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早いもので約束の1週間が経とうとしていた。
今までのオリヴィアは散歩すらまともにしていなかったようで、不甲斐ないことにはじめはすぐに倒れてしまった。それを見かねたのか2日目からメニューが変わっていた。きついということには変わりがないが私に合うように考えられて組まれたメニューだった。ただ厳しいだけでないのだ。やはり本当の実力者は下の育成も上手い。
そうして体力がないながらも鍛錬を続けていてわかったことがある。
剣術…クッソ楽しい。
鍛えれば鍛えるほど自分の能力が上がっていくのがわかる。部屋に篭って刺繍をしたりお茶会をするのなんかよりよっぽど時間を有意義に使えている。
隙間の時間に共通言語の習得に向けて勉強をしていたがオリヴィアの地頭が良かったのか案外すぐ理解できた。このままならばあまり時間もかからずに習得できそうだ。言語の習得だけでは納得のできる取引はできないのでまだまだ先は長いけど。
「で、今日で1週間だがどうする?」
鍛錬が終わったあっとフェイ叔父様が聞いてきた。
勿論辞めるつもりはない。こんなに楽しいと知ってしまったのに辞めるだなんて口が裂けても言わない。
「勿論私は続けるつもりです」
「だろうな」
「正直すぐに飽きると思っていた」
それについては否定出来ない。これは想像でしかないが過去のオリヴィアなら初日で辞めていただろうし私自身ももしかしたらいつか我儘令嬢に戻ってしまうのではないかと何度も思った。しかしこの1週間そんなことは全くなかった。
今後戻ることが全くないとは言い切れないけど少なくとも物語には対して関係のない叔父様のところにいる限りは強制力が働く可能性は極めて低いと考えても良さそう。
「飽きるどころかのめり込んでいくとはな」
剣術がこんなに面白いなんて知らなかったから。知ってればもっと早くやっていたかもしれない。
……いや、あのオリヴィアならそもそも知ろうとしなかったか。
「俺はこの1週間で数日で人はこんなにも変わることがあるとういことを改めて学んだ」
確かに私の場合はここに来る直前まで我儘令嬢だったのでそう言言いたくなるのもわからなくはないが、そもそも叔父様とは顔を合わせていないのだからそこまで変わったと思う要素があまりない
とは思うが……もしかしたら私の想像以上にオリヴィアの悪評は広まっているのかもしれない。
「…それは揶揄ってます?」
「いや?俺でなくとも誰だってこの変わり様を見れば同じことを思うはずだな」
「1週間でこれなんだから1ヶ月も会わなければもっと見違えるほど変わってるだろうな。兄さんの反応が楽しみだな」
「お父様は私に興味がないのでなんとも思わないと思いますけどね」
「へぇ、誰かが言ってたのか?」
そんなこと誰かに言われなくともわかる。だって当事者なんだから。
それにうちの家庭環境を見れば誰だってそう思うだろう。
「まぁ、それは置いといて、これからの話になるが」
「気持ち悪いからその敬語を辞めろ。でなければ追い返す」
いきなりなにを言い出しているんだ。この人は。
「俺の方が身分は低いし親戚なんだからそんなに畏まられる必要なんてどこにある?」
まぁ、叔父様の言っているも理解できなくはなくはないが、私は10歳で叔父様は22歳だ。12も上の人に簡単にタメ口で話せるわけがない。そもそも師に対しての態度としてそれでいいいのだろうか。
「わかったか?」
「わかりまし…わかった」
敬語で言いかけてギロっと睨まれたので急いで言い直した。
圧が凄い。こんな圧をかけられて睨まれたら誰だって怯んでしまう。流石元筆頭魔法騎士だ。
しかし、正直叔父様の思考がいまいちよくわからない。
いや、叔父様の思考がわからないというより叔父様自体がいまいち掴めない。
魔法と剣の腕はトップレベル。しかも顔も小説に出てきた王子並みに整っている。年齢もまだ22歳。
この国の結婚適齢期は18〜22歳、まぁほとんどが20歳前後で結婚し遅くとも25歳までには結婚している。25歳を超えると行き遅れとなる。
で、この顔がいい叔父様は22歳にして妻どころか婚約者すらいない。
もしかしたら騎士団を抜けてきたのもそう言ったところが関係しているのかもしれない。
でもこれだけ好条件が揃っていてあの小説に出てこないなんて正直信じられない。どっからどうみてもメインをはれる内容が盛り沢山なのに。
しかし考えても私にその答えがわかるわけではないので早々にそのことについて考えるのを辞めた。