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9話:入学までの長い道のり その4

 私の名前はアリア


 この名前は両親から貰った名前ではないけど、私はこの名前が大好きです。


 私は自分の両親のことは何一つ知りません。


 ですが、私には大切に育てて頂いた、親代わりのシスターメリア、そして私が育った孤児院の可愛い兄姉弟妹(きょうだい)たちがいたので寂しさはまったく感じませんでした。


 ある日のこと、私が12歳の誕生日を迎えた日、準成人のお祝いと誕生日のお祝いとで、シスターメリアや兄姉弟妹、近所の方々に盛大にお祝いしていただきました。


 私は心の底から嬉しく感じ、みんなへのお礼に教団の聖歌を心から歌い、お礼としました。


 驚いたことに、その歌で怪我が病気が治った方々や、諍いがあった方々が仲直りしたりしたとのことでした。


 それから、私の日常は変わりました。


 教団からの資質鑑定の儀を受けたところ、私には強力な聖歌呪法の素養があると言われ、教団の聖歌呪法の使い手たちの組織、聖歌庁所属の聖歌隊に配属になりました。


 私は孤児院を出ることになりましたが、今でも奉仕活動として孤児院での仕事を行っております。


 ですが、教団の聖歌隊に所属している関係上、週に何回かは王都の教団本部に赴き聖歌呪法の訓練を行わなければなりません。


 ある日のこと孤児院の子供達と一緒に遊ぶ約束もあり、訓練を早めに切り上げようとした時、教団に福音が起きたとのことで大騒ぎになりました。


 福音とは、教団の信仰を捧げる神様、創造神さまの神託が降り立ったことを意味します。


 前回神託が降り立ったのは数十年前のことで、そして神託はこの世界の在り方にも関わる大切なことなので神託の内容を受け取る準備に教団は大騒ぎになりました。


 私の所属する聖歌隊も神託を受けられる王都の大司教さまの支援の為、聖歌呪法で全力で必死にお支えしました。


 ですが、急遽の神託の儀式が終わった頃には日が暮れ始め、子供達との約束が守れなかったので可哀想なことをしたと思い、せめて美味しい食事を早く作ってあげようと急いで帰ることにしました。


 親代わりのシスターメリアには、最近王都の裏通りには良からぬ輩がたむろしているとのことなので、裏通りには近付かない様にと言われていましたが、早急に帰ってお腹を空かせている子達の為、つい近道をしてしまいました。


 シスターメリアの警告通りとても怖い目に合い、ある方にとても迷惑を掛けてしまいました。


 ですが、その日私は自分の運命が大きく変わる、変な人との出会いとなりました。




 俺は悩んでいた。


 それは、アリアの助けに入るタイミングだ。


 現状良くない状況だが、このまま即助けが必要かと思えば微妙なところだ。


 ティコには頼んだことをしてもらう為にここを離れている。


 準備が完了するまで、まだ時間が掛かるだろう。


(考えてみたのだけど、アリアも歌呪法で何とかしないのか)


 俺はメタイことを考えてみるが、MPが無いとか、街中では使えないとか何かしら理由があるのだろうと推測する。


 ちなみにゲームでのアリアの直接戦闘能力は無力に近くどちらかと言えば支援系だ。

 STR(筋力)、CON(体力)、AGI(速度)が致命的に低いのだ。

 逆に、DEX(器用さ)、INT(知力)、MAG(魔力)は結構高くて。

 MDF(耐魔力または信仰力とも言う)、APP(魅力)が鬼の様に高い。


 なので聖歌呪法をアリアが使えないとなると、自力での脱出は不可能だろう。


 俺が様子を伺っていると、もう男3人では区別がつきにくいので一人一人に便宜上、K(大)、B(中)、(スモール)(小)と略すことにした。(Sは ”スモール ”と言う意味だから健全だ)


 まあ、あいつらはホ○じゃなさそうだが……


 B(中)がこともあろうに、逃げようとしていたアリアに組付き、更にあろうことか右部の山を鷲掴みにしやがった!!


