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48話:トーヤの冒険

 


 ――頭が重い……



 飲み過ぎたか、それとも気圧が低いからか……



 脳内に夢で得た、記憶が急激に雪崩れ込む。



 その内容で俺は暢気に眠っている場合じゃないと、自身を叱咤する。



 ――――ね、眠っている場合じゃないぞ!



 俺ことトーヤは意識を覚醒させる。


 自身のなすべきことの為に……




 目を覚ました俺の瞳に心配と不安に支配された表情のティコが、俺の顔を覗き込んでいた。



「おはようティコ……どうやら随分心配かけたみたいで……」


 俺はその言葉を言い切ることが出来なかった。



「……トーヤ、ごめんなさい……ごめんなさい……ボクがキミを信じなかったから……側から離れたから……」


 ティコの瞳から大粒の涙が溢れ、彼女は謝って来る。


 俺は「ティコが悪いんじゃない」と言う様に、そっとティコを撫で、静に首を横に振り


「ティコが悪いのじゃないぞ、俺も軽率だった……あらかじめ相談しておけば良かったな」



 そして俺は「俺は相棒失格だな」と言うが……


「……ううん、やっぱり悪いのはボクだよ。だからボク、トーヤに……」


 そして更に重ねる様に俺が


「いや、やっぱり……」



「あんた達、いい加減にしなさい」



 側で会話を聞いていたであろう、死の支配者(バンシィ)さんから、呆れた様なツッコミが入る。


「くっ……フフッ……」


 だが、ツッコミを入れたバンシィは何が面白いのかいきなり笑い出して来た。


 一通り笑った後に何かを懐かしむ様な表情をし


「これじゃ昔と立場が逆ね」


 笑顔で自嘲気味に呟いた。




「トーヤ、アリアが大変なんだよ! うう……でも何て説明したら良いか」


 まあ、あれだけの出来事を詳細に説明となると正直難しいだろうな……けど


「大丈夫だ。”かくかくしかじか”で詳細は分かっている」


 何て便利な魔法の言葉”かくかくしかじか”


「は!? か、かくかく?」


 俺のいきなり意味不明な発言で、”頭でも打った”と言う様な呆れた表情になるが……



「そうだ。脳をやられたんだった……」


 ティコは目頭を押さえ苦悩する。



 大丈夫だ、酸素欠乏症にはなっていない。



「とにかく、事情は分かっているからアリアの歌を止めないとな」


 俺はアリアの歌声が響き渡る、中央の彼岸花の先を見る。


 その彼岸花が咲き誇る、その幻想的な光景はまるであの世への道の様にも見えた。



 俺が一歩踏み出したところで……



「止めなさい」



 バンシィを背にしていた、俺の背後から彼女の静止する声が聞こえる。



「事情を知っていると言うことなら、分かっているのでしょう。ここでアリアを死の歌姫(セイレーン)にしなければどうなるか……」


 その言葉に俺はバンシィに向き直り。


「ああ……知っているさ。"空白"を埋めなければ降神に目をつけられて、神降ろしの道具にされるのだろう」



 俺のその返答にバンシィの目付きは、険を帯びたものになる。


「本当に知っている様ね。それならなおのこと、ここで歌を止めても何の解決にもならない…… 貴方がやろうとしているのは只の欺瞞よ!! 貴方には彼女は救えない」



 俺の行動を無責任と言う、バンシィの怒りが俺に叩きつけられる。


 普通ならその迫力は恐怖だろうなと思うが、不思議と恐怖は湧かなかった。



 それよりも湧いて来たのは……



「バンシィ……あんたはアリアを死の歌姫(セイレーン)にした後、世界の敵になることによってティコに自分を滅ぼさせるつもりだったんだな、そしてアリアをその後釜に据えさせる」


