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迫り来る魔の手、玉面公主 後編


「はああああああああああ!!」

「来ないで!!」


 スターガントレットを構え、彼女へと突進する。

 赤龍の突撃を食らってもなお立ち上がり、剰えこちらへと迫りくる彼を玉面公主は左手の呪符で迎撃する。

 しかし、それらは全て彼の右腕により殴り壊され一つたりとも手傷を負わせることができていない。

 その事実が更に彼女を追い詰めていた。


(どうしようどうしようどうしよう!? まさかまだ戦えるなんて思ってなかった……。この階にはまだ仕掛けができてないし、赤龍の再発動はしばらく無理だし、こうなったら()()を……駄目! それだけは駄目! あの子を使ったらこのビルだってただじゃ済まない。もしかしたらまだ隠れてる人もいるかもしれないのに、その人たちも巻き込んじゃう)


 黒龍とは玉面公主が使える術の中で間違いなく最強の威力を持つ術である。

 未だ道士として未熟な彼女に黒龍を御することは出来ず、発動したら最後術者である玉面公主が倒れるまで周囲を破壊し尽くしてしまう欠点が存在した。

 彼女にとってこれを使うということは相手の命を奪うということと同義である。

 だから躊躇ってしまう。

 ()()()()()()()()()()()()()()、命まで奪いたくない。


(そうしてしまったら、私は…………)


 そう考えた所で、はっと我に返り目の前の相手に意識を戻す。


(何を考えていたの!? 今は牛魔王様の命令が最優先でしょ。早くこいつを倒して、連絡が取れない混世魔王を見つけて、魂を集めさせないと。 …………いえ、その前に逃がせる人がいたら逃げてもらわなくちゃ、あの人に捕まったら魂だって使い捨てられる。それだけは阻止しないと――)

『駄目よ』


 脳裏に何者かの声が響く。

 それは若い女性のようで、ねっとりとした嫌な口調で彼女へ語りかけてくる。

 その声の一言一言が心の奥底へと染み渡り、彼女の思考を鈍らせていく。


『人丹を精製するのに魂は必要不可欠。だから一つたりとも逃したらだめ』

(でも、もう人丹は余るほどあるし、今更増やした所で)

『それでも駄目。あなたはあの人の愛人なのでしょ? ならあの人の為に魂を狩りなさい』

(…………そうですね。見逃す理由もないですし、運が悪かったと諦めましょう)


 彼女の心から迷いが消える。

 早く目の前の邪魔者を殺し、魂を蒐集するために、黒龍の発動を決意する。

 しかし、その為には時間が足りない。 

 黒龍の発動は赤龍よりも多くの準備時間を必要とする。

 せめて四十、いや追い込めば三十秒程の発動呪文を唱えることができれば、勝敗は決するだろう。


(けど、詠唱に力を取られて迎撃が疎かになったら、その隙きにあいつは食らいついてくる。でも、黒龍以外に私に手段なんて)

『あるじゃない。取っておきの手段が』


 再び響く声。

 それに疑問を持つこともなく、彼女は耳を傾ける。


()()()()()()()()。簡単なことでしょ』


 命を燃やす、つまりは生命力を術のエネルギーへと変換して無理やり発動させる禁断の道術である。

 確かにそれならば足りない力を補うこともできるし、なおかつ迎撃方面が衰えることもない。

 ああ、簡単なことだったじゃないか。そう思った彼女は早速自身の生命力を変換するために術を展開する。


(今日一日はもう術が使えなくなるくらい……、いや、手足の一本や二本が使えなくなるくらい絞り尽くせば、きっと倒せるよね)


