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1話

 

 まだ夜が明けきっていない早朝。


 ぐおー、とお腹の音がなって目が覚めた。

 自分のいびきで目が覚める人は意外といるだろうが、空腹で目が覚めるのは俺ぐらいではないだろうか。

 

 ぐー……ぐぎゅる、ぎゅるるー。

 

 けたたましく食事をしろ、と告げる腹の虫に急かされるままに、俺は気だるい身体に鞭を打ちむくりと身を起こした。

 

「……狭い」

 

 あー……。

 いつの間にこんな状態になったのか。  

 

 室内は見る様に混雑していた。 

 四方八方窮屈そうな状態で、俺に寄り添うように寝ている子どもたちがいたからだ。

 昨日寝た時は一人だったはずなのに、何処から集まってきたのか。 

 

 ここは雑多なスラム街に近い、古びた教会の一室だ。

 ボロボロで放置され、今にも崩れ落ちそうな天井に、もう明らかに隙間風というよりも、早朝の肌寒い風が入り放題だったが、室内の人数過多のおかげかそこまで寒くはなかった。

 そう、確かに寒くはない。が、ーー邪魔だ。

 

 足の踏み場もないとはこのことか。

 普通、この状態で室外に出ようとするなら、子どもたちを起こす必要があるのだが。

 

「ん……、っと」

 

 トン、と対して力も入れずに床を蹴ると、入り口の歪んだ扉枠の奥にゆっくりと着地し、できるだけ物音を立てないようにした。

 振り返って見ても、誰も起きる気配はない。

 子どもたちは寝息を立てながら、すやすやと気持ちよさそうに寝ていた。

 

 ぐるりと室内を見回して気づく。

 歪んで通常の扉として使用できなくなっていたドアは、邪魔だったので枠から外し、そこらに放置していたのだが、この様子だとわざわざ片して、俺の周りを囲むように陣取ったのだろうか。

 一応孤児である身なので、寝ていたとしても周囲の気配には敏感だったはずなのだが。

 

 子どもたちだけであったから助かったが、これが悪意ある大人であったならば今頃俺の命はない。

 気を抜きすぎているな、と反省する。

 

 力を持っていても、就寝時にいきなり襲われたら対処のしようがない。

 まあ、一撃必殺でなければ挽回できる力は持ってはいる。

 だが、そういう状態に陥らないように、事前に反応できるようにしてしかるべき、だろう。

 

 ーーこの世界には神の贈り物(ギフト)と呼ばれる力がある。

 

 例えば剣術とか、錬金術、魔法……等々、それなりに色々あるみたいだが、俺はそんなに詳しくはない。

 有り体に言えば、前世のアニメやライトノベルによく出てくるヤツだろうか。

 

 そう、前世だ。

 転生モノなんてネットでの流行りのヤツに、まさか自分が該当することになるなんて、誰が考えるだろうか。

 

 俺のーー三上彼方(みかみかなた)の場合は、転生するときに神様に会ってはいないので、転生特典なんて貰えていないし、この世界に生まれてチート級の贈り物(ギフト)なんてものもなかった。

 だから、俺が持っているこの力は、この世界で獲得したものではない。

 

 元教会の廃墟から外に出てきて、改めて自分がいる異世界(ばしょ)を眺める。

 路地はでこぼことしていてコンクリート舗装なんて何処にもない。

 周囲を見回しても、草がぼうぼうと好き勝手に生えているだけで、廃墟はもう長年人の手が入っていない状態のようだった。

 ギィギィと錆びついた門が風に揺れる音がしていた。

 朝が早いせいで人影は見えない。

 

 まあ、スラム街に居着いている人たちの多くは昼夜が逆転しているのが常だ。

 だから、今から寝るという生活環境の人の方が多いだろう。

 

 一応庭? 的な空間に移動して、んーと背を伸ばして身体をほぐしていく。

 怪我をしないように軽いストレッチを開始する。

 

「ふー……」

 

 息を長めに吐いたり、止めたりしながら、念入りに動かす。

 一連の動作に淀みはなく、これは毎朝の日課の賜物だ。

 昨日と変わりない身体の調子を確かめながら思う。

 

 前世(むかし)今世(いま)

 俺の場合、前世(むかし)から頭と身体が乖離して行動することはよくあることだった。

 ダウナーな気分に陥っているような時でさえ、身体は感情に左右されることがなく、一連の流れであるかのように滑らかに行動してしまう。 

 それは前世で培ってしまった防衛機制という、ーー簡単に言えば現実逃避だろう。

 人は何らかの葛藤や痛みを予感したり、危機に直面すると自分を守ろうとする心の防衛反応が働くもの。

 俺のそれは記憶をリセットできなかったせいで、継続してしまった前世の負の遺産の一部だ。

 だが、それこそが今世の命を繋ぎ止めた一因でもあった。

 

 ストレッチの最後に大きく手を広げ、静謐な空気で頭と身体を覚醒させるために、すぅーはぁーと深呼吸を一つ。

 世界に自分を定着させるように、隅々までコントロールできるように、身体の内にある魔力を循環させる。

 これは今世(いま)の自分が手に入れていた力だ。

 俺が持っていた魔力は膨大な量であったのだが、それを魔法として現出させるための技能を持っていなかった。

 魔力が出入りするための経路がなかったのだ。

 

