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ちょっと今から牛魔王ぶっ殺してくるわ【限定LIVE配信】

あけましておめでとうございます


「えぇっと……こんなんでダイジョブ?」


 全体がギラギラと金色に輝く趣味の悪いスマートフォンを片手に少女な話し出す。

 彼女が覗く画面の上部、そこに『ちょっと今から牛魔王ぶっ殺してくるわ【限定LIVE配信】』と言う物騒なタイトルがつけられていて、更には背面カメラから映し出されている廊下の映像に右から左へ絶え間なくこのような文字が流れている。

 

『おけおけ』

『映っとるよー』

『問題なっしんぐ』

『ばっちし』

『意外ときれいな声してるの違和感すごい』

『それな、もっとやばい声想像してた』


 これは俗に言うLIVE配信と呼ばれるもので、配信者が流す映像を見て楽しんだり、コメントを書き込んで自身の意見を他の視聴者へと伝えたり、様々な楽しみ方がある。

 しかし、それは本来娯楽の要素が強く、このような物騒なタイトルがつけられたものはあまり見かけることはない。

 それもそのはずである。

 これから彼女が行うのは紛れもない殺人であり、一般的に楽しまれる娯楽とはかけ離れた残虐非道な行いなのだから。


『ところで>>1、今何階にいるの?』

「今? 今は最上階かな」

『ま?』

『退社して即贅沢してて草』

『そんな金どこに……あったわ。てか強盗してたわ』

『大金入ったら散財したくなるよね。よくわかる』

『それでこそ悪人よね』

 

 何やら好意的なコメントが寄せられているが、彼女にそんなつもりは全くなかった。

 ただ単に最上階付近が空いていたのと、高い方がセキュリティ良いよねという曖昧な理由で最上階の部屋をとったのだが、どうでもいいので言うことはなかった。


「ところでさ、牛魔王の居場所とかニュースでやってたりはしない? 出来れば最短で行きたかったけど、それも難しいみたいだし、せめて居場所くらいは知りたいな……」


 この最短とは文字通りの意味で、幻想機関で見せた壁も天井も切り開いて最短距離を突き進むつもりである。

 しかし、前回とは違いこのホテルの内部構造を熟知しているわけでも、ましてや牛魔王の居場所を知っているわけでもない。

 斬撃の操作をミスして重要な柱を破壊した結果がホテル崩壊に繋がりかねないので迂闊に野蛮な手段を取れないでいたのだ。


『牛魔王? あいつなら少し前に集まった警官相手に無双してたな』

『なんか炎出す美人もいたよね。あれが鉄扇公主なん?』

『そうそう、牛魔王のツレ』

『でもさ、俺の記憶が確かなら鉄扇公主って炎じゃなくて風系の攻撃使ってなかった?』

『↑それな』

『わかる。あれ新兵器なのかね? 前は緑色の扇つかってたはず』

芭蕉扇(ばしょうせん)な。一扇ぎするだけでやべぇほど風が起きる宝貝だよ。常識だろ』

『いや、知らんし』

『いるよね。自分知識を引け散らかしながらイキルやつ(*´艸`*)』

『あん( ・`д・´)やんのかコラ』

『お。喧嘩かww』

『沸点低すぎて笑う』

『上等だ表出ろや』

『もう表じゃボケ。逃げるなよな』

『あん? そっちこそ尻尾巻いて逃げんじゃねーぞ』


 何やらいい争ったあと急にその二人らしきコメントが途絶える。

 一応IDを確認したが、本当に外に行ったらしくその二人の書き込みは途絶えていた。

 リアルで外に出ても書き込んでいる場所が違うから出会えるはずないのにな、と思いつつ実況を再開する。


「はい、バカ二人が消えたところで本題に戻るけどいいよね」

『OK』

『せやな』

『巻きでおなしゃす』

『てかどうやって待ち合わせるつもりなんでしょうな?』

『さあ?』

「とりあえず現状の再確認、私がここから脱出するのと牛魔王を抹殺するにはどちらにしろ下にいく必要があるわけだ」


 そう話しつつ、彼女は一度部屋に戻る。

 部屋にあったこのホテルの簡易案内図を持ち出してスマホに映しだす。

 彼女が今指を刺している最上階が現在地ということなのだろう。


「さっきまで暴れてたなら牛魔王はおそらく一階付近にいると思う。連絡系統がしっかりしてた場合あの雑魚の死亡がもう既に伝わってるかも知れないから。こっから下まで行くのは結構大変そうだね」