 恐らく着痩せするタイプなのだろう、上着からよく分からなかったアリアの豊かな山が歪む。


 同時に苦痛?羞恥?いや、恐らく両方だろう、アリアの表情が歪んだ。


「イヤ……や、やめてください……」


 アリアのその声は恐怖に震えていた。


「を! いいもんもってんじゃーん」

「楽しそうだね~♪ オレも混ぜてくれよ~」


 周辺に男共のゲスな笑い声が響いた。



「……キレたぜ……完璧によ……」

 俺はゲスな奴らに地獄を見せる為に、作戦を開始することにした。




 まず、俺は近くの塀に苦労して登り。


「待てぃ!」


 俺の制止にSBK一同が、一斉に俺に注目する。

 俺は様子を伺うのを止め、KBS共に告げた。


「自らの粗暴を全く気にすることをなく、嫌がる年頃の娘さんに対する狼藉の数々! 更には神聖なる山を己が欲望で汚すその罪…… 人それを、婦女暴行と呼ぶ!」


 男共はいきなりの乱入者に驚いていた。


 そして(スモール)(小)がお決まりのセリフを


「な、なんだ!てめえは!」



「!!!貴様らに名乗る名はないっ!!!」



 俺の怒りの声が周辺に轟いた。


 ちなみに今のは人生で一度は言ってみたかった口上である。




 SBK共は呆気に取られていた。


 ちなみにアリアも呆気に取られていたが……


 俺は、塀の上から地面へと飛び降りその際、足がじーんと痺れたがそこは耐えることにした。



「お嬢さん離れててくださいな。これから真っ赤な血が……」



 俺は足の痛みで涙目になりながら何とか言い切った。


 ちょっと飛び降りる所が高かったかな。


「おい、兄ちゃんよ!随分カッコつけた登場しやがるが、ナイト様なんて今時流行らないぜ」


 S(小)が凄んで俺に近付いてくる。


 俺は(うわー、またゲーム通りにベタなセリフ)と思い無言で立っていると、S(小)が


「何とか言ったらどうだ!ああん?」


 そう言って、俺の肩を手で軽く突いてきた。


 恐らく、威嚇のつもりなのだろうけど、俺は先ほどアリアに対してコイツらがしたことに心底腹が立っているので、怖さより怒りの方の感情が勝っていたので恐怖はなかった。


 ここで俺のトラップカード発動。


(たっぷりと魅せてやるぜ最弱(オレ)の闘い方をなっ!)


 俺には今までの社会人での経験(とらぶる)から得た12+1(封印)の特技がある。


 俺はその一つを解放した。


(さて、俺と一緒に10億幸土の彼方やらに行ってもらうぜ)


「いい加減に何か……」


 言い切る前に

 俺は突かれた腕を器用にひねり

「う、腕の骨が折れた……」


「へ?」


 S(小)の間抜けな声がした。


 そのあとS(小)が何か言った気がしたが、後ろの3人にそれが聞こえることはなかった。何故なら

「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん」

「あはあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん」

「うーでーのほーねーがおーれーたあああああああああああああああああああああああああああああああ」


 俺は大ボリュウムで泣き始めた。


 俺は考えた。


 何故このイベントでアリアは主人公に好意的になるのか?


 イベントシーンを思い返すと分かるのだが、主人公はそれはカッコよく彼女を助けているのだ。


 最初はそれで主人公に憧れを抱き、それが好意に繋がると俺は見た。


 ならば簡単だ。


 逆に最低にカッコ悪く、彼女がドっぴきし憧れなど抱くことないように助ければいいのだ。


(カッコよく助けるのは無理だが…… 俺はカッコ悪さには絶対の自信がある!)


 (いま)だに童○で、キャラも魅力5だからな。


 SBK共は混乱していた。


 偶然裏通りに迷い混んだ上玉の女、しかもあの年頃で教団の信徒ならば男を知らない確率が高いので、ゆうべのおたのしみが手に入ると自分の幸運に感謝したところで、訳の分からないことを言った挙げ句、急に泣き出したキ◯ガイが乱入してきたのだ。


 普通なら関わりたくないタイプの人種なのだが、目の前の上玉を諦めるのも惜しすぎるので一同は排除することを検討することにした。


「おい、このうるさいキ◯ガイを黙らせろ!!」

「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん」


「うへ、俺がですかい? こんな変な奴触りたくもありませんぜ」

「あはあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん」


「同意」

「うへんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん」


「それよりも…」

「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん」


「「「うるせえええええええええ!!!!!」」」


 SBK一同からのお褒め言葉ありがとう。




 俺の忘年会芸歴は伊達じゃない。


 ある時、俺は芸に行き詰まっていた。


(ぼくのこと忘れてください)

