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4 陸攻対戦艦、再び

「第一次攻撃隊の損害は零戦九機、第二次攻撃隊は零戦一、九九艦爆十七機、一式戦三、九九軽爆八、第三次攻撃隊は零戦四、一式陸攻二、九七艦攻三となっております。その他、損傷機多数です」


 ラバウルの第十一航空艦隊司令部では、三次にわたる攻撃隊の損害集計が行われていた。


「戦闘機隊を退けたとはいえ、米軍の対空砲火は侮れんな」


 意外に第二次攻撃隊の損害が多いことに、草鹿任一司令長官は渋面を作った。


「とはいえ、第三次攻撃隊の損害が予想よりも少ないため、対空砲火の減殺という当初の目的はある程度達成出来たものと認められます」


 参謀長の中原義正少将が言う。


「そうだといたしましても、敵艦隊上空になおも戦闘機隊が存在していることは、留意すべきでしょう」


 そう指摘したのは、先任参謀の三和義勇大佐である。


「昨年末から確認されている米軍の双発新鋭戦闘機は、我が零戦に匹敵する航続距離を持つものと考えられます。恐らく、エスピリットゥサントから飛来したものでしょう」


「しかし、その数は少なかったと聞く」中原参謀長は言う。「旋回性能も我が零戦に劣るとなれば、現状でそれほど脅威に感じる必要はないのではないか?」


「しかし、陸攻隊にとっては鈍重な双発戦闘機であっても脅威となります」


 P38は双発戦闘機としては軽快な操縦性を持つのであるが、その実態を知らない彼らは、この段階では陸軍の二式復座戦闘機「屠龍」と同様な使い勝手の悪い双発戦闘機と捉えていたのである。


「やはり、第四次攻撃隊は夜間攻撃を期すべきだな」


 継続的な航空作戦を行うためにも戦力を維持すべきと考えている草鹿中将は、少しでも陸攻隊の損害を局限する方針をとった。

 薄暮攻撃も考えたが、敵戦闘機が日没近くまで敵艦隊上空に留まっている可能性を懸念したのである。


「ただちに照明弾を搭載した接触機を発進させろ。また、現在の接触機に、夜間攻撃用の接触機を誘導するよう通信を出せ」


「はっ!」


 こうして、第十一航空艦隊の主力陸攻隊による夜間空襲は決定した。


◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆


 月明かりの差し込む空に、南十字星が輝いている。

 雲は断片的であり、視界は良好。

 そんな空の下を、一式陸攻の大編隊が飛行していた。


「ソロモンの空も、中々捨てたもんじゃねぇじゃねぇか、ええ?」


 一式陸攻の操縦席で、野中五郎少佐は部下に笑いかけた。


「ええ、ちょっとした遊覧飛行気分ですよ」


「んで俺たちはこれから、アメ公どもを夜の海水浴に招待してやるわけだ」


 機内に笑いが弾ける。その様子を見て、野中は内心で安堵した。

 彼の部下統率法は、基本的には部下たちの緊張と恐怖を和らげることを考えてのものだった。侠客じみたべらんめえ調も、そのための手段の一つでしかない。

 現在、彼ら七五二空を始めとする第十一航空艦隊の陸攻隊は、レンネル島沖を航行中であるという米戦艦部隊へと向かって進撃していた。戦力は七〇一空(元美幌航空隊)、七〇五空(元三沢航空隊)、七五一空(元鹿屋航空隊)、七五二空(元第一航空隊)、七五五空(元元山航空隊)と、現状で第十一航空艦隊が出撃させられるほぼすべての陸攻隊で構成されていた。

 一部の搭乗員が熱帯病にかかるなどして完全な全力出撃というわけでもなかったが、それでも整備中の機体や予備機などを除いた約九〇機の一式陸攻が出撃したのである。

 とはいえ、野中はその軽口に比して、内心では決して楽観などしていなかった。各飛行隊の定数は、三十六機ないし、四十八機なのである。つまり、本来であれば五個飛行隊で二〇〇機以上の大編隊を組めるはずであった。

 それが九〇機程度となってしまったのは、開戦以来の消耗故である。

 今はこうして笑い合っている部下たちも、何人が無事に明日の朝日を眺められるのだろうか?

 だが、そうした懊悩に苛まれるのは後ででいいと野中は気持ちを切り替える。

 敵艦隊にはすでに接触機が張り付き、長波を発して陸攻隊を誘導している。

 矢は弦を放れ、後は的に突き刺さるだけ。

 ならば一際でかい的に必殺の魚雷を叩き付けてやろうと、野中は決意していた。






 各種計器板の蛍光塗料の光だけが淡く輝くコロラド艦橋は、肌がひりつくような緊張感に包まれていた。

 先ほどから、海面に赤や緑に発光する照明浮標が艦隊の進路上に現われたのである。


「間違いなく、ジャップの接触機によるものでしょう」


 モールトン航空参謀が固い声でそう判断した。

 艦隊は日没後も、断続的に日本軍機による接触を受けていた。それらの機体が、照明浮標を投下したのだろう。

 艦隊将兵にはそれがまるで地獄へと続く道しるべのように見え、不気味極まりなかった。


「ジャップの夜間空襲が始まるぞ。総員、警戒を怠るな」


 ハルゼーは厳しい声で部下に命じた。

 現在、艦隊はレンネル島沖を通過したところであった。ガ島まではおよそ一〇〇キロ(約五十三浬)。

 十五ノットの速度で進めば、三時間弱で到着できる。時刻は一九〇〇時を回ったところ。日付が変わる前にはガ島沖へ突入出来る。

 艦隊は魚雷二本を喰らった軽巡ボイシが沈没したものの、被雷した戦艦メリーランドとミシシッピーは未だ十七ノットでの航行が可能であったので、艦隊は戦艦四、重巡一、駆逐艦三、高速輸送艦四の編成で北上を継続していた。

