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16話:聖人アリア その5

「聖人アリアED?」


 ここは、ある同人誌即売会会場のサークル”こめしばい”のブース裏である。


 俺は、昼過ぎの約束の時間に会話の相手の人”サブスケ”さんとガネメモについて話をしていた。


 このサブスケさんはガネメモの原画家の先生であり、路上で俺に直接ゲームを売ってくれた人だ。


 ちなみに、先生というと先生はいらないよと、言ってくれるナイスガイである。


 ……先生という単語に何かあったのかなと邪推するが、そこは人それぞれだと納得する。


 俺は、サブスケさんのSNSでガネメモについて書き込んでみたら、とても懐かしがられて色々書き込みをしている内に、直接会って話さないかと言うことで、こうして配布の一段落の間に話すことになったのだ。


 当時の舞台裏など、俺が知らない新鮮な話を聞けて、ゲームの中身の会話で俺はゲームで気になった話を聞いていた。


「あーあーあれね。あった。あった。 あれは結構大変だったよ。 あの時の葛霧、なに言ってるか全然分からなくてね~」


 サブスケさんは当時を懐かしんでいるようだ。



「最初、聖人アリアって説明聞いて聖女風のイベントCGでいいのかな?と思って、聖女全としたアリアのラフ送ったら”ちっがーう”ってボツ」


「そしたら、葛霧の奴何て言ったと思う」


「聖人は狂人とほぼ同意語だ。狂人はただ他者を傷付ける者だが、聖人は人を守る為に人を傷付ける狂人だってな」


「で、狂人と言うから、次はアへ顔ダブルピースでラフ送ったら、ぶちギレていたな」


 アへ顔ダブルピースのアリアか…… ちょっと見たい。


 俺はそれを見てみたいと言ったが、どうやらそのラフはもうないのだそうだ。 残念。


「結局、葛霧の奴、延々と訳の分からないこと言ってきてこっちもさっぱりってんで、今度はあいつ紙束を渡して来やがった。あれには参ったよ」


 俺は気になったので、サブスケさんに確認を取ることにした。


「紙束ですか?」


「ああ、聖人とはこんなんだーって、アリアの設定とかゲーム外の設定の資料だな。ああ、欲しかったらあげようか?」


 思ってもない言葉に俺は嬉しく驚く。


「え、良いのですか!」


 ゲームで語られなかった設定を知れるのは凄く嬉しかった。


 ゲームの内容はほとんど結構網羅しているが、やはり設定や回収されていない伏線などもシナリオに結構あったので、それが知れるきっかけになるものがあるのは俺にとって価千金の価値がある。


 設定資料集も攻略本もないからな。


「全部既にPDF化しているから、高嶺君のアカウントに送るだけだからね大した手間ではないよ。 ただ、数が多いから読むの大変だろうけど頑張って読んでね。ガネメモのヘビーユーザーの君が読んでくれたら、葛霧も成仏するだろう」


 そう言って、サブスケさんはとても楽しそうに大笑いした。


「ああ、話しが脱線してしまったね。そうだ聖人アリアだった」


 サブスケさんは「いけない、いけない」と呟き、話の続きを行ってきた。


「資料と葛霧の話だと、いわゆるアリアって構ってちゃんなんだと」


「確かに構ってちゃんでしたね」


 あの、フラグ侵食能力は度が過ぎていたが……


 サブスケさんもそれに気付いたのだろう、訂正をしてきた。


「いや、いや。他キャラのイベ喰いの話しじゃないよ。まあ、気持ちは分かるけど」


「アリアは両親が居ない設定だろ。偏見と傾向的な話になるけど、両親の居ない子って両極端に育つことがあるそうなんだ。人付き合いを嫌ったり、愛されようと周囲の目を常に気にしたり」


「では、アリアは」


「そう、人に愛されようとして良い子ちゃんになったんだよ。シナリオ後半アリアの立ち絵が変わるだろ?」


 確かに、アリアルート後半は立ち絵が変わるのだ。


 何でかなと思っていたが……


「主人公のおかげで、”素の自分が出せてきた”と言う演出なんだよ。アレ」


 へーと俺はその作り込みに感心する。 90へーくらい?


 俺がプレイしてきたゲームは意外とシナリオで立ち絵が変わる作品はあまり知らない。


 精々表情差分が増えるくらいだ。


「で、聖人EDだけど、あの設定の聖人と言うのは、絶対不可侵の象徴で民衆から崇拝はされるけど、愛される存在とは違うとのことだ。そして国と教団の管理される存在となって国家や教団の策謀に利用されて、彼女は他者に愛されることなく孤高の存在として一生を終えるというEDだと、葛霧資料に書いていた。 最初からこう言えばすぐに書けたのにな」


