らしからぬ行動に彼は一瞬戸惑いを見せるが、すぐに声を上げて彼女に告げる。


「いいや逃げない!! 今ここで俺が逃げてしまえば更に犠牲者が増えてしまう。救える人を救わず逃げ帰ってしまえば、俺は仲間に顔向けできない! そして何よりも、そんなのは俺自身が許せない! 例えこの身が朽ち果てても、人々の命を守るのが星辰戦隊だからだ!!」


 それは彼の矜持であった。

 例え瀕死に追い込まれようとも、助けを求める人々がいる限り彼らは立ち向かわなければならない。

 何の為に幼い頃より修行を積んだ?

 スターレッドを襲名した際に祖父に家族に里のみんなに誓った言葉は嘘だったのか?

 そして何よりも、あの日あの時あの人のようになりたいと願った願った想いはこの程度で挫けるようなものだったのか?

 彼の胸の内から溢れんばかりの情熱が滾りだす。

 その激しい感情の昂りは超人因子を活性化させ、物理的なエネルギーへと変換され、彼の体を凄まじい速さで行き渡る。


「獅子座の戦士の名にかけて、牛魔王の蛮行は俺が止める!!」


 全身にうっすらと赤い光を纏い、彼は誓う。

 全身全霊をかけて、邪悪な魔王の野望を阻止してみせると。

 ………………その近く、扉の影から二人を見つめる一人の少女に気づかないまま。

・スターレッド

 冷静かと思えたけど、やっぱり熱血タイプ

 何よりも人を助けることに執念に似た何かを持つ


・玉面公主

「早く逃げてほしい」


・赤龍

 玉面公主が持つ最も強い技の一つ。龍自体が意思を持っていて、彼女を守る為なら何でもする。


・戦闘員さん

 気づかれてない。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >ゾディアックフォームとは、星辰戦隊のうちスターレッド、スターグリーン、スターホワイトが得た新たな形態のことである。 『蛇座の戦士スターブルー』は“特殊な一つ(へびつかい座)”経由で…
[一言] 玉面さんやっぱ悪い人には見えないなあ
[気になる点] 気になる伏線が出たな、なんとなく1と関わる気がする
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