 俺のその言葉にバンシィのその表情は驚愕に彩られる。


 彼女は呻く様に「どこまで知っているのよ……」と呟くが……



「俺は貴女のことは殆んど知らないけど、ティコのことならよく知っている」


「ティコは友達を大事にする娘なのは、貴女も親友だったなら分かるだろう…… そんな娘に親友を殺させるなんて、どれだけ残酷なことだと思っているんだ!!」



 俺のその言葉にバンシィは押し黙ったかの様に俯く。


 そして俺は最後のブロックワードを告げる。



「それにアイツはローランじゃない。彼女はアリアだ! アンタが罪を背負うことも、ティコにアンタを殺させる道義もない!!」


 その言葉と共に、俺は咲き誇る葬送の華の群生群に向かう。


 今度はバンシィの静止する声はなかった。



「トーヤ……ありがとう……」



 俺はティコの礼の言葉に親指を立てて応えた。





 群生群にたどり着いた俺は華を掻き分けて進もうとするが……


「あ! トーヤ、ダメ!!」


 ティコの静止する言葉の意味はすぐ分かった。


 触った途端に華から、大量の花粉が舞い上がり俺の呼吸器に侵入してくる。


 俺は酷く咳き込む。


「な、これは花粉か」


 花粉症の俺だが、いつものと違う症状に戸惑いが生まれる。


「葬送の華の花粉は毒があるから、気を付けてって言うとしたのだけど……遅かったかな」



 ティコさんそういうことは、もっと早く言って欲しかった。


 ティコは水の入ったカップを取り出し、咳き込む俺に差し出す。


 うがいをすればマシになるとのことだ。



 うがいを行い喉の違和感は軽減されたが、声が掠れ別人の様な声が出て来る。


 俺は懐に入れていたハンカチ代用の布を取り出し、それで呼吸器を覆い後頭部付近にしっかりと縛ことにするが。



「トーヤ……それじゃまるで強盗か、野党だよ……」


 やかましい!


