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地底の雷

今回は小説回になります。掲示板を楽しみにしていた方には申し訳ありません・・・

戦闘シーンをまるまる掲示板にするのは無理があったので・・・



小話:多分今頃上層で悪堕ち金銀兄弟とスターセイバー五人が戦ってる頃

『ああもう何でこうなるかなあ!!』


 やや幼さの残る男性の声が響く。

 ただしその声を発したのは人間ではなく犬のような形をした"電脳獣"、電脳ウイルスが現世に実体化したものであり、声の主は遠く離れた場所から現状を見守っていた。

 その視線の先には睨み合う二つの人影。片やブルーを基調とした全身タイツの女性ヒーロー、片や全身を真っ黒に染めたフルフェイスの戦闘員。

 本来、彼はそこの戦闘員の様子を見守り、全てを自身が書き込んでいた掲示板へ実況中継するだけのはずだったのだ。

 だか蓋を開けてみればどうだ。自身が最も苦手とするヒーローと鉢合わせ、尚且つ戦闘するという最悪の事態に陥ってしまった。


「じゃ、死んでも恨まないでよね!」


 サイバーガールの右腕が青白く光り輝く。


『まっず!? 避けろ>>1! どでかいのが来るぞ!!』


 そう戦闘員に告げようとしたが、遅かった。

 彼が視線を彼女から戦闘員へ移した瞬間、彼女は跳躍した。

 硬いコンクリートの床を陥没させ、稼働中のサーバーの間を通り抜け、驚くべき速さで戦闘員へと迫る。


『>>1!?』


 室内でありながら、まるで雷が落ちたような轟音が響く。

 いや、実際に雷が落ちたと言ってもいいかもしれない。

 彼女、サイバーガールの必殺技、【サンダーストライク】は四肢のいずれかに限界まで蓄積した電撃を、相手に接触した瞬間に解き放つ技。

 並大抵の怪人を軽く葬る力を持ち、手早く発動か可能なことから彼女が愛用している技の一つである。


「驚いた、あなた本当にただの戦闘員なの?」

「一応、役職的にはただの戦闘員かな」


 解き放たれた雷撃は戦闘員を貫いた、そう確信していた彼女だったが実際には違った。

 彼女が跳躍した瞬間、戦闘員は反射的に自身の前方に三角錐状のバリアを展開、その上でバリアを集中させた腕を交差させ頭部を守った。

 彼女の拳は三角錐の障壁を砕き、そこから解き放たれた雷撃は彼女の全身を覆うバリアを貫きはしたものの、フルフェイスヘルメットの一部を破壊した程度にとどまった。


「やっぱり上の上は人間やめてるよね、ここまでしても抜かれるとかほんとわけわかんない」


 戦闘員からしてみればバリアが破壊されるのは想定済みであった。しかしそれでも渾身のバリアで雷撃を殺しきれなかった事が不愉快極まりなかったのだ。


「最初から人間やめた怪人たちに言われても説得力ないわよ、それ」


 表面上は冷静を装う彼女だったが、内心はそうでもなかった。


(経験上、サンダーストライクをくらって軽傷だったやつにロクなのがいない……ああもう! なんでよりにもよってこんな奴が来るのよ! 上の奴らは何やってるわけ!!)


 本来、陽動部隊が上層で注意を惹きつけているうちに彼女が潜入、幻想機関内の機密情報を奪取して帰還する手筈であった。

 彼女はヒーローランクこそ上級でも上から数えた方が早いくらいには強いが、彼女の専門は潜入である。

 自身の体ごと電脳世界へと潜入し、電子上に存在するありとあらゆる情報を人知れず回収、それらを他のヒーローへ高値で売りつけるのが本来の彼女だ。

 戦闘面においても上級に恥じない強さを保ってはいるが、彼女自身が戦闘を苦手としている事もあり、どうしても戦闘しなければならない時は他のヒーローのサポートに徹するのが常だった。


(応援が来るまでまだまだ時間がかかるし、どうにかして時間を稼ぐか、……いえ、幹部クラスを相手にしてる上級は間に合いそうにないし、最悪のことを考えるならここで倒すしかない!!)