 取り敢えずこのシーンを想像するだけで瞬間大泣き《ぼくのこと忘れてください》という芸を開発したが、

 だが、この特技にはインパクトが足りなく俺は悩んだ。


 その時だ。


 俺は動画サイトで見事な泣きをする勇者の姿を観て

(これが勝利のカギだあああああ!)と閃いた。


 それから俺は動画の勇者を師匠と勝手に定め、その技を継承すべく特訓を繰り返した。


 特訓は熾烈を極めた。


 騒音で近所から苦情が入ったこともあった。

 マンションの管理人さんから目を合わせて貰えないようになった。

 近所迷惑になるので、カラオケボックスで練習していたら、ドリンクを持ってきた店員の目がドっぴきしていた。


 こうして俺の12+1(封印)の特技の一つ、《ぼくのこと忘れてください》が完成したのだ。


 苦労した甲斐があってか、忘年会の余興でこの芸を披露したら社長に大ウケし金一封まで貰うことになった。


 そのお金で二次会を行ったのだが女子社員は誰も来ず、しかも翌日から暫く目を合わせて貰えなくなった。女子社員から感じたのは《ぼくのこと忘れよう》な空気になっていた……




「うあああああああああああああああああああああああああん。いたい、いたい、いたい、いたい」


 しぶしぶ、泣き叫ぶ俺にK(大)が近付いて来て俺にボディブローを打ってきた。

 俺は古式ゆかしき避け方、着弾同時の後方へ吹っ飛びを行う。


「ぐふっっ……」


 息が詰まる。


 まだだ!たがが息が詰まっただけだ!!


「うあああああああ第二腹膜が裂傷し網膜炎を発症したああああああああああああああああああああ!!」


 もちろん適当なデタラメだ。


「網膜?なんだって?」


 どうやら学がないSBK共には意味が通じなかったようだ。


「つまり、痛いと言うことだ。あはあああああああああああああああああああああああああああああん!」


 俺は親切に簡潔に説明する。


「おお、なるほど」


 素直に納得するK(大)、こいつ案外素直だな。



「っち、裏通りとはいえあまり騒がれると面倒だな」


「うエエエエええエエエエエエエエエエエエええエエエエえエエエエエエエええ!!」


「おい、こんなキ◯ガイ放って、女を連れて行くぞ!」


 B(中)の発したその言葉に俺は心中で舌打ちをする。


(不味いな。あともう少しなのに)


 俺の次の一手までにアリアを連れて行かれたら今までの俺の演技は無意味になる、まだ少し時間を稼がないと。


(ならば、これでどうだ!)


 俺はこの中のリーダー格であろうB(中)に一足で近寄ると足元にすがるように抱きついた。


「う、うわああああ、離れろ!このキ◯ガイ!!」


 B(中)は俺を振りほどこうとしたが上手くいかないようだ。アリアを拘束している両手を離せば簡単だろうが拘束を止めれば彼女に逃げられる為に、足を揺すって逃れようとする。


 だが、俺は離さない。


(離して堪るかあああああああああああああああああああ!)


 俺は全力で食らいつく、気分はすっぽんだ。

 すっぽん鍋食いてぇ……


 揺すったせいだろう。B(中)のアリアの腕の拘束が解かれる。


 俺はアリアに目配せをし、賢いアリアは意図が分かったのだろう。


 自分の両耳を手で塞いだ。


(まだ俺のバトルフェイズは終了していないぜ)


 俺は手札(なにかたいせつなもの)を全て捨て、特技《ぼくのこと忘れてください》を発動しダイレクトアタックを開始した。


「あはあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん」

 至近距離での近所で苦情が来るほどの叫び声だ。

 効果はバツグンだ。


「耳いてええええええええ」

 そう言ってB(中)がアリアから手を離し俺の叫び声から逃れる為、自分の耳を手で塞いだ。

 開放されたアリアを見て


(計 画 通 り)


 俺の会心の一撃が決まった。


(よしアリア、今のうちにそのまま明日へと大脱走するんだ)


 だが俺の思惑と違い、アリアは俺に駆け寄り


「お怪我は大丈夫ですか、腕の骨が折れたとのことですけど、ごめんなさい私今治療が出来なくて……」


(うわー、アリアちゃん、やっさしーい)