 そして、一九一八時。

 ついに恐れていた報告がレーダー室からもたらされる。


「西方より接近する機影、多数確認。およそ一〇〇機規模の大編隊です!」


「対空戦闘用意!」


 昼間の空襲で生き残った対空火器に向け、乗員たちが駆ける。


「砲術長、星弾(スターシェル)の用意だ!」


「アイ・サー」


 対空火器には、射撃管制レーダーが存在しない。そのため、対空射撃そのものは目視によって行わなければならないのだ。だから、視界を確保するために星弾を撃ち上げる必要がある。

 やがて、輪形陣の上空に黄白色の光球が出現した。およそ一秒間隔で、光の玉が次々と花開いていく。

 ジャップの投下した吊光弾である。


「敵機群、散開を始めました! 襲撃態勢に入りつつある模様!」


「砲術長、星弾射撃だ! レーダーで探知した方角に射撃せよ!」


「アイ・サー!」


 コロラドの舷側に備えられたケースメイト式の五十一口径五インチ砲が旋回し、仰角を取り始める。


撃て(ファイア)!」


 軽い振動と共に、コロラドは副砲射撃を開始した。

 左舷の彼方で星弾が炸裂し、周囲の空を照らし出す。それとほぼ同時に、見張り員の報告が届く。


「敵機を視認しました! 距離、およそ四〇〇〇! 一式陸攻(ベティ)の編隊です!」


 星弾の光によって姿を現したのは、葉巻のような太い胴体を持つ双発の日本軍機。

 開戦直後にイギリス戦艦二隻を撃沈し、そして今も南太平洋の連合軍を苦しめる忌々しい機体。


「目標、左舷四〇度の敵機群! 撃ち方始めオープンファイアリング!」


 左舷を指向する高角砲、機銃が曳光弾混じりの射撃を開始する。

 ジャップの吊光弾とアメリカの星弾、そして対空射撃の閃光と曳光は、夜を昼に変えるには十分なものであった。

 第七十七任務部隊の周囲は、日米両軍によって擬似的な昼が作り出されていた。

 その中を、一式陸攻は進んでいく。


「敵機、高度一〇〇以下です!」


「クレイジー・ジャップめ!」


 コロラド艦長が罵声を漏らす。

 いくら照明弾があるとはいえ、視界の限られた夜間に操縦性の悪い双発機で高度一〇〇以下だと? 操縦桿の引きを少しでも誤れば海面に激突するだろうに。

 艦長は初めて体験する日本軍の空襲に、得体の知れない理不尽さを感じていた。


「敵機、本艦に向け突っ込んできます!」


「面舵二〇度、急げ!」


 大きく舵を切れば、舷側の対空火器を敵機に向けることが出来なくなってしまう。それゆえ、敵の雷撃を回避しつつ、対空射撃の密度を落とさないためのコロラド艦長の判断だった。

 コロラドは二十一ノットの速力で、吊光弾の光が反射する黒い海面を引き裂いていく。

 夜間で視界が悪化しているのは、日本軍だけでなくアメリカ軍も同様であった。輪形陣を構成する各艦が高速で動き回っているが、これは下手をすれば衝突の危険性さえ生じる行為である。


「輪形陣北側、東側、南側からも敵機が接近してきます!」


 レーダー室から、混乱したような報告が寄せられる。


「奴ら、全方位からこちらを雷撃するつもりだ」


 艦橋で対空戦闘の推移を見守っていたハルゼーは、敵指揮官の狙いを即座に悟った。

 全方位から雷撃することで命中確率を上げようとしているのか、それとも輪形陣の混乱を狙っているのかは判らない。

 だが、少なくともこの状況下において有効な戦術であることは間違いない。


「陣形を維持しつつ、北上を続けよ!」


 ハルゼーはそう命ずるより他になかった。各艦の操艦は、それぞれの艦長たちの役目である。彼はただ、艦隊の行く先を示すことしか出来ない。

 指揮官席に座ったこの猛将は、しかめ面で腕を組んで戦闘の様子を眺めているしかないのだ。






「行くぞ、手前ぇら! しっかりと付いてこい!」


 七五二空の一式陸攻、その機上で野中五郎少佐は気炎を上げた。

 編隊灯を点滅させ、部下の機体に突撃の信号を送る。

 照明弾の光を反射する黒い海面の上を、一式陸攻は高速で駆け抜ける。

 搭乗員たちが「アイスキャンディー」と呼ぶ曳光弾混じりの敵弾が、陸攻隊の頭上を飛び抜けていく。さらにその上空では星弾が炸裂し、彼らの機体を夜の空に浮かび上がらせている。


「アメ公から花火でお出迎えだ! こっちもお返しに魚雷をぶち込んでやれ!」


「はい!」


 機内から威勢のいいかけ声が返る。

 部下たちの士気が高いことに満足して、野中は機体を操っていく。狙うは、輪形陣から遅れつつあるメリーランド級戦艦。恐らく、昼間の第三次空襲で被雷したのだろう。


「野郎どもは付いてきているか!?」


「はい、四番機までしっかり後続しています!」


「おっし! このまま殴り込むぞ!」


 野中は部下の前では、敵艦隊への突撃を「殴り込み」と表現する。

 回避行動を取りつつ対空砲火を放つ米戦艦。だが、その火箭は昼間に受けた損害の結果か、ひどく散発的なものであった。

 昼間に出撃した搭乗員たちには感謝しないといけないなと思いつつ、野中は機体を操っていく。

 すでに高度は十メートル前後。操縦桿の操作一つ誤れば、海面に激突してしまう。

 だが、対艦攻撃を行うために猛訓練を続けてきた陸攻隊にとっては、いつも通りの高度であった。この高度ならば、敵の対空火器は俯角限界からまともに照準を付けられないのである。