 一度窓の外から、とも考えたが、これだけ騒ぎになっている最中に外に出たら間違いなくマスコミに見つかってしまうだろう。それは面倒だと彼女は断念した。


「エレベーターは目立つからダメ。となるとやっぱ階段かなぁ」

『それな』

『エレベーターが到着した瞬間蜂の巣とかあるしな』

『もしも外に誰かいたら怖いしやめた方がいい』


 コメントもエレベーターを使うのはやめた方がいいと言う意見が多数を占めていた。


「ん?」

『どったの?』

『何か聞こえた??』

『ワイには何も聞こえんかったのじゃが』 


 急に彼女が顔を上げる。

 それは配信に映らなかったものの、映像のブレと彼女の何かを感じ取ったような声から何か異変が起きたことを察する視聴者たち。


「何か近づいてくる。数は三体」

『ま?』

『やべぇ、感づかれたか』

『三体となると、牛魔王親子か?』

『いや、ボスがそんな連れ立って巡回とかせんやろ』

「私も同意見、てか生体エネルギーが極端に低い。もはや死体レベルって感じの」


 目を閉じて意識を集中する。

 自身のエネルギー操作に長けた彼女ならば少し意識を張り巡らせるだけで、まるでレーダーのように周囲の生命体を探知することが出来るのだ。


『死体……あ』

『中国で動く死体って言えばアレしかないよな』

『え?え? (^_^;)?』

『わかるの? ワイは知らん』

『まぁアレが出てくるのは珍しいからな、国内メインだと見る機会もないだろうし』

「ちょい待ってね。確認したいし見てみるわ」


 音も無く個室の出入り口へと近づき、そっと扉を開けスマートフォンだけを外へ覗かせる。

 カメラが映し出したのは廊下の奥からやって来る三つの人影だった。

 長袍(チャンパオ)と呼ばれる中国式の長い衣服を身に纏い、土気色で生気を感じさせない肌。何よりも目立つのは額に貼られた札とその不可解な動きだった。

 まるで全身の関節が機能不全でも起こしたかのようにギクシャクとした人体特有の滑らかさを失った奇怪なその動き。

 それがあの三体がただの人間ではないことを物語っていた。


『あちゃぁ(・_・;)』

『やっぱこいつらかぁ』

『そらいるよね、極大魔王だもの』

「データでしか知らなかったけど、初めて見たわ。あれが僵尸(きょうし)か」


 僵尸。日本では主にキョンシーとも呼ばれる怪異である。

 中華において、ぞんざいに扱われた死体や強い恨みを持って死んだ者、更には何者かによって蘇らされた者は僵尸になると信じられていた。

 彼らは死体であるため関節は硬直し、スムーズに動かすことのできない奇怪な挙動をとるのだ。

 

