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69話:ソレイナ修行編02

 


 クルラホーンの《自己の世界(ファンタズマゴリア)》に取り込まれたソレイナが最初に感じたのは目眩、軽い嘔吐感、動悸であった。



(ううっ……キモチワルイですわ)



 だが同時に脳内に広がる強い幸福感、そして程よい眠気による快楽へと誘われる。



(これは精神攻撃……いえ毒!?)




 痺れた理性が誘眠に屈しようとするが、ソレイナの僅かに残った理性がその誘惑を断ち切る。



(……《頑健抵抗(フィジカルレジスト)》……)



 恐らくこの《自己の世界(ファンタズマゴリア)》の空気に、何らかの毒が含まれていると考えたソレイナは、ひとまず身体の抵抗力を上げる《頑健抵抗(フィジカルレジスト)》を自身に使用し毒に耐え様子を見る。


 こういう時に焦って《毒無効》や《身体快方(メディヒール)》などを使うのは2流のすることだ。


 以前に降竜と呼ばれる降神の眷属の討伐において従軍したソレイナはその教訓を身を持って学んだ。


 降竜のパッシブスキル《毒気流》は周囲に毒を撒き散らす厄介なものであったが、ソレイナは《毒無効》を使用すれば問題ないと考えていた。



 そしてその時《毒無効》を使用したが、毒を完全に防ぐことは出来なかったのだ。



 防げなかった理由は《毒無効》の魔術は魔術式に記憶された毒は防ぐことは出来るが、記憶されていない毒は防げないのだ。


 だが勿論ソレイナはそのことを承知していたので《毒無効》で防げない毒は瞬時に解析し、すぐに術を改良すればいいを考えていたが複合毒そのものを想定から外していたのだ。



 例としてAという毒があったとしよう。


 この毒は《毒無効》の魔術で防ぐことは出来る。


 そして次に用意したBという毒は《毒無効》では防ぐことは出来ない。



 そしてその毒を特殊な調合で生み出されたCという毒が術者を侵し《毒無効》の魔術を使ったとすれば、どの様な結果となるだろう。


 答えはCという毒に内服されているAの毒素は防げるが、Bの毒素とCそのものの毒は“防げない”のだ。



 そして《毒無効》の効果と《頑健抵抗(フィジカルレジスト)》の魔術は共存が難しい為に、毒に対処する手間が増え結局戦列に加わるのが遅れることになったのだ。



 同行していた聖騎士のレグルスからは「最初のうちはそんなものだ」と言っていたが、一瞬の判断違いが生命取りなるのは戦いの常だ。



(……なるほど、こういった“モノ”でしたか……)



 体内の毒の解析を終わらせたソレイナは《毒無効》の魔術を使用し、身体の毒素の抵抗・除去を行う。



「さすがアイツの孫だ。魔術の実戦知識は身に付いているようだな」



 クルラホーンは先ほどまでの様な気だるげな様子はない。


 不敵な笑みを浮かべ



「ようこそ!俺の《蒸留所》へ!」



 《蒸留所》と言う言葉にソレイナは納得せざるを得なかった。


 解析した毒は《酒》であった、それも匂いだけである。


 酒の匂い程度と思うが、この匂いは理性を溶かし尽くし、もし口にすれば人間の正気など一瞬で溶けてしまうほど危険な代物だろうとソレイナは推察する。



(毒無効でも完全に消去出来ないなんて、なんてタチの悪い……)



 魔術で前後不確な容体は脱したが、軽い立ち眩みは収まらない。


 それだけこの力場に乗った酒の匂いが強烈だからだろう。



「ここは貴方の《自己の世界(ファンタズマゴリア)》なのですか」



 急な空間の変質、そしてモルゲンの《自己の世界(ファンタズマゴリア)》の感じ取った感覚から判断するが……



 クルラホーンはそれに答えるかの様に不敵な笑みを浮かべながら、《蒸留所》から樽を一つ取り出し、その蓋を叩き割り、何処から取り出したのか(カップ)で酒を一杯煽り飲む。



「くぅ〜〜しみわたる〜〜♪ 言っただろ魔導式を授けてやるってな。なのでオマエには試練ってやつを受けてもらう」



 クルラホーンはそう言って(カップ)で樽の酒を一杯分汲みあげ。



「ほれ、オレの特製の酒だ。最高の時期に仕込んでたっぷり寝かして飲み頃だから美味えぞ」



 盃の酒を突き出されたソレイナは血の気が引く思いであった。


 魔術の鑑定をするまでもなく、この酒はヤバい代物だと第六感が銅鑼を鳴らし続けるほど警鐘を続けている。



 毒素とも言えるこの酒の匂いの発生源はこの酒で間違いない。



(こんなものを飲んだら……間違いなく発狂してしまいますわ)