 野中の直率する小隊四機は、統制された動きでメリーランド級への射点に付く。


「用意、てっ!」


 胴体下の九一式航空魚雷改三が投下され、八〇〇キロの重りを外された機体が浮き上がろうとする。それを防ぎながら、野中はなおも機体を直進させる。

 マレー沖海戦での戦訓から、陸攻隊は雷撃後、直進して敵艦上空を突っ切ることになっていた。それまでの訓練では雷撃後、退避行動を取ることになっていたのだが、機体を旋回させると速度が落ちる上に胴体側面を敵に晒して被弾面積を自ら大きくしてしまう。だからこそ、マレー沖海戦以降、陸攻隊は敵に対する面積を最小限にするため、雷撃後も直進して敵艦上空を通過することになっているのだ。

 距離一〇〇〇メートル未満で魚雷を投下すれば、敵艦上空を通過するまで十秒もない。

 理論の上では敵艦上空を通過した方が被弾の確率は低いのだが、自ら対空砲火に飛び込んでいくようで心理的圧迫感の方はもの凄い。

 敵メリーランド級の船体が迫り、吊光弾に照らされた艦橋や十六インチ主砲塔がくっきりと見える。

 そして、航過。

 反対側から雷撃を仕掛けた別の小隊の機体と、危なげなくすれ違う。

 そのまま輪形陣の外側まで一気に通過し、戦果確認のために高度を戻す。

 そうして始めて緊張から解放され、野中を始め搭乗員たちは深く息をついた。






「メリーランド被雷! 速力低下! 輪形陣から脱落していきます!」


 見張り員の悲鳴が艦橋に届けられる。今もコロラドは左右へと必死の回避運動を行っている最中だった。


「くそっ、夜行性の忌々しいサルどもめ」


 ハルゼーはぎりっと歯を軋ませる。


「敵機は依然少数の編隊で、連続的に我が輪形陣全方位から襲撃をかけています!」


 レーダー室からの報告も、悲痛なものだった。

 全方位からの五月雨式の波状攻撃は、完全に米艦隊の処理能力を超えていた。陸攻隊による飽和攻撃によって、元々昼間の空襲で少なくなっていた対空火器はさらに分散して射撃をすることを余儀なくされ、米艦隊の特徴の一つとも言える濃密な対空弾幕を形成出来なくなっていたのである。

 また、旧式戦艦に対空火器の射撃管制レーダーが備えられていないことから、命中率も芳しくない。ほとんど、夜の闇の中に曳光弾が消えていくだけである。


「ミシシッピーも被雷の模様!」


 昼間の雷撃で被害を受けていた二戦艦は、もともと速力の低下から遅れ気味であった。そこを、ジャップは狙ってきたのだ。

 だが、それで満足するジャップではない。何しろ大型艦という極上の獲物は、メリーランドとミシシッピーの他にもいるのだ。


一式陸攻(ベティ)、低空にて左舷より接近中! 本艦に向かってきます!」


「取り舵一杯!」


 コロラド艦長が命じる。魚雷に対して艦首正面を向けることで、被雷面積を少しでも減らそうとしているのだ。一時的に対空火器の射界を遮ることになるが、やむを得なかった。

 とはいえ、二十一ノットの慣性がついた排水量三万二〇〇〇トンの船体は簡単には転舵を始めない。

 敵機が次々とコロラド艦上を通過していく。アメリカ軍にとって口惜しいことに、撃墜される機体はない。

 左舷に目を向ければ、白い航跡を曳いてジャップの魚雷が接近しつつあった。

 そしてようやく、コロラドの艦首が左へと振り始める。


「……」


「……」


「……」


 艦橋の誰もが、コロラドと魚雷の行方を注視していた。向かってくる魚雷は四本。

 三本は、コロラドを挟み込むように右舷側へと抜けていった。しかし、残る一本が照明弾に照らされた海面をコロラド目がけて突き進んでいた。


「総員、耐衝撃防御!」


 命中を覚悟し、艦長は叫んだ。

 ジャップの魚雷が、コロラドの舷側へと消えていった。

 誰もが被雷の衝撃を覚悟していたが、それはいつまで経ってもやってこなかった。


「敵の魚雷は不発! 不発の模様!」


 誰の背にも、じっとりとした汗が滲んでいた。南洋の暑さのためだけではない。

 艦橋に詰める者たちが、深く息をついた。しかし、安堵を覚える状況でもない。コロラドは幸運に見回れたが、艦隊全体はそうではないのだ。

 指揮官たるハルゼーから末端の水兵に至るまで、誰もがジャップの攻撃隊がさっさとラバウルやブーゲンビルへと引き上げてくれることを祈っていた。


◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆


「戦艦三隻撃破、巡洋艦、駆逐艦各一隻撃沈確実。一式陸攻の損害は五機のみ。これが、攻撃隊からの報告だな?」


「はい」


 ラバウルの第十一航空艦隊司令部では、夜を徹して航空部隊の指揮が行われていた。

 草鹿任一中将は、攻撃隊から寄せられた報告に眉を寄せていた。


「命を賭して夜間雷撃を行ってくれた搭乗員には悪いが、この戦果を鵜呑みにすることは出来んだろう」


 彼は暗号電を解読した用紙を机の上に置いた。参謀長の中原義正少将が紙に手を伸ばし、内容を読む。


「はい。これまでにも、夜間攻撃では戦果が過大に報告された事例が多数あります。それを踏まえたのか、今回はかなり抑制的な内容ですが、それでも、だいぶ割り引いて考える必要があるかと」


「うむ」


 い号作戦発動以来、陸攻隊は南太平洋を航行する連合軍輸送船団に幾度となく夜襲をかけていた。

 しかし、敵の対空砲火や撃墜された機体の火柱を敵艦の爆発と誤認したのか、戦果が過大に報告される傾向にあった。酷いときには輸送船十隻撃沈と報告されながら、翌日、再び接触機を出してみるとその半数も沈んでいなかったという事例すらある。