 そう言って、サブスケさんは苦笑いを浮かべる。


「聖人というからにはアリアは、何か凄い力とか使えたりするのですか? ティコルートのラスボスも聖人と名乗っていましたし」


 ゲーム脳の俺にはそこも結構気になる点であるので聞いてみる。


「うーん。その辺は葛霧資料で確認してね。俺には理解が追いつかなかったから」


 その後、俺とサブスケさんとの話は、即売会終了後も飲み屋で続き充実した時間であった。




 ―― 聖人について


 聖人とは創造神が、世界の守護者たる精霊女王を生み出すまでに創られた12の生命体である。


 教団の定義では12使徒と表される。


 精霊女王が誕生したのち、その役目を終えた12使徒は世界の命へと還元され、固有の生命体へと産まれ変わり通常の生物となるはずだった。


 だが、12使徒の力は還元された生命から消失されておらず、その力は産まれ変わりの生体の素養に応じて先祖帰りのようにその力が発現した。


 12使徒の強大な力は神格と呼ばれる器を持ってのみ完全な力で発現できるのである為にそのままであるなら()()()()優秀な生物であるくらいしかなかった。


 しかし、1人天才がその力に目を付け人間にも使える様に導式を組み上げた。



 ―― 名もなき魔導師


 その名は歴史からも既に抹消された。


 忌むべき名として……


 導式の名は《聖人》


 名もなき魔導師は世界の(こだわり)に聖人の導式を刻み、それにより世界に新たなる円環(えんかん)禍巳(かみ)《聖人》が誕生した。


 名もなき魔導師はその行いにより何が目的だったかは分かる前に、その(とが)により精霊女王により滅ぼされた。


 だが、導式は呪いのごとく世界の(こだわり)として残り、聖人というシステムが新たに世界に刻まれた。


 聖人の力はその者の望み……、願いによって変質する。


 物欲ならば、富を生み出す自己の世界(ファンタズマゴリア)を……


 滅び、復讐を望むならば、滅びの力の自己の世界(ファンタズマゴリア)を……


 愛を欲するならば、想いの自己の世界(ファンタズマゴリア)を……






 にらめっこしていたパソコンとタブレットから目を離した。


 俺は、命名《葛霧資料》と呼ばれる物を解読していた。


 正直疲れてきたので、一休みを入れる。


 はっきり言って、内容が無茶苦茶に書いてあるのである。


 正直内容の意味不明差は、子供の頃、道で貰った和訳聖書といい勝負であると言っていい。


 なので、解釈は自分流に変換している。


 小説の和訳などにもそういうのがあるとのことなのでそうした。


 問題は所々に英語、ドイツ語、はたまたは、ラテン語まであり、どう考えても翻訳が必要なものなのだが、機械翻訳は変な翻訳も多いので、自分流に直さないとどうにもならなかった。


 更には、この《聖人の導式》なるものの”式 ”まで記載されており、正直頭がおかしくなりそうだった。


 昔遊んだ、TRPGに魔導書を読むと正気がピンチになるとあったが、こんな魔導書みたいな資料、読んだら頭おかしくなるわ!とツッコミを入れたくなった。


 1人ぐらしで、ツッコミ入れても虚しくなるんだよな……


 ティコみたいな妖精さんが欲しいよ。本当に……


 それよりも、「嫁貰え、もとい彼女作れ、せめて女友達作れと」いう、俺の心から沸き起こるツッコミを総スルーする。


 俺は目薬を差し、コーヒーを飲んで葛霧資料の解読を再開した。


 正気がピンチになっても、人間は好奇心には勝てないものなのだよ。





 ――アリア聖人EDについて


 EDNo.06《ノーマルエンド︰アリア聖人》


 12使徒の力、聖人に目覚めたアリアの末路のEDである。


 親の愛情を知らなかった彼女は、強く愛情を求めるようになった。


 最初は自分を育ててくれた存在、シスターメリアを母と呼び彼女を母親と信じていたが、その関係はアリアが4歳の時に破綻する。


 シスターメリアは自分が母親ではないと言い。


 アリアに膝を付き彼女にかしずいたのだ。


 アリアは賢すぎた為に、気付いてしまったのだ。


 この(ひと)は自分の母親ではないと……


 彼女は孤独を知り、この出来事が切っ掛けで、アリアの聖人の力が先祖返りを果たし、彼女は徐々に壊れてゆくことになる。


 主人公が彼女の孤独を癒やせれば、彼女は円環(えんかん)禍巳(かみ)の呪縛から解き放たれ、人として生を生きることができる。


 だが彼女の孤独を癒すことが出来なければ、彼女は円環(えんかん)禍巳(かみ)となり《聖人》として教団の象徴として孤高の生涯を送ることになる。


 本人が望もうが望むまいが……




 うーん…?

 どうして、シスターメリアはそんなことをしたんだ。


 ゲームではメリアはアリアを本当に大切に想っているように見えたのだけど。


 それこそ、実の親が子に対するの様に


 俺は解読をひとまず中断して、タブレットに保存されている葛霧資料からその背景を調べてみることにした。


「えーと、あったこれだこれだ」


 正直酷い内容であった。


 恐らくシスターメリアはアリアに対して親としての愛情はあったのだろう。


 だが、それ以上にあった想いは……


 ――罪悪感


 この内容をアリアに話したら、彼女はどうするのだろう?


 俺はそのことを考え、その日の作業を終了させた。


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