ちょっと今から牛魔王ぶっ殺してくるわ【限定LIVE配信】 その3
長らくお待たせしました。
ホテル来来猿二階宴会場。
本来煌びやかな装飾が施され、宿泊客たちがさまざまな料理や美術品を楽しむためのその一室はとある怪人の手によって様変わりしていた。
壁や天井には不気味な呪符が張り巡らされ、床には宿泊客と思しき死体が床一面に並べられている。
何より異質なのは宴会場の中央、そこに設けられた大鍋だろう。
大きさは二メートルを超える巨大な寸胴鍋、中身は黒と紫が入り混じる不気味な液体で満たされていた。
そしてそのすぐ近くに設けられた大きな足場に登り、一定のリズムで優雅に謎の液体をかき混ぜる女がいた。
そう、このホテルの主人である田中太郎、本名張偉を殺害した牛魔王の妻、鉄扇公主である。
「あら?」
彼女は手を止めると、天井の方へ視線を向ける。
そのまま身動きもせずに天井を見続ける彼女へ声をかける男がいた。
ドレッドヘアが特徴的な青年、紅孩児である。
「母上、上になにか?」
「今、玉面が倒されたみたいね」
「玉面が? 混世ならともかくあいつが一般人程度の雑魚にやられるはずが……」
「そうね。あたしも同じ意見だよ。……客の中にヒーローでも混じってたかねえ」
「なるほど。玉面を倒すほどの猛者なら、俺も退屈しなさそうだ」
そう言うと、彼は手に持った槍“火炎槍”を片手で振り回す。
くるくると円を描くその矛先からは絶えず火の粉が飛び散っている。
「全く、こんなところで振り回すんじゃないよ。死体が焦げたらどうすんだい──うっ!?」
「母上!?」
鉄扇公主が顔を押さえて膝をつく。
突然の異変に何が起きたかわからなかった紅孩児だが、只事ではないと彼女の元へと駆け寄る。
見れば押さえた手の隙間から鮮血が足場へと滴り落ちている。
彼女は手を離し、すぐに持っていた手鏡で確認すると顔に五つの爪痕が縦に刻まれていた。
「まさか、あたしの洗脳を誰かが破ったというの?」
「……まじかよ。母上の洗脳ってあれだろ。面に触れた瞬間に発動して強制的に洗脳するって初見殺しのひっでえ罠。それを破る奴がいるってのか?」
「ああ。この感じだと、どうやらかなりの手練らしいねえ」
彼女は乱暴に懐から煌びやかな小袋を取り出し、中身を一つ摘む。
それは彼女らが持つ人の魂を素に作り上げる恐るべき丸薬、人丹である。
それを口に投げ込むと、奥歯で噛み砕く。
ガリガリと硬いものを噛み砕く音が響く。同時に彼女にも変化が現れた。
深く顔面に刻まれた傷が、見る見るうちに回復していった。
そう、人丹には服用者を強化する効果がある。その効果を利用して回復能力を高め、傷を完治させたのだ。
「紅孩児! なんとしてでもそいつを捕らえてあたしの前に引き摺り出しな! そいつが強ければ強いほどいい丹が作れるからね」
「了解した! ……ひとつ聞き忘れてたが玉面はどうするつもりで?」
「ああ、あの子のことかい? そうさね。死んでれば薬の材料、生きてればまた洗脳して使い回すだけだよ。いつものことじゃないか」
「そうだな。その通りだ」
じゃ行ってくる、と言い残し彼は乱暴に扉を開けて上層部を目指し走る。
質問の意図が分かりかねる鉄扇公主だったが、彼に任せれば問題ないだろうと、人丹作りを再開したのであった。
紅孩児が最上階の一室へ突入する少し前、具体的には鉄扇公主が傷を負うより前の頃、スターレッドを襲撃しまんまと逃走に成功した彼女は一つ下の階層にいた。
「あーしんど。もう二度とやりたくない。命がいくつあっても足りないわあれ」
乱暴に自身の荷物を引きずりながら、彼女は下の階を目指し階段へと歩みを進めていた。
なぜスマートフォンと奪い取った仮面しか持っていなかったはずの彼女がその荷物、お金や着替えの入った鞄などを持っているかについては彼女がスターレッドを襲撃する直前の行動に答えがあった。
彼に気配を察知され、接敵するしかなかくなった彼女が導き出した答えは逃げることだった。
しかし、そこで邪魔になるのがこの荷物だ。必要なものしか入っていないにも関わらず、鞄二つ分という大容量のこれらを持っていては思うように動けない。
