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38話︰学園編 中庭の攻防 その1

 


「将来を誓った、お方はこの人です!!」


 うん。何を言ってるんだこのアマ……もといフラグ喰らいは


 春なのに、周囲はアリアの意味不明の発言により氷点下の様相を呈していた。


 いわゆる、お茶の間ブリザードである。


 正月CMの『せーのっ♪ 新春キャンペーン実施中♪』じゃねえんだぞ……


 ブリザードが吹き荒れる中、勇気ある青年が集団の中から代表者として出てくる。


 大人っぽい雰囲気の好青年と言った容姿で、いかにも若紳士と言った風情な人物だ。



「し、失礼だが君が……」


 俺はその男の次の言葉に絶句することになる。



「聖女アリア様の将来を誓った伴侶なのですか」


(ぶっ!!!)


 聖女アリアって何だよ。


 ガネメモにおいて聖女と言われるキャラは1人しか居ない。


 《腹黒聖女ソレイナ》と言うステータスで希少価値な子だ。


 今の時期だとまだ聖女と認められていないがルートによってはそうなることになる。


 アリアが聖女になる展開は原作にも、葛霧資料にもない。




 ―――《聖女》

 精霊女王(アリアンロッド)の側に直接仕える、いわゆる巫女である。


 そもそもの始まりは精霊女王(アリアンロッド)の友人たるアテルアと言う少女が、精霊女王(アリアンロッド)と常に行動していたことから付いた称号であり、現在においては帝都教皇、王都大司教に次ぎ、民衆や信者達への発言力はそれ以上とも言われる役職となっている。


 ゲームにおいては現聖女は高齢の為、後継者選抜の話しがソレイナストーリーの根幹となる。(引用:葛霧資料 ―聖女の章― より、訳:高嶺藤也)




 おい……ソレイナはどうしたんだ。


 俺の知っている腹黒聖女ソレイナは他人にみすみす聖女の称号をゆず……もとい奪われるタマではないはずだが……



 まさか!!!



 俺は驚愕した表情でアリアを見る。



 く、喰ったのか……ソレイナの聖女フラグまで!!!



 春の暖かい陽気に関わらず、俺の背筋に冷や汗が流れ落ちる。


 俺はアリアが名状しがたい何かに見えて来る。


 てっきり、俺のフラグだけかと思っていたが、まさか他人のフラグすら喰らうとは……




 ―――『ピンポーン、ソレイナの聖女フラグは私が食べちゃいました』


 そしてアリアの頭から上がソレイナに入れ替わり。


『コイツとの共同生活は楽しかったぜ』


 念願の胸元のお山を手に入れたソレイナは


(わたくし)の頭脳と、アリアのお山を持つ(わたくし)は無敵!! テメエのチンケなフラグもいただくぜ!!』―――



(アカン!!)



 俺の大混乱な心中を知らずか、若紳士は俺に更に問いて来る。


「で、君は聖女様の将来を誓った婚約者なのかどうなのですか!」


 うるせえ!俺は今それどころではないんだよ!


 俺は混乱していた。なぜならば、原作のガーネット・オブ・メモリアルにおいてヒロイン同士の絡みは一切ないので、まさかフラグ喰らいのアリアが他のヒロインの設定やフラグを喰らうことがあるとは……



 これだからフィクションを現実にすると恐ろしい。



 周囲は俺の返答を待ってか静かに沈黙している。


 俺はチラリと傍にいるアリアに非難を込めたジト目を送ることにした。


 アリアは酷く申し訳なさそうな表情をしていた。



 だが同時に俺が何とかしてくれるとの期待も感じれた。


 それはまるで親の陰に隠れる子供の様な感じだ。



(ま、色々なことは後回しにして、まずは目の前の問題を片付けることにするか……)


 目の前のコイツらの意図は、今朝シュウから聞いた話しで簡単に察することが出来るが確認することがある。



「分かりました。貴族様達の質問にはお答え致しますが、なにぶん私自身、現状の事情が全く飲み込めませんのでまずは私の質問に3つ答えて頂いて宜しいでしょうか」



 俺のその言葉に貴族達の反応が分かれる。


 1つは「もっともだ」とひとまず事情を説明するべきだとの理性的な者達、もう1つは「答は単純だろ、さっさと答えろ」と言う単細胞達、「庶民が貴族に質問だと、無礼者が!」というお約束な貴族、あとはこの状況でどう動いて良いか分からない者達と言った所か……