 それはもはや真っ当な思考ではなかった。

 先ほどまでの悲しみに満ちた感情は消え去り、今の彼女は役割を果たすだけの人形へと成り果てていた。


「さあ、これで終わりで……す?」


 彼女が術を発動しようとしたその時だった。

 自身の右手を何かが掴んだのだ。

 ふと視線をやると、そこには透明な赤い龍が彼女の腕に巻き付いているではないか。


「赤、龍?」


 そう何を隠そう先ほど消えて再発動まで時間がかかるはずの赤龍だった

 先ほどよりもサイズは小さくなっていて、彼女の腕よりもやや長い程度の大きさでしかない彼が彼女の暴挙を制していたのだ。

 それは彼女以外の何者にも見えておらず、感じることもできてはいなかったが、彼は確かにそこにいた。

 まるで無意味に命を散らそうとしている主を諌める為に表れたかのように、赤龍は彼女の右腕を封じることで術の発動を防いでいた。


「今だ!」


 そして、赤龍に気を取られたその一瞬が、勝敗を決した。

 僅かに空いた弾幕の隙間、それを掻い潜りあるいは蹴散らしてスターレッドは突き進む。


「しまった!?」


 慌てて迎撃しようとしたが、もう遅い。

 スターレッドはすでに必殺の間合いへと踏み込んでいる。

 全身のエネルギーを右腕へと集まり、右腕全体を炎で赤々と彩らせる。

 まるで太陽のように輝きを放つそれはスターレッドが一番得意とする必殺技であり、レッド・レオよりも威力は劣るものの最速で放つことのできる必殺技。

 その名も、


「レッド・ブロウォ!!」


 煌めく右腕が、彼女の腹部を捉えた。


「きゃああああああ!?」


 殴りつけられた彼女はそのまま吹き飛ばされた。

 衝撃で力が抜け、漢剣も呪符も手放してしまう。

 まるで流星のように宙を駆ける彼女。それは五秒もしない内に終わりを迎えた。


「ぎゃんっ!?」


 廊下の端、外部と内部を区切る内壁へと激突した。

 壁に円形の窪みを作り、彼女は気を失った。


「はぁ……はぁ……はぁ……やったか?」


 そのままスターガントレットを構え、彼女から目を離さない。

 しかし、玉面公主が重力に引かれ廊下へと落下すると、彼も漸く警戒を解いた。


「……戦闘中、幾度も集中が途切れているように思えた。一体彼女に何があったんだ?」


 それは彼が戦っていた時にずっと気になっていたことだった。

 格闘技に精通し相手の呼吸や体の癖を見抜くことに長けた彼だからこそ気づけたと言える僅かな意識の乱れ。

 その乱れが判断を誤らせ、術のペースを狂わせた。

 もし彼女が万全体制でこの階へとやって来て先の赤龍のような大技を発動していたらこの程度の消耗ではすまなかっただろう。


「……いや、違う。そもそも彼女は最初から乗り気じゃなかった」


 そう、思い返せば彼女は最初から迷っていた。

 ヒーローであるはずの彼を逃がそうとしていたのがその証拠だろう。

 このホテルを占拠したのは恐らく宿泊客から僵尸を作ろうとしていたのだと考えられる。

 それなのに牛魔王の意思に反してスターレッドを逃がそうとした彼女の行動は余りにも不可解と言えた。


「まさか!」


 残虐非道な牛魔王の部下でありながら、怪人らしからぬ行動を取る彼女。

 高い実力を持つにも関わらず、意志の弱さを隠しきれていなかった彼女。

 相反する行動に彼は心当たりがあった。

 何を隠そうほんの数時間前にも同じようなことをされた仲間と戦ったばかりなのだ。

 急ぎ彼女に近づき、仮面を外す。


「やはり、洗脳か」 


 狐の仮面の裏、本来木面が露出しているであろうその部分がすべて呪符のような何かで埋め尽くされていたのだ。


(恐らく、この仮面を被った人間を支配する仕掛けなのだろう。……いや、正確にはそれだけではないはずだ。そんな単純な仕掛けだけなら、外した瞬間に洗脳が解けてしまう。定期的に被ることで洗脳が持続するような仕掛けでもあるかもしれない。何が洗脳のトリガーになるかわからない以上、これ以上調べるのは危険か)


 そう考え仮面を置く。

 彼女のことは他のヒーローか、治療機関に任せればいいと判断した。

 その時だった。

 冷たい風が彼の全身を突き抜けた。

 いや、正確には風ではない。これは殺気だ。

 まるで本当に突風が吹いたかと錯覚するほどに濃く凄まじい殺気が彼へ襲いかかったのだ。


「誰だ!?」


 反射的に振り返り、気配の発生源らしき扉へと向き直る。

 左腕を前に出し、何時でもスターガントレットを叩き込めるように構えることも忘れない。


「………………」


 静寂がこの場を支配する。

 突如として漏れ出た恐ろしい殺気。あれは生半可な怪人が出せるようなものではないとスターレッドは確信していた。


 (あれはまるで深淵から溢れ出した闇そのもののような、背後に死神が立っているかのような恐ろしさだった……。見過ごすことはできない)