「撃沈確実となっているところに関しては、撃破という程度に留まっているかと。また、戦艦三隻撃破についても、一隻、ないし二隻の可能性があります」


「それについては、戦果確認のため、新たに吊光弾を積んだ機体がすでにムンダを発進しているはずです」


 先任参謀の三和義勇大佐が言う。

 今回の攻撃は、米軍のガ島来寇を妨害するためのものである。それ故、戦果に大きな誤認があればガ島の陸海軍将兵そのものを危機に晒してしまう。

 そのため予め追加の接触機を用意していたのである。


「しかし、その間にも米艦隊はガ島へ向けて北上する可能性がある。やはり、ガ島には警告を出し、ツラギの甲標的部隊を事前の計画通りにルンガ沖に待機させるべきだろう」


 ガダルカナル島対岸のツラギに配備された甲標的部隊は、第八艦隊所属の第七根拠地隊の指揮下にある。しかし今回、第八艦隊は船団攻撃、第十一航空艦隊が米艦隊の迎撃という役割が連合艦隊司令部より割り振られたため、一時的に甲標的部隊の指揮が第十一航空艦隊司令部に預けられている。


「それと、第八艦隊からの通信はないのか?」


「はい。いえ、未だ無線封止中のようでして何の通信もありません」


「我々は未だ敵輸送船団の捕捉に成功していない。第八艦隊もそれは判っているはずだろうが……」


 第十一航空艦隊の放った索敵機は、結局日没までに米輸送船団の捕捉に失敗していた。そうなると、輸送船団への夜襲を試みている第八艦隊の作戦構想そのものが瓦解することになる。


「今から反転、北上すれば米艦隊の帰路を封鎖することが出来るのだろうに……」


 口惜しそうに、草鹿は呟いた。

 第八艦隊の指揮権は、第十一航空艦隊司令長官である草鹿には存在しない。第八艦隊長官である三川軍一とは、同時期に中将に昇進しため、先任・後任の序列がないのだ。

 南太平洋における二個艦隊(第十一航空艦隊は基地航空隊だが)の指揮系統が一本化されていない弊害が、依然として存在しているのである。


「ここは、三川長官のご判断を尊重するしかないでしょう」


 中原参謀長が、溜息をつくような調子で言った。彼もまた、指揮系統の分裂を苦々しく思っているらしい。


「やむを得んな。我々は我々で出来ることをやるしかあるまい」草鹿は言った。「明日以降の出撃に備え、搭乗員には十分な休養を与え、機体の整備もまた万全にするように」


「はっ。ただちに、各部隊に伝達いたします」


 航空隊としての第十一航空艦隊の役割は、一旦終わった。あとは、ガ島に所在する陸海軍各部隊の奮戦にかかっているといってもよいだろう。

 無線封止に入った第八艦隊の動向が判然としないのが、不安要素ではあったが。


◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆


「メリーランドには先ほどの空襲で魚雷四本が命中、昼間の被雷と合わせて浸水量が増大、現在八ノットでの航行が限度とのことです。また、ミシシッピーも被雷二、昼間の空襲と合計で三本の魚雷が命中し、速力十二ノット。ニューメキシコは艦尾に被雷し、右舷スクリューが損傷、速力十三ノット」


 ブローニング参謀長のまとめた被害報告に、ハルゼーは渋面を作る。


「ジャップは敢えて攻撃を分散したと見るべきでしょう」ダグ・モールトン航空参謀が言う。「奴らはこちらの戦艦を撃沈するのではなく、一定程度の損傷を与えて撃退することが目的だったのです」


「だったら、連中の目論見が外れたってことを、このコロラドが証明してやろうじゃねぇか」


 普段のぞんざいな口調で、ハルゼーは宣言した。


「神の加護のお陰か、ジャップの間抜けかは知らんが、本艦に命中した魚雷は不発。この戦艦だけは、未だ最大速力が発揮可能だ」


 それはつまり、コロラドだけでもガダルカナルへと突入するという意思表示であった。


「ここからは輪形陣を解き、単縦陣にてガ島を目指す。残存駆逐艦三隻で前衛を形成。その後方に本艦をつけ、ルイヴィルは高速輸送艦の護衛に当たれ」


「アイ・サー。三隻の戦艦については?」


「我が艦隊に、護衛を付けて退避させる余裕はない。キンケードの第五十一任務部隊に駆逐艦を派遣してもらえ。それでエスピリットゥサントまで退避させる」


「アイ・サー」


 通信参謀が敬礼と共に通信室へと急いだ。


「艦隊前進、各員は合衆国海軍軍人としての最善を尽くせ」


 ハルゼーは艦橋の者たちを見回し、そう宣言した。


  ◇◇◇


 ソロモンの空に、満ちつつある明るい月がかかっていた。

 無数の星屑たちを周囲に侍らせながら、月は下界を見下ろしている。その澄んだ光は、下界で起こる人々の争いを悲しんでいるようでもあった。

 だが、ハルゼーたち合衆国軍人には、そのような感傷は許されない。現在、合衆国海軍第七十七任務部隊は、ガダルカナル島-マキラ島間の水道を通過していた。


「前方にマライタ島を確認」


 現在、艦隊は単縦陣にて航行していた。その後方に、重巡ルイヴィルに護衛された高速輸送艦四隻が続く。


「先行させた駆逐艦シャヴァリアより入電。ルンガ沖に敵影なし、とのことです」


「念のため、サボ島の西側まで捜索させろ」ハルゼーが命じる。「ジャップがこちらのレーダーに探知されないよう、島影に隠れているかもしれん」


「アイ・サー」


 ジャップの艦隊はいるのか、いないのか。

 艦隊の誰もが、そうした不安に囚われていた。

 任務部隊の戦力は、戦艦一、重巡一、駆逐艦三にまで低下している。その状況で、ジャップの艦隊の待ち伏せを受けたら堪らない。


「……」


 ハルゼーは唇を引き締めて、前方の海面を凝視していた。

 コロラドの主砲は十六インチ。ソロモンにその存在が確認されているジャップの戦艦は、コンゴウ・クラス一隻のみ。その主砲は十四インチで、巡洋戦艦からの改造であるから、コロラドは十分に圧倒出来るだろう。