「……気持ち悪。消そ」

『ん?』

『まあ死体が動いてるのは確かに受け入れ難いよね』

『今なんか物騒なこと言わなかった??』


 生命エネルギーが存在しないのに動くそれらを心底気に入らなそうに吐き捨てる彼女。

 そして何を思ったか、勢いよく扉を開けるとそのまま廊下へと躍り出たではないか。


「死体が動くな」


 そう告げると勢いよくバリアでできた爪、バリアクロウを振るった。

 バリアクロウが描く軌跡はそのままエネルギーの刃となり、僵尸共へと飛翔する。

 急に現れた彼女に警戒を顕にした彼らだったが、弾丸並みの速度で迫る刃にまでは反応することはできなかった。

 それは彼らの体をバラバラに切り裂き、ホテルの内壁を貫いて、そのまま夜空へと消えていった。

 僵尸が動かなくなったことを確認すると、彼女はスマートフォンのカメラを僵尸へ向けたまま彼らへと近づく。


「うん、肉体強度的には一般人よりやや強い程度かな。この位なら何体来ても怖くないや」


 指先で僵尸の死体――既に死んでいるのに死体がというのもをおかしな話だが――死体を指で突く。

 死体特有の固さがあるものの、この程度ならば彼女のエネルギーの刃、バリアブレイドで簡単に斬り裂けると判断した。


『流石っすね姉御』

『急に飛び出してビビったんだけど(・_・;)』

『そっかー、こいつら並みの銃弾とか効かないんだけどなぁ……』

『あっさりバラバラになりましたね』

『だってこの程度なら>>1にとっては雑魚よ雑魚』

『うわキモイ、今食べてる肉吐きそうになったわ』

『何故食ってるしwww』

『夜食かな』

『太るぞ』


 スマートフォンを覗き込むとそんなコメントが流れている。

 実際出来たての僵尸ならば中級レベルのヒーローや怪人のならば束になって襲い掛かってきたとしても難なく撃退できる程度の強さしか存在しないのだ。


「まあこの程度ならうちの……前の職場の戦闘員でも勝てそうよね」


 うちの職場、と溢しかけたので改めて言い直す。

 どうやらまだ退社した事実に慣れていないらしい。


「ん?」


 ふと視線を下げると、そこには小さな緋色の瓢箪が転がっていた。

 拾ってみるとがとても軽く中身が入ってるようには思えない。


『何この汚い瓢箪』

『取り敢えず割ってみれば?』

『うっわ、これ小紫金紅葫蘆(こしきんこうころ)じゃん。捨てろそんなの』

『知っているのか↑コメ!?』

「私も知らないや」

『あ、主も知らないのか』

『なら解説してくれない。ちょっと気になってきたわ』

『出来ればコテハン付きで、他のコメントと混ざるとややこしいし』


 コテハンとは固定ハンドルネームのことである。

 このような動画配信の際、コメントが画面上に流れるのが常であるが、それの多くは名無しとして処理されその他大勢として処理される。

 しかし、このコテハンを付けることによってコテハンを付けた人物のコメントにハンドルネームが表示され、誰がどのコメントを書き込んだのか配信者以外にでもわかるようになるのだ。


「せやな、私も知りたい」


 彼女もそう言ったので、『機密だけど、まあいいや@諜報員』と件のコメント主は書き込み始める。

 ちなみにこの“@”以降の文字が彼のコテハンとなる。


『最近極大魔王で開発された新兵器でさ、中国につたわる伝説の紫金紅葫蘆(しきんこうころ)っていう武器を元にしたやつ@諜報員』

『本来これは対象の名前を呼んで、相手が返事したらそいつを吸い込むって兵器だったんだけど、これはその簡易版。体じゃなくて返事をした相手の魂を吸い出すって兵器@諜報員』

『けど下級までならヒーローでもギリ通じるんだけど、それ以上になると耐性かなんかで機能しなくなるからまじで一般人用虐殺兵器にしかならんのよね@諜報員』

『しかも、それが問題視されて即世界ヒーロー機関によって持ってる奴を無条件で逮捕されるようにされたし、毎夜毎夜捕らえた魂が騒ぎ出すし、最悪融合しあって制御不能のゴーストになって暴れだすし、まじでいいとこない欠陥兵器やど@諜報員』


 長々と説明を記載していく@諜報員さん。

 それを彼女と視聴者たちは黙って見守っていたが、ここで彼女がとあることに気がつく。


「確か昔さ、牛魔王って人丹って人間の魂が材料の丸薬を使ってパワーアップするって情報きいたことあるのだけど。もしかしなくてもこれってその材料じゃない? 余った死体は僵尸にできるし、結構効率的な気がする」


 混世魔王のことは知らなかった彼女だったが牛魔王のことに関してはある程度のデータはそろっていた。その中にはもちろん彼らが使う人丹についても記されていたのは当然の結果と言えるだろう。


