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33話︰学園編 運命の会合 その2

 

 茂みから現れた現れた人物は、男の俺でも息を飲むほどの美形の男子だった。


 顔立ちが良いばかりではなく何となくその佇まいから、育ちの良さと気品の様なものを感じ取られた。


 服装も貴族用の上質な制服を着ており、華美ではないが体型良さが制服をしっかりと着こなしていた。


 現世で居れば、一躍トップモデルでも映画スターでも通用しそうなくらいだろうな。


「先程の言はどう言った意味なのか聞きたいのだけど、良いかな?」



 俺は先程の言とは……?と思い無意識に呟いたことを思い出す。



(独り言のクセ治さないとな)



「いえ、貴族様にお聞かせするほど大したことではありませんよ」


 俺は弱者の仮面を被りこの場を逃れようとする。


 力を誇示する貴族のような人間には、下手に出るのが一番面倒がない手段なのでその手段を取る。


 俺が知る強者と言うのは、弱者からは何も学ぶものが無いと勝手に切り捨て興味を失う者が大半なのは、俺の人生の経験から学んだことだ。



 一部例外の様な化け物が居るが……



「ふむ……そうか。なら少し自分の話相手になってくれないか、正直暇を持て余していたんだ」


 貴族の美青年は俺に無理を言っているのかと心配になったのか。


「もちろん君が嫌ならいいよ、だが自分としては貴族云々ではなく純粋に同じ入学生として話をしたいんだ」


 俺が見た所、その言葉には嘘が無い様に思える。


 これで嘘がつける人間なら、コイツは一流の政治家か詐欺師になれるだろうな。


「私は構いませんが、満足させられるかどうか保証は出来ませんよ」


 貴族の美青年は軽く乾いた笑いを行い。


「そう畏まらくてもいいよ。 貴族と言っても私は跡取りではないし、それに貴族として育った時間より市井(しせい)で育った時間の方が長くてね。 だから身分のことは、今この場では気にしなくてもいいよ」


 俺はその言葉で、このイケメン色々苦労しているのだなと少し同情心が芽生えて来た。


 これだけの美形だと寄ってくる人間も多そうだから、色々あるのだろうと推察する。



「分かった。俺の名前は」


「待って欲しい」


 貴族の美青年は手で止める振りで俺の言を止める。


「名を名乗るのはお互い止めにしよう。その方がお互い本音で喋られる様な気がするから」


 本当に忌憚のない会話をしたいのだろうなと俺は理解する。


「分かった。でも、名称が無いと不便だからな……偽名を名乗るのはどうかな?」


 貴族の美青年は楽しそうに笑い。


「良い趣向だね。それで行こう」


 その笑顔は久しぶりに笑ったと言う様な感じがして、イケメンが更に魅力的になることになった。


 あ、ちなみに俺はホ○じゃないからな。


 地元の会社が作った天使を題材にしたB○ゲーはやったことはあるけど、アペンドディスクは入れていないからセーフと言うことで



「俺のことは、フジヤで頼む」



 名前の由来は本名の藤也の別読みだ。


 ちなみに某菓子屋のマスコットの女の子の名前では呼ばないでくれ……幼き日の古傷が抉られるからな。



「自分のことは……そうだな、シュウで頼む」



 貴族の美青年改め、シュウはいたずらっぽい笑顔で偽名を名乗る。


 くそっ……アリアといい、一々仕草が絵になる奴ばっかりだな。


 美形はこれだから、と俺は謎の理不尽で心中において悪態をつく。



「では、改めてフジヤ。 先程の言の意味を聞かせて貰ってもいいかな」


 シュウは俺の隣のブロックに腰掛け話しを請て来る。


 俺が美形好きの女の子だったら一発で堕ちるだろうなと思った。


 重ねて言うが、ホ○じゃない俺には関係のない話しだが


 俺は先程、中庭であった出来事を話すことにした。


 引っ張った割には、くだらない話しではあるのだが



「そうか……我ら貴族は先の粛清騒動で民に多くの迷惑をかけたと言うのに、まだそんな意識の者達が」



 あれ?思ったより真剣に考えているのか…… てっきり、下らないことだと呆れるとばかり思っていたのに思わぬ反応で驚く。


「まずは同じ貴族として、フジヤに詫びようと思う。先の粛清騒動も終わり、我ら貴族も考え方を改めなければならない時期なのだが、まだそんな不心得者が居るのは恥ずかしい限りだ」