 酒を飲んだことがないソレイナには酒酔のことはよく分からないが、間違いなくこれを飲んだら普通の酔っ払いの様な酔い方にはならないだろう。



 最悪、廃人だ。



「あの……(わたくし)医者からお酒を飲むことを止められていますので……」


 同僚の司祭が、酒の席を断る時の定番を言ってみる。


 同僚は『この手に限る』といつも言っていたが……



「おうそれはいけねえな……なら三杯は呑まねぇと」



 そう言って盃を二つ追加し、更に二杯汲み上げるクルラホーン




(どうしてそうなる!!)




 表面上は引き攣りながら、にこやかに対応しているが頭を抱えて叫びたい衝動がソレイナの心中に溢れる。



(アリアは攫われる。貯めていた蓄財は目の前の精霊に呑み尽くされる。あげく毒を煽る様に飲まなきゃならない!!今日は厄日ですわ!!!)



 そう叫べたらどれだけ楽だろう。



「あ、ちなみにこれを呑まねえと魔導式の話しはなしだ」



 退路は絶たれた。


 ソレイナは覚悟を決め、盃の一つを手にしその中身を見つめる。


 琥珀色の宝石の様な輝きが器に満たされ、見つめる者を誘う豊潤な香りが鼻腔をくすぐる。



(意識が蕩けそうな香りですわ)



 しかし、その香りは精神をも溶かし尽くす危険性を孕んでいるものだ。



(それならば!)



 ソレイナは《頑健抵抗》と、匂いにより改良を施した《毒無効》、そして魔術の奥義とも言われる《潜在能力解放Ⅲ(ハイポテンシャル)》を己に使用し、一杯目の盃を煽り呑んだ。


 《潜在能力開放Ⅲ》は強化魔術の奥義の一つであり、身体能力、精神抵抗力、あらゆる能力を魔力により上限開放する最高位のものだ。


 恐らく世界広し、歴史的に見ても酒を飲むのにこの魔術を使用したのはソレイナが初であろう。



(ま、まずは一杯!!)



 正直、味は分からない。


 そんなものを味わう余裕など彼女にはなかった。



 身体を内部から炙る様な感覚、それは苦痛ではなく痛みを越えた快楽だった。



(…あ!こりゃ、だめでふっわ!!)



 すかさず二杯目を手に取るソレイナ



 その行動は理性によるものではなく、更なる快楽に堕ちようとする本能であり



(……おぃふぃよ〜♪)



 彼女の脳内から悩みも、苦痛も、理性も完全に溶けていた。



 二杯目を呑み終えたソレイナは唾液を流し、悦楽の本能を剥き出しにした蕩けた表情で三杯目を手に取り、それも貪る様に口の横から垂らしながら、砂漠でオアシスの水を飲む旅人の様に煽り呑む。




「きゅう〜〜〜」



 酔いにより真っ赤な顔をして奇声を上げながら、ソレイナは仰向けにぶっ倒れ意識が完全に落ちた。



「ほう〜三杯呑み切ったか!いい飲みっぷりだ」



 わはははっと大笑いするクルラホーン。



「ま、今は幸せな夢の世界で休め。その夢で何を掴むかはお前さん次第だ」



 それは、もし他人が見たらとても優しい表情だと感じる笑顔であった。








 ―――――パキッ



 自身が小枝を踏み割る音で少女の意識が蘇る。



(えっと、(わたくし)は何を……)



 記憶が混濁する様な感覚が少女の脳内で駆け回り、自分は何でこんな森の中を彷徨っているのだろうと思い出してみるが



(あれ…あれ……)



 頭に浮かぶのは懐かしい記憶であり、秘密に魔術の特訓をし、祖父を驚かしてあげようと考えていたことであった。


 自らの手を見るととても小さい子供の手で、おまけに目線も低い。


 現状を知れるものは無いかと、自身の背負っていた小さな背負い袋を地面に置きその中身を確認するが、中に入っていたのは魔術の教本、携帯食料、水の入った水筒、保温効果と撥水性のある魔術具(マジックアイテム)の布、あと簡易的な裁縫道具だった。



