43話:ガネメモ秘話・降神戦争前フリ
夢を見ている。
何もない真っ白の空間の中に俺は立っており、1匹の巨大な丸々と太った白い蛇がそこに居た。
そして鳴り響く、某国産RPGの死亡時の音楽と、棒読みおまんじゅうな音声で……
『あなたは しにました』
おい……
そしてお約束のごとく
「おお とおやよ! しんでしまうとはなにごとだ!」
シロは更にお約束を続けようとするが……
言わせねえよ!
「いきなり何だ!俺が死んだなんて縁起でもない!」
俺はいきなりの展開に腹を立てるが、返事をせず俺を見つめるシロの様子を見て”まさか”と思う。
「もしかして……俺…死んだのか……」
シロは身に付けていた付け髭と王冠を外し、ため息混じりで告げる。
「ええ、まあ半分死にましたと言ったところですけどね」
どういうことか分からない俺は反射的にオウム返しにシロに聞いた。
「半分?」
シロは身に付けていた王冠と付け髭の王様セットを紙袋に収納しながら、世間話の様に応えてきた。
「正確には違いますけど、藤也さんにも分かりやすく言えば、脳死と言った所でしょうか」
俺は更に訳が分からなくなり、シロに更に重ねる様に質問を繰り出す。
死んだ俺が、何故、一体何があったんだ!
「俺は何で半分死んだんだ」
俺の心は恐怖で震える。
それは死んだ記憶がないせいか、それとも記憶が無くなるほどの酷い死に方だったのか
「死因はスネイルと言う男が使った、即死の魔術…… いえ、呪殺……呪いと言うのが正しいのでしょうね」
はい?呪殺、呪い?
もちろん意味くらいは分かる。
ゲームのガネメモでは、即死の魔法はあるがかなりハイレベルなものであり、スネイルはかなりの高レベルキャラなのか。
俺はことの疑問点をシロに聞いてみるが
「いえ、あのスネイルというのはそこまで……そうですね。ガネメモ換算で言うとレベル10くらいでしょうか」
ちなみにガネメモで10レベルと言うのは冒険者でいう駆け出しから頭1つ抜けたくらいのレベルである。
「レベル10で即死魔法が使えるなんて何かバランスおかしくないか」
某TRPGなら使えるのは割愛する。
俺は納得出来ないとシロに言うが
「……あのですね藤也さん、あの世界はガーネット・オブ・メモリアルを模した世界であって,ゲームのシステムが完全に反映されている訳ではないんですよ。最初に説明したじゃないですか」
あのな……空から墜ちて死にそうな状態で、まともに話し何て聞ける訳ないだろう。
「まあ、あのスネイルというのは降伏した降神の一派の子孫でしょう……まったく、あの世界に根を下ろすなら特殊能力は封印させろとあれほど念を押したのに、管理者には一度説教しないと行けませんね」
シロは俺には訳の分からないことを呟き始めたので聞いてみることにする。
「降神って葛霧資料に書いてあった、あの降神でいいのか」
俺が資料で知っている降神は異界の神群で世界という世界を渡り、その世界の命を喰らい尽くす蝗みたいな存在だと……
「その認識で合っていますよ。 あの世界においての降神との戦いでガネメモ世界が勝利しましたが、その中にはこちらに降った者達も居たのですよ」
資料にもゲームにもない設定なので俺は”へー”と納得する。
「降神と言うからには、それは神さまなのか」
シロは首を横に振り否定する。
「いえ、”神”とは呼んでいますが、あれは数々の世界の神話や逸話からあぶれた者達の群れですよ」
俺は疑問符を浮かべる。
シロは俺の疑問に答えるように話しだす。
「藤也さんの世界でも民話や神話などで、追放された悪鬼羅刹や魔物や百鬼夜行な連中がいるでしょう、他の世界でもそんな悪鬼羅刹が存在し世界を追われて善からぬ勢力に利用されることがあるのですよ」
シロは俺に理解出来ているか確認をした後、説明を続ける。
「それで恐らくスネイルは九尾の狐の子孫でしょうね。戦中に降伏して来たとティコから聞いていましたが……力を封印していなかったとは、狐だけに化かされましたよ」
そう言ってシロは愉快に笑い始める。
いや、俺殺されそうになっているし、笑い話じゃないんだけど……
「さて!本題に入りましょう」
シロは何かしらの特殊な力を使い、空間に瞬時にドアの様なものを造る。
そのドアの向こうに映っていたのは……俺だ。
”高嶺藤也”俺のリアルでの本体だ。
いつもの寝床で幸せそうに眠っている。
「半分の死亡ですが、一応帰ることは可能ですので帰りたいのでしたらこの扉をくぐってください」
随分あっさり言うが本当に良いのか?