 真剣に俺の話しに耳を傾け、謝罪を行うシュウにかえって申し訳ない気持ちになり、フォローすることにした。


「いや別にいいんだ。 俺はこんな容姿だろ、言葉は過ぎたかも知れないが、特に実害はないから気にしないでくれ」


 俺のフォローに「だが、しかし」と言っていたが、これ以上言っても俺のフォローを無にするだけだと悟ったのか納得することにした様だ。


「分かった。だが、もしまた何かあった時は遠慮なく言って欲しい」


 そうは言ってくれるが、俺はシュウに頼るつもりはなかった。


 自分の問題を貴族とは言え、赤の他人に丸投げすることはできなかった。


「ああ、その時は相談させて貰うよ」


 俺は気休めに了承する。


 相談することはないだろうけどな。



「さて、話しの続きだけど」


 ん?続き。



「『本当に守るべきものとは何なのか、それを思えばどんな恥辱にも耐えられるさ……』か、フジヤのこの言葉を聞いた時凄い重みを感じたよ。 先程の話は…… 失礼だが君はあまり気にしていない様な気がしたと思ってね。 フジヤにとって、この言葉の意味はもっとも重い意味があるはずだ。 自分はそれが聞きたい」



 俺は二の句が告げられなかった。



 確かにシュウが言った様に、先程の言は俺の過去の苦い経験を思い出し、軽率な行動を戒める制約の様なものだ。


 あのキツネ貴族や周囲の貴族達に全く腹が立たなかった訳ではない。


 だけどそれは自分の感情を怒りに染めるほどのことでも無いのだ。


 俺は過去の苦い経験を言葉で再確認することによって、腹立ちは意味がないと言い聞かせたに過ぎない。


 そして目の前のこの男は俺の言の源の意味を教えて欲しいと願っている。



(正直どうしたものか……)



