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10話:入学までの長い道のり その5

人の居ないはずの裏通りは現在混雑の様相を呈していた。


― ザワ…… 

      ザワ…… 

           ザワ…… ―


集まって来た人々は老若男女様々であり、どう見ても裏通りに集まる様な人種には見えない。

その様はかなりの違和感を様していた。


「な、なんだこいつら!! どこから来やがった!」

頭悪い奴だな。表通りからに決まっているじゃないか。


突然のことで、S(小)は完全に狼狽していた。K(大)はボーッと群衆を眺め、B(中)はいきなりの展開に何をどうしていいか分からない状態でオロオロしていた。


(攻撃的だが、打たれ弱く突然の出来事には対処できないか…… 三流以下だな)


俺はさっきまで威勢の良かったB(中)をそう評価した。


この光景はもちろん奇跡でも、《ぼくのこと忘れてください》で呼んだ人達でもない。もちろんタネも仕掛けもあることだ。



これぞティコの便利能力その3《エネミー招集》である。



本来の使い方は狩場でモンスターを招集し、連続戦闘を行うシステムなのだがもちろん人を集める機能はゲームには無い。


しかし、ガネメモにはルートによって戦争イベントがあり、戦場で《エネミー招集》を使用すると、種族《人間》という兵士エネミーが出現するのだ。


先程、この応用でティコに人を集めることが出来るか聞いた答えが


”時間はかかるが出来る ”


であった。



そして、俺はその時間を稼ぐ為に先程まで迫真の立ち回りを展開していたのだ。

シテイタンダヨ



(ティコそこに居るのか? ティコ)


おれは念話でティコに呼びかける。


(トーヤが指示した位置にいるけど…… 大丈夫なのトーヤ、凄く痛そうな顔になっているけど)


ティコの心配そうな声が俺に届いてくる。


(もちろんです、プロですから。コイツらを地獄の底に叩き落とせると思うとタダでも喜んでやるぜ)


俺は心中で邪悪な笑みを浮かべた。


(こわっ! まあ、トーヤをこんなにしたのだから同情の余地はないね。やっちゃえトーヤ!)


それを合図に俺は、作戦の最終段階を開始した。




「うぎゃああああああああああああああああああああああああああああ!」


俺は鶏が絞め殺されたかのような断末魔を上げた。


その声に集まった群衆から、異様を感じ取った気配が立ち上がる。


「ぐはっ… なんじゃこりゃー!! こいつら俺を刺しやがった。た、助けてくれー!! 殺される!!」


俺は腹を抑え助けを求める。


通常であれば、急にそんなことを言われても普通の人間に対処など出来ないだろう。


だが…


群衆の中から女の子(ティコ)の声で

「ひ、人殺し!!!!!!!!!!!!」


絹を裂くような悲鳴が上がり、群衆から立ち上がった緊迫感は周辺へと伝染していった。



― 人殺し

      人殺し

          人殺しって ―



群衆がざわめき始めてKBS共からも狼狽が酷くなっていった。


「ま、待て俺たちはそこまで……」


KBSが弁解をしようとするのを俺は遮り。


「こいつら誘拐犯だ! 帝国の誘拐組織 ― ダーク・オークション ―だと名乗っていたぞ!」


昔あった鬼畜系エロゲにあったかのような名前を適当にぶちまけた。


再び女の子(ティコ)の声で

「ダーク・オークションって、あの無残鬼畜女性を道具扱いする。あのダーク・オークション!!」


群衆の中からティコの誘導が始まる。


(知っているのか!!ティコ)


(知っている訳ないじゃない! 適当に合わせただけだよ)




群衆のざわめきは更に大きくなっていった。


カクテルパーティー効果という現象がある。


大勢の雑談の中でも自分の興味のあることを選択肢し判別する現象のことだ。


ガラの悪い男3人、怪我をした貧相な男1人、泣き腫らした可憐な少女が1人。


この光景を見て、何を連想するかは人それぞれだろう。


だが、俺はその思考に群衆が判断出来るであろう、2つの単語を挿入した。



『殺人』と『誘拐』である。



この光景とその単語が合わされば、自ずと答えは導き出される。


(昔の営業経験が役に立つとは、人生分からないものだな……)

こんなに物騒な状態ではなかったけどね。




群衆からティコではない声も上る。


「あれ、あれ聖歌隊のアリアさんじゃないのか?」


群衆から上がる声に反応し、周囲からも声が上がる。


「本当だ。アリアさんだよあの人。あいつらが誘拐しようとしていたのはアリアさんなのか」

「俺、以前指を無くして途方に暮れていたのだけど、あの人が治してくれて励ましてくれたんだ」

「あの人の歌、俺大好きなんだよ。妻を失って悲しんでいた時に、あの人の歌は支えだったんだ」

「あんな、優しい娘を誘拐しようなんてなんて酷い奴らなんだ!」

「ありあお姉ちゃんをつれていかないで!」


他にも湧き上がる声、声、声……


ゲームではアリアは街の人達と仲が良いと、取説のちゃっちゃい説明に書いてはあったが……

ここまでとは予想外であった。


初心者ビッチと罵った俺は最低のクズだと思い知らされる。


(うう… ごめんよアリア)


俺は心の中で謝る。

だが、黒の少女攻略の為、相手にはしないけどな!

サイテーダ、オレ



怒りで殺気立った群衆に、KBS共はもうどうしていいか分からない状態であった。

「どーして!こーなった?!」がピッタリな有様である。


そして、更に闖入者が現れた。


「第8治安部隊だ! この騒ぎは何だ! ここを開けなさい!!」


群衆の向こうから、治安兵の集団が現れた様だ。




(計 画 通 り)




俺はKBSに対して邪悪な笑みが抑えきれなかった。


こいつらが捕まっても今回は恐らく、アリアの誘拐未遂くらいだろうが、恐らくその手慣れた感じは余罪も結構あると俺は推測する。



(社会の制裁をこれでもかと受け、ボロ雑巾の様に捨てられろ)



俺は今、合衆国の仮面男みたいな、ゲス顔を浮かべていることだろう。


顔が痛くて出来ているか分からないけど。


俺はティコに念話を飛ばした。


(戦略目的は達成した。 これより俺は脱出ルートBを使い、ポイントαへと向かう。 ティコは治安兵の到着と保護目標の安全の確認を終わり次第、αにて合流せよ!)


(う、うん。わかったよ)


ティコから返事は来たが、俺は「え~」という反応を返す。


(い、言わなきゃダメなの……)

(ダメ)



………



(い、イエス!マイ・ロード!!)

ティコのやけくそな声をスタートに俺は全力で逃げ出した。


後ろでアリアの呼び止める声がしたが俺は無視した。


治安兵が来るまで、俺は逃げなきゃいけない。


それは、騒ぎを起こしたら次は厳罰に処すと言う言葉を入国管理官から言われていたからだった。


長々とすみません。まだ、続きます。

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