 人一倍正義感の強い彼は正体不明の気配を見逃すことなどできなかった。

 たしかに今は牛魔王のことが最優先事項であり、道草を食べている暇などないのだが、それを見逃した結果さらなる被害が発生するということも考えられる。

 本来こういうときは状況判断能力に優れたスターブルーや頑強な装甲を持つスターグリーンが先行して偵察に行くのだが、不運なことにここには彼一人しかいない。

 恐る恐る、彼はその部屋へと向かう。

 扉の前に立ち、深呼吸。

 呼吸を整え、大声で扉の向こうの何者かへと語りかける。


「誰か、そこにいるのか? 俺はヒーローのスターレッドと言う者だ。不安がらせてしまったのなら申し訳ない。けれど怪人やテロリストではないので安心して出てきてほしい」


 もしも、本当に極わずかな可能性だが、あれを発したのはただの一般人だった可能性を考えて呼びかけたのだ。

 しかし、扉の向こうにいると思われる相手からの返答はない。


「ホテルの人には申し訳ないが、突き破るか」


 肝心の支配人は既に亡くなっているがそのことをスターレッドが知るはずもなく、ホテルの受付にいた支配人の顔を思い浮かべ謝罪しつつ、その右拳を扉へと放つ……その寸前だった。

 突如、彼から見て左の壁の中から現れた薄いピンク色の刃らしきものが五つ、スターレッドへ襲いかかってきたのだ。


「っ!?」


 警戒態勢だったこともあり、すぐさまそれに気づくことができたスターレッドは刃が突き出た方とは反対方向へと飛び退くことでそれを躱す。

 刃は壁ごと扉を六つの金属板に切断すると、音も無く室内へと消えていく。

 少し遅れて扉だった物が廊下へと崩れ落ちる。

 その残骸を踏みしめて、何者かが彼の前へと姿を表す。


「子供……?」


 それは玉面公主と似た背丈の子供であった。

 深く帽子をかぶり、上下のジャージを身にまとったその子供は

 左手に持った趣味の悪いスマートフォンが横向きで顔の前にあるせいで、テレビなどでよく見る黒い線のように顔の一部が隠れてしまって素顔を伺うことができない。


「君は、何者かな? どうして俺を攻撃する?」


 敵とは分かっていても、子供相手となるとどうしても口調が丁寧になってしまう。

 何度も災害や事件現場に赴いては救出活動していた時に染みついた癖のようなものだった。


「…………』


 だが、相手は沈黙して何も答えない。いや、それだけではなく。

 突如その子供は後ろ手に隠し持っていたそれをスターレッドへと投げつけてきたのだ。


(これは……消火器か!)


 そう、どこから取ってきたかは不明だが各階に最低一つは備え付けられている消火器を片手で放り投げてきた。

 消火器はくるくると縦回転を描きながら、彼へと迫る。

 危険物でもなく、戦闘服を着た状態ならたとえ頭部にぶつかったとしても傷一つ追うことはないので、とりあえず左腕で払おうとする。

 しかし、それは相手からしても予想通りの行動だった。

 消火器を投げて空になった右手、その指の先から先ほど彼を襲った薄いピンク色の刃が音もなく出現したではないか。


(そうか、あれは刃ではなく獣人系ヒーローや怪人が持つ爪のようなものだったのか。だが、この距離で何を)


 何をしようと言うのか、そう考えたところで彼は驚くべき物を見た。

 その者が雑に右腕を振ったかと思えば、その爪が指先から分離してこちらへと飛翔してきたのだ。


(回避を……いや、これは!?)


 触れるのは危険と判断し、体を僅かに屈めることで回避しようとして、その爪の進行方向にあるものを見て奴の狙いが何なのかを理解した。

 消火器だ。

 飛来したその爪は消火器へ吸い込まれるように衝突し、太い体部を輪切りにした。

 瞬間、内部に圧縮された窒素ガスと消化剤が一気に放出され、スターレッドの視界を白く染めた。


(しまった。こんな視界が効かない中じゃ、何をされても反応しきれない)


 そう、最初から消火器による攻撃などでなく、それを破壊することによって視界を塞ぐ心算だったのだ。

 いくら格闘技に精通した彼とはいえ、視界を塞がれた状態では本来の実力を発揮できるとは言い難い。

 襲撃に備え、スターガントレッドを盾にするように、腰を屈めたまま右腕を立て、拳の腹を顔の前に構える姿勢を取る。

 頭部と体を以外の防御を手薄にし、そこだけに集中することによって何があったとしても体と頭を守り抜き、一撃で戦闘不能に陥らないようにするためであった。


「……来た」


 足音を消してはいるが、僅かに少年少女特有の軽い足音が聞こえる。

 仕掛けてくる。そう確信したスターレッドは全神経を集中させ、迫り来る凶刃を迎え撃つ。

 しかしながら、実際にそれが起きてみれば、なんとも拍子抜けな有様であった。


(馬鹿な!?)


