67話:親友 その4
エルリカの話しは、自身が知りうる今のアリアの現状の再確認から始まった。
「……署名運動は思っていたよりも成果を上げ、教団は嫁……アリアを保護し王国とナインラヴス家の追及からは何とか逃れることが出来ました。そして……」
「……本来ならアリアの解放は今日か明日行われるはずだったのにそれは延期になった……」
エルリカのその言葉に驚き反応したのはクロスティルだ。
「教団の懲罰委員会では満場一致で仮釈放で決まったのだろう、一体何があったんだ」
まあ釈放しようとしても、当の本人は収容施設には居ないだろうからどうしようもないだろう。
(アリアが拐われたことはまだ知られていないのか)
恐らく降神が関わることなので、箝口令が敷かれているのだろう。
「……教団の知己のある司祭から確認を取ろうとしたのだけど、彼女…昨日から行方が掴めないのよ。それで別ルートの情報網から確認を取ってみたけどアリアが収容されていた施設の大扉が消滅した様に無くなっていたそうよ……」
ライナはドッぴきした様な乾いた笑いをし
「おいおい、確かあそこは以前王国の砦の役目を果たしていたから、表門の防御力は結構高かったんじゃないのか」
ライナは「……マジかよ……」と最後に呟く。
昨日メリアから聞いた話しでは、《分解消去》の魔術で消滅させられたのだったな。
「それでアリア様は無事なのか、それに施設に一体何が」
「……それについては調査中なのだけど、分かったことがいくつがある……」
「……教団は今回のことに関しては全体的に箝口令を敷いていていて、情報がほとんど入って来ない……そして……」
「……昨夜のことなんだけど、《財閥》が請け負っている建設中の時計塔に共和国の工作員達が占拠したと聞いたわ……」
エルリカは視線をクロスティルに合わせ彼に問う。
「……クロスティル……お姉さんから何も聞いていない。時計塔を解放したのは近衛騎士隊の王太姫直轄の部隊だったのらしいのだけど」
エルリカの言葉に驚いた様子のクロスティルだったが、頭を横に振り。
「いや、公務が忙しいのか姉さんとは最近話しはしていない。それにあの堅物の姉さんが身内と言えど、他所に公務の話しをすことはないよ」
「力になれなくてすまない」とクロスティルが最後に一言付け加える。
「しっかし共和国の連中、時計塔なんて占拠して何をするつもりだったんだ」
(時計塔って昨夜のティコが幻影で見せてくれたものだよな)
あれは降神の仕業だったハズだが教団の情報操作か?
気になったので、エルリカに確認を取ることにした。
「すまないが質問を良いか」
「ええ、どうぞ」
エルリカが快く頷いてくれたのでほっとする。
お前には聞いていないとか言われたらどうしようかとも思ったよ。
「時計塔を占拠した連中の身元だが、共和国の工作員というのは確かなのか」
第一の疑問はそれだ。
あの場に共和国の工作員という物的な証拠はない。
首魁らしいモーロノエが実は共和国の工作員だとしても、団長に細切れにされ身元を調べるのは困難なはずだ。
時間をかけて調べたならまだ分かるが、あれからまだ一晩しか経っていない。
「……共和国が噛んでいると分かったのは信頼できる筋から、内府に密告があり宰相が近衛騎士隊に対応を指示し、殿下にも奏上したそうよ」
宰相ロベルタと聞いて俺は嫌な予感を感じる。
謀略家のあの男がそんな真っ当な手を打つのかと
それに時計塔の、あの状態だと共和国の仕業と確証は得られないはずだ。
にも関わらず断定しているのは、何か裏があると読まざるを得ない。
「なあティコ、あれは間違いなく降神の仕業だったよな」
話しを聞いていたティコは頷く。
「それは間違いないよ。モーロノエの残留意識は分析途中だけどあれの成分はこの世界の理から外れている。あれを共和国が創ることなんて不可能だよ」
ティコのお墨付きを頂いた俺は確信する。
(何かがおかしい)
教団が情報操作をした結果で共和国の仕業となったなら、まだ理解出来る。
だが、宰相が出処と言うことが……
(ん?)
