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13話:聖人アリア その2

(……おまえのようなババアがいるか!!)


 メリア:《その程度かい…… あんたにアリアは守れない。故郷にかえるんだね。お前さんにも家族がいるのだろう》


 ガネメモのアリアルートで聞き慣れたセリフだ。


 シスターメリアはアリアルートのラスボスである。


 ガネメモには固定のラスボスは居らず、攻略キャラ毎にラスボスが代わる仕様になっていた。


 アリアルート最終でこの婆さんと戦うことになるのだが……


 強すぎるのだ。


 正直、おかしいぐらい強い。


 あまりに強すぎるので、メーカーにメールを送ったのだがメールは届くことなく返ってきた。(倒産)


 HP50%くらいまでは普通に行けるのだが、それ以降になると固有スキル《聖痕背水》でHPが下がるほどそのスペックを爆上げしてくるのだ。


 勝っても負けてもアリアイベントは特に変化なく続くから負けても問題ないのだが……



 俺のゲーマー(自称)魂に火が着いたのだ。



 最終ストーリーのティコを攻略した後、エクストラダンジョンも攻略し、LVMAX・スキル・装備も最強状態になった《主人公(シュート・きみまろ)》で、強くてニューゲームでこの婆さんに挑戦したのだが…



 10回戦、勝率5割……



 しかも、最初の5回は低HP状態で隠し奥義まで放ち、手がつけられないほどであった。


 残り5回は手の内が解ったので、攻め手を変えて何とか倒せたといったところだ。



 大薙刀を獲物にしているし、俺が名付けたのは ”げぇっ メリア・雲長(うんちょう) ”である。




 そのババア…… もとい、シスターメリアが俺の目の前に居た。


 リアルで見ると、その好々婆風貌に似合わずかなりの威圧感があった。


「何かやさしそうなお婆さんだね」


 さっきまで俺がアリアと会話していて退屈だったのか、孤児院を見て回っていたティコが帰ってきて俺に声を掛けてきた。


 ティコ……やさしそうななのは見た目だけだ。


 戦闘能力は羅刹といっていい。


 むしろ鬼婆か



「アリア 私はこの坊主に話があるから、夕食の手伝いに戻りな」


 シスターメリアがアリアに声を掛けたあと、俺にも向かい。


「坊主も食べて行くのだろう。どうするんだい?」


 先程、ティコからパンを貰ったけど育ち盛りにはとても足りないので、ここはご相伴に預かることにする。


 アリアと関わるのはあまり良くないことなのだが、空腹には勝てなかったよ。


「お腹と背中がくっつきそうなので、迷惑でなければお願いします」


 シスターメリアは「フン!」と鼻を鳴らし。


「毎日だと迷惑だけど、坊主はアリアの恩人だ。今日だけ特別だよ」


「トーヤさんは一杯食べそうですので、少し多めに用意しますね」


 アリアはそう言って笑顔で部屋から出ていた。



 アリアが部屋から遠ざかり、シスターメリアはその口を開いた。


「今日はアリアが危ない所を助けて貰って助かったよ。ありがとう。危ない所には普段から近寄らないように言っているのだけどね。まったくあの子は……」


 俺は知っている。


 シスターメリアにとってアリアはとても大切な()で心配でならないのだ。



 それはアリアの出生に関係している。


 アリアは既に滅んだ旧王家、聖王家の末裔であり、いわゆるお姫さまなのだ。


 そして、シスターメリアはアリアの祖母の代から仕える聖騎士である。


 アリアの母親はアリアを生んですぐに亡くなっており、父親も同じ頃に他界している。


 なので、シスターメリアはアリアを自分の娘として育てたのだが……


 この婆さん。不器用かつ、がさつな性格なので、よくアリアがあんなに礼儀正しく立派に育ったなと思った。


 あとどうせ、主君の娘とわが子の可愛さとで板挟みになっているのだろう。


 そう思うと可愛い婆さんだよ。



「何だい?ニヤニヤして気持ち悪い坊主だね?」


 おっと、顔に出てたか


「にやけ(ヅラ)は癖でして、申し訳ありません」


「今日のトーヤはよくにやけるね」


 ティコまで指摘してきた。


 気をつけないとな。


