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22話:別れの夜 その1

 雪の降る中から帰って来た俺たちが先にしたことは、俺の身体を綺麗にすることだった。


 孤児院には風呂があったので(お湯が出るのにはびっくりした)そこで、体についた血を綺麗に洗った。


 着ていた衣類はもう着れる状態ではないので、廃棄することにした。


 今、着ている服はティコに出してもらった2着ある内の最後の1着だ。


 雪の寒さも、風呂で温もったことにより完全に消えた。


「風呂を借りれて助かったよ。血の匂いは取れたかな?」


 石鹸も使わせてもらったので、何とか落ちたと思うが一応念のために聞いておく。


「んー……大丈夫だよ。臭くないし」


 おい、普段から臭いように言うな。


 臭くないよな……


 俺はアリアにも聞いてみたが大丈夫だとのことだ。


 アリアは俺たちにお茶を入れてくれ、ようやく一息着けた。


 今日1日で起きた無数の出来事に本気で疲れた。


 このままベッドに横になったら、よく眠れそうだ。


 一息着き終わったところで、ティコが俺に問いかけてきた。


「さて、トーヤ説明してもらうよ」


 ちっ、忘れていなかったか……


「えーと、この前1人でフライルの実(山葡萄)を、ティコに内緒でこっそり食べてしまったことか?」


 俺のその言葉にティコはキョトンとした顔をして、眉をひそめる。


「そ、それは聞き捨てならないけど、そう言うことじゃなくて、何でトーヤはそんなに色々詳しいのかと言うことよ!」


「悪知恵はいつも通りだけど、私の能力は何一つ話してもいないのに色々詳しいし、自己の世界や聖人についても教団が把握している内容より多分トーヤのが詳しいと思うよ。 そして何より……、12使徒化した聖人を解放するなんて出来たのは、有史以来トーヤだけだよ」


 俺はその意見には反論があった。


「まあ、待ってくれ。詳しいのは認めるけど、解放されたのはアリアの頑張りだし、ティコの知恵も借りたじゃないか、俺が何とかした訳ではないぞ」


 最後は死にかけてただけで、何もしてないしな。


 ティコは何で解らないのよ……というような態度を取る。


 そんな人を物分かりの悪い生徒みたいに見ないでくれ。


「最初にトーヤ『アリアのことで気になることがある』って言って、ボクにメリアを誘導する作戦を伝授したけどアレ、アリアが自己の世界を使えるのを知っていてかつ、メリアが自己の世界に入る手段があると”分かっていた”から決めた作戦だよね。 と、言うことはアリアの内面の12使徒のことも気付いていたと言うことだね。正直”ボクですら”気付かない事案にどうしてトーヤは気付いたのかな?」


 ティコはここまで言えば分かるだろと言う感じで問いかけてくる。


 ティコの癖に論破してくるとは


 ティコの癖に生意気だぞ!


「分かった降参、降参。ちゃんと説明させていただきます」


 ティコはどや顔で「分かればよろしい」と言う。


 普通なら他人のどや顔なんて、イラッとするものだろうけど、ティコの場合は何か可愛かった。



「俺は異世界から来た」



 本日二度目の説明を行う。


「あの……トーヤくん。 その冗談はもういいですから」


 さすがにアリアが止めて来た。


 いや、冗談も何も本当のことなんだが……


「そうだよトーヤ。そんなのいつも言っていることじゃない」


 ティコまで!


(つーか、いつも言っていたのか、俺のオートモード)


