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30話︰《序章終幕》希望の灯火

 

 ―――夢を見ている


 今日は1日色々なことがあったので、気が昂ったのか眠りが浅いです。



「今日はシスターメリアの許に帰りなさい」


 儀式の後、大司教さまに個別で呼び出しを受けました。


 本来であれば儀式の負荷により安静にしていなければならないのに、私の為に無理をさせて申し訳ない気持ちになりました。


 呼び出しの理由は始祖の聖歌のことかと思いましたが、どうやら違う様でした。


「以前、お主に聖人の兆候があると話した内容は覚えておるか」


 頷いた私に大司教様は告げた。



「単刀直入に言おう」


「以前はそなたの人として居られる時は一年ほどだと伝えたが、あの聖歌を歌った代償か、他の要因かも知れぬが、残された時は恐らく明日の日の出までであろう」


 大司教さまのその沈痛な表情は我がことの様に苦しんでいるかの様に見えました。


 あの時の私はその言葉を他人事の様に聞いていました。


 聖人のことは聞いていました、そしてその扱いと末路のことも……でも、その時は何かの感情が沸き起こることはありませんでした。


「残された時は少ない。シスターメリアと……そなたが普通の人として母と接することが出来る最後の夜になるだろう、悔いのない様に話しをしなさい」


 大司教さまのその瞳は深い憂慮と哀しみが感じられた。


 だが、その感情はその時の私には親しい間柄である母…メリアに対する感情であって、自分のことではないと心の中で切り捨てたのだ。


 今なら分かる……この様な考えをする私は如何に愚かな人間だったのか……



「汝に希望があらんことを……」



 私が部屋を出ようとした所で大司教さまが、創造神様から賜った希望と言う言葉を口にする。


 何故だか分からないが、本来儀式の中心たる大司教さまにしか賜わることのない神託の言葉が私にも聞こえたのだ。


 だからその言葉の意味が私には分かった。


(大司教さま……それは世界の希望であって、私の希望ではありませんよ)



 私は心中でそう呟き部屋を、教団を後にした。




 私は帰路につきながら考えた。


 大司教さまはメリアと話す様に言っていたけど、今さら何を話すのだろう……


 メリアと話し、母と言えば良いのだろうか……だが、翌日には聖人の尖塔に幽閉される私が、メリアを母と呼べば彼女は更に苦しむのではないのか……


 なら、今のままで良い。


 誰も苦しまず、誰も悲しまないのなら、私は1人でも、ひとりで……



 視界か歪む。


 私の瞳に涙が溜まる。



 考えれば、考えるほど苦しかった。悲しみが私の心を支配しようとする。


 そしてそれの元となるのが……恐怖……



 帰らぬ日常、失われる繋がり、そして




 ―――日常が終わることの恐怖




 私は心中で仮面を被り、恐怖を必死に誤魔化そうとした。


 今まで何度も行ったことだ、難なく自分の感情を誤魔化すことが出来た。


 私は気分を落ち着けようと道の端に寄り、瞳を閉じて深呼吸をする。


 閉じた瞳の裏に、仮面を付けた枯れ枝の様な人物が見える。


「っ……!!」


 私は恐怖のあまり息が詰まった。


 瞳を開くとそこには枯れ枝の様な人物は見えない。


 いや、視界のはし端に写るように見える。


 どうやら目を瞑る動作を行うと見える様で、瞬きの間に見えている様でした。



 その時の私は恐怖で混乱し、夢中で走り出しました。



 次第に仮面を着けた枯れ枝の様な人物は見えることはなくなり、私は安堵し同時にある予定を思い出しました。


「そうだ。今日は孤児院の子供達に食事を作ってあげる日でした」


 もうすぐ日も暮れはじめようとしていた。


 故に私は急いで孤児院に向かおうと裏路地の近道を通ることにしました。


 そして裏路地で私は3人の男の人達に捕まり、とても困ったことになりました。



 ――こんなクズ共、※しても何の足しにもならない……



 え?今、何て……


 私の耳に彼らの声は届かなくなり、いつの間に居たのか、私の目の前に先程見えていた仮面を着けた枯れ枝の様な人物が至近距離に立っていました。


 男達3人は目の前の仮面の人物が見えないのか全く気付くことはなく、仮面の人物は徐々に私に触れようと手伸ばしてくる。


 それは、私に手を取れと言っている様でした。


(手を取ってはいけない!!)