「ただここをくぐるとトーヤは本当に死ぬことになります。そして二度と、かの世界にも行けませんのでご注意ください」
その言葉に俺は扉に入ることを躊躇した。
帰ることには異論はない。
しかしティコやアリア、異世界で出会った人達を放って帰るのはダメな気がする。
せめてお別れくらいは……
「なあ、せめてティコやアリア達に別れくらいは言えないか」
俺はシロに断られるかなと思って駄目で元々言ってみるが……
「いいですよ」
あっさり了承する。
「まあ……言えるものならと言ったところですがね」
シロは意地悪そうに顔を歪めるともう1つ空間にドアを開く。
俺の瞳に映った光景は常軌を逸していた。
「……な、何だよこれ……」
そこには華が満ち溢れる様に咲いている、世界が繰り広げられていた。
彼岸花にも似たような大輪の華々が、そこの全てであった。
そして流れる歌声……
俺の脳裏に考えたくない考えが浮かぶ、口にしたくない考えだが確認しなければならない。
「これはアリアがやっているのか……」
俺は静かに怒りを鎮めながら押し殺した声でシロに聞く。
「ええ、そうですね」
そして次の言葉で、俺は怒りを爆発させた。
「必要なことでしたので、彼女には、”かの歌”を歌ってもらって人間を辞めてもらうことにしました」
「……何のマネだ……人間を辞めてもらうってどういうつもりだ!!」
シロの『コレこっちに動かしましょう』と言う様な軽い感じで言った言葉に俺は声を荒げる。
「アリアの中に居た聖人はもう居ないハズだ。なのに何故また人間を辞めさせる何て話しになるんだ!!」
「聖人が居なくなったから問題が起きたのですよ」
その言葉に俺は固まった。
「どういうことだ、ゲームの聖人EDは酷い内容だった。それでもアリアは聖人にならなければならなっかったのか!」
俺は思い出す。
世界の安寧の為に孤独に生涯を終える残酷な光景を……
「その通りですよ。アリアは聖人に支配された方が幸せだったでしょうね。まったく……あの子がアリアの余分な空白を埋めていたので安心していましたのに……余計なことを」
シロは余計な仕事を増やされた俺みたいな態度をとる。
(あれが幸せだって……)
俺はシロのその言葉にキレて屋上に行きたい気分になる。
別にアリアのことが好きとかそういったことはないが、幸せに生きようとしている人間を勝手に歪めようとする、通り魔的な行いは不快感しか湧かない。
「藤也さん……やっぱりもしかして私のことを血も涙ない神様だと思っていませんか」
そうじゃなかったらなんなんだ!
シロは降参、降参と言った感じのジェスチャーを行い。
「分かりました。説明くらいはしっかりさせていただきますので、屋上に久しぶりに行きたそうな表情は止めてくださいよ」
そう言ってシロは扉の先の中庭の光景の時間の流れの様なものを止める。
「1からだと長い話になりますので、向こうの時間の流れを弄りました。はーい皆が大嫌いなシロりんの説明回はっじまるよー」
もう中庭では大事件だけどな……
「あの世界の中世紀、トーヤさんが居た時代から数百年前のお話です。 降神戦争という異界からの蹂躙戦争がありました。 当時の王国は旧アレス王家……王国の権威は弱体化、諸侯が乱立し戦国時代の様相を呈していました。 あの状態では降神に相対することは不可能でした。 私はかの世界を守りたかったのですが、直接手を下す訳にはいかなかったので、あらかじめ用意していた世界の防衛システムを始動させ、各勢力の戦力統一を行い降神に対させることにしました」
「その防衛システムの名は《守護者と英雄》と言うものです」
「守護者は説明するまでもなくティコのことです。そしてその英雄に選ばれたのが、当時諸侯の子供であったローランという男性でした」
シロは2つの幻像を映し出す。
1人は見たことがある女性……精霊女王状態のティコだ。
もう1人は絶世の美形の少年である。
ただ同じ絶世の美形でも、シュウとは違ったタイプの容姿である。
シュウは真面目そうな感じがしたが、この少年は自由奔放な感じがした。
あと……
「この少年、アリアに何となく似ている様な……」
俺の疑問にシロは話を続ける様に応える。
「ええ、彼ローランが後の聖王、つまりアリアの先祖になります」
「降神戦争前、世界の危機を察知した私はあらゆる手を打ちました。 天下三分の計を参考に、先程の《守護者と英雄》に加えて、弱体化したアレス王家に代わりとして、後の帝国建国帝に神託と《帝位の運命》を授け帝国を築かせました。そしてその帝国の暴走を押さえる為と補助戦力として《共和国》を、まあ後に暴走するのは共和国になりましたがね……」
シロは苦笑いを浮かべ「人間って難しいものですね」とぼやきを入れる。
「現在の王国の礎をローランが統一し、降神に対し世界は大きな痛手を負いましたが、何とか勝利を収めました」
長い話だったからだろうシロは何処から取り出したのか、懐かしい人造人間ロボのコラボ缶のコーヒーを飲む。
ちなみに俺にも一本投げ寄越してくれる。
俺のは主人公の缶だった。
(蛇ってカフェイン大丈夫なのか?)