 今の反応で俺は会話のキモになる人物を瞬時にピックアップする。



 昔タウンミーティングであった話しだ。


 まずは理性的で好意的な者の質問を受け付け、浮動票、そして感情的な者を真ん中辺りに据え付け、最後に理性的と浮動票で〆る。


 こうすれば表向きは最初良し、終わりヨシで好印象で終わることが出来るからだ。


 気を付けないといけないのは、真ん中で感情的な人間ばかり答えて場の温度を過剰に上げ下げをして、空気を悪くしないことだ。


 大切なのは場の温度である。


 一定の温度を保つ為に、感情的な人間と、冷静な人間を巧く混ぜて質問を答えて行かなければいけない。


 そしてその浮動票は、場の空気で感情的にも冷静にも動くのでタイミングをみはらかって質問するのが吉だ。




「分かった。代表として質問には私が答えようと思うのだが、皆どうだろう」


 若紳士が皆の代表になろうとするが、その言葉に反論が混じる。


 いわゆる何勝手に仕切っているんだと言った具合だ。


(これは好都合)


 いわゆる纏まりのない烏合の衆と言う奴だ。


 変に団結されると厄介だと思ったが、思っていたよりやり易そうだ。



「では、人選は私がしますのでどうでしょう? これなら言い争うことは無いでしょう」



 俺のその言葉に


「ふざけるな! 庶民の分際でその様なことを勝手……」


 俺は言い切る前にその貴族に手差し


「はい!まずは貴方で1人目です。 私の質問が終われば皆様が欲しい答が手に入りますから手早く終わらせましょう。 皆様の様な高貴なお方の時間は貴重! 質問は3つですので、あと二人も手早く決めさせて頂きます!」


 俺は有無を言わさず進行していく。


 正直コイツらと不毛な言い争いをする気はないので、俺は有無を言わさず進行して行く。


「まずは質問の1つ目です。貴方様を含め皆様はどうしてアリア嬢に付き従うように付いているのですか」


 いきなりの俺の質問に質問に答える貴族の言葉が詰まる。


 内容が言えないとかではなく、突然で何を言って良いか分からない感じだ。


 周囲から「早く言えよ」と言った雰囲気が立ち上がる。


 先ほどの”時間が貴重”と言った俺の言葉が結構効いている様だ。


 実際、貴族の子弟などは色々忙しいのは何となく分かるからな。


 質問に答える貴族はその空気に焦ったように言葉を絞り出す。


 考える時間がないコイツは嘘や作り話しをでっち上げる時間を封じたので、大体の事実を話すだろう。


 こうなればこっちのモノだ。



「全員がどうかは知らないが、私はただ聖女アリアを家の宴に招待しようとしただけだ」


 俺は心中で、やはりそんな所かと思う。


「失礼ですが、それは家のご意向ですか? それとも貴方がアリア嬢に好意を寄せてのことですか?」


 俺の質問に答える貴族は言葉が詰まり、頬を朱に染める。


 怒っているのではなく、意外と純情君と言う奴だな。


(なるほど両方か……、威勢の割りには純なことで)



 シュウから聞いた話しだが、現在のこの国の貴族達の立ち位置はある程度2つに分かれる。


 粛清に加担した家か、そうでないかだ。


 無論、今の王太姫派の多くは加担していない家が多い。


 つまりは加担した家は名声を得て、何とか名誉の挽回をしたい訳だが……


 俺の考えからすれば一番手っ取り早いのは教団に売り込み家名を上げることだが、教団は清貧を尊ぶ組織である為にそう簡単には行かない。


 だがここで地位が低くとも、教団にとって特別な立ち位置の人物がいればどうなるだろう。


 おまけに御しやすい15の小娘かつ、魅力の塊の美人ときたものだ。


 どこの家もコネを作りたくて仕方ないだろうな、そしてあわよくばと言うこともある。


 まさに鴨が鍋と、旬の京野菜一式と〆のご飯まで背負っている状態だ。




 おっともう1つ、これは特に重要だ。


「貴方の家の意向はアリア嬢を通じて教団との繋がりが欲しいと言う認識でよろしいですか」


 俺のズバリな物言いに質問に答えた貴族は言葉に窮する。


(少しは顔芸くらいしろよ……)