 出し惜しみした状態で勝てる相手ではないと判断し、即座に切り札を切る。

 彼女が構えを変えると、全身から青白い光が溢れ出し、彼女の全身をまるで衣服のように包み込む。

 それは物質のように彼女に纏わりつき、頭部には猫耳を、臀部には尻尾を、そして四肢には鋭い爪のような形となっていた。


『ちょ、まじ!?』

「うっわ、生で初めて見たけどそこまでする普通?」

「だって、あなた強いでしょ? なら手加減はなしよ」


 戦闘員は彼女の変化に心当たりがあった。

 戦闘があった日は生き残った戦闘員はレポートを提出することになっている。それは観測された物だけではなく実際に体験した戦闘員の意見を重要視してのことだったが、それはこの組織がまともだった頃の話、現在では形骸化していて戦闘能力などの情報以外はただ読まれることもなく埋没していった。

 その際にデータベースにヒーローの情報を書き込んでいくのだが、現在この組織で一番長く生き残っている彼女はその分多くのヒーローの情報を目にする機会に恵まれていたとも言える。

 【ストームガール】、サイバーガールの戦闘形態であり、滅多に見せることのないことからファンの間では幻の形態と言われている。

 彼女が体内に蓄積した電気を一気に解放、それを自身の体表に固定することによりエネルギーでありながら物質と同等の硬さ、さらには身体能力が飛躍的に上昇するというサイバーガールの奥の手である。

 ただし、この手の技にはもちろん弱点があり、防御面が弱体化すると共に5分経過すると強制的に形態が解除され、その後1日は戦闘力が著しく低下するデメリットが存在する。


「じゃ、時間も惜しいし行くわよ!!」


 刹那、彼女の姿が搔き消える。床のみならず天井や壁など重力を無視した動きで戦闘員の周囲を跳び回る。

 対して彼女は腰を低くし、さながらボクシングのように顔面を両腕で守る体勢にはいる。

 その直後、上下左右前後からまるでスコールのような打撃の雨が降り注ぐ。

 両腕、背中、頭部に何重にもバリアを全力で展開してはいるが、一撃ごとに皹が入っていて長くは持たないと彼女は判断した。


(今防げてるのはこれがただの打撃だから、必殺技クラスがきたら間違いなく死ぬ、それにこれも長くは持たない……あーあ、少しくらい戦いたかったけど仕方ないか)


 彼女は浮かれていた。長い長い社畜生活、長い長いやられ役生活、そして長く長い自分を押さえつけていた人生、その全てから解放されて浮かれていたのだ。

 まるでおもちゃを与えられた子犬のように、まるで初めて遊びを知った子供のように、彼女はこの戦闘を楽しんでいた。

 そして何よりも大きかったのは、そもそも彼女には確実な勝算があったからだ。


(やっぱり打撃じゃそう簡単には抜けない、ならこれで)


 打撃の感触から戦闘員のバリアの強度がどの程度のものか見切ったサイバーガールは一度動きを止めると、両手足に雷撃を集中させた。全身を覆っていた電流が凝縮され、僅かながら電光が空気中に迸っている。

 防御を捨て、完全に攻撃力に全てを割り振る、捨て身の特攻とでも言うべきこの技は、【ストームファントム】。

 発動すれば最後、幻影を残しながら敵を殲滅するサイバーガール正真正銘最後の必殺技である。


『あ、終わった』


 彼もこの技については知っていた。自身と同系統の異能持ちであることから徹底的に調べたし、弱点も探したが、結局の所対応は不可能という結論に落ち着いた。


「…………ふぅ」


 食らえば即死、誰にもわかるようなその状況で、あろう事か彼女はバリア全てを解除し、右腕に集中するという暴挙に出た。


『え、マジで何してんの!?』


 その暴挙に当然彼は困惑する。この時点において防御を捨てると言うことは自殺行為以外の何者でもない。

 一点集中した右腕でサイバーガールの攻撃を防ぐ、とも考えられたが、高速移動している彼女の攻撃を戦闘員が見切れるとは彼は思っていなかった。


(全身のエネルギーを一点集中、確かにそれをぶつければ防ぐ事は無理でも逸らすことはできるかもしれない、ただし、それは私の速さについて来れたらの話だけどね)