故に、彼女はそれらを先に下の階に隠すことにした。
急ぎベッドを持ち上げて倒し、その床を右手のバリアブレードで四方50センチ程度の四角形に切り裂く。
切り裂けばあとは重力に従ってその四角形は下の階へと落ちる。
既に下の階に気配はないことは確認しておいたので、そこに一度荷物を持って降りて、バレないように布団で隠す。
帰り際に一度廊下に出て消火器を確保、最後に切り抜きがバレないようにベッドを元に戻したのだ。
次に彼女が行ったのはこの部屋から目を逸らせることだった。
彼女もこの穴から脱出してしまうことも考えたのだが、それだとこの部屋に入ってきたスターレッドがこの切れ込みを発見して追ってくることも考えられた。
故に、彼女自身はスターレッドの目を惹きつけねばならず一度軽く戦闘してから離脱するのが理想的だった。
扉に近づいたスターレットに壁ごと切断する勢いでバリアクロウを振るった。
しかし流石は歴戦の猛者と言ったところだろうか、突然の不意打ちにも対応し、彼女の攻撃から逃れられたのが感覚で分かった。
これで仕留められればラッキー程度に考えていた彼女にとってもこれは想定内なので特に驚くことはない。
片手に持ったスマートフォンで目元を隠しながら、彼女は廊下に姿を現した。さっき確保した消火器を右手で隠し持つのも忘れない。
スマートフォンは未だ配信を続けているのでカメラは起動し続けていたので、そこを見れば相手からしてみれば目元が隠れているように見えてもこちらからは相手のことは丸見えであった。
「君は、何者かな? どうして俺を攻撃する?」
なぜか混乱しているスターレッドの言葉を無視して、彼女は消火器を投げる。
一番困るのは全力で距離をとって避けられることであったが、高々消火器程度にそこまで慎重になるようなヒーローではないと彼のことはよく知っていた。
故に彼が次にとるであろう行動も容易に想像がついた。
彼が消火器を払うその瞬間に合わせて、彼女はバリアクロウを展開、その爪が振るわれる軌跡に合わせるようにエネルギーの刃を解き放ったのだ。
その爪は寸分の狂いもなく消火器を切断し、中にあった消火剤などが彼女の目論見通りに周囲にぶち撒かれる。
このような風通しの悪い室内ではそれは煙となって空中を漂い、一時的に彼らの視界を塞いだ。
しかしこのような状況であっても彼女の感覚を封じられはしない。
目を瞑り、耳と周囲にエネルギーにだけ集中することによって、彼女からはスターレッドの姿が手に取るように把握できていた。
(今だ!)
彼女は走った。
スターレッドへ向けて走る。
彼もそれを感じ取ったのか、こちらを向け撃つように防御姿勢を取る。
だからこそ彼女は攻撃しなかった。
怒りや殺意といったマイナスの感情をできる限り抑え、彼をただの踏み台として意識する。
(ここで殺すことに意味はない。お金にも業績にもならないし、無駄に力を消費するだけ。だから後回し)
自分に言い聞かせて、彼女はスターレッドの肩に手を置いて、その勢いのまま彼の背後へと飛んだ。
予想外の行動に彼も反応できずにいたその短い間に彼女は倒れている少女の元へと駆け寄り、近くにあった仮面を拾い上げる。
そう、この交戦における彼女のもう一つの狙いはこの仮面である。
いつまでも素顔で戦うわけにもいかず、次の就職先に迷惑をかけないためにも素性を隠す道具は必須。だからこそ彼と交戦するついでに仮面を盗んでしまおうと考えたのだ。
見ると仮面の裏側にびっしりと気味の悪いお札が貼り付けてあったので、彼女は短めのバリアクロウでそれを縦に切り裂いた。
一瞬、本当に一瞬であったが紙では考えられないような硬さがあったように思えたが、それもすぐに消え、札はただの紙切れとなって周囲に散った。
これでよし、と彼女は何の迷いもなくそれを装着する。
意外と着け心地は良く、視界も良好。戦闘用に作られた仮面なのだから当たり前ではあるが。
部屋から目を逸らさせることにも狐の面を手に入れることにも成功し、あとはさっさとここから逃げるだけ、そう考えていた彼女だったが一つ予想外の出来事が起きる。
「出し惜しみして勝てるような相手じゃないか」
(んん? 何か隠し技とかあったっけ?)