 権力を手にする者は常に仮面を被らなければならない。


 俺の世界なら子供でも分かることだ。


「他の皆様も同じ考えだとよろしいでしょうか」


 俺は集団に目を合わせるとほとんどが目を反らし伏せる。


(素直なのはいいけど、この国の将来大丈夫か)


 こんなボンボンばかりで次世代の国の運営が勤まるのか不安になりそうだ。


 上がダメだと下が苦労するだろうけど、王都民ではない俺には関係ないと考えるのを止める。



 この質問の意味はアリアの素性にある。


 アリアは旧聖王家の血を引く、公爵令嬢である。


 秘密のことなので、口外しないようにメリアとアリアからは釘を刺されているのだが、今回のコイツらが家の名誉の挽回や下心だけで宴に招待するのならまだ良い。


 厄介なのはアリアの素性を知った上で招待しようとする奴だ。


 どう考えてもロクなことにならないので、軽く探りを入れて見たのだが……



 1人、1人の心中は分からないけど……まあ、大丈夫だろ。


 俺は直感で勝手な自己判断を下すことにした。




「では、次に……」


「おい、何回質問するつもりだ。質問は3回だからこれで終わりだろう!」


 集団の中から指摘する声が上がる。


(っち!気付かれたか)


「失礼しました。あれは確認でしたのですが、皆様のお手を煩わせたのも事実。 故にこれを持って最後の質問とさせて頂きます」


 俺はそう言うと最初に話し掛けて来た若紳士貴族に向き直る。


「最後の質問です。聖女アリアとはどう言った意味ですか、聖女がアリアに代替えしたとの話しなど聞いたことがありませんが」


 俺のその言葉に若紳士は「フム」と頷き口を開いた。



「確かにこの話しは下下(しもじも)にはまだ伝わっていない話しですからね。ですが貴族の間では大層評判になっていますよ」



 そう前置きをし、若紳士貴族はその内容を語り始めた。


 それは最近あった神託の儀式において、この世界に神が降臨したとのことだ。


 通常であれば儀式は失敗、大司教はその命を代価に儀式を強制終了させることになったのであろうが。


 その危機を救ったのがアリアだと言うことだ。


 その伝わった話しでは、アリアは奇跡とも言うべき強大な力を使い儀式を完遂する大きな力となった。



「そして、次代の聖女の最有力候補とも言われるソレイナ司祭が、アリア侍祭を聖女と認められたのだ」



 まさかそんなことが……


 俺の知っているガネメモのソレイナと言うキャラクターはとてもプライドが高い娘だ。


 大切な祖父の力になる為に聖女になろうと、才能が高いにも関わらず努力を決して怠らない娘だ。


 アリアを聖女と認める光景を俺なりに想像してみる。




 ―――『フラグを喰らい尽くすその貪欲さ……そのお山はムカつきを通り越して殺意すら湧きますが……』


 ソレイナは清々しい表情で

『お前が聖女(ナンバーワン)ですわ』―――



 俺の貧相な想像力ではこれが限界であった。




「つまりはここに居る皆はアリアが聖女と評判になったから、家名を上げる為に宴に誘っていると言う認識で良いのですか」


 俺は周りの貴族のプライドを傷付けない様に、若紳士に小声で問う。


 若紳士も意図を察してくれた様に答えてくれた。


「全員かどうかは知らないが大多数がそうだろうね。 元から評判ではあったのだが、以前はここまでではなかった。 だが聖女の話しが広まってから、今まで見向きもしなかった者達が露骨に増えて来たのだ」


 その言葉に俺はこの若紳士がアリアのことを以前から知っているのかと疑問符を浮かべる。


 俺の疑問を感じた表情で察したのだろう。


「彼女には難病の妹を救ってくれた恩がありましてね。ただ巧く行かずここに混じることになってしまった」



 なるほど、この人数でどいつもこいつも競争心を持っていれば1人が何とかしようとしても、どうにもならないだろうな。


 ここに居る奴らは1人、1人が言わばライバル同士だ。


 その一触即発な状態を逃れる為に、アリアは婚約者が居るなんて嘘をついたのだろう。


(まあ、手っ取り早い手段ではあるが……下策でもあるな)