 それはサイバーガールも同じだった。

 先の縦横無尽の動きから、戦闘員の防衛能力をおおよそ見切っていた彼女から見ても、この行動は愚策と言えた。

 例えるならバッターが飛んでくる銃弾を打ち返すようなものであり、しかもストライクゾーンなどと言う制限は存在せず、一度でも外したらアウトというあまりにも厳しい制限が存在した上での話だ。

 だからこそ彼女は全力で戦闘員に近づいた。

 防御されるよりも速く、腕を振るわれるよりも速く、彼女は紫電に満ちたその右腕を彼女に叩きつけた。

 もう何度目かの轟音と共に、彼女の手刀は戦闘員の左腕を切断していた。


「え?」


 そして彼女の思考が停止した。

 戦闘員は彼女の思惑に反して、その右腕を振るう事はなかった。

 ただ少し体を逸らして、胴体に当たるはずの打撃を左腕に逸らしただけだった。

 ここまではまだ良い。だからこそ彼女は右腕で仕留め損なった時のために左腕を残していたのだから。

 彼女にとって予想外だったのは、その直後、戦闘員が笑みを浮かべながら自身の右腕をサイバーガールではなく、全く異なる方向へ向けて振るった事だった。

 戦闘員がミスしたのか、とも思ったがフルフェイスから見える表情がそうではないと物語っていた。


(え? どうして、そっちに私は……まさか!?)


 そして、高速化していたからこそ、彼女の企みに気付いてしまった。

 飛ぶ斬撃など上級である彼女からすれば珍しくもないが、問題はそれが放たれた先にある物だった。

 戦闘員の残り全ての力を集中させた斬撃は銃弾よりも速くソレに向かって突き進む。


「くっ!」


 急ぎ跳躍、驚異的速さで斬撃の先へと回り込み、左腕でそれを上方へと逸らす、いや逸らそうとした。

 右腕の電力は消費したものの、左腕ならばその程度容易にできたはずだった。


「きゃああああ!?」


 触れた瞬間、斬撃は突如爆破、左腕は無事だったものの、電撃を薄めていた胴体と顔に甚大なダメージを負ってしまう。


「あはっ、やっぱり庇ったね」


 自身の腕を拾いながら、彼女は嗤う。

 普通の人間ならば気絶しているどころか失血死しかねない重症のはずなのに、彼女はそれを気にも留めずに話しかける。


「予想通り、あなたはここのデータが目的だったんだね。そしてそれはまだ終わってない。本当なら上で気を引いてるうちに人知れず終わらせる予定だったみたいだけど、それより早く私が来ちゃったから無視はできなかったわけね」


 彼女はサイバーガールのすぐ側まで近づき、その隣にあったパソコンへ目を落とす。

 そこには稼働中のPC画面に『コピー完了まであと50%』と表示されていた。


「てい」


 彼女は乱暴にUSBを引き抜き、潰す。


「最初からおかしいと思ってたんだよね、潜入専門のあなたがここにいたこと。そしてあれだけ広範囲の雷撃だったのにサーバーに傷一つついてないんだもの。他にも私を倒すならもっと大技使って撹乱したり、データにあった周囲の電気を吸収してパワーアップしたりなんてのもしなかった。あなた、ここじゃ全力を出せなかったんだよね」