(どれも今の状況を知れるものはありませんわ)


 がっかりするが、背負い袋の隠しスペースに薄い金属板の様な物が入っていることに気付く。


(これって……)


 それは金属製の鏡であり、鏡に映る自身の姿は彼女にとって懐かしいものであった。


(四歳か五歳といったところでしょうか……)


 ソレイナは幼い頃の記憶を辿ってみるが、思い当たる節がある。



 魔術の才能に溢れ、教えれば教えた分だけ吸収する自分に祖父は我が事の様に喜んでくれたことが嬉しく、そして祖父をもっと喜ばそうと、王都の植林地に秘密の特訓をしに来たことを思い出した。



(……そんなこともありましたわ……)



 そしてそこで一つの出会いがあった……そう、大切な出会いが……



 幼いソレイナは歩み出す。


 もう一度あの大切な出会いを果たす為に





 ―――――ヒック……ヒック……



 小さな子供が嗚咽を上げる声がソレイナの耳に届く。



(確かこの辺りに……)



 ソレイナが辿り着いたのは一本の古木の前であった。


 その古木の根元には洞窟の様な(うろ)が開いており、そこには自分と同い年くらいの"少年"が脚を抱え、俯きながら泣いていた。



(やっぱりどう見ても男の子にしか見えませんわ。これが将来()()なるとは不思議なものですわね)



 ソレイナは将来のアリアの豊かな姿(特に二つのお山と)、目の前の少女との差異を思い浮かべ、心中に苦笑いを浮かべる。


 目の前の少年らしき少女は髪も短く、色黒で、体付きも少年の様な体型であり分からなければ男の子と勘違いしても仕方なかった。



「あなた、なにを泣いておりますの」


 ソレイナは目の前で泣いている少女に話し掛けるが、その言葉にふと可笑しさを感じてしまう。



(先日もこんな感じでしたわね……成長していないと言うか、見た目ばかり変わって何も変わっていないというか……)



 顔を伏せたままゆっくりと上目遣いにソレイナを見上げ、「ひっく、ひっく……」と嗚咽を上げながら辿々しく話し始めた。



「……ヒック……ダぁれ……?」



 しゃくり上げながらで完全に言葉になっていなかったが、意味は分かる。



「人に名前を尋ねる時は自分から名乗るのが礼儀ですわよ」


 ソレイナが受けた祖父の教えである。



「ヒック……アリィ…ア……ヒック……」



(そうでしたわね……)



 この時この子は自分のことを"アリア"と言ったのだろうが、子供特有の舌足らずとしゃくり上げで別な名前に聞こえたのだ。



「あなたの名前は"アリィ"ですわね」



 正直この容姿と名前で"男の子"だと認識してもそれは仕方ないと、若き日の過ちに苦笑するソレイナ。



「ちがう……アリィじゃない……アリア」


「アリア……男ですのに女の名前ですわね……やっぱりアリィでいいですわ」


「……」


 ソレイナが言い切ったことに、もうどうでもよくなったのかアリィと言う名前を受け入れるアリア。




(しかし何なんでしょうね。この感情は……)


 悲しみに落ち込むアリィに対し胸中に過る感情がある。


 怒りなのか、哀れみなのか



(まあいいですわ……)



「次は(わたくし)の番ですわね。ソレイナですわ」


 この頃ソレイナは如何に自己紹介を上手く出来るか姿見の前で練習していたので我ながら完璧だと自画自賛するが



「……ソレ……いにゃちゃん? ねこさんみたい〜」



 舌足らずな子供らしい発声のアリィではソレイナの名前を言い切ることが出来なかったようだった。



「ソレイナです! ソ・レ・イ・ナ!!」



 ソレイナの剣幕に再び涙目になるアリィ


(あ、やってしまいましたわ)


 この頃のソレイナの内面は年齢のわりに大人びており、同年代の子供にはよく怖がられていたことを思い出す。



「はぁ……言いにくいのでしたら"ソレナ"でいいですわ、アリィ」



 ソレイナことソレナは宥める様に言うとアリィは泣き止み、笑顔で「うん」と頷く。


(そう言えばこの時、弟が出来た様な感じでしたわね)





 それから二人は色々なことを話した。


「そう言った訳で(わたくし)は、せいじょになる為に魔術の特訓に来たのですの」


「かっこいい!すごいよソレナちゃん」


 アリィからの羨望の眼差しに気分を良くするソレナ。


(こんなに目を輝かせて、やはり子供ですわね)


