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12話:聖人アリア その1

 どうやら俺がキャンプ地にしていた玄関の大きな建物は教団の礼拝堂兼孤児院だったらしい。


 懐かしのアニメ名シーン第1位のごとく天に召される危機だった俺は、アリアから折れた腕の骨(偽称)や殴られ、蹴られた怪我、ついでに後頭部の怪我の容態も心配そうに聞かれたが、腕の骨折は嘘だと説明し殴られた箇所もまだ少し痛いが大したことないと言った。


 俺の説明にほっとした彼女は、子供たちを先に孤児院内に帰らせ「ぜひ、助けて頂いたお礼がしたい」と言い、俺を案内するように俺と建物の中を歩いていた。


 まず、驚いたのは礼拝堂兼孤児院と言ってもその建物は見た目質実ながら、かなり贅を凝らして造られており調度品はほとんど無いが、石造りの壁などには見事な彫刻がなされていた。


 その造られた贅に似合うように敷地面積もかなりのものだ。


 恐らく俺の元の世界でこんな建物が残っていたら、世界遺産となり拝観料だけで大儲けだろうに……

 それくらい見事な内観だった。


「凄い建物だなここは」


 正直、孤児院と聞くと、昭和時代のいつも立ち退きを求められている、ちびっこなハウスを連想してしまい、常に貧乏なイメージを持っていた。


 ちなみにファンタジーの街中の礼拝堂も雨漏りに常に困っているイメージがある。


 ゲームにおいては、アリアが孤児院の手伝いをしているという話だけは出てくるが、イベントにおいてそのシーンはない。


 故に勝手に貧しいイメージを抱いていたのだ。

 


「はい。以前はもっと小さい建物に孤児院があったのですけど、熱心な信者の方がこの建物を孤児院として使って欲しいと教団に寄付をしていただいたので、この建物を礼拝堂兼孤児院として使用することになりました」


 その話を聞いて、とんでもない金持ちが居たものだとびっくりする。


 アリアと俺は話をしながら歩いていると質素なソファーとテーブルがある、談話室らしき部屋に案内された。


 部屋は薪ストーブで暖かくされており、俺は生き返るような気持ちになった。


「ああ肉焦がし、骨焼く、ストーブの前で」


 俺は薪ストーブに即座に駆け寄ると、暖まる時にいつも口ずさむセリフを言いながら暖をとる。


 ヤルヨネ


 何せ凍死する…までとは言わないけど、風邪引いてしまう寸前でストーブで暖まることが出来たのだ。


 俺はその幸せを噛み締めた。


 アリアは棚から何か箱を取り出し、中から恐らく茶器だろうかそれを取り出す。


「表は寒かったでしょう。あまり良い茶葉ではありませんが、お茶を飲んで温まってください」


 そう言って彼女はとても手際よくお茶の準備をする。


 最後に薪ストーブにかけていた加湿用のケトルの湯をお湯用ポットに移し、更に少量の湯で茶葉を蒸し、通常の工程よりも手間をかけた一杯が作られた。


 俺のお茶なんか、急須にお茶っ葉を入れ熱湯を入れ、飯茶碗で飲むだけなのに


 これが女子力というものなのか


 俺はアリアが入れてくれたお茶(たぶん紅茶の類いかな)をゆっくりと口に含もうとしたが


「うげ!」


 お茶が不味いとかではなく、切れた唇にはこの温いお茶は酷く染みた。


 それに気付いたアリアは

「ご、ごめんなさい。 あ、あの少しじっとして気持ちを落ち着けて頂いてもいいですか?」


 そう言って彼女は俺の目線を合わせる。


 彼女の綺麗な目と視線が合わさることになり酷く照れ臭い。


 俺が緊張していると、彼女の口から綺麗な旋律を奏でる歌声が流れる。


 俺は彼女が何をするかすぐに分かった。


(こ、これが聖歌呪法か)


 ゲームでは僅かに効果音程度の演出しかないのだが、いま目の前で繰り広げられているアリアの聖歌呪法は感動すら覚えるほど美しく、愛らしいと感じてしまう。


(気持ちいい……)


 春の暖かなやわらかな日差しにも似た感覚を味わい、初めて来た館の緊張感も俺の中から行方不明になる。




「はい、終わりました。何処かまだ痛い所はありますか?」


 もう終わったことで俺は残念に思った。


 俺は自分の身体に痛い所がないか調べるように確認したが……


(怪我の痕跡どころか、痛みもない。それに、疲労感も何か薄くなったような?)