 その通りだった。

 彼女の目的はここのデータを奪取すること、それには時間がかかるため、こちらから目を逸らすため上で多数の戦力を惹きつける必要があった。

 最初に広範囲の雷撃で自身に注目させ、これで逃げてくれれば良し、そうでなければ応援が来るまで時間を稼ぐか倒す気でいた。

 サーバーデータのコピーが終わるまでそれらを死守するという条件付きで。

 だからこそ全ての攻撃に気を配り、静電気1つたりともサーバーに当てる事なく、またサーバーに触れないように天井や壁を足場にして彼女を翻弄したのだ。


『お前、そこまでよく見てるな』

「私昔から目は良い方だから……うん、私としては他はどうでも良かったんだけど、みんなの知られたくないデータもあるみたいだし、まとめて消したほうがいいよね」


 そう言って彼女は乱暴に腕を水平に振る。

 その軌跡から放たれた斬撃は波紋のように広がり、触れる機械すべてを切断した。


「はい、これでミッションしゅーりょー。もう余力もあんまないし、あとは適当に帰るだけかな」

『いや、その前に腕大丈夫か? めっちゃ血が出てるけど?』

「ああうん、最近は減ってたけどこんなのすぐ治るよ」


 と彼女は乱暴に腕を傷口に押し当てる。

 彼と掲示板の住人のメンタルがゴリゴリと削られるようなその光景が少しの間続くと、何事も無かったのように左腕を動かす。


『ええぇ、なんで動くのそれ?明らかに他に変な改造受けたよね君。ほら先生黙っててあげるから言って見なさい』

「先生って何よ先生って……、怪人因子の投与された量によってはこのくらい可能だってデータがあったし、まだバリアを使いこなせてなかった頃なんて指とか足とか普通に飛んでたからもう慣れたよ。流石に部位が消滅しちゃうと時間かかるけど、これは異能じゃなくて身体能力の部類に入るらしいんだってさ」


 有り得ねえ、という呟きを聞きながら彼女は出口へと向かい、その前にチラリと倒れ伏すサイバーガールに目をやる。


「んー、これ始末したほうがいいかな? 下12で」


 と、唐突に口にした。

 まだ意識があったサイバーガールには何のことかわからなかったが、少なくとも自分の命に関することだけは理解できた。


『610殺せ、611やれ、612やっちゃえ、613やろう、614殺せ、615ここでトドメを』


 機械的な合成音声で何かを読み上げる電脳獣。

 それがサイバーガールにはまるで死刑までのカウントダウンのように思えた。


『616お持ち帰って調教しよう、617惨たらしく殺して、618ここで殺してもいいけどお持ち帰りで、619やれ、620死刑、621エロいからそのままで、622殺せ、……下12は621だから見逃すだな』