俺はの脳裏に一つ付に落ちないことが閃く。
そう言えば何で近衛騎士隊は、あのタイミングで時計塔に向かうことが出来たんだ。
考えてみればあのタイミングはまさに絶妙だった。
俺が魔法陣形の影響で昏睡し掛けて、それからティコが時計塔に向かって……
「なあ、昨日の夜ティコが俺を起こして時計塔に着くまでどれくらい時間がかかった」
ちなみにティコは方向音痴なのでそれを加味することで聞いてみる。
「あのねトーヤ、いくらボクが道に迷いやすいからって、あんな大きな建物を見失う訳ないじゃない」
つまりはすぐに目的地に着けたのか
今回のことをまとめてみると
『王都に《虐殺結界》と言う物騒な魔法陣形が住民を襲い、それに気付いた王国の近衛騎士隊が阻止した』
言葉にすれば特に違和感はないだろう。
だがクロスティルにも言ったことだが、言葉の裏を読むことが重要になる。
ゲーム本編でも国王の仕掛けた《虐殺結界》は発見が困難で、儀式場所どころか発動のタイミングすら察知は困難でセーブ・ロードが必須だった。
更に場所が分かったとしても発動までの時間的な余裕はほぼなく、難関のクエストとなっていた。
(宰相は《虐殺結界》が時計塔で起こることを予見していた……)
だがそれなら陣形が発動前に避難とか……前もって潰すとか警戒を厳にするとかが無かったことに引っ掛かりを覚えていた。
(そこまで手が回らなかったと言えばそれまでだが……あの男がそんなミスをすることも考えにくい、やはり何か目的が)
―――――「……トーヤ! トーヤ!!」
「えっ……」
俺はクロスティルの声で思考の海から戻される。
「聞いていたのかトーヤ」
大丈夫だ、聞き流していたが要所、要所では内容は理解している。
俺の12+1の特技の一つ『会議でも話を聞きながら、夕食のことを考えられる聞き上手の能力だ』
退屈な会議を凌いでいるうちにいつの間にか体得していた特技だ。
「つまりは、皆は共和国の工作員がアリアの釈放に何か関係しているか……いや、単刀直入に言えば工作員に攫われたのじゃないかと言いたいのだろう」
俺の物言いに三人の顔付きが締まる。
先ほどまでおちゃらけていたライナですら真面目モードだ。
「……トーヤ殿、貴方にお聞きたいことがあります……」
そう言ってエルリカはガラスのハンドベルを鳴らし部屋に入って来たセバスチャンに封筒を持ってこさせる。
そして彼女はその封筒を俺の前にそっと置く。
「……中をお読みください……」
正直あまり気が進まないが、飯を食い荒らした引け目があったからか一応目を通すことにした。
(これは……まさか)
その内容は俺が以前クロスティルに、宰相に貴族の連名が記されたアリアの減刑嘆願書の署名を渡る為に利用した内容の書類であった。
「……その書類の真の内容を知りえる者はそうはいない。我が《財閥》において多くが添削され、この程度の記載しかないハズなのですが……」
――――「なぜ貴方はその内容を知りえたのですか」
エルリカのその言葉は冷たかった。
それは得体の知れない相手を値踏みする意思が感じ取れた。
「……貴方は共和国の……いえ、そんなことはどうでもいい。私が知りたいのは……」
「……貴方はアリアの敵なの……」
相変わらずエルリカのその瞳は冷たい。
(こわいな)
プレゼンで失敗して、取引先を怒らせた時のことを思い出し、小心者の俺には堪えるな。
エルリカは疑っているのだろう。
俺が共和国の工作員であるかどうかを
(さて、どう答えたものか)
俺はクロスティルを見ると、すまなそうな表情をしていた。
エルリカに問い詰められて喋ってしまったと言ったところだろう。
「俺は味方だ!! なんて、偉そうなことを言う資格は俺にはない、でも彼女が困ったことになったのなら手は貸す……」
うわ……自分で言っていてキザなセリフだなと思うが、俺はアリアにサヨナラした身分であるので、どこぞの熱血漢みたいに『必ず助ける!!』なんて言うつもりはない。
でも見捨てるつもりはない、俺の夢を見続ける為にアイツを降神なんて訳の解らない奴らの犠牲にさせてたまるか……
「……貴方のことは聞いています。アリアは一時期随分悩んでいる時期がありました。 あの娘はいつか話してくれると思っておりましたが、少し前からその悩みも消えた様で、貴方のことばかり話してました……」