「太陽の力をここに!」
(え? 何それ知らない)
彼女の知らない力、ゾディアックフォームへと変身を遂げようとしていたのだ。
彼女は悟る。
あれはやばい。変身されたら間違いなく死ぬ。
本能でも理性でもそう考えた彼女はすぐ様行動に移す。
変身させてはならない。そして自分は逃げ出さねばならない。この二つの目的を達成しうる最高の一手が彼女の側に転がっていたのだから。
彼女は迷うことなく玉面公主を持ち上げ、彼の方へと投げつけたのだ。
冷酷なヒーローや怪人ならばこれを無視することもできたかもしれないが、相手はスターレッド。自分の身がどれだけ傷つこうとも人命を大事にするような正義の塊のような男。そんな男が彼女を無視できるはずがないと彼女は確信していた。
「危ない!!」
案の定、スターレッドは変身を中断し、玉面公主を両腕で抱き止める。
それを視認した瞬間、彼女は一目散に逃げ出した。
廊下を走りエレベーターの扉を切断、籠を吊るすワイヤーに捕まり一階分下へと降り、同じように扉を切断して廊下へ出る。
あとはさっきの荷物が置いてある部屋へと走り、荷物を回収して現在に至るということだ。
「ちょっと休憩しよ。流石に心労がやばい」
そういって座り込む彼女。
ふと画面をみれば彼女を労わるコメントが流れてくる。
『乙』
『乙』
『お疲れ〜』
『やったことはピンポンダッシュに近いけどな』
『あいつと敵対して生きてるだけでも十分よ』
『タッチして逃げるのは何ていうの?』
『お疲れ』
『さあ?』
けれど当然数多のコメントの中には別な意見を持つものもいる。
『けどさ、あんだけ近づいたならついでに攻撃しとけば手傷の一つや二つ与えられたのでは?』
『わかる。俺だったら多分我慢できずに首取りに行ってるわ』
『後はあの子を投げるついでに主のバリアくっつけて諸共爆破するなりすれば殺れたと思うぞ』
『↑うっわひどすwwww けど実際有効そうじゃない??』
「いや無理だし」
『死にたいの??@諜報員さん』
『やべえやついるんだけど。自殺志願者って意味で』
『ないわー。それだけはないわー』
しかし好戦的な視聴者たちのコメントは、同数の反対意見によって却下された。
彼女が意外に思ったのはその交戦的な意見と止めるべきという意見の数が同数であったと言う事。
彼女が知っているスターレッドの特性が思った以上に知られていないことに少しばかり驚いていた。
『ほう、なして?』
『結構いけそうだけど、何か問題でもあるの?』
『むしろやらない理由がないのでは?』
『てか、これ以上にいい手ある?』
『知らないってマジで怖い((((;゜Д゜)))))))』
『わざわざ地雷踏みに行くとか』
『俺は絶対やりたくないね。死ぬし』
当然、このような疑問を持つ者もいた。
知っている人からすればあり得ない思考なのだが、知らないなら当然かなと思うことにする。
とりあえず彼らのために彼女は分かりやすく解説することにした。
「あいつ、何でか知らないけど殺意を込めた攻撃には異様に反応するんだよね。だから殺す気でやってたら多分高確率で反撃食らってたかも」
顎に手を置いて、憎々しげにそう話す。
彼女がヒーロー、特に星辰戦隊の戦闘経験について語る際に特に参照しているのは自身の記憶、つまりは今まで交戦し敗北してきた記憶なのだがらか無理はないのかもしれない。
『何それ怖い(;´д`)』
『わかる』
『全自動殺意反撃マシーンかな』
『理不尽すぎひん??』
『うちの後輩それで死んだからなぁ』
『なんで完璧に死角取ったのに当ててくるのよあいつ……』
『あーめっちゃ覚えがあるわ。暗黒空間に引き込んだのになぜかボディに一発食らったもん』
『割と経験者いて草↑』
『全方位透視でもできるんですかね??』
『それができたら>>1の攻撃どころかタッチも見切ってたやろ↑』
『戦士としての勘ってやつなのかね。うちの獣系上司も似たようなことしてるし』
『それはもはや野生の勘なのでは?』
『獣戦士系ならどちらでも合ってそう』
『じゃあさ、玉面公主ごとスターレッドに攻撃しなかったのは?』