「あとこの華をどうするか……」


 先ほど触って分かったのだが、茎も華もかなりしっかりと育っており、掻き分けて進むのはかなり至難の業である。そしてあの花粉もかなりきつい。


 俺は何処か獣道みたいなものはないかと、周囲を見渡すと少し離れた所にクロスティルが倒れていた。


 クロスティルを抱え揺すって声を掛けてみるが、反応がない……意識を失っているのか


「多分、この歌の影響で意識が落ちているのだと思う。歌が終わらない限り目を覚まさないよ」


 クロスティルに声を掛ける俺にティコは協力は無理だと告げて来る。


「くそっ!どうすれば」


 俺はクロスティルを横たわせるが、その時懐から何か金属音がした。



 それは懐剣(ダガー)音柄(ねがら)だった。



 それを見た俺は迷わずそれを手に取る。



「クロスティル借りるぞ」


 再び華の前に来た俺は懐剣(ダガー)を鞘から抜き放ち、華を刈ろうとするが、茎は思っていたよりも固く、この懐剣(ダガー)では刃がたたなかった。



「なんて固さなんだよ。不味い、このままじゃ……」



 周囲から聞こえていたアリアの歌声が変化する。


 正確な時間は分からないが、残された時は短いだろう。



「何か!何か手はないか!」



 俺はダメ元でティコにも聞いてみるが


「ボクも何とかしたいけど、今回に関してはボクの力が制限されているみたいなんだ。恐らくこれは創造神の計画でもあるせいだと思う。ごめん……」



 ティコは申し訳なさそうに落ち込むが、


「ティコが悪いのじゃない。全部あの肥満蛇が悪い」


 俺は心中でシロに悪態をつくが、それで解決する訳ではない。



 俺は破れかぶれに葬送の華を蹴飛ばすが、案の定、花粉が舞い上がり俺の呼吸器を犯そうとするが……



「あれ……」


 今度は何ともなく、布マスクが効いたのかと思ったがそうではない様だ。


 俺の両手がほのかに光っていた。


 いや、両手だけでなく見える所が、恐らく全身が光っているのだろう。


「ティコ、これって」


 俺はティコに聞いてみることにした。


 そう言えば夢から戻る時も光っていたが、これはティコが俺を助けようとしてくれたのだと考えが



「あ……、う、うん。トーヤの意識を戻すのに、ボクの加護を与えたんだ」



 少し照れくさそうに、そう言うとティコは俺から顔を背ける。



 ティコは焦る様に


「その光はボクの力がトーヤを守っていて、トーヤが”害 ”と判断した攻撃から防御する様になっているんだよ」



 そうか……最初は花粉の脅威が分からなかったから喉をやられたけど、2回目は分かっていたからこの光で防げたのか


 防げる方法は分かったので、このまま強行突破しようかとも思い、ティコに聞いてみるが


「その防壁はそんなに強いものではないんだ。無理に進もうとしたら華に足を取られて、真ん中辺りで力尽きてしまうと思うよ」


 ティコの指摘に、俺は頭を掻き「だめか……」と呟き、ティコの力を、何かに利用出来ないか考える。


 俺自身何の力もない。なのでこの状況を打開するのに、この力をどう活用するのか……


(焦るな……焦らず、急いで、正確に考えるんだ)



 ん?ティコの加護



 俺は先ほどのティコの言葉を思い出す。


 確か加護って言っていたな。


 精霊女王の加護と聞いて、俺は夢で観た降神戦争の妖精達の戦い方を思い出していた。



(確か……)


 俺は手に握っていた懐剣(ダガー)に意識を集中してみるが……変化はない。



 俺は目を閉じ、再び深く意識を集中させる。



 こういう時のパターンはよくあることだ。


 子供の頃……もとい大人になってもだが、今まで読んだ作品を参照すれば、こういう特殊な力はイメージが大切だったと……



 案の定、集中すれば俺の中にある強い光を感じ取ることが出来る。



 俺はその光に自分のイメージを送り込む。



 それは剣……いかなるモノを切り裂く



 光の剣……



(創造(イメージ)しろ、あの頃のあのイメージを……あの修行を思い出せ!!)



「ト、トーヤ!!」


 ティコが、とても驚いた声を上げる。



 俺はその言葉に反応する様に、再び目を開くと手にしていた懐剣(ダガー)



 ――強い光を放つ、光の剣となっていた。



「おおっ!うまく行った」


 まさに俺の考え通りで良かった様だ。


「トーヤ……す、すごいよ!すごい!!」


 ティコが凄い興奮した様に、俺に詰めよって来る。



 な、何がそんなに凄いのか……


 あ、もしかしてこれが……



 ”俺また何かやっちゃいました”と言う奴なのか



 いまいちよく分からない俺にティコが簡潔に説明してくれるが、ティコが俺に与えてくれた祝福の力は、人間にはとても扱い辛いものであるらしく、自覚して力を扱うには長い鍛練が不可欠で、だから俺がこうも簡単にティコの力を剣にしたことは、普通ではあり得ないことなのだそうだ。