エルリカは自分がアリアの力になれなかった……相談されなかったことを悔しがっている様に見えた。
「……アリアの味方だと言うなら教えてください。先のことを考えるに貴方は、おそらく優秀な情報収集力を持っているのでしょう。アリアは、あの娘は今どんな状況に置かれているのですか!!」
感情の抑揚を感じさせない喋り方のエルリカから、強い感情を感じるさせる言葉に俺は彼女の本気を感じ、エルリカもライナもクロスティルも俺に視線を向けてくる。
(……友達か)
エルリカの友人フラグまで喰らうアリアはとんでもない奴だなと俺は驚きを通り越し呆れる。
ガネメモでのエルリカは他人に対する興味は薄い娘だった。
そんな彼女がここまで想うのは、この世界での彼女は奥底に望むものを手に入れたからだろう。
(だからこそ伝える訳にはいかない)
彼女達に真実を伝え、助力を乞うことは救出の一手にはなるだろう。
だが俺の中に渦巻いた漠然とした考えは、俺にその選択肢を封じさせる。
まず降神が教団にとってどんな存在であるかだ。
昨夜ティコとメリアに聞いた内容では、かつての降神戦争後この世界に残った降神の残存勢力はこの世界を荒らし周り、分身体とも言われる異界の神は、この世界の神になろうと戦いになった。
それを討伐するのが選ばれし聖騎士であり、教団のもっとも優先する使命だということだ。
故にこれに関わるとなると教団の企みに巻き込まれることになる。
そして宰相の策が何かしら動いていること
その狙いは何か解らないが、それは恐らく火中の栗を拾う行為であることには変わらない。
使い古しの言葉ではあるが、陰謀と言う名の栗を拾う役は俺やメリアなどの年長者だけで良い。
家名や家族を背負う、こんな子供達が背負うことはない。
友情なんて不確かなものに、大切なものを捨てさせない為に
「キミに嘘は通じないだろうから正直に言おう。俺は君達が知りたい事柄は大部分を知っている」
俺のその言葉に彼女達の表情が変わるが
「だが俺は君達にそのことを伝えるつもりはない」
そう言って俺は席を立つ。
勿論向かうのは出口だ。
「……何処へ行こうというのですか……」
エルリカから静かな怒りが込められた言葉が響く。
「美味い食事に礼は言う。だが、先の君の問いに答えることは出来ない、だから帰るのさ」
扉に向かう俺の前に一人の人物が立ち塞がる。
エルリカだった。
「……行かせない……」
静かだが強い意志を秘めたその瞳で俺を見据える。
ガネメモでの人形の様な娘ではない。
彼女は……
「……アリアが貴方に救われたと知って嬉しくもあった……けど……」
「……悔しかった……」
エルリカから涙が一滴溢れる。
「……私達に何でもないと言う彼女に、何も出来なかった自分が愚かだとずっと思ってた……」
「……あの娘は、私の……私の……」
――――《財閥》の後継者として人とは違う生き方を強いられて来た
騙し、騙され、近づく人間は皆醜かった
周りの人間、そして近づいて来る人間、両親さえも
何歳からだろう、私は何も感じなくなっていた
空虚だった、空っぽだった、部屋で埃を被った人形
それが私だった
「今度は私が! 私が!!」
―――――とても綺麗な娘だった
容姿だけではない
歌声、そしてその笑顔も
『私はアリア、キミの名前は』
「今度は私があの娘を助けるんだ!!」
いつも静かなエルリカからは考えられない意志を秘めた大きな声だ。
彼女に気圧され、俺は何も言えなかった。
その姿は友情ごっこな雰囲気は一切ない。
(そうか……ライナだけじゃなかったんだな)
俺の知っている人形だった彼女はここには居ない。
そこに居るのは……
「……君に覚悟はあるのか」
「これ以上アリアに関わろうとするなら後悔することになる。君達の守らなければいけないもの……」
俺はエルリカを見据え
「この先は陰謀の巣だ。関われば君の《財閥》での立場は確実に悪くなる。最悪廃嫡だ」
そして俺は後ろを向き、こちらを見据えるライナを見る。
先程までの愉快な雰囲気は一切ない、その表情はある種の覚悟を感じさせる。
「君は支家を持つほどの上位の貴族だろう。たった一人の友人の為に家を危険に晒すのか」