 私は直感的に警戒心が沸き上がって来ました。


 私のそんな内面を知りもせず、3人の男性達の態度は高圧的なものに徐々に変化して行きました。


 仮面の男の手にはいつの間にか一振の短剣が握られており、もし私が彼の手を取ればどうなるか、背筋が震え始める。


(ダメ!お願い止めて!)


 私は心の中で叫ぶが、それで状況が何か変わるものでもない。


 助けを求めようとも辺りには誰も居ない。


 いや、1人居ましたがその男の人は巻き添えを恐れてか、立ち去って行きました。


 もはや周辺には誰もなく、私は大きな喪失感を感じました。



 ―――汝らには希望の芽があることを忘れるな


(神様これは報いなのでしょうか、皆に好かれる為に善人の仮面を被り続けた私にはもう希望なんて……)


 楽になりたい、私は目の前の仮面の男の手を取りたい誘惑に駈られるが


(ダメ!!それだけはダメ!!私はまだ……まだ…… お願い助けて…… 誰か……)



「待ていっ!」



 ―――それは小さな希望、とてもとても小さな希望の灯火でした。






 薄暗い寝室のカーテンの隙間から一条の光が、私――アリアの目を照らし、目を覚ましました。


 起き上がった私は、朝日が漏れる寝室のカーテンと窓を開け外の空気を室内へと導き。


 冷えた空気で身体が震える。


 昨日の雪の影響だろう、天気は快晴だが朝は寒い。


 でも、空気はとても澄んでおり気分がとても良い。


 開け放った窓から、王都に時刻を知らせる鐘が響き渡る。


 鐘が告げるその時刻で、私が普段起きる時刻とは全然違うことを悟る。


 どうやら私は寝坊した様だ。


 私は「いけない、いけない」と独り言を言い、簡単な身支度を済ませ慌てて寝室を後にする。




 寝坊をしてしまいましたが、朝食の支度を行おうと調理場に向かいましたが、調理場は混迷の極みになっていました。


 急に寒くなったからだろう、食事当番の子も寝坊したのかな、寒い時の寝床は天国ですからね。


「アリア!呑気に見てないで手伝っておくれ、ああ鍋は何処にあるんだい」


 珍しく、メリアが調理場に立ち孤軍奮闘していた。


 彼女は料理も苦手なので、その手際はあまり良くない。


 なので普段は調理場に居るのは、火の番や力仕事が主なのだが……


 私は忙しくも騒がしい、その宝物の様な日常の光景を目に収める。


(そっか……私は帰って来たんだ)


 これは最後の日常ではない。


 これはこれからも続く日常であることにアリアの瞳が緩む。


 私は一滴の涙を拭い、シスターメリアの手伝いに……いいえ……



「お母さん、鍋は窓際の戸棚にあるから、少し落ち着いて」



 私の”お母さん”と言う言葉で、メリアは一瞬驚いた表情になったが直ぐに柔和な……いえ……くすぐったい様な表情になった。


 そんな母の表情に、私も自然に笑顔になる。


 ああ……心から笑顔になれる気持ちになったのなんて、いつ以来だろうか。



 ―――いつもお気に入りの木の洞で泣いていた私


  周囲の暗闇により、帰り道の分からない私が出会った小さな、小さな希望

 

  でも、その小さな希望の灯火は暗闇だった私を照らし、私の帰るべき道を……


  かけがえのない日常と言う家へと導いてくれました




 食事の支度を始めようとした私は、背後に”ある人”の気配を感じとる。


 昨日会ったばかりの人なのに、もう何年も共に居る様な感じがする不思議な人に私は笑顔で挨拶をする。


「おはようございますトーヤくん。今、朝食の準備をしますので待っててください。腕によりをかけますから」




  共に歩もう、その小さな希望の芽を失望にも、絶望にも染まらせないように……


  かけがえのない、小さな希望の灯火を―――





お久しぶりの投稿になります。

続きをお待ち頂いた皆様には、お待たせして申し訳ありません。

新規にブックマーク、評価して頂いた皆様ありがとうございます。

10000PVを越えていて、こんなに読んで頂いているのかと私自身驚いています。

未熟な私ではありますが、ご期待に添える様、努力させていただきます。

次は【学園編】の投稿になりますので、まだお付き合い頂けることを願い書かせていただきます。

その前に外伝もそろそろ書きたい欲が……



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