一服が終わった後、シロは話をを続けて来る。
「問題は戦争が終わってからのことです。ローランに授けた英雄の力は強力ですが一代限りのもので、彼が亡くなった後は、その魂と力は《魂魄の世》に送られ、そこで洗練され新しい命になるはずだったのですが、彼の魂と力が行方不明になってしまったのです」
「私は世界の管理者に魂の捜索をさせましたが、結局見つかりませんでした。しかし、ローランの死後数百年の後に魂と力を発見することが出来ました」
シロのはそう言ってまた新しい幻像を映し出す。
それは今より少し若いメリアが血塗れの赤子を掲げ、何かを叫んでいる幻像だった。
「この時アリアも力尽きる運命でしたが、ここで失われる命を繋いだ魂がありました。それが……」
「ローランの魂でした。そして数百年行方不明になっていたものが何故急に現れたのか、答えはすぐ分かりました」
次の幻像には1組の男女の姿が映し出される。
互いに見つめ会うその姿は強い信頼感……いや、愛情を感じ取れた。
1人は先程の話のローラン、もう1人は活発な感じがする少女だった。
年の頃はアリアと同じくらいだろう。
「彼女の名前はアテルア、教団の聖詞には初代聖女と記された、ティコの初めての友人でした」
ティコのことを話す際、飄々としたシロから僅かな違和感を感じるが、ここで話の腰を折るのも何だったのでスルーすることにする。
人間……いや神様にも色々あるのだろうと思う。
ティコから彼女の話しは聞いたことはなかったが、永く生きている彼女のことだ、友人の何人か居るだろうと考える。
「で、そのアテルアとローランの魂と何の関係が……」
俺のその言葉と共にアテルアの幻像は姿を変える。
その姿には俺は見覚えがあった。
ガネメモのEXダンジョンの裏ボス《バンシィ》であった。
サブスケさん曰く、戦術担当のコーメさんと葛霧さんとの合作で造り上げ、テストプレイも満足にせずに実装されたぶっ壊れのボスキャラである。
ちなみにに倒すのに一年くらいかかった、俺のガネメモ最大のトラウマキャラである。
倒したとサブスケさんに言ったら、「よくやるな~」と呆れた表情をしていた。
「アテルアが死した後、ローランと同じく《魂の還元》を彼女も受けるはずだったのですが、彼女は才能があった上に、人手不足もありましたので私は彼女を《死の歌姫》にしました」
「そして彼女はバンシィとなり、自分の自己の世界《天獄》に死した後のローランの魂を封じました。それから誰にも気付かれることなく数百年経って、彼女はその魂を解放し死に行くアリアの生を繋ぎました」
幻像が変わり、メリアと赤子のアリア、そしてバンシィの姿が映し出される。
その光景は女神が命を授ける神々しい宗教画の様に俺には見えた。
「彼女の世界への裏切りを咎めましたが、それ自体はまだ良かった……」
次に映し出された幻像に俺は気が狂いそうになる。
そこに映し出されたのは巨大な肉塊だった。
無数の生物がグシャグシャに集まり団子の様に固められた生物の冒涜とも言うべき姿だった。
「これは降神の核と呼ばれるモノです。降神達の主神であり様々な異界を喰らい尽くした暴食の魔物です。 見てください表面の肉塊をこれはコイツが喰らった今までの……って、聞いてます」
シロのその言葉に、俺は放心状態から意識を戻した。
「あのなあ……いきなりこんなグロいのを見せるなよ!! 正気がピンチになって、狂気がうーにゃーするところだったぞ!!」
実際、当分肉団子は食べられないだろうな、食堂の肉団子の豆ソース掛けは絶品なのだが……
「降神との戦いは終わったのだろう、死んだコイツが何だってんだよ」
シロは静かに返答する。
「死んでおりませんよ。神の場合は滅ぶと言うのですが、降神の核は今だに健在です」
相手の大将が健在なのに勝ったと言うことは相手が降伏?、同盟?、だけどあの肉塊にそんな知性があるとは俺には到底思えないのだが……
シロは俺の疑問に応える様に告げてきた。
「”核”にあるのは圧倒的な暴食の意識だけです。知恵もあると言えばありますが、それは自身の欲求を満たす為に使われるものだけであって、共存共栄など不可能です」
シロは忌々しいと言う表情をし
「そしてアレを滅ぼすことも不可能でした」
シロはその言葉と共に新しい幻像を発現させた。
続きます。