 とはいえ、護衛艦艇の少なさは懸念事項であった。敵水雷戦隊を防ぐべきこちらの巡洋艦や駆逐艦はわずかである。

 敵艦隊が出現して戦闘になれば、結果がどうなるかは判らないのだ。

 コロラドは万が一の会敵に備え、第三射までは徹甲弾が発射出来るようになっている。

 やがて、彼女の艦首が左舷に振られた。

 シーラーク水道、あまりに多くの艦艇を飲み込んだが故に「鉄底海峡(アイアン・ボトム・サウンド)」と名付けられた忌まわしき海域。そこへ、再び米軍は踏み入れたのである。

 一九〇〇時過ぎの空襲後、乗員たちには戦闘配食として夕食が出されたが、昼間からの戦闘で多くの乗員が疲弊しつつあった。総員戦闘配置の命令は、七日午後の空襲から一度も解除されていないのだ。艦隊は、断続的にジャップの索敵機に接触を受けていたのである。

 やがて、コロラドの作り出す航跡が直線になり、彼女が完全に鉄底海峡へと侵入したことを示した。


「シャヴァリアより入電。サボ島西側海域に敵影なし」


 その報告で、艦橋の面々は一様に安堵の息をついた。そして、ハルゼーが命令を下す。


「後続の高速輸送艦に伝えろ。ガ島沖に敵影なし、ただちに収容準備に取りかかられ度、とな」


「アイ・サー」


「艦長、我々はヘンダーソン飛行場を叩く。左砲戦用意だ」


「アイ・サー。左砲戦用意! 目標、ガ島ヘンダーソン飛行場!」


 ゆっくりと、四基の十六インチ主砲塔が旋回を始める。

 熱帯林の向こう側にある飛行場は、光学照準にて目標を定めることが難しい。弾着観測機を発進させようにも、機体は空襲時の機銃掃射で損傷、海中に投棄してしまっている。

 しかし、一時とはいえ合衆国が占領していた飛行場である。位置情報については正確に判っている。

 東部ソロモン海戦(第二次ソロモン海戦のアメリカ側呼称)では、ジャップの戦艦陸奥が飛行場砲撃を成し遂げ、以後のガ島攻防戦の趨勢を決めたといっていい。

 陸奥と同じくビックセブンの一員であるコロラドが、同じ目的でルンガ沖を航行しているのは、何かしら宿命的なものを感じさせる。

 なればこそ、コロラドの砲撃は陸奥の砲撃と同じく、南太平洋の戦局に転換点をもたらすだろう。

 そう、艦橋の誰もが思っていた。いや、思い込もうとしていたという方が正しいかもしれない。

 旋回を終えた砲塔で、砲身が鎌首をもたげるように仰角を取り始めた。






「沿岸監視所より報告。米艦隊、東方よりシーラーク水道に侵入してきます。艦種、戦艦一、駆逐艦三の模様」


 ガダルカナルに置かれた海軍第七根拠地隊司令部にて、藤田類太郎少将は参謀兼副官の無着仙明中佐から報告を受けた。


「第十一航空艦隊は、だいぶ善戦してくれたようだな」


 藤田少将は、ほっと息をつく。

 昼間の航空偵察の結果では、敵艦隊の主力は戦艦四隻とのことだった。それを、三隻も脱落させたのだ。


「よろしい。事前の作戦計画通り、甲標的部隊に対して通信を出せ。米戦艦に、飛行場には指一本触れさせるな。第十一航空艦隊司令部にも、敵艦隊のガ島来襲を報告せよ」


「はっ!」






 衝撃は唐突に訪れた。

 ルンガ沖に向けて速力十六ノットで航行していたコロラドの右舷に、高々と水柱が立ち上ったのである。


「機関停止! ダメージリポート!」


 艦長の叫びが艦橋に響く。艦は急速に右舷への傾斜を深めている。


「右舷に魚雷ないし機雷五発被弾の模様! 浸水増大中!」


「くそっ! これではガダルカナル沖海戦の二の舞ではないか! シャヴァリアは何をやっていた!」


 怒りと共に、ハルゼーは椅子の肘掛けに拳を叩き付けた。

 作戦十一月のガダルカナル沖海戦でも、戦艦インディアナが発射元不明の魚雷によって被害を受けている。


「左舷への注水急げ!」


 傾斜が深まり五度を超えてしまえば、揚弾機から主砲弾を装填することが不可能となってしまう。いや、それよりも片舷に五本もの魚雷を喰らえば、転覆の危険性すらあった。何としても、傾斜の復旧を急がなければならなかった。


「ジャップにしてやられました」ブローニング参謀長は唇を噛んだ。「水道内に潜水艦ないしは魚雷艇を潜ませていたのでしょう」


「機雷の可能性はないのでしょうか?」


 参謀の一人が言った。


「いや、それはないだろうよ」ハルゼーが吐き捨てるように否定した。「この水道はジャップの連中も使っているんだ。機雷などを撒けば、それこそ連中自身の補給が滞っちまうだろうさ」


「では、潜水艦か魚雷艇と?」


 小型の魚雷艇が島影に潜んでいたとすれば、レーダーでの発見は困難であった。同様に、浅瀬に潜水艦が着底して待機していたならば、やはり探知は困難である。


「いえ、ジャップには実用可能な魚雷艇がありません」ブローニングが首を振る。「恐らく、潜水艦で間違いないかと」


「駆逐艦に対潜警戒を厳にするように伝えろ。恐らく、連中の水上艦隊はここにはない。それに潜水艦だって、そう数はいないはずだ」


 シーラーク水道は狭い海峡である。下手に多数の潜水艦を配備すれば、水中で衝突事故を起こす可能性がある。恐らく、多くても二、三隻程度であろうとハルゼーは睨んでいた。






「敵メリーランド級に魚雷五本命中を確認!」


 沿岸監視所からの報告が、第七根拠地隊司令部にもたらされた。司令部内で、歓声が上がる。


「上手くいったようだな」藤田少将は安堵と共に言った。「敵艦の数の少なさに救われたな。流石に少数の甲標的で戦艦四隻を撃破するのは難しかっただろう」


 ガ島対岸のツラギに配備された甲標的は、完璧にその役割を果たしたのだ。


「監視所はそのまま、米艦隊の動向を注視せよ」






 駆逐艦シャヴァリア、ジェンキンス、ドレイトンが、ソナーにて探知した目標に対して盛んに爆雷攻撃を行っていた。


「あまり、効果は期待出来んだろうな」


 とはいえ、ハルゼーは楽観していなかった。

 ソナーで探知した目標は、もしかしたら岩礁か何かかもしれないのだ。実際、未だ敵潜水艦撃沈の報告はない。潜水艦を撃沈すれば、その破片や重油、乗員の遺体などが浮き上がってくるはずなのだ。