 思い返してみると、確かによく言っていた。


 思い返して分かったのだが、どうやらこれがホラ吹きトーヤの由来のようだ。


 ふ、不本意だ。


「どーしても話したくないと言うことだね。それならボクにも考えがあるよ」


 ティコは俺が嘘を言っていると思い、ご機嫌斜めだ。


「考えって、何をする気だ」


 ま、まさか……


「ら、乱暴する気でしょ!えろ同人みたいに!」


 ティコは呆れ顔で

「トーヤが何言っているか分からないけど、乱暴なことなんてしないよ。その代わり……」


 な、何をする気だ……


「トーヤの恥ずかしい話を、アリアに全部ばらすよ!!」


 あ、そう……


 正直、俺には痛くも痒くもないことだ。


 まあ、メインパソコンの中身を全世界に公開すると言われたら、土下座祭りになったであろうが。


「あのー、私、トーヤくんの記憶を読んだので大体のことは……」


 そ、そう言えばそうだったな。



「トーヤは何歳までオネショしていた」


「10歳までです」


「トーヤの初恋の相手は」


「幼年教室の隣の席のルーシアちゃんです。最後はキモいと言われ振られました」


「子供時代のトーヤの密かな楽しみは」


「食料庫の干し肉やワインを盗み飲みすることです」


 俺はすかさず

「ティコも一緒になって食飲みしてたじゃないか」


 うっ!とティコがしまったと表情が歪む。


「ぐぬぬぬ……」


 何がぐぬぬだ。


 墓穴掘ってどうするんだ。


(しかし)

 子供時代の俺…… ロクなことしてないな。


 子供時分から、強くなる努力をしていれば、現在少しは楽だったろうに


 あと、上記の行動は俺のオートモードが勝手にしたことだから、現在の俺には何も関係ないぞ。

 ホントウダヨ



 ティコとアリアは、俺の想い出話で意気投合したのか楽しそうに会話を始める。

 何かアルバムを広げて、我が子自慢の話しをするママ友みたいな光景だった。



 その隙を見て、俺はこっそり部屋を脱け出した。



 蜜柑箱はなかったが何とか気付かれることなく、部屋を脱出することに成功する。


「女の子ってどうして、ああお喋りが好きなんだろうな」


 会社の女子社員など休憩部屋では常に会話している印象で、母さんも近所の奥さんと話しをすると、いつも1時間コースだ。


(さて、今日の寝床はどうしようか)


 俺は何処か適当な寝床を求めうろつく。


 正直、今日は1ヶ月分くらい働いた気がするので早く寝たい。


 俺が適当な寝床を探していると、進行方向から歩いてくる小さな人影が見える。


 猫のリンクスの世話をしているユーノちゃんだ。


 眠気まなこでふらふら歩いて危なっかしい。


「どうしたんだい、こんな時間に」


 時計がないので時間はよく分からないが、感覚的に夜は結構ふけているので、子供はもう寝る時間だ。


「……おといれ」


 眠気まなこでふらふら歩いて、少し離れた扉を開けて中に入ろうとしていた。



 ロリコン紳士なら『私がユーノのトイレだ』とか言ったりして


 ハハッ…… あり得そうだから怖い。



「待ってて……」



 そう言って扉を閉める。


 怖いのかなと俺は思った。


 夜中の大きいお屋敷の無機質な廊下のトイレか……俺が子供時分に行けと言われたら絶対お断りだな。


 そしてオネショか……


 実家は狭い家で良かったよ。



 しばらくしてトイレから出てきたユーノが俺の手を握り、案内する様に俺を連れて移動する。


「……こっち」


(寝床に案内してくれるのかな)


 俺はユーノに連れられるまま移動する。


 案内されたのはユーノの部屋だった。


 正確には、3人の子供達との同室の部屋だが。


 孤児院の寝床となると、二段ベットでところ狭い部屋がイメージされるが、ベットは1人1つだし、部屋もかなり広かった。


 四人でも、結構余裕がありそうだった。


 部屋に入ったユーノは、自分のベットの側に椅子を用意し始めた。


 小さい背丈で椅子をよいしょ、よいしょと運んでいる様は何か可愛い。


 椅子を置いたあと、ベットの枕元に置かれたバスケット(リンクスの寝床だろう)中のリンクスの様子を看るユーノ。


 どうやら、リンクスは小康状態で苦しんでいる様子はない。


 ユーノはホッとした表情をする。


 その瞳は愛情の優しさと


 失うことへの悲しさを湛えていた。


 ベッドに入った彼女は俺に向かい。


「お話しして……」


 結婚すらまだの俺に子育ての経験はない。


 子供と関わる経験すらない俺には、何が最善かすら分からない。


 でも……


 悲しみを抱えた少女の力になってあげたい。


 その想いは間違ったことではないはずだ。


「ああ、お姫さまの望むままに」




 長い夜はまだ終わりそうにもない。




PVが4500を越えました。これも読んで頂いている皆様のおかげです。

ありがとうございます。

現在、仕事でトラブっておりまして、投稿が難しい状態ですが何とか最低週イチを目標にいたしますので、ご迷惑をおかけいたしますがよろしくお願いします。


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