 合成音声から肉声へと切り替わる。その声には不満がやや含まれているように思えた。


「あら意外、まあここで殺してもお金がもらえるわけじゃないし、別にいいか」


 彼女は素直に安価に従うことにした。

 いや、そもそも始末する気があるなら安価などという不確かな手に頼るなんてしないだろう。

 今の彼女は文字通り瀕死、少し手を加えただけで死んでしまうまで弱りきっている。

 自身を殺しかけた相手だというのに、既に彼女にとってサイバーガールはどうでもいい存在へと成り下がっていたのだ。


「じゃあまた帰ったら適当に次の職探さないと……あー、待てよ、1日2日で見つかるはずないからお金もいるよね? 帰るついでに色々掻っ払っていこう」

『645余力がないとはなんだったのか? ほんとなそれな』


 彼女は基地の内部構造を思い出し、現在地から貴重品が納められた部屋までの最短ルートを割り出すと、そこへ向けてバリアを撃ち出した。やりたい放題である。

 そこに突っ込みを入れつつ、電脳獣も彼女の後を追う。


「……行ったわよね」


 彼女たちが去って少しした頃、サイバーガールは懐からあるものを取り出した。

 それは彼女が破壊した物と同じ大容量のデータを収める事ができる特別性のUSBメモリである。

 バリアが爆発した瞬間、彼女は咄嗟に()()()()()()()()USBの内片方を懐に仕舞い込んだのだ。

 流石の戦闘員もそれに気づかず、本命は破壊したと思い込み撤退してしまった。この辺りの駆け引きは潜入専門のサイバーガールの方が上手だったと言えよう。


「はぁ、結局データは半分、そして私はこのザマ、私も引退かしらね」


 腹部から流れる血が彼女の傷の深刻さを表していた。

 顔半分も焼け、視界も朧、イアフォン型通信機器もあったような気がするが、さっきの爆発の時にどこかに行ってしまった。

 助けは来ない、来たとしてもそう長くは持たない、そんな確信が彼女にはあった。


「あーあ、せめて結婚したかったなぁ…………」


 同期がどんどん寿引退していく中、彼女だけが取り残された。

 その代償と言うべきなのか、彼女は日本中の女性ヒーローの頂点にまで上り詰める実力を得た。

 今では女性ヒーローといえば誰もが彼女のことを思い浮かべるくらいに、彼女は立派なヒーローとなっていた。

 だが、彼女はいつも一人だった。

 何度か気の合う人もいないことはなかった。付き合った人だっていた。でも最後にはいつも破局した。

 おかげでもうアラサーだと言うのに未婚、結婚相手がいないという悲しい人生を送っている。


「ああ、でも、彼の時だけは少し違ったっけ……」


 最後に彼を思い出す。

 無骨だったあの人、不器用だったあの人、私よりも後にヒーローになって、私を楽しませてくれたあの人。


「いつもなら他の人に合わせられたのに、彼の時だけは上手くいかなかったなぁ……」


 他人に合わせる人生、男を立てる人生、思い返せばつまらない人生だったと最期の時になって深く実感した。

 だが、彼だけは違った。

 彼といると楽しかった。彼が来るのを一日千秋の思い出待ち侘びた。彼といた時は自分が自分でいられた。


 だからだろうか、彼女から別れを切り出したのは。


 彼女がヒーローだと知った彼が自分もヒーローになると言い出した時は、確かに嬉しかった。

 好きな人と同じ職で働ける、そう夢見たこともあった。

 ……同時に強い不安を抱いた。

 控えめに言って彼の異能はそこまで強いものではない、いやはっきり言うと弱い。

 そんな彼が自分と同じ戦場に立てばどうなるか、考えるまでもなかった。

 だが、それを言ったところで彼は止まらない。

 限界ギリギリまで努力して、自分の命を削ったとしても、彼は彼女の隣に並び立とうとするだろう。そう確信していた。

 自分のせいで彼が死ぬ、そう思うと堪え難い不安と恐怖に苛まれた。

 だから、せめて遠ざけようと関係を断ち切ったと言うのに、彼は再び彼女の前に現れた。 


「ほんと不器用なんだから、あのばか」


 最後に一目会いたかったな、と口にしようとしたまさにその時、彼女はあり得ない声を聞いた。

 


『タウラスゥゥ!! レイダアアアアアアアアアア!!』


 

 怒声、その直後に周囲全てを吹き飛ばされたと錯覚するほどの轟音が響く。

 自身のすぐ横、ほんの1・2メートル先の天井と床を切り裂く衝撃。

 戦闘員が戻ってきたのか、いや違う。彼の声を彼女が聞き間違うはずがない。


「ばか、どうして来たのよ、玲司(れいじ)