 夜間とはいえ、月明かりのある夜である。特に光を反射しやすい重油が浮き上がってきたという報告は、未だない。


「艦長、主砲射撃は可能か?」


「傾斜が三度にまで回復いたしましたので、可能ではあります」コロラド艦長は、歯切れ悪く答えた。「しかし、主砲射撃の振動で魚雷の破孔が拡大し、以後の航行が不能となる危険性があります」


「速力はどこまで出せる?」


「ダメコンチームの報告ですと、四ノットが限度です。それ以上出せば、水の抵抗により破孔の拡大、浸水増大の危険性があります。」


「やむを得んか……」


 ハルゼーは腕を組んで、しばし黙考する。四ノットでは、恐らく夜明け前までに敵空襲圏外に脱出することは不可能だろう。それに、コロラドを護衛することになる他の艦艇を危険に晒すことになる。特に、高速輸送艦は今後の対日侵攻作戦のためにも、大量の喪失は避けるべき艦種である。


「艦長、ヘンダーソン飛行場に対する砲撃を開始せよ」


「よろしいのですか?」


「飛行場の破壊を確認した後、本艦は自沈させる」


「……アイ・サー」


 艦長は何かを堪えるような表情と共に、返答した。


「砲術長、目標は変わらずヘンダーソン飛行場。撃ち方始めオープンファイアリング!」


「アイ・サー。撃ち方始めオープンファイアリング!」


 その瞬間、コロラドの誇る十六インチ砲八門が轟然と射撃を開始した。

 コロラドが実戦にて行った最初の主砲射撃であり、同時に最後となる主砲射撃でもあった。






 米メリーランド級戦艦の発砲は、沿岸監視所からも観測出来た。


「敵艦、主砲射撃開始!」


 驚愕の報告がもたらされた時、海軍第七根拠地隊司令部、そして陸軍第十七軍司令部は同時に沈黙に包まれた。

 甲標的には、魚雷を再装填する装置は存在しない。コロラドに魚雷を五本命中させたのが、最初で最後となる雷撃だったのだ。

 十六インチ砲の巨弾が、ガダルカナル島ルンガの平地に降り注ぐ。

 地面が抉られ、爆発と共に土が舞い上がった。


「これが、艦砲射撃の威力か」


 司令部で腕を組んだまま、百武晴吉中将はぽつりと呟いた。ここまで来てしまえば、あとはなるようにしかならないという、諦観の滲んだ声であった。


「念のため、航空機をすべてムンダに退避させておいて正解でしたな」


「ああ、そうだな」


 宮崎周一参謀長の言葉に、百武は頷く。

 昼間に行われた米艦隊への陸海軍合同の空襲。攻撃隊はガダルカナルには帰らず、海軍機の誘導によって全機ニュージョージア島ムンダへと退避させていたのだ。

 だからルンガにある三つの飛行場に、今は陸海軍ともに一機の航空機も存在しない。

 十六インチ砲弾が着弾する衝撃に揺さぶられながら、第十七軍司令部は時が過ぎるのを待とうとした。

 しかしその時、海軍第七根拠地隊からの伝令が司令部に飛び込んできた。


「失礼いたします! 沿岸監視所より緊急の報告です! 敵輸送船団と思しき艦隊が、タイボ岬沖に出現、接岸しつつあるとのことです!」


「……」


「……」


 一瞬、百武と宮崎が非難がましい視線で海軍の伝令を睨んだ。

 海軍は輸送船団の撃滅を請け負っておきながら、それに失敗したのだ。陸軍は海軍が輸送船団の撃滅を請け負ったからこそ、米艦隊への空襲に機体を供出したというのに。

 飛行場への艦砲射撃を許したことに加え、海軍は失態を演じ続けている。


「……報告、ご苦労」


 とはいえ、伝令に怒りをぶつけても意味がないことは百武には判っている。


「参謀長、ただちにムンダに通信。作戦計画に基づき、襲撃機の発進を要請しろ」


「はっ!」


 海軍が米艦隊および米輸送船団の撃滅に失敗することも折り込んで、作戦計画は立案されている。そのために、前線への重砲の配備などを行ったのだ。

 ニュージョージア島からガダルカナル島までは約二〇〇キロ。航空機であれば、巡航速度でも一時間で到着出来る。






 コロラドは、第六斉射まで放ったところで発砲を停止していた。

 艦長の危惧した通り、発砲の衝撃で被雷箇所付近のリベットが緩み、浸水の増大を招いていたためだ。

 さらに被雷の衝撃と発砲の衝撃によって、艦内の電源装置に深刻な損傷が発生。艦内の照明が消えたり、応急注排水装置の一部が使用不能になっていた。

 艦内では慌ただしくダメージコントロール班が動き回り、主砲射撃を再開出来るよう、反対舷への注水や排水作業などを行っている。

 それでも、今年で艦齢がちょうど二十年になる老嬢は限界に近づいていた。

 合衆国の優れたダメージコントロール技術、そしてコロラド級戦艦の強靱な防御力を以ってしても、転覆沈没の危険性が現実のものとなりつつあったのである。


「現在、ダメコンチームが奮闘しておりますが、再度の主砲射撃か可能かどうかは判りません」


 悔しさを呑み込んだ口調で、コロラド艦長はそう報告する。


「うむ」ハルゼーは顔を歪めて頷いた。「ダメコンチームと主砲射撃に必要な要員を除いて、乗員を退艦させるんだ。近くにいる駆逐艦を呼び寄せろ」


「アイ・サー」


  ◇◇◇


 ガダルカナル島タイボ岬周辺には、多数の合衆国将兵が集結しつつあった。

