31話︰《2章プロローグ》目覚め
そこは光も届かぬ漆黒の闇が支配する世界。
人がその世界に居れば、その精神は狂気によって一瞬に染まるその闇は静かにそこに佇んでいた。
人が住めぬその世界に動きがあった。
その世界に1人の少女が横たわっていた。
少女はまどろみから意識が戻る。
己の意識が戻るのは、久しぶりなので現実との解離に少し戸惑う。
この世界の闇は少女にとってまさに揺りかごの様なものであり恐怖など全くない。
少女は先程から顔に掛かるモノが気持ち悪いくて払いのけるが、それは何度払っても顔について回る。
動く度に先程から顔に掛かるもの……どうやら自身の髪が顔に掛かりむず痒い様子である。
―――それはこの世のものとは思えぬ、漆黒の美の極致とも言うべき髪であった。
少女がその身を動かす度に、周囲へと広がる黒き宝石の様な髪が揺れる。
(また髪が伸びたみたい……)
―――コトッ
闇と静寂が支配する自分のその世界に物音がした。
もちろん自分が起こした音ではない。
少女は本来あり得るはずのない物音に興味を覚え、物音があった場所に歩み出す。
この世界の闇に少女は戸惑うことなく歩んで行く。
その姿は慣れ親しんだ自分の家の中を歩く様に……
だが物音があった箇所で少女は驚くことになった。
それは一条の光……
天井部分が欠け落ち、そこから日光が一条の光となって照らしていた。
日の光で照らされた少女の髪はまさに白日の元に晒された至高の宝石の様に輝き、その髪の美しさに負けないが如くの顔も照らされる。
だがその表情は曇っており、憂慮する深窓の令嬢の様な表情であった。
「……き、ぼ、う……」
少女は思い出せないほど久しぶりにその声を発した。
まるでそれが少女の運命の始まりの様に……