 俺はそうだったな、こういう娘だったなと思い出した。


 この娘はどちらといえば自分より他人を優先する娘だ。


 自分を助けに来てくれた俺を置いて逃るような娘ではなかったのだ。


 そのまま、アリアを連れて逃げようかと思ったが、既に逃げ道をK(大)とS(小)に塞がれてしまう。


「やってくれたなこのキ○ガイ!!」


 B(中)は大層お怒りだ……むしろキレてるなコレ


 相当耳が痛いのだろう、耳を片手で抑えながら怒りの表情で俺に近づいて来る。


 そして俺が特技《ぼくのこと忘れてください》を発動する間もなく、B(中)の攻撃が俺に放たれた。



 1、2、3、4、5……



 数えるのも無理なくらいの痛い連撃を俺は食らう。


「げはっっっっ……」


 無茶苦茶痛かった。


 意識が飛びそうになる。


 鼻からは多量の血が流れ、二発食らったボディの痛みで俺の口からは鼻血が混じった胃液が出る。


 こんな痛さ、苦しさ、恐怖は人生で初めてだった。


 俺はアリアを助けようとしたことを後悔し始めてきた。


 どうして、俺がこんな目に……





「やっと静かになりましたっすね」


 小柄の男は疲れを感じた様に、中背の男を労う様に言った。


「っち、まだ耳が痛てえ。このクズが!」


 中背の男は怒りがまだ収まらないのか、痛みで悶ている自分の耳を痛めた男に更に暴力を振るう。


「ぐっ!がっ!……」


 殴り蹴っているうちに、更にヒートアップしてきたのだろう、中背の男の暴力は更にエスカレートしようとした。


 だが、

「もうやめてください! このままでは死んでしまいます!」

 アリアが中背の男の腕を抑え必死に止めようとした。


「うるせえ!!」


 だが、彼女のか細い力では男の暴行を抑えることは出来なかった。


 彼女は払いのけられ、大柄の男に取り押さえられる。


 そして、再開される暴力……


 アリアは泣いた。


 自分を助けようとしてくれた人が、傷ついている。


 その事実に彼女の高潔さは耐えられなかったのだ。


「あーあ、ありゃ相当キレちまってるな。馬鹿な奴だよまったく」


 小柄な男は下卑た笑顔でアリアに付け込む為言った。


「なあ、素直に俺らと来ればアレ止めてやっていいけど… ど・う・す・る・ヨ♪」


 その言葉にアリアには選択肢はなかった。


 自分が頷けばあの男の人は助かる。


 自分を助けてくれようとした人を今度は自分が助ける番だと。


「……わ、わかりました…… だからお願い…… もう止めて……」


 彼女は大粒の涙を流しながら懇願する。


 もう、こんな残酷な光景は見たくない様に


「よし、交渉成立♪ おーいもういいんじゃ……」


 男にそれを言い切ることは出来なかった。




 どれだけ殴られ蹴られたのだろう、もう意識はほとんど無くなってきた。


 このまま俺は死ぬのだろうか… まあ、死んでもこのまま現世に帰るだけだ。


 特に大したことじゃない。


 ”死ぬほど痛いぞ ”


 シロの言った通りだった。


 本当に死ぬほど痛い。


 でも、もう少しで終わる。もう少しで


 俺はふと脳裏に浮かんだ。


 俺は現世に帰る… だけど、アリアはどうなるんだ?


 ガネメモは一応えろげだ。


 このままだと彼女は言葉に出来ない状態になるのじゃないのか……


 まあいい十分俺はやったよ。


 俺は正義の味方じゃない。




 そう違うんだ…(わ、わかりました……)


 違うんだ…(だからお願い……)


 俺は…(もう止めて……)


 正義の味方じゃ…(何でも言うことを聞き……)




 俺の意識は急に覚醒する。

 そして、蹴りを入れようとしたB(中)の足を掴み、奴を後ろに倒した。

「て、てめえ!…」

 俺はその言葉を言い切る前に

「やめろ!!!!! 女の子がそんなことを軽々しく言うものじゃない!!!」

 アリアを見据え、俺の怒号が響く。

 アリアは涙を溜めた瞳で俺を見ていた。


(泣かせちまったか……)

アリアの涙を見た俺の胸がチクリと痛んだ。



 その時だった。

 通りの向こうから大勢の声が流れてくる。

「な、なんだ……え!?」

 SBK全員が呆気に取られる。

 何故なら本来人通りのほとんど無い裏通りに、50人近い人たちがやって来たのだから


(勝った!!SBK完! サンキューティコ)


 俺は真の計略を完成させるべく行動を開始した。


年末の修羅場で投稿は難しいですが、何とか頑張りますのでよろしくお願いします。

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