 沖合に高速輸送艦が現われ、ガ島の将兵たちを収容するための上陸用舟艇を発進させる。

 その光景を見て、歓声を上げる者は誰もいなかった。すでに、ガ島の海兵隊将兵たちにそれだけの体力が残されていなかったのである。

 ただ生還の望みにギラついた目で、浜辺に接近してくる舟艇を睨み付けているだけであった。

 舟艇が接岸した瞬間に士気崩壊を起こさないよう、将校たちは緊張感と共に岬に集結した兵卒たちを見守っていた。

 やがて最初の舟艇が浜へと辿り着き、前扉が降ろされる。


「傷病兵が先だ! 秩序だって行動せよ!」


 もし兵士たちが我先にと舟艇に飛びつけば、人間の雪崩が発生して圧死する者も出るだろう。将校たちは自らも飛びつきたい衝動を抑えつつ、部下の兵卒たちの行動を監視し続けている。

 痩せ衰え、衛生的とは決していえない薄汚れた包帯を体に巻き付けた兵士たちが、舟艇に運び込まれていく。まだ己の足で歩けるだけの元気のある兵士たちが、殺意すら籠もった目で彼らを見つめていた。

 異変は、第一陣の上陸用舟艇が浜辺を離れた直後に起こった。

 突然、海に水柱が立ったのだ。

 幸いにして上陸用舟艇に被害はなかったが、もたらされた影響は深刻だった。


「ジャップの艦隊だ!」


「海軍は何をやっているんだ!」


ジャップの重砲(ピストル・ピート)に狙われているぞ!」


 砲撃が海からのものなのか、陸からのものなのか判らず、集結した将兵たちの間に大混乱が生じたのだ。

 とはいえ、それほど濃密な射撃ではない。それに気付いた将校たちが必死になって制止の声を上げるが、群集心理故か、一度始まった混乱はそう簡単に収まりそうになかった。

 一発が浜辺に着弾し、浜の砂と共に人間たちを容赦なく吹き飛ばしていく。千切れ飛んだ人体の一部が兵士たちの頭上に降り注ぎ、恐慌状態をさらに悪化させる。

 その場で意味もなく蹲る者、神の名を叫び続ける者、錯乱しているのか手で砂浜を掘り始める者、そして統制を無視して熱帯林の中に逃げ込もうとする兵士たちもいた。


「戻れ! 戻らんか!」


 軍法に照らせば、森へと走る兵士たちは完全なる脱走兵である。一人の将校が拳銃を抜き、警告として上空へ発砲した。


「命令なく海岸を離れる者は、軍紀違反として処断する!」


 だが、これはさらなる混乱を呼び起こしただけであった。

 突然の発砲に、日本軍による夜襲が始まったと思い込んだ兵士たちが、方々に射撃を開始したのである。

 熱帯林へと向かって撃った者はまだよいが、一部では完全なる同士討ちが発生。

 タイボ岬は完全なる混乱状態に陥った。

 生還の望みが最高潮に達したところでの、ジャップによる攻撃。

 その落差は、合衆国将兵たちの精神を崩壊させるのに十分なものだった。

 散発的にではあるが、確実に自分たちに降り注ぐ砲弾。そして、銃弾(こちらは同士討ちの結果であるが)。

 混乱に収拾はつかず、第二陣として接岸した上陸用舟艇に兵士たちが群がり、一部では圧死者すら発生する有様であった。






「タイボ岬にて、集結した将兵たちの間で大規模な混乱が発生している模様です。そのため、収容作業に深刻な遅れが生じております」


 未だテテレに司令部を置いたままの海兵第一師団と陸軍アメリカル師団司令部。


「……何たることだ」


 ヴァンデクリフト少将は悲痛な呻きを上げた。


「後衛戦闘を担当するため、前線陣地に残している部隊からは、ジャップの重砲による射撃であるとの報告が入っております」


「……」


「……」


 ヴァンデクリフト少将とパッチ少将は互いに顔を見合わせた。

 数ヶ月にわたる補給不足のため、ジャップの重砲に対抗すべき砲兵部隊は存在しない。これまでの空襲や艦砲射撃で損害を負ったか、弾薬不足のためである。


「……沖合の海軍に、艦砲射撃を要請しましょう」


 ヴァンデクリフトはそう結論づけた。


「後衛部隊に、敵重砲陣地の位置を観測するように伝達せよ」


「アイ・サー」


  ◇◇◇


 ルンガ沖に停止する戦艦コロラドに、駆逐艦ジェンキンスが横付けされていた。

 戦艦と駆逐艦では乾舷の高さに違いがあるため、コロラドから縄梯子を降ろして乗員の移乗を行っている。

 コロラドの傾斜は完全には回復しておらず、現在、右舷に七度傾斜したままとなっていた。


「提督も、移乗なさってください」


 コロラド艦長がハルゼーにそう進言する。


「判っている。艦と運命を共にするなんて馬鹿なことは考えておらん」きっぱりと、ハルゼーは言い切った。「俺はジャップという名のサルを絶滅させて、ジャップ語を地獄でしか話されない言語にするまで死ぬ気は毛頭ない」


 そうは言いつつも、この猛将の顔には悔しさが滲み出ていた。

 コロラドは六斉射、計四十八発の十六インチ砲弾を発射したきり、射撃が不可能となっている。ガ島のヘンダーソン飛行場にどれだけの損害を与えられたのかは不明である。

 少なくとも、ルンガの平地に赤々とした炎が見えないことから、ガソリンタンクや弾薬庫を破壊することは叶わなかったようだ。そうなれば、いくら合衆国よりも基地設営能力の劣るジャップとはいえ、夜明け前までには滑走路の修復を完了するだろう。

