第8話
城に戻ったモーガンは、無事に帰還した事を伝える為、早速エドワード団長の元へと向かった。一時行方不明扱いとなっていたので、道ゆく途中で顔見知りの仲間と出会うたびに足を止めなければならなかった。
聞けば第二軍団では、例のブランカ殲滅の作戦会議が開かれるようで、その為多くの団員が招集されていた。
モーガンも、報告を終えるとすぐ、作戦会議に参加した。
エドワード「皆、よく集まってくれた」
エドワード団長は食堂の使い古された椅子から腰を上げ、集まった全員を見渡した。
第二軍団では会議はこの兵舎の食堂で行われるのが慣しだった。
今回の作戦会議に参加できる優秀な団員約百数十人が一度に集まれる広さの部屋はここしかなかったからだ。
エドワード「これより、『ブランカ殲滅作戦』の内容を説明する。まず、われわれが今までに集めた情報を整理する」
緊張の糸が張り詰められる。皆、祖国に仇なす敵を排除する為、生きて再びここへ戻ってくる為、最大限に耳をそばだてた。
エドワード「まず、このブランカと呼ばれる組織は、国王暗殺を目論む反王政派の一派である、とされている」
「ブランカは、獣人軍と反王政派を合体させた反乱軍を結成し、その混乱に興じて、国王陛下に手をかけるつもりでいるらしい。違法取引でしこたま武器を集めるのも、多くの反王政派のグループと交流しているのも、これで説明がつく」
さらに、とエドワードは続ける。
エドワード「今回の作戦は極めて政治的な意味を持っている。国王派、第一王子派、反王政派。ブランカ殲滅作戦は、これらの派閥の対立関係と極めて複雑に絡み合っている。同じ国に使える軍人同士でも、所属する軍団・派閥が違えば刃を交えることになるやもしれん、しかし、これも奴らの狙いだろう」
エドワードは、ここで、もう一度ゆっくりと部屋を見渡し、全員の顔を確認する。軍人同士で争うことになるかもしれないという不安は、一人一人の表情を一段暗くさせていた。
エドワード「われわれ兵士と、大臣・貴族らとの間には大きな隔たりがある。われわれよりも先に情報を得ていても、政治的判断で、覆いを隠すことは今までにもたくさんあった。ソウマによると、第一王子派の大臣はブランカと手を組み、この城の内部情報をすでに漏らしている。国王派の誰かがこの事実を知れば、一触即発だ」
テーブルの反対側を見ると、ソウマが誇らしげに胸を張り、周りの仲間から笑顔で小突かれていた。
だが、とエドワードの目がさらに鋭く細められる。
エドワード「国王派が、ブランカ殲滅を急ぐのも、お飾りの王を守るという意味以外にも理由がある。何らかの情報を握られ、それが阻止されるのを防ぐ、というのが一番の狙いだろう」
エドワードは強い意志のこもった声で宣言する。
エドワード「われわれ、ヴィナル国第二軍団は、ヴィナルの民を守るのが仕事だ。いかなる理由があろうと、国民を危機に陥れる輩を野放しにしておくことはできない。ここに居る一人ひとりが、国民を守る盾とならなければならない。そのことを、努々忘れるな」
力強い返事が食堂いっぱいに響き渡ると、エドワードは満足したようにうなずくと、テーブルに広げられた地図の一点を指さす。皆、そこに目を落とした。
エドワード「今回の作戦では、敵の根城を奇襲し、一気に叩く。というのが大まかな内容だ。調査を行ったモーガンによると、潜伏場所は主に王都の闘技場跡、かつて「決戦」が行われていた場所だ。そこに、大部分の構成員が集結していると思われる」
何人かがモーガンに一瞬視線を向ける。だが直ぐに外され、真剣な表情がエドワードに向けられる。
エドワード「構成員の中には、過激派の賞金首も多くいる。作戦は、危険極まりないものとなるだろうが、先陣を切って突入したいと志願する者はいるか? ・・・・・・できれば立候補にしたい」
・・・・・・。
不安げにあたりを見回す者、沈黙のままうつむく者、声を抑えて周りと話す者。
モーガンはそのどれでもなかった。
静かに、そしてしっかりと手を挙げる。
エドワード「さすが、施設育ちの戦士は違うな」
エドワードは思わず感嘆の声を漏らす。モーガンがあたりを見回すと、手を挙げているのは、誰も古くからの顔なじみばかりだった。
マーガレット・エリザベス・オーリーン・クリスタル
ソウルゼンバーグ・エイブリー
モーガン・J・M
クリストファー・ロビンソン
他、計30名
エドワード「作戦は明日、太陽が最も高く上る刻だ、それまで各位準備を進めておけ。いいか! 絶対にやつらを逃がすな! 」
皆、負けじと声を張り上げる。既に誰の心の片隅にも迷いはなかった。ただ一人、モーガンを除いては。
モーガン(闘技場跡、か・・・・・・)
戦いの時はすぐそこまで来ていた。
気づけば、あっという間に11月。
はやいなー。
全く意識してなかったけど、この回、エドワード団長しかしゃべってないw
ちなみに、オリンク、もソウマも、本名あんな感じで長いんですよ。
呼びにくいから、という理由で、いつの間にか定着していった感じです。
もう一人、クリストファー・ロビンソンも次回から出てきます。