 この思い出は大切なものであり、表面上、ソレナは平気そうであったが、この頃は両親が亡くなって一年が経った頃だ。


 ソレナは認めたくないのだ。


 大好きだった両親が亡くなったことを……


 故に亡くなって一年が経ったと言うのに一度も墓に参ることはなく、両親の墓に参ったのは聖地からの修行から帰って来た(とお)を過ぎてからだ。


(この頃、人と心から関わった記憶は数えるほどでしたわね)


 この娘は(わたくし)を可哀想な人とは見なかった。


 大司教の孫とも、そして……



 ただ暖かな友人であった。




 そして幾日か時は流れた。


 人からすれば、ただ子供達同士の他愛もない友誼の記憶


 ただの追いかけっこもした。

 野営まがいのことをして笑い合った。

 互いに演技を混ぜた本の内容の演じあいを行った。

 アリィはとても歌が上手で、歌が下手なソレナはとても羨ましく感じた。




 ある日のことだ。


「アリィの家族は心配していないの」


 周囲の闇を焚火が照らす。


 いつもであれば日が暮れる前にはソレナとアリィは帰路に着いているのだが、今夜は今までの野営の練習発揮する為に、夜営をしてみることにしたのだった。


 二人で楽しく準備をし、管理者の見廻りを誤魔化す為に魔術で対策し、最後に火災にならない様に手順を兄代わりでもあるレグルスに確認を取ってもらってのことだった。


 レグルスは「……ま、ほどほどにな……」と言って先ほど帰って行った。


(頼りになる兄ってこんなものなのでしょうね)


 そしてレグルスとソレナの会話をアリィは何とも言えない表情で見ていた為に、それとなく聞いてみたのだった。



「……心配しているとは思うけど……ううん……それは私の心配じゃない!」



 どういうことなのだろうか、意味が良く分からない。


 この時ソレナは自身の両親のことに触れたくなかったので早々に話しを切り上げたが、今のソレナは違った。



(一体この子に何が……)



 この時はアリィがアリアだと知らなかったので、彼女の母がメリアだと知らなかった。


 だが今のソレナはこの子がアリアだと知っている。


 そしてその母も……



「そんなことを言うものではありません。(わたくし)の勘ですが、お母様は貴女のことを愛しておりますわ」


 それは勘などではない。


 以前メリアがクラリオスに相談していた内容を聞いたことがあったのだ。


 盗み聞きではなく偶然の事故なのだが……


(我ながら子供でしたわね)


 最初は聖騎士の英雄とまで言われたメリア見たさに部屋に隠れて祖父との話を伺って見ていたのだが、メリアの話しの内容は娘に対する悩みであった。



(正直、その娘が羨ましいと感じました。こんなに想ってくれる母が居るのに、何でその娘は親の気持ちを解かろうとしなかったのかと)



 ―――――(わたくし)には、もう知りたくても知りようがないことなのに……



 アリアのことを気に入らなくなった切っ掛けはそんなところだろう。


 だが、ソレナの気持ちも知らずアリィは感情的になり


「そんなわけない! だっておかあさんは、わたしのおかあさんじゃないって!! もう帰りたくない! おかあさんなんて、おかあさんなんて、だいっきらい!!!」


 あの時のソレナはアリィのその言葉を黙って聞いていた。


 自分には愛する両親がまだ居ると思い込み、親を失ったその悲しい感情を封印するかのように沈黙を貫いたのだ。


 ソレナの脳裏に、かつての両親の思い出が蘇る。


 あの頃は両親はいつか必ず帰って来てくれる。


 そしてまた家族との幸せな日々が帰ってくると信じていた。



(そんなことはありえないのに)



 死んだ人間にはもう会えない。



 ――――あの頃の(わたくし)には受け入れられなかった。



 だが、両親の墓標で確信し大泣きした(わたくし)はもう受け入れられる。



 ――――悲しみを乗り越えた、今の自分なら






 ソレナは俯き落ち込むアリィをそっとその胸に抱く。


 アリィはいきなりのことでまだ何か言おうとしていたが、そっと頭を優しく撫でると大人しくなった。


(懐かしいわ。昔グズったら母様にこうして撫でてもらったな……)