 まず相手が俺の時点で説得力皆無であると言うことだ。


 庶民、金もなければ実力もない、……ついでに顔も悪い。


 その時点で失策だ。




「これで質問は終わりだろ!早く答えろ!」


 集団から声が上がる。


 言われなくても言うよ。


 俺はアリアに目を合わせ『悪くない様にはするさ』とアイコンタクトを送る。



「私はアリア侍祭の婚約者ではありません!」


 俺のその言葉に貴族達の視線がアリアに注がれる。


 その視線は嘘をついたことによる責める視線ではなく『おかしいと思ったんだ、これで問題ないな』と言っている様だった。



 だがここで俺のトラップカードが発動する。



「ですが!!」



 貴族達は俺のその言葉にアリアへの誘いを再開しようとした空気が揺らぐ。



「私は彼女の母である。聖騎士候メリアから学園において彼女の力になる様に言われております! つまりは皆様のことを聖騎士候に報告しなければいけません!!」


 俺のその言葉に貴族達は怯む。


 俺の予想通り、メリアの名前は効果てきめんであった。



 俺は教団の聖騎士についてはそれなりに知っている。


 王都教団には最高位の7人の聖騎士がおり、メリアはその筆頭だ。


 で、この聖騎士は王国にとっても重要な役割を果たしており、その権威は下手な貴族に抗えるものではないのだ。


 貴族達の様子を見ると、どうやらアリアがメリアの娘と言うことの情報が抜けていた者たちも居るようだ。


 知っている者達も居るだろうが、俺の「帰ったらお前らがアリアを困らせていたとメリアに言うぞ~」と言う遠回しの脅しに気後れしているのだろう。



 虎の威を借る狐……いや、鬼婆の権威を借りる弱者かな。



「そもそも彼女は教団所属の侍祭であり、まだ未成年です。宴の公式、非公式問わず本人の同意だけでなく教団の許可が必要でありますが、それは如何なのですか!」


 俺は有無を言わさず伝家の宝刀"未成年"と言う言葉と、教団と言う言葉を使い非常識な奴らを切り捨てる。


 この前知ったのだが、この国の成人は16歳なのだそうだ、15歳は準成人であり色々な成人の権利はあるが扱いは未成年だ。


 俺のその言葉に早速反応したのは若紳士くんだった。


「その通りです。彼女の意志も大切ですが、招待を行うには彼女の母と教団にまずは話しを通すべきでした」



 そう言い、若紳士はアリアに向かうと一礼をし



「怯えさせてしまい申し訳ありません。ですが、誤解しないで欲しいのは全員が家の名誉など貴方を利用する者達ではなく、純粋に貴方と誼を深めたかいと思う者達もいることは御理解ください」


 若紳士が即アリアに謝罪した為、他の貴族達に失態を犯したと言う空気が流れる。



 どうやら何とかなった様だ。


 俺は心中でホッと一息つく。



 群衆に対する説明と言うものは本当に難しい。


 婚約者じゃないと即座に反論を行っても、ポッと出の俺の言葉なんて聞いてももらえなかっただろう。


 そして先ほどの正論も黙殺されただろう。


 なので、俺は罠を張った。



 最初に授業形式的なこっちが質問を選択する状態に持って行ったのは俺に注目させるのが最大の目的だったのだ。


 昔、座学の研修を受けていた時、普通なら途中から気分が弛緩するものだが弛緩しそうな者は即座に教官から質問が飛び教官から目がそらせない時があった。


 今回はそれを応用させてもらったのだ。


 話を聞いてもらうにはまずは注目されるのが絶対条件だ。


 そして自分に質問が飛ぶのだろうとする状況を作り、俺の話しに対して身構えさせるのが準備であり、納得出来る出来ないは関係なく"話を聞いてもらう"ことは出来た。


 そして若紳士の様に、最初にアリアに謝罪する者を待っていたのだ。


 最初の段階で冷静な者達が居たので、勝算のあることだった。


 まあ良心とかそんなものではなく、最初に謝る人物はアリアの受けが良いのでそう言う奴が居ると計算した上でのことだ。




 場は解散の雰囲気が流れてお開きの様相を呈してきた。


「この騒ぎを静めるとは、貴殿は何者なんだい」


 若紳士は心底驚いた風に俺に聞いてくる。


「静めるって……俺1人では無理でしたよ。貴族様が最高のタイミングでアリア嬢に謝罪を入れてくれたおかげで何とかなりました」


 俺のその言葉に嬉しいそうな表情で、若紳士は告げた。


「クロスティルだ」


「私の名前はクロスティルと言う。貴殿の名前は」


 俺は虚を付かれた形になったが、その笑顔はシュウの様に特に邪推のない感じがしたので答えることにした。


「トーヤです」


 俺の応えに若紳士改め、クロスティルは俺に右手を差し出して来た。


 いわゆる友好的な握手だが、この世界でもそうなのかな?