 トン、と彼の左肩に手が置かれる。

 あれほど警戒していたと言うのに、あっさりとそれを突破され自身の体への接触を許してしまったのだ。

 その瞬間、彼は死を覚悟した。

 あの爪がそこから出現し左腕をもぎ取られれでもしたら、この後の戦闘は圧倒的に不利な状況へと陥るのは想像に難くない。

 いや最悪その爪で左肩から右脇腹まで切断してしまえば流石のヒーローであっても死は免れない。

 怪人の間でもヒーローの生命力は強く、例え殺したとしても生き返るなどと言われてはいるが、そんな力は彼らにはない。

 その誤解を生むことになった異常な生命力の源は彼らの一部が保有する超人因子がもたらしているのだ。

 超人因子とは人間を人間のまま人間を強化し、人間を超えた力を発揮させる力を発現させる物質として知られている。

 その強化される機能には生命力も含まれており、例え首をへし折られたとしてもすぐに治療にとりかかることができれば数日で後遺症もなしに退院して任務に復帰するという驚くべき回復能力を見せることだってある。

 だがそれは所詮は人間が持つ能力の延長線上のことであり、頭を潰されたり首を切られたりなど即死するような攻撃をくらってしまえばどうしようもないのだ。


(ここまでか!!)


 そう覚悟したスターレッドであったが、予想に反して攻撃が来る気配はない。

 それもそうだろう。

 件の相手は彼の肩に手を乗せた後、そのまま片手でパルクール選手のように彼を踏み台にして奥の方へと飛び超えていったのだから。

 彼がそれを認識したのは消火器の煙が晴れた後のこと、自身に何の異常も起きないことを不思議に思い振り向いた彼が目にしたのは、倒れ伏す玉面公主のすぐ近くにしゃがみ込んだそいつがとある物を顔につけているところだった。


「しまった。狙いは俺じゃなくその仮面か!?」


 洗脳処置が施された特別な仮面、おそらく量産できるような代物ではないのだろう。だから危険を顧みずに彼と敵対してまでそれを取り返しに来たのだ。

 そう考えればあの突如漏れ出た殺気にも説明がつく。影から見ていたあの子からは彼が仮面を手にし持ち去ろうとしているように見えたのだろう。だから思わず気配が漏れてしまった。彼はそう結論付けた。


(姿形に惑わされるな。先の動きといい今の駆け引きといい、あいつは並大抵の相手じゃない。……やはり俺はまだまだだ、こんな時に仲間が恋しくなるなんてな)


 星辰戦隊全員が揃っていればと彼は思ってしまった。

 今までどんな強敵も困難も彼らと力を合わせて乗り越えることができていた。

 仲間から引き離され、まさに孤軍奮闘するスターレッドが彼らのことを思うのは至極当然のことと言えただろうが、彼にとってそれは甘えでしかなかった。

 一人だから? 仲間がいなかったから? だからどうした。

 超人ならば、ヒーローならば、例えどんな状況であっても人々の盾となるべき存在なのだ。

 彼が救えなかった命の、今も魂を駆られ死に瀕している人々の前でそんな言い訳なんてできるわけがない。


「出し惜しみして勝てるような相手じゃないか」


 本来ならば牛魔王まで温存しておきたかったゾディアックフォームの発動を決意する。

 ここで負けて志半ばで倒れるよりかは幾分かマシだと考えたからである。

 

「太陽の力をここに!」


 スターレッドが天に掌を掲げ叫ぶ。

 すると一瞬眩い閃光が周囲を照らしたかと思えば、彼の掌の中に不思議な円形の物体が収まっているではないか。

 童話に出てくる太陽の日輪を象ったようなその物体をスターレッドは自身のスターチェンジャーへとセットする。

 その物体の中央に開いた穴とスターチェンジャーの挿入口がピッタリ合う形で重なると、まるで本物の太陽のようにそれは輝き始めたではないか。


「チェンジ! ゾディアッ」


 間髪入れず、そうして出来上がった新たなスターチェンジャーにスタークリスタルをセットしようとした彼だったが、その寸前に彼は驚くべきモノを見た。

 それは彼がその環状の物体“ゾディアックリング”をスターチェンジャーへと嵌め込んだ直後のこと、こちらの様子を伺っていたその子は急にしゃがみ込んだかと思えば右手を後ろへ回し、そこにあったモノをこちらへ向けて投げつけてきたのだ。

 それは…………玉面公主だった。

 スターレッドの一撃で気を失い、無防備な状態の彼女をそいつは襟首を掴んで全力で投げ突けてきたのだ。


「危ない!!」


 ただ投げつけられただけならば避けるのも容易かったが、それが人ならば話は別だ。

 気絶していて碌に受け身も取れない彼女がその勢いで落下、もしくは壁にでもぶつかってしまえば、良くて重傷最悪死亡してしまうなんてことも考えられる。

 そして何よりも問題だったのは、これが相手にとってスターレッドを仕留める絶好のチャンスであったと言うことだ。

 彼女を受け止めるためには両手を使わなければならず、さらには飛んできた玉面公主で視界が遮られていたため、もし万が一玉面公主と共にあの爪が飛んできていたら彼は彼女もろとも切断されていても不思議ではなかった。