「そっちはもっと簡単。もしも私があの子ごとあいつを爆破したとして、確かにそれで仕留められる可能性もあったけど、確実に仕留められるって保証もなかったから。そんで、一番最悪なのはその攻撃であの子が死ぬことなんだよね……」
がっくりと頭を落とし項垂れる。
「本当に面倒な」と呟きつつ、彼女は三角座りのような体勢になり、顔を脚に埋め始める。
いつもとは違い固い感触が顔に伝わるのか今も仮面をしているからだろう……とも思ったが前もフルフェイスだったから違いはないかと思い直した。
『何で死ぬとまずいの?』
『精神ダメージとか与えられそうじゃないの?』
『嫌がらせって意味なら最高なんだけど、効果的すぎるんだよなぁ』
『むしろ何で知らないの??』
『あいつらと戦うなら知っとくのが当然なのにな@諜報員さん』
『ワイ、二・三回敵対した程度なので良く知らぬ( ˊ̱˂˃ˋ̱ )』
『早よ、早よ教えてくれめんす』
「あいつはねぇ……目の前で人質を殺したり虐殺したりすると、キレるんだよね。今思い出してもゾッとするわ」
彼女の口から語られたのは今から二年以上前の出来事。彼女がようやくバリアをうまく張れるようになり負傷することも少なくなってきた時のことだった。
新たに代替わりした星辰戦隊、彼らのような古くから継承されているヒーロー戦隊は成長すると厄介なためすぐに全員まとめて殲滅する作戦が実行された。
その作戦の詳細はこうだ。
まず素顔の戦闘員を十数名捕縛した一般人のように見せかけ、人気のこない採掘場に彼らを呼び出す。
次に待ち受けていた怪人一人と戦闘員数十名と勝てば人質は解放するなどと嘘を吹き込み、彼らと戦闘を開始する。
ある程度時間が経てばわざと隙を見せ人質を解放するように仕向け、彼らに助けさせる。
助けられた瞬間、彼らの内部に仕込まれた強力な爆弾が助けに来た人物を吹き飛ばす。そういう作戦だった。
拘束人数が多いのは一人でも多く助けさせる人数を増やさせるため。
できれば三人、最低でも二人の戦士をこの作戦で葬るつもりだったのだ。
結果から言うと、この作戦は失敗に終わる。
当時新入りだったスターレッドとスターブルー、そしてスターブラックが救出にあたったのだが、異変を察したスターレッドがスターブルーを突き飛ばしたことにより、スターブルーは軽傷のみで済んだ。しかし残りの二人は間に合わずに爆発の餌食となってしまった。
この爆発でスターブラックは変身解除に追い込まれ、尚且つ通常ならば数ヶ月入院しなければならないほどの大怪我を負ってしまった。
スターレッドも同様の大怪我を負ったのだが、ここで彼らにも予想外のことが起きた。
「お前たち、人間を、命を何だと思ってるんだあああああああああああ!!」
彼の絶叫は空気を揺らし、この場にいたすべての生命の動きを止めた。
誰もが彼に注目せざるを得なかった。
彼が纏う装甲はあらゆる箇所にヒビが入り、頭部に至っては顔が半分見えてしまっている。
ヒビによってできた隙間からは血が流れ、一眼で彼が重傷を負っていると言うのがわかる。
だが、彼は動いた。
まるで怪我などないかのように、いや怪我をする以前の万全な状態よりも激しく彼は駆けた。
彼を止めようと動いた戦闘員は彼に触れただけで吹き飛ばされ、何者にも阻まれることなくまるで獅子のように彼は走る。
彼と元凶の怪人との距離が縮まった瞬間、怪人は彼の息の根を止めようと自身最高の必殺技を放つ。
下級ヒーローならば一撃で死に至る一撃、避けるなり防ぐなりすればその瞬間に生まれた隙を突き、隠し持った武器で彼を仕留める算段であった。
しかし、彼はそのまま突き進んだ。
必殺技の斬撃を身に受け、肉が裂け血が弾けようとも、彼はまっすぐ突き進んだ。
全くの想定外の行動に怪人は驚愕し、身を硬直させる。隙を生むつもりが逆に自身の隙を晒すことになろうと何と皮肉なことか。
無論、その隙を逃す獅子ではない。
一気に怪人の懐に飛び込むと、そのままレッド・ブロウを放った。
いや、それだけではない。スターガントレットをしていない反対の腕でも殴りつけていたのだ。