そして俺は次にクロスティルに
「妹さんのことで恩があるのは分かる。だが、せっかく戻った家族の絆を壊してしまうことになっていいのか、そんなことをアイツが望むとでも思っているのか!」
「手を引け……アリアのことを思うのなら、これ以上関わるな!」
俺は三人に言い聞かせる様に言うが……
「……覚悟は出来ている……と言った処で信じて貰えないだろうけど」
最初に口を開いたのはクロスティルだ。
「エルリカの言ったことは私も共感することだった。アリア様の隣に何でトーヤが居るのか、何で私ではないのかと」
クロスティルは懐かしいことを想い出すかの様に瞳を閉じる。
「彼女のことを長く見てきた。苦しんでいる姿も見てきた、あの男スネイルが彼女に接触して来た時も何も出来なかった。そして今回もことでもだ」
「彼女を救ったのはトーヤだ、私は何もしていない。これじゃ駄目なんだ、もう悔やんだりしたくない。私は……」
「彼女の力になりたい」
その笑顔に一切の迷いを感じられなかった。
それは恋慕もあるだろう、尊敬の念もあるだろう、いや……
(……アリア……)
そうそれは彼女が俺に向けてくれた笑顔に良く似ていた……
「アタシとエルリカとアリアは聖歌隊の同期でね。最初に顔合わせした時、片や人形みたいなチビに、片や外面だけは良い鈍くさそうな女で、何て貧乏クジ引いたと思ったよ」
口は悪いがライナのその口調は悪口を言っている感じはしない。
それは懐かしさを感じる口調だった。
「アタシがイタズラをして、エルリカが無表情にツッコんで……ああ、コイツガキの頃は人形みたいに表情動かないでやんの、そしてアリアはオロオロしながらアタシと一緒に怒られていたな」
「……つまらないんだよ……やっぱり三人揃わないと、"エルリカちゃん女の子のお腹叩いてはいけません"ってな」
そう言って大笑いをするライナ、そして……
「家がどうとかなんて関係ない、アタシにとってこの二人は家族なんだ。なら全力を尽くすのは当然だろ」
『よし!良いこと言った!!』と言ったドヤ顔のライナは"b"っとサムズアップに親指を立てる。
妙に絵になるな。
「……貴方の言う通りよ……《財閥》の後継者候補は隙を見せることは許されない。例え肉親であっても……」
エルリカは俺に向かい、事実を言っているだけの淡々とした言葉だった。
「……貴方の言うことが正しい……でも、それは私にとっては正しいことではない……」
「私はもう人形じゃない。だから友達を助ける!」
――――――わたしは人形なのかな……
俺の知っていた彼女はもうそこには居なかった。
だが、悪くない気分だ。
(これがアリアが歩んで来た道か……)
何も分かっていなかったのは俺の方だったか
「分かった降参だ。話そう君達が知りたいことを……」
彼女らがどう判断するかは分からない、でも信じようと思う。
アリアと共に歩む若者達を……
「しっかし…ハァ……マジかよ……」
話しも終わり部屋にはエルリカとライナだけ残っていた。
クロスティルは遠征の準備だと家に帰った。
今頃武具の手入れや馬の準備をしていることだろう。
エルリカはライナの溜息を聞いていたが特に止めさせる気はない、自分だってつきたいからだ。
「どこの英雄譚なんだよ、邪悪な神様に囚われたお姫様って吟遊詩人の定番かよ」
「ハァ……」
またライナの溜息が流れる、これで何回目だろう。
「……ライナは彼の話しを信じていないの……」
ライナはゴロ寝していたソファーから身を起こし、窓際で風に当たっていたエルリカへ顔を向ける。
「ふつうなら信じられないだろうな。だけど信用出来る相棒が黙って聞いていたから信じられずにはいられないな」
考えをまとめる為に窓際で風に当たっていたエルリカは窓を閉め、ゆっくりとライナに向き直る。
「何を知ってる」
ライナのその表情に愉快な感じはない。
(……いつもこうならカッコいいのだけどな……)
「……今から話す内容は国、教団、そして世界の根幹になる話しよ……聞いたら他言無用……いいわね……」
エルリカのその言葉にライナは一瞬ビビった表情になったが、「ええーい女は度胸どんと来い!」と声を張る。
「……トーヤが話したことは多分事実よ。まず最初に説明するのは降神について……」