 ちなみに。

 たとえ魔法が使える技能がなくても、魔力を込めれば魔石は動くので、庶民であっても火や水等の魔石で身の回りの洗濯や料理の際に使用するのが一般的だ。 

 魔法という力は、この世界ではありふれたもので、誰もがその力の恩恵を受けていた。

 ーー俺以外は。

 

「魔法の力、か」

 

 自分の両手を見ても、特殊な魔眼など持っていないので、魔力の可視化なんてできやしないが、自分の中にある魔力は認識はできている。

 俺に出来るのは魔力のコントロールと、それに付随してできた朴訥な肉体強化だけ。

 まあ、それができるだけでもマシになったほうだ。

 

 この暴力的な魔力の上に、心身の成長に合わせてなのか、日々増量されていく魔力量が身体に負荷を与えてくる。

 俺は、常に魔力酔いと言われる魔力の飽和状態の中で生きてきた。

 ぼんやりとした意識で、この過酷な異世界で生き抜くなんてあまりにも無謀だった。

 だから、俺の人生はこの異世界の片隅で呆気なく野垂れ死んで終わるのだと思っていた。

 だが、何の因果か俺の命運は尽きなかった。

 

 孤児であることで引き寄せた暴力と飢餓の極致と、まあ様々な要因があったのだろうが。

 それまで、微かに無意識の領域で下地となっていた前世(むかし)の記憶がはっきりと覚醒した。

 

 スイッチが切り替わったように、見えていた世界がはっきりと圧倒的な情報量を持って前世(じぶん)を叩き起こした。

 夢の中で追体験することで、薄くぼんやりとして散らばっていた意識が、今の惰弱な有様では生きていけないと奮起でもしたのか、前世(むかし)の記憶を元に再構築されたようだった。

 

 ーー思い出したのだ。

 俺にはこの状況を打開できる力を持っていた、と。

 

それは、前世の世界では眉唾物であったはずの『超能力』という力。

 超能力者、サイキック……あるいはPSI(サイ)

 ESPER(エスパー)と呼び名は色々あるが、総じて科学では証明できない空想の域を出ない不思議な能力を扱う者のこと。

 そして、その力を俺は確かに持っていた。

 そう認識した途端、身体に宿る超能力が把握できた。

 

 ・ESP 超感覚的知覚

 ーー五感ー視覚、聴覚、臭覚、味覚、触覚ーや論理的な類推などの通常の知覚手段を用いずに、外界に関する情報を得る能力。

 

 ・念話 テレパシー

 ーーある人の心の内容が、言語・表情・身振りなどによらずに、直接に他の人の心に伝達される能力。

 

 ・透視

 ーー通常の視覚に頼らず、外界の状況を視覚的に認識する能力。

 

 ・念聴

 ーー通常の聴覚に頼らず、外界の音を認識する能力。

 

 ・念臭

 ーー通常の臭覚に頼らずに、現実には存在しない香りを感知することができる能力。

 

 ・遠隔透視

 ーーその場にいながらにして遠隔地にある対象や物体を視覚的に把握する能力。千里眼とも言う。

 

 ・未来視

 ーーこれから起こる未来を予測できる能力。

 

 ・未来予知

 ーー現在獲得している知識や経験則を使っての推測によらずに、未来に起きる出来事を前もって知覚できる能力。

 

 ・念視 サイコメトリー

 ーー物体の残留思念を読み取る能力。

 

 ・過去視

 ーー既に知られている方法に頼らずに知れることのできない過去の情報を知覚する能力。

 

 ・皮膚視覚

 ーー視覚を使わずに皮膚で触れることで対象の色を識別できたり、書かれている文字や図形を知覚できる能力。

 

 ・PK 念力

 ーー意志の力だけで手を触れずに物体を動かす能力。

 

 ・念動力 サイコキネシス

 ーー念じ(衝撃波など)を発生させて物体を動かす能力。

 

 ・借力ちゃくりき テレキネシス

 ーー手を触れずに思念で物を動かす能力。

 

 ・瞬間移動 テレポーテーション

 ーー自分自身が離れた場所に瞬間的に移動する能力。

 

 ・物体取り寄せ アポート

 ーー別の場所にある物体を取り寄せたり、物体を何処からともなく登場させる能力。

 

 ・物体送信 アスポート

 ーー物体を別の場所に送ったり、何処へともなく消し去る能力。

 

 ・空中浮揚 レビテーション

 ーー自分自身や他人や物体を空中に浮かせることができる能力。

 

 ・念写

 ーー心の中に思い浮かべている観念を印画紙などに画像として焼き付ける能力。

 

 ・超能力治療 ヒーリング

 ーー通常の医学的方法によらずに病気の治療を行う能力。

 

 ・発火能力 パイロキネシス

 ーー火を発生させることのできる能力。

 

 すべてを遺憾なく発動させることができるわけじゃない。

 一度も使ったこともない能力もある。

 だが、この世界でも行使できるとはっきりと認識した。

 異世界で欠けていた欠片(ピース)が、俺が彼方(おれ)となり、かちりと音を立てて誕生した。



 その意識の切り替わりこそが、俺の転換点(ターニングポイント)だった。

 



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