『あ』

『なにその薬こわ』

『ヒェッ』

『悪魔の発想で草』

『ええ、魂食べるとかきもい』

『いや確かに聞いたことあるけどさ』

『あー、あいつらなんであんなに人丹持ってるのかと思ったら@諜報員』

『これを効率的と仰いますか((((;゜Д゜))))』

『さすがにそれはワイでも躊躇うわ』

『薬と手下を同時に確保するのね。やばい』

『倫理の欠如が著しい』

『だって仕方ないじゃない。怪人なんだもの』

『自称戦闘員だけどな。どうみても人型怪人な件』

『上級を葬る戦闘員がいてたまるかwwww』

『それなwww』


 「失礼な、こんなこと誰でも思いつくでしょ」と不満を漏らすが、それを信じる視聴者は誰もいなかった。

 彼女は徐に小紫金紅葫蘆を手に取ると、そのまま後ろに投げ捨てた。

 何かに利用できるかとも思ったが、牛魔王には効かないし、魂の加工方法までは流石に知らなかったので諦めたのだ。

 パリンと何かが割れる音がする。

 一拍置いて、彼女はゆっくりと振り返る。

 そこには硬い床にぶつかり、無残にも砕け散った小紫金紅葫蘆がそこに散らばっていた。


「あ~、割れちゃった……まあいいや」

『いいんかい!?』

『まあ確かに>>1には関係ないけどさ』

『意外と割れやすい件』

『瓢箪ってもっと硬いと思ってたわ』


 などと視聴者と軽口を交わしていると、その瓢箪の残骸の中から青白い光があふれ出し、周囲へと飛散していった。


「何今の?」

『うわ何これ?』

『え、なんかあった(゜Д゜≡゜Д゜)??』

『見えなかったの?』

『あれ見えないとか画面でもぶっ壊れてんの?』

『ワイも見えなかったんじゃが』

『ああ、今のは開放された魂だわ。霊感によって見える見えないが分かれるから、みえなくてもしゃーなしやで@諜報員』

『へー』

『はわぁ』

『そうなんやね』

「まあ、別に誰が助かろうがどうでもいいし、それよりもこの調子なら人丹作られる前に僵尸も潰したほうが――」


 それはほとんど無意識の行動だった。

 何か言い知れぬ感覚に背中を押され、彼女はその場を飛び退いた。

 直後、彼女が立っていた場所が轟音と共に爆発したのだ。

 ホテルの廊下に大穴が開き、煙越しに一つの人影が見える。

 牛魔王の手下か? そう隠れながら警戒する彼女。しかし爆煙から現れたのは彼女が予想だにしない人物だった。


「く、これが牛魔王一派の力だというのか。だが! この胸に正義の星が煌く限り、俺たちは負けはしない!!」


 全身を赤色で染め、頭部は獅子をモチーフにしたヘルメット、ライダースーツのような薄い戦闘服を身に纏うその少年は自身が現れた大穴へ向けてそう叫ぶ。


「悪いですけれど、あなたじゃ彼には勝てません。お願いですから退いてください」


 そう女性……いや、少女の声が聞こえたかと思えば、大穴から声の主が飛び出してくる。

 白い道服を身に纏い、右手に柄頭に飾りがついた漢剣を握り、左手には中国語で記されたお札を構え、顔に白い狐の面を被るその少女は、少年に告げる。


「彼ら極大魔王には誰も敵わないのです。彼らは日に日に力を強め、残虐さをましています。だから退いて下さい。あなた一人戦ったところで意味はないのです」

「いいや逃げない!! 今ここで俺が逃げてしまえば更に犠牲者が増えてしまう。救える人を救わず逃げ帰ってしまえば、俺は仲間に顔向けできない! そして何よりも、そんなのは俺自身が許せない! 例えこの身が朽ち果てても、人々の命を守るのが星辰戦隊だからだ!!」


 ドン、と背後でまるで爆薬でも使われたかのような炎が上がる。しかしそれを素知らぬ顔で受け流す両者。

 「相変わらず暑苦しい」扉の影から見ていた彼女がそう漏らす。

 彼女は彼を知っていた。

 それもそうだろう。

 彼女は幾度も彼らと戦い、敗北し続けてきたのだから。


「獅子座の戦士の名にかけて、牛魔王の蛮行は俺が止める!!」


 彼こそが星辰戦隊最年少の戦士にして、彼らを纏めるリーダー。

 獅子座の戦士スターレッドなのだから。




ちょっとした解説のコーナー

・スターレッド 本名;獅子郷慎一 ししごう しんいち

 高校生 熱血タイプの好青年 人種怪人問わずもてる 人誑し 拳法家 

 必殺技は炎の拳で殴りつける「レッドブロウ」 

 炎のライオンが具現化する「レッド・レオ」の二つ。


・仮面の少女 

 名前は次回出てくるが、こいつが玉面公主 道士

 実は前回の時、混世魔王と一緒にビビッてた。


・戦闘員さん

「なんでこいついるの??」



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― 新着の感想 ―
[良い点] 6話タイトル >牛魔王、来襲 牛魔王(に)、(狂犬)来襲 [気になる点] ……とりま1話時点で >あ、その後クローンとかで復活するけどな、記憶以外、そして再洗脳よ これできるなら、…
[一言] 纏めて漁夫の利ろう
[一言] 腐れ縁かな?
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