通常ならばそんな攻撃はレッド・ブロウより大きく劣るが、その拳に纏う炎が威力を高め、怪人にも通じるレベルにまで引き上げていたのだ。
まさに荒れ狂う獅子のように彼の拳は止まることを知らない。
一撃一撃が怪人の体を砕き、周囲に両者の血の雨を降らしてゆく。
ようやく彼の動きが止まった時、怪人は原形を留めてはいなかった。
その後、星辰族専属の医療機関によって早期に回復したスターブラックと違い、スターレッドは一週間ほど昏睡状態に陥った後に二ヶ月の絶対安静を余儀なくされた。
後に判明したことだが、スターレッドの感情が著しく昂るとそれに呼応するように彼の体内の超人因子が異常なまでに活性化し始めるのだ。その異常活性化した超人因子は彼に通常の何倍をも超える力を与えるが、その代償として彼の体は異常活性化した超人因子のエネルギーに耐えきれずに遺伝子レベルでの崩壊を引き起こしていたのだ。
この情報は当時彼らと敵対していた組織に伝わることとなり、人質を取るまではいいが彼を逆上させるような非道を行えば返ってスターレッドをパワーアップさせるだけと結論付けられ、以降星辰戦隊と戦う組織はこのような作戦をとることはなくなったという。
無論、怪人一人を犠牲にして彼を逆上させ続け、限界を超えて消耗させるという作戦も立案されることもあったが、激情状態の彼の戦闘力の上限が不明なこと、失敗した際の被害が想定できないことから幻想機関ですら彼と戦う際はできる限り正攻法で倒すという手段を主軸にとるようになったのだ。
「てなことがあってさ。近くで死んだふりしながら見てたけど、ああなったらもう打つ手なし。マジの詰み。ゲームオーバー。今の私でも死ぬ。だからあいつ相手にそう言うのはNGな訳よ」
『やべえっすね((((;゜Д゜)))))))』
『自分は見たことないけど、報告書は上がって来てたから知ってる』
『当時結構話題になったんだけどなぁ知らない人いるのが意外だわ@諜報員さん』
『なにそれちびりそう』
『外道作戦ダメ絶対』
『さっきアホなこと言ってた奴らは反省するように@諜報員さん』
『アイ』
『うす』
「…………さて、話してたら大分気分も良くなったし、さっさと殺しに行きますか」
両手を膝の上に置き、ゆっくりと立ち上がる彼女。
次に両手を組んで背を伸ばし、更に次に右側に伸ばした左腕を右腕で抱え体全体を右へと捻る。それが終われば反対の腕を同じようにして反対側へ捻る。所謂ストレッチと呼ばれる動作を一通りこなした後に、彼女は直ぐ近くにあった階段へ足を進める。
「面倒だけど、感じた気配を一つずつ潰していけば何時かエンカウントするだろうし、地道にやっていきますか」
残念なことに動く死体である僵尸を見逃す選択肢は彼女の中に存在しなかった。
余計なエネルギーを消費してまでも、彼女からしてみれば彼らが動いているのが我慢ならないのだろう。
こうして、彼女は今いる階層から下をすべて虱潰しに探すこととなった。
だが彼女は知らない。
牛魔王と鉄扇公主がいるのは地上二階であり、彼女からは遠い位置にいたことを。
それより上の階は警備のために巡回している僵尸しかいないことを。
故に、結果的に彼女一人で牛魔王がいる階までの全ての僵尸を殲滅するはめになることを、彼女はまだ知らなかった。
・洗脳面
面に触れた人物を問答無用で洗脳してしまう恐ろしい面。
なのだが、スターレッドは星座の加護で守られていたため効かず、戦闘員さんには素で効かなかった上に呪符を破壊され効力を失った。
・暴走
スターレッド特有の能力。彼の体内の超人因子は感情の昂りに呼応して働きを強める傾向があり、それが身体の許容限界を突破した状態のこと。
強力な力を得る反面、身体に多大なる負荷を強いる諸刃の剣。身体回復を得意とするヒーローでも彼を治すのに時間を要したほど、その傷は深かったという。
現在は暴走することは少ないが、いつかまた彼の前に外道が現れた時暴走しない保証はない。
・戦闘員さん
暴走時のあれは彼女のトラウマの一つ。必殺技の連打は流石に死ぬからね。