「……何となく、江梨花(えりか)が危ない気がしたから」


 裂けた天井から緑色の巨体が降り立つ。

 全身を緑色の重装甲で覆い、右手に巨大な戦斧を持つ、猛々しいその姿。今では誰もが知る星辰戦隊スターセイバーの一人、牛沢(うしざわ)玲司こと、スターグリーンである。


「二人の救出作戦はどうしたのよ」

「仲間に任せてきた、彼らは信じられる」


 彼がそういうと、彼女は思わず少し笑ってしまう。


「……ほんとそう言うところは昔と変わらないわね、いっつも無茶ばっかりするんだから」

「誰にやられた」

「……わからない。見た目は下級戦闘員みたいだったけど、ちゃんと喋れてたし、何より戦闘力が明らかに上級ヒーロークラスだった。多分あの兄弟を倒したのもあいつでしょうね」

「そうか」


 彼は唐突にサイバーガールを抱き上げる。


「無駄よ、内臓も幾つか逝っちゃてるみたいだし、私はもう――」

「喋るな、傷に響く」


 彼女の言葉を無視して、彼は跳躍した。

 自身が築いた荒々しい近い道を上り、最短距離で地上を目指す。


「ううん、いや、だってこれっきりかも知れないから言いたいことは言っておきたいの」


 しかし、彼女も彼の意見を無視して話し出す。


「ねえ知ってる、貴方が最後にくれたネックレス、今でも寝室に飾ってあるのよ」

「……そうか」

「あなたと行った遊園地、楽し、かったわよね、閉園した、のが残念だわ」

「……そうか」

「ああそういえば、あなたの、同期だった、あの子去年結婚したらしい、わね、あなたを奪い合った、あの日々は、今ね、思い、返すと結構、悪いもの、じゃなかった、わよ」

「…………そうか」

「ねえ、玲司、実はね、私はね、まだあなた、のこと、大好き、みたい、なの」

「ああ、知ってる」


 その言葉を聞いて、不思議と安心した。

 自身の想いが伝わっていたからか、それとも彼が彼女のことを想ってくれていたからかなのかはわからないが、彼女はこれ以上ないくらいに幸せな気持ちに包まれた。


「ああ、そうなんだ、なら、ここからかえった、ら、けっこん、して、くれる?」

「当然だ、もう離さない」


 その言葉を聞き、彼女は目を閉じる。

 最期にその言葉を聞いただけで幸せだった。これまでの人生は無駄ではなかった。そう思って、彼女は意識を手放した。


 

 


 


 


 


 


 


 余談として、病院で目を覚ました彼女とスターグリーンとの間に一悶着あり、入院期間がさらに伸びた出来事があったのだが、それはまた別の話。

なんでラブロマンス展開してるの? おかしいなぁ・・・・・・

いや、書いてるうちに筆がノリに乗った結果がこれですよ、不思議っすね


おまけの人物紹介


・サイバーガール 本名“光 江梨花” 通称“婚期を生贄に戦闘力を得た女“

 星辰戦隊スターセイバーの準レギュラー枠

 多分平地なら7:3、電気がある場所なら10:0で戦闘員さんを倒せたけど、あまりにも状況が悪かった

 もうこれまでと思って今まで秘めてきた想いを全てぶちまけたが、ちゃっかり生存して死にたくなった

 ほぼ彼女関係のシリアス展開は終わったので多分こっからギャグ落ちする


・スターグリーン 本名”牛沢 玲司”

 寡黙で慎重な男、見た目がゴツいからよく怖がられる。

 スターセイバー最年長。でも一途。というか江梨花以外と付き合ったことない。アラサー。

 実は最初は家業を継ぐ気はなかったが、江梨花がヒーローと知り自分も並び立つためだけにヒーローになった。


・戦闘員さん 本名は設定してるけどなかなか出す機会がない

 最下級詐欺、戦闘力は大体上の下くらい、すごく目がいい、割と外道、

 再生能力が高いけど、流石に頭を潰されたら死ぬ


・星辰戦隊スターセイバー 

 もうそろそろシーズン1が終わる


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― 新着の感想 ―
[良い点] 戦闘員さんの行動や掲示板に出てくる怪人連中のやり取り [一言] ランキングからきますた。 こういうの大好きなので続きがきになります。 後サイバーガールのギャグ落ちにも期待w
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