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29話︰《神視点:神託の儀式編03》

 シロは困っていた。


 本来、自分がこの世界に降り立つと、自身の力で無意識に世界を滅ぼすかの被害が出てしまうので、今までは人間や知的生命体に意思を伝えて何とか世界を守る様に誘導してきたのだが、今回は自分がある程度の力を振るわないといけなくなったので急遽《影》を送ることにしたのだ。


 それもこれも藤也がトーヤの中から一向に目を覚まさないのが原因であった。


 シロの予定だと、物心がつく10歳ぐらいから藤也の記憶がトーヤと融合する様に設定したのだが、自身の術式にバグか何かあったのかオートモードの状態で王都に向かってしまうことになったのだ。



(オートモードで王都に……プッ!!)



 シロは自分のダジャレで笑ったが、その影響か遠隔操作をしている神の影の制御が狂い軽く動かしてしまった。


 自分の意志を伝える施設の……神託の間だったかな?とシロは思い出す。


 だがシロの呑気な思惑とは違い、制御がちょっと狂った影から力が漏れ出る。


 その結果、儀式の間は阿鼻叫喚の地獄絵図となってしまった。


「ああ、やっちゃった。ゴメン、ゴメン」


 シロは「ジュースこぼしちゃった」と言う様な感じで謝るが、もちろん相手に聞こえる訳はなかった。


 向こうに居る影では喋れないので謝りたくても謝れないのだ。


 ジェッスチャーで謝るにしても、頭を下げる行為がこの世界で謝ることになるのか自信はない。


 そもそも謝る為に影を送ったのではないので、本来の目的を果たすべく作業を行おうとしたが……


 儀式の間ではシロのギャグの被害は一先ず収まった様子だが、死屍累々な光景に流石に動けなくなる。


「こ、困まったな。これでは動けないですね」


 この世界を創ったものの、今まで降り立ったことがなかったので加減が分からなくて悩む。


 そもそも、シロからすれば人間を虫けら扱いして踏み潰す様な趣味嗜好はない。


 まあ、中にはそんな神も居ると言えば居るが……



 シロの頭に代表として、友神のたっくんの姿が過るが……



(たっくんは踏み潰すと言うより、弄んで玩具にすると言った所かな)


 結局、壊れるのは一緒だなとシロは結論付ける。



 シロが途方に暮れていると、儀式の長らしき人物が儀式中断を行おうとしていた。


「ああ!!待って、待って! まだ何もしていないのに」


 何とか強制終了は止めてと言いたかったが、下手に動くと今度こそ致命的な失敗になるのでどうにも出来ない。



 強制終了の手順は行われたが、それはある少女の歌に防がれる。


「あ、あれは初心者ビッチちゃん」



 シロはトーヤのパソコンでプレイした、ガーネットオブメモリアルでの見事なお山で凄く印象に残っていたので、あの姿と豊かな山で一目で分かった。


 また、初プレイでのEDキャラだったので印象が残っていたのだ。


 ちなみに狙っていたのは、おでこちゃんことリューズだったのにと追記しておく。


 最初、藤也の言っていた『初心者ビッチ』とは酷いあだ名だなと思っていたのだが、その意味をシロはゲームで散々思い知らさせれることとなったのだ。


「ゲームではお世話になりっぱなしでしたけど、現実では本当にお世話になるとは」


 ちなみにゲームでは一番多くムダに同じEDを観るハメになったことによるお世話、すなわちヤ◯ザ風の”世話になったのー(威圧)”みたいな意味である。



 シロはアリアの防護力を見る為に、徐々に神圧を上げ様子を見ることにした。


 いわゆる防護するタイプのものではなく、対象の害意となるものを無効化する聖歌だとシロは見抜く。


(ほう、かなりの力ですね。しかし、瞬間的ならとにかく人間がそんな力を使い使い続けるなんて不可能では……ん?)


 シロは神圧を触覚とし、そこからから感じる周囲の感覚から、アリアの人格の中から異物の様なモノを感じ取った。


(これは……なるほど”あの子”が力を貸しているのですか……、失敗作の中でもあの子は優しい子でしたからね)


 別に失敗作だと言って軽視した発言ではなく、どちらかと言えば久しぶりに会った子供が元気にしているのを素直に喜んでいるのである。



(まあ、人間の感覚からすれば、あの子の優しさは理解不能でしょうけど)


「これなら作業を始めても問題無さそうですね。では手早く終わらせますかな」



 そう言ってシロは影を遠隔操作し、自分が構築した世界のシステムにアクセスする。


 その際、影から圧倒的な暴力の神圧が巻き起こるが、アリアが無効化してくれるので無問題である。



「えーと、ここがこうなってて……」


 作業はとても手際が良いものとは言えず、モタモタと進める。


「うわー、ややこしい。まったくこんな天才みたいなシステムを作ったのは誰だ!そんな天才には車を与えるな!って……私でっした♪」


 呑気にバカ歌を歌いながら修正作業を行うシロだが、影に何か魔力が付与されるような感覚に襲われる。


「えーと、これは支援魔法ですか?」


 分析した所、動きを早める効果と動きの精度を上げる効果がある魔法であるのが分かる。


「はて、一体誰が?」


 儀式の間に意識を向けると、意識を失っていた人達は目を覚ましており、何か陣形を組んで魔法を使っている様に見える。


「あれ?…… 中心に居るのはゲームと髪型が違うけど、腹黒ソレイナさんかな、あれは」


(失恋でもしたのですかね~ まあ、若っかいんだしドンマイ、ドンマイ)