「それにこの光剣の強度……精界(ボクのせかい)の子達にもここまで出来る子は居ないよ……トーヤ、キミは創造系の素養があるのじゃないのかな」



 あの……ティコさん、そんな大層なものじゃないんですよ……



 実は、これは子供の頃やった修行(あるある)での成果である。


 例えば、傘を逆手持ちした横薙ぎストラッシュ


 又は、手を弓矢を持つ格好をし、矢の箇所に傘を持ち”バン!”と開いた、消滅呪文



 光の剣は特に簡単だ。


 ホームセンターに売っている、包丁の柄を持って「光よ!!」とか「ブウォン!ブウォン!導きと共に……」とかで、イメトレが出来ていただけなんだよ……



 俺は光の剣を葬送の華に向かい横薙ぎに振るう。


 光の剣の一撃は、華の茎の固さなど問題なく切り裂き、切断した華も花粉を散らすことなく消滅させた。



「これなら行けそうだね」


 ティコの言葉に俺は頷き。


「ああ!では眠り姫ならぬ、歌い姫を止めに行こうか」


 俺は行く手を塞ぐ華を刈りながら、先を急ぐ。


「がんばれ~トーヤ!!」


 ティコの応援と共に、俺は華の道を進んだ。




「うひゃあ!?」


 華を刈り進め道半ばまでたどり着くが、唐突に俺の背中におぞけが走る。


 まるで、氷を背中に入れた様な感触だ。


 俺は後ろを向くと、そこにはシーツを被った様な、いわゆるオバケがそこに居た。


「お前か俺の背中に何かしたのは!」


 オバケは上空に飛び上がりグルグル旋回し始める。


 そしてそこに3体の同じ様なお化けが合流し計4体になった。



「トーヤ気を付けて、あれは低級霊(デミ・ヒューリ)だよ」


「ちょっと待て、ここ一応街中なのに、何でダンジョン地下4Fのザコ敵がここに居るんだよ!」


 低級霊(デミ・ヒューリ)は本来ならダンジョン地下4F―地下墓地(カタコンベ)―で出現する敵で、街中のましてや墓もない学園の中庭に居るモンスターではない。


「アリアの歌に誘われて来たんだよ。アリアが今歌っている歌は、死の歌姫(セイレーン)になる為の歌だから、彼ら()にとっては讃美歌みたいなものじゃないかな」



 ティコのその返事に俺は頭を抱えたくなる。

「このまま進ませては……」


 幽霊の一体が俺に向かい急降下を始める。


 俺はガネメモの低級霊(デミ・ヒューリ)の能力を思い出す。


 タイプは飛行で、物理攻撃に強い耐性があり、攻撃は《生気吸収(ドレインタッチ)LV:1》と《騒霊(ポルターガイスト):LV:1》だったな。


 恐らくさっきのおぞけが生気吸収だったのだろう。


 通常ならば、低能力、低レベルの俺には奴に対抗する手段はなかっただろうが。



 だが、今の俺なら……



 俺は向かって来た低級霊(デミ・ヒューリ)の1体の突撃による《生気吸収(ドレインタッチ)》を寸でのところでかわし……


 すれ違い様に光の剣を一閃させ、低級霊(デミ・ヒューリ)を切り裂く。



「くれないのだろうな!!」



 物理攻撃に耐性がある低級霊ではあるが、その一撃には耐えられなかったのかその姿を消滅させる。



 ――あと3体



 俺を強敵と判断したのか、低級霊(デミ・ヒューリ)は隊列を組み俺に襲い掛かろうとしてくる。



 さっきのはまぐれだし、侮ってくれていいのだけどな……



 低級霊(デミ・ヒューリ)2体は俺の左右に急降下を行い、最後の1体は上空で待機している。


 正直2体同時に相手をする技量は俺にはない。


 いや、1体でも手に余るのだが……


 俺は向かって左の低級霊の相手に、取り敢えず集中することにした。


 左の低級霊の攻撃を先程と同じ様にかわそうとしたが、偶然がそう何回も上手く行く訳がない。



 左右の《生気吸収(ドレインタッチ)》を同時に喰らい、一瞬眩暈がするが、俺の体がその攻撃に対し強く光り出す。



 恐らくティコバリア(仮称)が、《生気吸収(ドレインタッチ)》を防いだのだろう。


 防がれると思ってなかった相手の隙を見つけた俺は、狙いを定めていた左の低級霊(デミ・ヒューリ)に光の剣を振り落とす。



 だが素人の俺の一撃では狙いが逸れ、低級霊に”かする ”だけの結果になるが……



 その”かすった”一撃だけで低級霊の1体は消滅した。


(ティコソードつっよ!)