 これは罠だ、彼の理性がそう告げる。

 しかし、だからと言って目の前の命を見捨てていいわけがない。

 彼はゾディアックフォームへの変身をすぐに中断し、彼女を受け止めた。

 衝撃で彼女に怪我がないように気を遣ったもののその勢いは凄まじく、常人より強化されているはずの彼が一メートルほど後ろへ押し出されたほどだった。


「奴は!?」


 受け止め終えてすぐに、スターレッドは顔を上げて相手を探す。

 奴が立っていた場所に目をやるが、いない。

 まさか玉面公主に隠れて接近していたのか、とも考えられたが周囲を探ってもいない。

 念の為に背後を確認しても、見つからない。


「…………まさか、逃げた、のか?」


 彼を仕留める絶好のチャンスだったにも関わらず姿を消した相手。

 不可解であるが、彼にはそう考えるより納得できる答えを見出せることはできなかった。


「一体何だったんだあいつは」


 突如現れて襲ってきて、同じように突然消えた相手。

 その目的も、顔も声も、さらには年齢や性別さえも明かさずに消えたその子供。

 彼以外の目撃者もいないことから、それが彼が見た幻覚だったかもしれないと思えた。

 警戒を解き、玉面公主を抱いたまま立ち上がる。


「このまま彼女を連れて牛魔王のところへ行くことはできないな……どこか休めそうな場所は」


 周囲を見渡し、一つだけ空いてる部屋を見つける。……見つけてしまった。

 そこはあの子供が出てきた部屋で、鍵が開いているというか扉がない状態にまで防犯能力が退化したその部屋に彼は足を踏み入れる。

 そこに何者かがいた形跡はあるものの、それがあの子のものであるという確証はない。もしかしたら既に攫われた人の部屋だったのかもしれない。


「すみません。使わせてもらいます」


 顔も知らぬ部屋の主人に断りを入れて、玉面公主をベッドへと寝かす。

 風邪をひかないように布団をかけて、再び部屋を出ようとした時だった。


「へえ、随分とお優しいじゃないかヒーローさんよぉ」


 恫喝的な声が窓の外から響いた。

 反射的に振り返ったスターレッドが見たものは窓ガラスを粉砕し、室内へと降り立つ人影だった。

 赤みがかったドレッドヘアの黒髪を後頭部でまとめ、獣のような紅い眼を持つその男。

 彼はその手に持った奇妙な槍、穂先から刃全体が炎に包まれたその槍をスターレッドへと向ける。


「俺の名は紅孩児(こうがいじ)。牛魔王が息子にして父を超える者! さあ名乗りなヒーロー、俺が倒した野郎どもと一緒に死ぬまで覚えていてやるからよ」


 荒々しい声をあげ、スターレッドを挑発する紅孩児。

 交戦は避けられないと悟ったスターレッドは同じく構えて自身の名を告げる。


「俺は星辰戦隊スターセイバーのリーダー、獅子座の戦士スターレッド! 気は乗らないが、相手になってやる!」


 直後、二人はそれぞれの武装をぶつけ合い死闘を繰り広げることになる。

 この時二人は思いもしなかった。

 二人が争っている間に牛魔王一派が壊滅しているなどとは、彼らのみではなく現場に駆けつけていたどのヒーローにも察することはできなかった。

・玉面公主

 洗脳されていた反動でしばらく起きない。

 本来はヒーロー側の子、その実力に目をつけた鉄扇公主に洗脳された。


・紅孩児

 ヤンキー系怪人。中の上くらいの強さがある。炎系の技が得意で、この炎は水では消えない特性を持つ。


・混世魔王

 実は玉面公主が寝ている部屋のシャワールームに押し込められてる。




・感想の返信について

 すいません、どう返答しようか悩んでいたのですが、流石にネタバレになりそうなものはスルーさせてもらいますorz

 感想をもらえること自体はとても嬉しく、創作意欲を掻き立てられるので、どうか好きなようにコメントいただけると幸いです

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― 新着の感想 ―
[一言] あ、これは仮面が本体のパターンか
[一言] 「C・Q・C!」(首グギッ!by首折られ牛魔王)
[一言] レッドブロウを放つカットで必殺技が『~必殺話』になっとります。
感想一覧
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