「アリィ大丈夫ですよ。お母様は貴女のことを愛しております」


 アリィは小さな声で「でも……」と呟くが


「アリィは、何か失敗したことなどはありますか」


 突然なソレナの質問にアリィは言いにくそうに言い始める。


「おさらを運ぼうとして、落として割ってしまったの……」


「……大人は全員完璧な人達ばかりではないのですよ。アリィ」


「貴女のお母様は凄い人ですが、親としては悩み、苦しむ普通の人なんです」


 アリィはソレナのその言葉に顔を上げその瞳を真っ直ぐ見つめる。


 密着していたこともあり、その距離は吐息が交じりそうなほどであった。


「アリィが皿を割ってしまった様に、間違いを犯してしまうこともあるんです。だからもうお母様を許してあげなさい」


(あの時に、こう言えていれば何かが変わったのでしょうか……)


 本来ならこのあと夜営が終わったあと、ソレナは類稀なる魔術の素養を伸ばす為に聖域(サンクチュアリ)へ数年間の修業に旅立った。


(……未練ですわね……)


 別れを告げられないソレナの中に、長年残った僅かな引っ掛かり、年齢を重ねることによって薄れはしたものの消えることはなかった想い。


 ソレナの背に蘇る暖かな手と涙……そして……


(わたし)と友達になってください』


(今度は(わたくし)の番ですわね)


「アリィ……(わたくし)は明日聖域……遠い所に旅に出ます。だから今夜でお別れです」


 その言葉にアリィは一瞬驚きの表情をしたあと、その言葉を理解したあと泣きそうな表情になる。



「……いや……ソレナちゃんとお別れなんていや!!」


 アリィはソレナから離れると踵を返し暗闇が支配する森の奥へと駆け抜けて行った。


「ま、まちなさい!!」


 話しを聞いて欲しかったと言う思いもあったが、暗闇の森を灯りもなく幼女が一人で駆ける危険性を考慮しての言葉であり、ソレナはアリィの後ろを追い掛けたが……



(い、いない!どういうことですの)



 子供の足だ。それにアリィは動きも機敏と言えるほどでもないので、すぐに追い付けるはずであったがその姿を見つけることは出来なかった。



(一体アリィは何処に!)


 突然消えたアリィに対して、ソレナの内心に焦りが生まれる。



(それに……)



 辺りの闇が一層深くなる。


 もう先ほど自分たちを照らしていた、焚火の灯は失われ闇が支配する世界へと変わっていた。



(くっ……月明かりの一つでもあれば……)


 普段なら闇視の魔術を使用し周囲を見渡しただろうが、この子供の姿では当時使えた魔術しか使用することができずに、突然の暗闇にどう対処するか考えていたソレナであったが、どうやらその必要は無くなった様だった。



 周囲に大人の手のひらと同じ大きさの灯りが無数に漂う。



(これは……光蟲……ではありませんわね)



 体内に魔力を貯め光る蟲の存在を連想するが、光蟲にしては光の大きさが大きい。


 漂う光蟲の輝きに照らされ周囲の光景が照らされる。


 森林であることは変わらないが、雰囲気が先ほどまでアリィと過ごした場所とは到底思えなかった。



(まるであの時の様ですわ)



 以前に、レグルスと神官戦士団との魔獣討伐に参加した時の様に周囲のヒリつく感覚がよく似ていた。



 ソレナは膝を付き地面の状態を調べ始める。


『いいかお嬢、こういった所で仲間とはぐれた時は目印や地面の痕跡を探すんだ』


 その時にレグルスから伝授された、冒険者の《レンジャー》の心得が蘇った。



(……見つけましたわ!)



 アリィらしき子供の足跡を見つけたソレナはその跡を辿り駆け出す。




 駆け出し進む先には多くの光蟲らしき灯りが増えていく、幻想的な光景であり、このような状況でなければ酔いしれたことだろう。


 辿り着いた開けた場所には灯りが輝き、まるで日中の様な光が支配していた。


 開けた場所に一歩踏み出したソレナに反応する様に光が集まり、それは一人の人物となる。



(あれは……!!)



 光が模った人物……それは自分



 ソレイナの姿をした人物であった。



初めましての皆様、そしてお久しぶりの皆様、今回もお読み頂きありがとうございます。


まずはお礼を、PVが70000も越え本当にありがたい限りです。

お読み頂いている皆様がいらっしゃるからこそモチベが保てております。感想なども本当に嬉しく思っております。


現状、仕事の年末進行でヒイヒイ言っておりますが、何とか続きは頑張って書きますのでどうかよろしくお願いいたします。


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