初対面なので俺とシスターメリアは互いに自己紹介を行い。 俺は話題を得る為に営業においてもっとも無難な話題を振ってみることにした。


「いやー、しかし見事な建物ですね。こんな見事な建物を礼拝堂兼孤児院に使用されるとは、王都の教団は随分なお力をお持ちで」


 会話の基本はまず褒めることからだ。


 何でも良い。調度品で堂々と飾ってあるものや、受付の態度などいい点は褒めてそれを会話につなげてから商談に入るのは基礎中の基礎である。


 しかし、

「この建物は、教団の所有物じゃないよ」


 へ?アリアは教団に寄付されたと言っていたのに?


「この土地建物の公的な名義人はアリアさ」


 俺は訳がわからなかった。



 ちなみにゲームではアリアは金持ちという設定はない。


 旧王家の血を引いていると言っても、富も権力もない設定だ。


(どういうことなんだ? これはゲームとの差異なのか?)


「まあ、近所の人間はほとんど知っていることだから話してやるよ」



「元々、この屋敷はコーウェンという商人が住んでいてね。だが、そのコーウェンはいわゆる悪徳商人でね。法にスレスレの商売で大きくなっていったのさ。だが、世の中正義も悪も栄えることはない。コーウェンは不治の病にかかってしまった」


 シスターメリアはそう言ってアリアが入れたポットに残ったお茶の残りを新しい器に入れ、喉を潤した。


「最初はコーウェンも気にした様子ではなかったけど、ある時から自分が地獄に堕ちる悪夢を観るようになったとのことさ。コーウェンはみるみるやつれて、恰幅の良かった体は骨と皮だけになった。 それからコーウェンは変わった。今まで善行なんてしたことはなかったのに、自分の財産を惜しげもなく困った人達の為に使いはじめたのさ。そして、特に彼が望んだのが、教団への入信だ」


「金を使い始めたのは、教団への入信の為という目的があったのはすぐに分かった。でも、教団はコーウェンの今までの行いが悪すぎたのと、王都の教団は清貧を尊ぶ組織であるため大富豪のコーウェンの入信は認められなかったのさ。 貴族でさえ、教団の入信には相当な治勲の実績が必要なのに、コーウェンが始めた善行では教団を納得させることは出来なった」


「だが、コーウェンは諦めなかった。コーウェンはそれでも教団入信の為、不治の病を押して礼拝堂に通い詰め、困っている人達の手助けをしようと王都中を駆けずり回った。 でも、その無理が祟ったのかコーウェンは次第に動けなくなりあまり歩くこともできなくなった」


 シスターメリアは残ったお茶を一口含み湿らすように飲んだ。


「そんな時に、昔私らが居た礼拝堂兼孤児院にコーウェンがやってきたのさ。どうやら行動範囲が狭くなった為に近場の礼拝堂に来たと言ったところだったのだろうね。 祈りが終わったコーウェンにアリアが話し掛けたのさ」




 ―そこは小さな礼拝堂だった。

 天井と床には雨漏りの跡があり、床もギシギシと弛んでおり状態はあまりよくないものであった。

 だが、コーウェンにとってはそのようなことは些細なことであった。

 祈りを終えたコーウェンはこの礼拝堂のシスターの老婆に寄付を持ちかけた。

 しかし、シスターは教団の信者以外の寄付は直接には受け取れないと断られた。

 コーウェンはその言葉に諦めを悟った。

 だが、その時コーウェンを見つめている。1人の少女が居た。

 歳の頃は8歳くらいだろうか、身なりは貧しいが顔立ちに気品があり将来はきっと美人になるだろうと思った。

 少女は

「あなたは死ぬのが怖いの?」

 コーウェンは凍りついた。

 その娘の声、その水晶のような瞳。それはまるで……

「違うよね? 貴方が怖いのは ”()()()()()()()()()() ”」

 この言葉でコーウェンはアリアに(すが)った。

 それは、子供が母親に縋るように……

 だが、その母親の顔には()()()()()()()()()。―




「あんなアリアはあれ以降見たことはない。それから、アリアはコーウェンの屋敷によく出かける様になった。 私も心配でね。アリアと一緒に何回か行ったけど、ただ二人は仲良く談笑していただけだった。アリアが自分の身の回りの出来事を話しそれが終われば、コーウェンが自分の若い頃の話しをする。その繰り返しだったよ」