降神は世界に秘匿された存在であった。
歴史に記された魔物の大移動は実は異界の神との生存戦争だった。
そして本体は封印され、今現在までその分身体とで幾度となく人類との戦いとなったのだそうだ。
「じゃあヴェルニア大森林の魔物の大量発生もそれか?」
――――ヴァルニア大森林
王都から北部に存在する木材の一大拠点だ。
否、正確には"だった"が正しい。
王国の公共工事はこの森林から発生した多くの魔物達が原因とされ、資材不足で一時的に工事が止まり、王国の経済に影を落とした出来事だった。
「……財団として調査は続けていたけど、興味深いことがいくつか分かったわ……」
一つは、森林から発生する霧が全く晴れないことだ。
「……しかもその霧が不思議なものでね……霧は植物や川、雨などの空気中の水分が地面との温度差によって気化すると出来るのが一般的なんだけど……」
「……その霧は一切水分を含んでいなかったそうよ……」
エルリカは少し喋り疲れたのか、ティーポットに残った冷めたお茶を自分が使っていたカップに注ぎ飲む。
「……外周部を調査した魔術師の結論では、あれは特殊な魔法陣形……または魔導式である可能性が高いと……」
魔導式と聞いてライナの生唾を飲む音が部屋に響く。
《魔導式》
教団の教えに世界を支える柱の存在がある。
世界は神が定めた摂理の柱で支えられている。
それは生と死、存在と虚無、希望と絶望、それは概念的なものでなく、創造神が定めたこの世界を形成する柱だ。
そしてそれらの柱は目に見えることがなく《魔導式》と呼ばれるものが世界に刻まれ、それら世界の《魔導式》を利用し操りし者が魔導師と呼ばれる。
「……ただそれは新たに刻まれたものか、以前からあった導式であるかは分からないけどね……」
ライナはもう何回目かも分からない溜息を再び付き「……マジかよ」と繰り返す。
相手はまさに人智を超えた存在だった。
その話を聞いた人間の態度として、ライナのこの態度くらいならマシな方だろう。
「……それでどうするライナ。このまま口を噤み何も聞かなかったことにするは賢い選択だと思うわ……」
ライナはソファから身を翻す様に立ち上がり
「宰相が噛んでいるとなれば正規兵は動かせない。だから退役した爺婆中心に声をかけてみるよ」
エルリカは頷き同意を示す。
「……宰相が関わっている以上、それが良いでしょうね……私は私でおじさまの所を当たってみます……」
「しっかしエルリカたんの《財閥》当主奪取計画もこれにて後退か」
ライナはお手上げ、お手上げと言った様なジェスチャーを取るがそれはエルリカの心情を表していることであった。
《財閥》の当主の座をもぎ取る為には、候補者の事業規模、財産、名声の全てが求められるのだ。
「……今回のアリア救出の概算費用を計算すると、一財産吹っ飛びそうね……」
必要な戦力、物資の確保の費用、冒険者ギルドや役所との折衝、全て短い期間で終わらせないといけないので相当無理をすることになりそうだった。
それによって《財閥》の他の当主候補と大きく水をあけることになるだろう。
「……でもねライナ、生きたカネの使い方と言うのは、カネで幸福を得るのではなく、カネ以外で得た幸福を守るものだと……リーゼンフロイと呼ばれている同級生が言っていたわ」
ライナはニヤリと口角を上げ
「そりゃ確かに生きた金の使い方だな」
二人は拳を握りながら、共に拳を合わせる。
「必ず助けような」
「……ええ必ず……」
皆様お久しぶりの小説の投稿になります。
ブックマーク、いいね、共にありがとうございます。
PVも67000、ユニークも15000も越えてまさかここまで読んで貰えるとは正直考えていませんでした。
重ねてお読み頂いている皆様のおかげで続けさせて頂いております。
あと、novelAIを使用してのキャラクターイメージも投稿させていただきましたので、そちらと合わせて楽しんで頂ければ幸いです。
しかし最近のAI技術は凄いですね。
勤めている会社にも導入されて来ていますが、まさに未来って感じが実感します。
涼しくなってきましたので、皆様もお体に気を付けてお過ごしください。
では、また次回に…<(_ _)>