「君のお蔭でアリア様が大変な目に会わずに済みました礼を言います。 でも、私も彼女に想いを寄せる者として負けるつもりはありませんよ」


 クロスティルは爽やかに言い放つ。


 この握手はいわゆるライバルへの宣戦布告と言う奴か……


 いや、ライバルって勝負にならないじゃないか


 相手は貴公子、方や俺は目付きの悪い元中年(おにいさん)


 く、比べるのも悲しくなってきた。



 まあ……このまま放置も失礼なので俺はクロスティルの手取り握手を行う。

 クロスティルの目は「君には負けない」と言っているようだが、俺は本っ当にそんな大した人間じゃないから!


 だからその恋愛漫画のライバルみたいな眼差しやめてくれ、相手が俺では淑女さまは喜ばないから、それはシュウあたりにやってくれ。




「……トーヤくん。あの……」


 ことが落ち着いたからだろう、アリアが申し訳なさそうに俺に声をかけてくる。



「ごめんなさい!! こんなことに巻き込んでしまって、あの…その…」



 アリアは今度は頬を染めてポツリ、ポツリと言う。



「……し、将来を誓いあったと言うのは……その……あの……」



 なんだろう、俺の第六感が警鐘を鳴らす。


 ま、まさかこれが! ラブコメの波動か!!


 俺は量産型主人公みたいに難聴でもないし、他人の表情から感情を読み取るのは得意なので、人格破綻者みたいなほど恋愛感情に鈍くはない。



「で、でもそうなっても……いいかな……とも……」



 ま、まずい!!これ以上この女に言わせるな!!


 フラグ喰らいが大口を開けて、俺の黒の少女フラグを喰らおうとする。


(く!!何か!武器はないのか!!)


 俺はこの難局を乗り切る為に必死で知恵を絞り出す。



 ―――ピュリーン♪



 俺の頭脳に新人類な効果音が鳴り響く。



 ヒントはあったじゃないか……


 そう、勝利のカギは


(難聴と人格破綻だ!!)




「え?何か言ったか?」


(俺は主人公、俺は主人公、俺は主人公、俺は主人公、俺は……)


 俺は自分がある主人公と思い込むことによって、この難局を乗り切ることにした。


「ですから……将来を誓いあったと言うことについて……その……」


(やらせはせん!やらせはせんぞーーー!!!)


「ああ!あれか、子供達に大人と馴染むようにするアレだろ。大丈夫だ既に地ならしは済んでいるから、あとは仕上げを御覧じろだ」


 俺はアリアに親指を立て、後はまかひろと言うように返事をする。



「……いえ、あの……もういいです」


(勝った!!!)


 俺のなりきった主人公は見事にフラグ喰らいにカウンターを喰らわせた。


 日英仏中独の美少女のフラグをへし折る主人公の強さはまさに圧倒的である!



 アリアはしょぼりとした様な表情で落ち込む。



 ちょっと可哀想だったけど仕方ないだろ。


 アリアみたいな魅力的な女の子にガチ告白されたらスルーできる自信はないんだよ、俺も普通の男だからな……




「探しましたよアリア嬢! この俺をここまで探させるとは罪な御方だ」


 お開きな現場に場違いの様に現れたのは、リーゼントの様な髪型をしたキツネみたいな顔をした男である。


 自慢している様な曲がピッタリな……って、今朝の貴族か!


 その特徴的な姿で俺はその男のことを思い出すが、あの……もうアリア争奪戦は終わったので帰ってもらえませんかね。


 まだ何人か残っている他の貴族達から呆れの感情が出るかと思いきや、その男の登場で周囲に流れる空気は




 ―――緊迫感がその場を支配した




(え、何この空気)


 俺の近くに居たクロスティルは絞り出す様に呟く。


「ス、スネイル子爵子……」


 そこに混ざった感情は恐れであった。




新規様、いつもお読み頂いている皆様。

ブックマークしていただいた皆様。

評価をしていただいた皆様。

感想を書いて頂いた方々。

お陰様でPVが21000を越えており、皆様に支えて頂きとても感謝しております。

やはりモチベーションって大事なのですね。今は皆様のおかげでとにかく楽しく書かせて頂いております。

拙作な作品ではありますが、これからもよろしくお願いします。

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