「それから2年ほど経ったころ、コーウェンが危篤になった。 危篤になったコーウェンは医者も近寄らせずその世話はアリア1人が行うようになった。 そして、コーウェンの臨終の間近になって」




 ― コーウェンは満足に出来ているか分からない呼吸を着実に一回、一回繰り返す。


 死ぬのは怖いが、今は1人ではない、今自分の手を握ってくれている存在がいる。


 アリアだ。


 この子は自分の母親である。


 私に家族は居ない。それは私を産んでくれた両親もだ。


 どうやら、私はへその緒を付けたままゴミのように捨てられたらしい。


 私を育ててくれたのは教団のシスターだった。


 しばらくは平和に育ったが、5歳の時に誘拐され私は盗賊になった。


 それからは地獄だ。


 生きる為に何でもした。


 盗み、誘拐、人殺し… 何でもだ。


 そして、盗賊時代のルートを活かし商人として大成した。


 その商売も儲かったが決して褒められた、真っ当な商売ではない。


「天罰を与えられるものなら与えてみろ!」が私の口癖だった。


 まあ、見事に当たった訳だが。



 苦しい、でも心は安らかだ。


 私は自分の罪を全てアリアに告白した。


 アリアは全てそれを聞いてくれた。


 そして、彼女の心の声も……私に話してくれた。




 彼女と私は似たもの同士だったのだ。


 要は傷の舐め合いである。


 だが、それの何が悪いのだろうか…… 


 私の傷を舐めてくれるものは誰も居なかった。


 人生の終わりになって、最後にこの子を遣わしてくれた神様には心から感謝してもしたりなかった。




 私は最後に神に祈る。


 私はもう…いい… 

       せめて、彼女の……

                願いを……



 コーウェンの呼吸が止まりその人生は終わりを告げた。―





「コーウェンを看取ったのはアリアだ。コーウェンの死にアリアは酷く悲しんだ。それはまるで大切な肉親を失ったかのように。 私はアリアのことが心配で不安になったけど、アリアはすぐ笑顔に戻った」


「そしてアリアはコーウェンの話しをまったくしなくなった。 それから法務局からアリアに呼び出しがあり、コーウェンの遺書からアリアに財産の移譲が記してあった」


 シスターメリアは残ったお茶を最後の一滴まで飲んだ。


「でも、あの娘はその財産を全て教団に移譲した。この屋敷を礼拝堂兼孤児院として使うことを願い。それは承諾された。国もこの建物を孤児院として使用するなら、資産税は免除するという約定も得てな」


 俺は色々な話しで驚いたが、それ以上にシスターメリアの話しで気になったことがあった。


(それってまさか……)


 俺はシスターメリアに()()の疑問点を聞こうと思ったが、扉からノックがし、そこからエプロンを着けたアリアが現れた。


「お話の最中ごめんなさい。食事の支度が整いましたので食堂にお願いします」


 シスターメリアは話しはここまでだと言うような素振りで席を立ち、扉から出ていった。


「さあ、トーヤさんもどうぞ」


 その声に返事をするように俺の腹が大きな音で鳴く。


 アリアはその音でクスクス笑い


「腕によりをかけて一杯ご用意いたしましたので、たくさん召し上がってください」


「トーヤ…… 見事なお腹の虫だね」

 俺は恥ずかしくなった。


 主人に恥をかかせるなよ。


 俺のお腹。


話しが長い割にはあまり進展せず申し訳ありません。

お付き合い頂けることを願い投稿を続けさせていただきます。


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