 シロは自分のせいだと露程も思わず、心中でお悔やみを申し上げる。


(あ、誰か亡くなった訳ではないですからお悔やみは違うか)


「日本語は難しいデース」とシロは反省する。


 トーヤがここに居れば、『反省する所はそこじゃないだろ!!』とツッコミが入りそうな感じだ。


(ほーう、魔法陣形で増幅された《速度強化》ですか……私の仕事をある程度察してのことでしょうけど、たいしたものですね)


 現在の作業で足りない能力は、影を操る正確性とスピードだ。


 実際、影は異世界で言う所の手術用ロボットアームに近い構造で、故に精密かつ手早い動きが求められ、それを操るには慎重に行わないと先程の様に大惨事を起こしてしまうのだ。



 それに周囲の配置を確認するに、アリアの聖歌にサポートも張り付け、もしもの為に遊撃手も配置させている。


(最初は、私の力を強化するなんて”おいおい、しんだわ”と思いましたが……超人的な洞察力ですね)


 シロは耳もないのに掛けていたメガネを、掛け直す仕草をする。


(しかし…… 速度強化と言うことをソレイナさん風に解釈すると……)


『ぶぶつけ喰ってとっととけえれ!!』と言うことかな?


 シロはソレイナの意図を、そう理解する。



 色々考えながらもシロの作業は次々と進んで行く、どうやら《速度強化》の効果は十分あった様だ。


 本来、1時間ほど予定していたメンテナンスは30分ほどで終わった。



 千里眼でトーヤの様子を確認すると、モニタリングしているトーヤの様子がいつもおかしい様子なのだが、船上にて、今日は特におかしい様子が見れる。



(あーやっと終わった。これで馬の育成に戻れ……ん?あれは)


 シロの千里眼にはトーヤの側に妖精がふよふよ飛んでいる姿が確認でき、その様子に驚く。


(あれはティコ……何でトーヤさんと一緒に居るのだろ?)


 モニタリングではティコの姿隠しを見破れなかったが、千里眼では姿隠しは無効なので、確認出来たその姿に疑問を浮かべる。


 シロは藤也の願いを叶える為に、この世界に彼を転生転移をさせたが彼の境遇までゲームの主人公とまったく同じにするつもりはなかった。


 正直、ガネメモの主人公は余りにも出来すぎな設定の為に、シロにしても面白くない為だ。



(トーヤさんには苦労して目的を達してもらわないと)


 苦労して目的を達する。


 シロは無駄な努力をし、足掻き、這いずる人間が大好きな為だ。


 そして無駄なモノの中から、その間に得たものでどの様な成長を見せるか楽しみにしている。



 まあ崩れ堕ちて行く様も一興だが……



 そして、シロは千里眼で見ていたティコを見て驚きを通り越し、更に驚愕する。


(……な、何だあれは……え、笑顔だと)


 ティコは元々、外敵からこの世界を守る為に12使徒の力の反作用から生み出した守護者の完成体である。


 12使徒全員分の力と自身の力と神々の至宝をこれでもかと使用し手掛けた、まさにシロの最高傑作であり主神を含めた対神群を想定した兵器なのだが……



(そういえば降神戦争後半あたりから何か挙動が変だったような)


 シロはティコの基礎設計を思い出す。


 12使徒設計の一番の失敗は精神構造の単純化にある。


 スペック重視に設計してしまった為に、単一の性格のみに特化することになり色々な面で問題があったのだ。


 最初は改修で何とかすることにしたのだが、それも行き詰まり最終的にティコを創造することになった。


 その際、12使徒の反省を活かしティコに裁量権 《自由》を与え、特に性格などの設定は行わなかった。


 それが効を奏したのか、12使徒の様に暴走することなく役目を淡々とこなし、理想的な世界の防衛システムが完成したのだ。


 シロは生まれたばかりのティコを思い出す。


 ―――表情の無い顔、血の通わぬ肉体、ただ与えられた役目を十全に果たすシステムそのものの姿を……


(漫画でそう言った感情ないっ娘が、感情を得るお話はいくらでもありましたから、あるあるなんでしょうが)


 千里眼でティコのクルクル変わる表情を見てシロは苦笑を浮かべる。


 まさに『田舎から信じて送り出した陰キャ娘が、渋谷で陽キャ娘になっていました』と言った所ですかと自嘲する。



 シロの心中に何か複雑な感情が沸き起こる。



(おや、こんな感情が沸き起こるとは……私もまだまだ捨てたものではありませんね)


 シロは千里眼で見えるティコに向かい、聞こえるはずもないのに告げた。


「貴方に与えた自由で、その生き方を選択したのでしたら何も言いません。でも、いかに大切に想おうとも、愛しようとも、貴方と人間は違う存在だと言うことをゆめゆめお忘れなきよう」


 シロは千里眼を切り、あとは儀式のシメを行うことにする。


 ―――人の子らよ。


  まずは、汝らの信仰に礼を伝える。


  此度は皆の努力により、世界の希望の芽が生れた。


  これより世界は混迷の時代を迎えるであろう。


  だが、汝らには希望の芽があることを忘るな。


  我は汝らと共にあらん。 ―――



(その希望の芽が失望に育つか、絶望に育つか、あるいは……まあ、あとは若いあの二人に任せますか)


 こうして前代未聞の神託の儀式は終わりを告げた。


 この儀式は後世の教団の歴史に伝えられ、神託の儀式が行われる際は教団だけでなく国を挙げての儀式になることになった。



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