 この言葉の(みなもと)の意味は、俺の最悪な意味での失敗談だ。


 おいそれと吹聴することではない。


 俺はシュウの顔見る。


 綺麗な顔だ。


 だけど綺麗なだけではなく、とても強い意識も感じ取れる。


 強い頼りがいを感じる、いわゆる真のカリスマ性って奴だろうな。


 本当のカリスマは、周りが盛り立てて行く中心となる人間のことを言うが、シュウを見ているとその言葉の意味がよく分かる気がした。


 シュウは何かある時は、必ず中心になる人物だろう。


 未来豊かな青年におっさんの失敗談を聞かせるのも、年寄りの務めかな……と俺は思った。


 俺の説教でこの青年の何かが役立てられるのなら、それは良きことだと考えがまとまる。



「分かったよ。おっさんのつまらない失敗談だけど聞いてくれ」


 その言葉にシュウは不思議そうな表情になるが、俺のその老成したかのような切り替わった気配に二の句がつなげられなくなる。



 その沈黙を是とし俺は語る。


 愚かな俺の失敗を……




 それは俺が10歳の頃だ。


 友人が隣のクラスの奴らにちょっかいをかけられて居ると聞き、何人かの友人とその連中に話しをつける為に同行することになったのだ。


 そこで言い合いとなり、一触即発な状態となった。


 そして相手の連中に、俺の近所に住んでいた奴が居たんだ。


 そいつは親から聞いたのだろうな。


 俺の家はとても貧しかったので、スーパー……商店の終わりがけで安物ばかり買っている貧乏人だってな。


 俺の両親は俺を食わそうと、少しでも生活を良くしようと必死になって働いていたのを理解していた俺の心中は怒りで塗り潰された。


 もともと奴が気に喰わなかった俺に、冷静なると言う選択肢はなかった。


 俺が発端となり乱闘になった。


 その頃の学校は妙な隠蔽体質が蔓延しており、多少の乱闘があっても学校内で揉み消されるのは常であった。


 子供が少し暴れた程度では、そんなに大きな問題にはならない様な時代だった。


 そこに刃物を出した者が居なければだが……


 幸い誰も怪我をすることはなかったが、その事は大きな問題になりそれぞれの親が呼び出されることになった。


 刃物のことは伏せられた。


 学校にとっても、親達にとっても良き結果にならない為に闇に葬られた。


 なので話しは乱闘の発端についての話しになった。



 親父と母さんは何度も頭を下げた。


 俺はその両親の行いに理不尽を感じた。


 乱闘の発端となったのは俺だが、元々の発端となったのは向こうなのに何故そんなに謝る必要があるのかと。


 だけど俺はその程度の理不尽な感情は、何てくだらないことだったと直ぐに気付くことになった。




「何でか分かるか?」



 俺のその言葉にシュウは真剣な表情で考える。


 そんなに真剣に悩んでくれるなんて、話しがいがあるな。


「……何かあったのか……考え方が変わる何かが…… 悪いが内容までは分からないな」



 俺は軽く笑う。


 簡単に答えられたら、話す必要性がないからな。

 答えられたら話しをここで切り上げるつもりだったが、考えが及ばないのなら話す必要があると思い、俺は続きを語る。



「母さんに泣かれた」



 家に帰った後、親父も母さんも俺を責めなかった。


 俺はてっきり手酷く叱れ、親父にぶたれると思っていたのにな。


 親父は悔しさを滲み出すように俯き、母さんは俺を抱きしめて泣きながら、ただ「ごめんね……ごめんね……」と俺に泣いて謝っていたよ。



 俺は心底後悔したよ。


 軽率な行動を取った自分を…… 一時でも両親のことを責めた自分を八つ裂きにしたいくらいにな……



 最初は言葉なんてなかった。


 でも、俺の心は地ならしは出来上がり、1つの意志は俺の誓いとなった。


 その誓いに言葉を付けたのは、高校生……いや、最近になってからさ。



 人生の道程には怒りがあった。理不尽もあった。自分勝手な義憤よる正義感も、嫌悪も、ままらない苦渋も、憎しみも、多くの負の感情が重荷となった…… でも俺の大切な人……俺の大切な両親にはどれも及ばないモノなんだ。



「これがシュウが言う、先の言葉の重みと言うモノだろうな」



 俺の話しで、シュウは完全に沈黙する。


 そして目を瞑り静かに佇む。


 その姿はまさに、考える人の銅像を連想させた。



「フジヤ……君に聞きたいことが……いや、助言が欲しいことがある」



 先程までの余裕のあった青年の姿ではない。


 その姿は、年相応の……道に迷った少年の姿だった。



「構わないぞ、俺に答えられることならな」



 俺のその答えにシュウは語り始める。



「フジヤは王の剣による粛清をどう思う」



 王の剣――

 元来の目的の王妃殺害による粛清を利用し、王の名において専横を行いし貴族達の僭称だ。


 孤児院のユーノの同室のアメルやリコットの両親も殺害されている。



「その様子だと、それなりに詳しい様だね」


 シュウは言い辛そうに言った。


「自分の家はその粛清に加担した……王の剣なんだ」




※この作品はフィクションです。時代の背景なども想像のものであり、実在の人物や団体などとは関係ありません。


いつもご愛読頂いている皆様、新規にブックマークしていただいた方もありがとうございます。

今回は週イチを守れたので自分でも意外でした。

この調子で進められる様に頑張りますので、よろしくお願いします。

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