 素人の概算でしかないが、医薬品を使ってもこれくらいの怪我を治そうと思ったら一週間くらいはかかりそうなものだ。


 それをこんな短時間で完治に近い状態に出来るって、聖歌呪法すげー!と強く思った。


 現実であったら医療が変わるだろうな……


「ああ、もうなんともないよ。 そ、その、ありがとう……」


 俺は照れ隠しにアリアが入れてくれたお茶に口を付ける。


 今度は唇にも口内にも染みることはなく、いい香りがするお茶は俺の喉を潤し、体内を暖める。


 暖かいのはお茶のせいだからな!(タブン)


「いえ、お礼を申し上げないといけないのは私です」


 アリアは改めて身を正し。


「この度は危ない所をありがとうございました。自己紹介が遅れましたが、私は《アリア》と申します。教団の聖歌庁聖歌隊の侍祭を務めさせて頂いております」


 ”教団の ”を口にする際に左手を豊かな胸の中央に当て、右手を水平に動かした。


 恐らくそれが教団の自己紹介時の礼儀作法なのだろう。


 昔、仕事で行った宗教団体独自の挨拶に驚いたことがあったが、それで学習しているのでこれが教団の挨拶かと普通に納得する。




 ―【教団】

 ゲーム《ガーネット・オブ・メモリアル》においての宗教組織、このゲームにおいて信仰される神様は一柱《創造神》のみとされている。


 なので〇〇教などの宗教組織は無く、ゲーム登場する宗教組織は《教団》のみである。


 組織そのものは一つだが、大陸における宗派の派閥で帝国教団と王都教団とが大別されている。


 ただ、ゲームにおいては王都教団の背景は《アリア》と《腹黒聖女》でしっかりと出てきているが、帝都教団については、本来の務めを怠った腐敗した組織としか解説がない。


 王都教団は規模こそ帝国教団に劣るが、現大司教のじいさんが凄い出来た人で、清貧、精強を見事に体現し弱者救済の独立機関としての宗教組織として王国に浸透しているのである。


 そして、アリアの聖歌庁は教団の中でも上位カーストのエリート集団である。その中でも聖歌隊は全て聖歌呪法の使い手でなければならない。


 その務め柄ゆえ、隊員には全て侍祭の位が授けられることになる。


 しかも、アリアは100年に1人とも言われる資質がある為、エリート中のエリートという訳だ。




 うう…… そう考えるとアリアのことが眩しくて見れない……


 ノンキャリの俺には眩しすぎる。


「丁寧な挨拶をありがとう。俺はトーヤだ。そんなに畏まらなくてもいいよ。多分同い年なんだし」


 中身はおっさん(お兄さんのつもり)だが、一応今は同じ年齢の為、俺はそう言った。


 しかし俺のこの体(トーヤ)に備わった記憶では15歳なのだが、ゲームの表記では ”登場人物は全て18歳以上です ”となっているがどっちなんだろうかと思った。


 聞いてみるか

「君は何歳(いくつ)?」


 言った後に女性に歳の話はNGであることを思い出したが、アリアは特に気にしたことなく。


「先月15歳になりました。今期から学園に入学することになってます」


 やっぱり、そのあたりは改変されているか、18歳以上の設定が適応されると、さっきの子供たちまで18歳以上になってしまう。


「トーヤ様も学園に入学されるのですか?」


 って、様って…… 接客以外で様なんて呼ばれたことない俺にはむずかゆい。


「ああ、そうだけどそれで今日、田舎から王都に着いたばかりなんだ。ちなみに様はいらないよ」


 アリアは困ったように

「でも、そういう訳には…… 分かりました。では”トーヤさん ”はよろしいでしょうか?」


 俺はそれでいいよと返事をした。


「では、俺もアリア ”さん ”で呼ばせてもらうよ」


 様づけで呼んでやろうかとも思ったが、大人気(おとなげ)なさすぎなのでこれでいいかと妥協した。



 そんな会話をしていると、この談話室の扉からノックの音がした。


 アリアは俺に一礼すると、扉を少し開き来訪者と一言、二言、話し俺に向き直る。


「トーヤさん。 今回助けて頂いたことで、シスターメリアがご挨拶をしたいとのことですがよろしいでしょうか?」


 彼女が俺に確認を入れようとしてくれたが、当のシスターメリアは特に俺に気にした様子もなく返事もする間もなくズカズカと部屋に入ってきた。


「あんたかい。アリアを助けてくれた若造ってのは?」


 入って来たのは、背筋がしっかり伸びた若々しいお婆さんだが、その顔を見た俺に戦慄が走る。


(げぇっ!! シスターメリア!!)


 せっかく温もったのに、俺の背筋に冷や汗が一筋流れた。


先週に比べてブックマークが倍以上になって驚いています。

更新頻度は遅いですが、お楽しみ頂ける内容にするよう努力いたしますので、よろしくお願いします。

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