 光の剣の威力を瞬時に察した俺は、相方をいきなり失ってどうして良いか分からない、もう一体の低級霊(デミ・ヒューリ)に光の剣を振るう。



 その時、俺の顔面に風もないのに砂埃が振りかかる。



 ピンポイントに顔面だけに砂ぼこりが来ることに、風を責めては風が泣いてしまうだろうな。



 恐らくこれは上空に待機している低級霊(デミ・ヒューリ)騒霊(ポルターガイスト)で、砂埃による目潰しを行ったのだろう。



 だが、その目潰しもティコバリア(仮称)で完全に防ぐ。



 ティコバリアも便利だな。


 まさに、『ティコバリアで きみらの こうげきを防ぐぞ』と『ティコソードのきれあじ きみらのからだで あじわうといい』みたいな気分だ。



 ティコバリアのおかげで冷静になった俺は、再度の一撃を低級霊(デミ・ヒューリ)に撃ち込み低級霊(デミ・ヒューリ)を消滅させた。



 ――あと1体



 だが、その最後の1体の低級霊(デミ・ヒューリ)は尻尾を巻く様に逃亡する。



 まあ、今は先を急ぐから”まわりこむ”必要はないか……



「凄いじゃないトーヤ、ボクの力を上手く使いこなしているみたいだね」


 ティコが嬉しそうに「うん♪うん♪」と頷きながら、大層ご満悦の様だ。


 ここで初戦闘の感想をティコと共有したいところだが、今は時間がない。



「時間がない。先を急ごう」



 俺は再び光の剣を振るい、行く手を塞ぐ葬送の華を刈りはじめた。




 そして俺はついに華の群生郡の先に出る。



「……アリアは何処だ」


 俺は周囲を見渡すが、周囲には誰も居ない。


 歌を聞いてみると、今いる箇所から奥の方向から聞こえてくる。



「奥みたいだね。いそごうよ」


 ティコのその言葉に俺は頷き、先を急ごうとするが……



「ま、待ってトーヤ……何か……居る」



 ティコがとても警戒した様子で俺に注意を促す。



 俺の目には何も写っていないが、百戦錬磨の彼女のことだ、本当に何か居るのだろう。


「フッ……そこにいるの……」


『そこにいるのは、分かっているんだ……出てこいよ』って分かってもいないのに、格好よく言うつもりだったが……



「居るのは分かっているんだよ!出てきなさい!」



 ティコさんに先を越されました。




 ――――突如と現れる2体の白い人影




 数メートル先に現れた白い影の姿を目に収めた俺は……


 圧倒的な震えに襲われた。



(……な、なんだよ。コイツら……)



 先程のシーツを被った様な姿の低級霊と同系統なのは何となく分かるが……



 違いはその圧倒的な存在感だ。



「ま、まさか……怨精霊(フューリ・ステラー)が何で、こんな所に!」



 ティコのその言葉で俺は固まる。



 《怨精霊(フューリ・ステラー)

 ダンジョン地下10Fの階層ボスで、序盤の障壁となるボス敵である。

 能力は低級霊の超強化タイプで、生気範囲吸収、ポルターガイスト、物理攻撃無効、また低級から中級霊の召還も行うとにかく厄介な相手だ。

 正直根気がないプレイヤーは、このボスで投げ出しても仕方ないと思うほどである。



(1体だけでもムリげなのに、2体って絶望じゃねーか!!)



 せめて俺のレベルが30くらいあれば話しは別だが、初期レベルの俺が抗うことすら許されない相手である。



 恐らくこの震えも、《恐怖(フィアー)》のターンスキルの効果だろう。


 コイツは各ターン開始に、《恐怖(フィアー)》の範囲スキルを自動発動してくるのだ。


 成功率はレベル差で決まるのだが、俺ならバツグンに効くだろう。


 恐怖で気付かなかったが、俺の全身がほのかに光っていた。


 ティコバリアが《恐怖(フィアー)》のターンスキルを防いでくれたのだろう。


 だが俺の恐怖心は軽減されたが、この2体に対しての本能的な恐怖は別であった。



(正直、このままバックして帰りたい……)



 そして、リボックやアンナテル達とパーティーを組んで現実では味わえない冒険者と言うものを経験するのも、良いと思う。


 そして黒の少女のもとにたどり着き、彼女の名前とその結末を知る。


 元々そう言う予定だったのに、何で俺はアリアを助けようとしているのだろう……



 ――――周囲に流れていた、歌の性質が変わる



 素人の俺にも分かる、恐らくこれはサビの箇所だと……



 残された時は少ない。



 俺はため息を一つつく。



 やれやれ主人公な気分だが、その対象は自分の性分による呆れだった。



 子供の時分の何てことのない親切…… 対価となった感謝の言葉、それにより芽生えたが、時の流れ共に終わった想い。



(だけど……まだ枯れ果てていなかった……まるで雑草だな)



 俺は覚悟を決める。


「ティコ、最後になるかも知れないから言っておくよ。今までありがとう。いつか君には良き出会いがあるだろうから、希望を捨てないようにな」



 ティコも俺の覚悟を感じ取った様だ。



「大丈夫。キミだけを置いて行ったりしないよ」



 その言葉に反論したくなるが、そんな余裕はもうなかった。



 先手必勝と俺は全力で、2体の亡霊に駆け出す。




 自身の夢の結末を得る為に……




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