 ガ島飛行場を破壊すれば、付近にジャップの飛行場はニュージョージア島ムンダにしかない。ムンダからガ島までは、航空機の巡航速度で一時間はかかる。

 その一時間は、艦隊がジャップの空襲圏外に離脱するための貴重な時間になるはずだったのだ。


「提督、陸上の海兵隊司令部および、重巡ルイヴィルより通信です」


 一人の通信兵が、艦橋へと上がってきた。階段などは傾斜で歩きづらいだろうに、ご苦労なことだとハルゼーは思う。


「現在、撤収海岸となっているタイボ岬周辺が、ジャップの重砲によるものと思しき砲撃に晒されているとのことです。海兵隊司令部からは支援要請が入っており、ルイヴィルからは射撃許可を求めてきております」


 コロラドが発砲不能となっている現状、最大の攻撃力を持つ艦は重巡ルイヴィルである。


「付近にジャップの艦隊が出現する兆候はないか?」


「現状、そのような報告はありません」ブローニング参謀長が答えた。「また、現在までジャップの艦隊による襲撃がないことを考えると、ジャップは別の海域にいると考えられます」


「ハワイを出撃した陽動部隊が効いているってわけか」


 実際には違うのだが、それを知るよしもないハルゼーらはそう判断した。


「よろしい。周辺海域への警戒は怠らず、ルイヴィルはジャップの重砲陣地への艦砲射撃を開始せよ」


「アイ・サー。通信いたします」


 重巡ルイヴィルが射撃を開始したという報告が入ったのはそれから少ししてからのことであり、ほぼ同時に合衆国のレーダー・スコープには北西から接近するジャップの大編隊が映し出された。

 それは、タイボ岬での混乱に収拾の目途が立たないことを示す、絶望的な凶兆であった。


◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆


 第八艦隊はなおも珊瑚海を南下していた。


「霧島の電探に反応はないか?」


 旗艦鳥海の艦橋で、三川司令長官が焦れたように尋ねた。


「霧島からそのような信号はありません」


 大西新蔵参謀長が答える。艦隊は無線封止中であるが、電探にて目標を発見した場合には発光信号にて旗艦に通報することになっていた。

 現在、第八艦隊で電探を搭載しているのは、霧島のみであった。二一号電探は対空電探として開発されたものだが、水上目標に対しても探知可能であることが実験から判っている。

 索敵機を飛ばせない現状では、この霧島の電探が艦隊の最大の索敵手段であった。


「……」


 三川は艦橋でしばし沈黙する。

 このままでは当てもなく珊瑚海を彷徨うことになり、貴重な艦隊燃料を消費してしまうことになる。

 また、南下を続ければ、夜明け以降、エスピリットゥサントの米航空隊に捕捉されてしまう恐れもある。

 そうした懸念を抱いたまま南下を続けていた艦隊は二月七日二三二〇時過ぎ、複数の通信を傍受することになる。


「ガ島の第七根拠地隊より、敵メリーランド級戦艦に魚雷五本を命中させた旨、通信が入っております。また、陸軍第十七軍司令部が、ムンダ飛行場に襲撃機の発進を要請した模様です」


「つまり、米戦艦部隊はガ島沖に出現したわけだな」


 三川は腕を組み、艦橋の外を見た。鳥海の艦首が切り裂いた波が、月明かりの下で白いしぶきを上げている。


「このまま南下しても、恐らく米輸送船団と遭遇する確率は低かろう」


 そう、三川は結論付けた。


「はい、私もそのように考えます」


 大西参謀長が同意する。

 米戦艦部隊の後方に、輸送船団はいるはずである。米戦艦部隊がガ島沖に現われた以上、輸送船団もガ島近海に存在しているに違いない。何よりも、陸軍が襲撃機の発進を要請したのがその証拠である。

 恐らく、ガ島にて米海兵隊が何らかの行動を起こしたからこそ、陸軍は襲撃機の発進を要請したに違いない。


「やむを得ん。艦隊をショートランドに帰還させよう」


「お待ちください」


 三川の決断を遮ろうとしたのは、艦橋で司令部の遣り取りを聞いていた早川幹夫艦長であった。


「今からでも艦隊をガ島に向ければ、傷付いた米艦隊と米輸送船団を同時に捕捉出来る可能性が大です」


「早川艦長」


 苛立たしげに早川の名を呼んだのは、先任参謀の神重徳大佐であった。


「司令部の人間でもないあなたが長官のご決断に口を挟むなと、何度も言っているでしょう」


 そう言って、神は早川を睨み付ける。

 実は、第八艦隊司令部と早川の対立は、今に始まったことではない。

 第一次ソロモン海戦時、米巡洋艦部隊の撃滅に満足して引き上げようとする艦隊司令部に対して、早川は強硬に反対したのだ。鳥海だけでも再突入するから艦隊司令部は降りろ、と言い放ったほどである。

 結局、その後の戦局の推移を見る限り、あの時は米輸送船団の撃滅を主張した早川が正しかったことになる。

 以来、積極的・攻撃的な指揮官である早川と、何かにつけて艦隊保全に走りがちな第八艦隊司令部の関係は良好とはいえないものとなっていた。

 第八艦隊司令部に言わせれば、第一次ソロモン海戦では第二航空戦隊の援護が受けられたから良かったものの、そうでなければルンガ再突入によって離脱時間が遅れた第八艦隊は米機動部隊によって壊滅的打撃を被っていたであろう状況だったのである。

 早川の主張が正しかったように見えるのは、単に結果論に過ぎないと司令部の者たちは思っているのであった。第八艦隊はニューギニアからソロモンまでの広大な海域を担当している。一艦たりとて無駄に失うわけにはいかないのである。


「今からガ島を目指したところで、米艦隊と入れ違いになれば、さらに燃料を無駄に消費する。残敵掃討など、明日の昼間にでも第十一航空艦隊に任せればよいのだ」


 何故司令部の人間には敵は徹底的に叩くという考えがないのだろうかと、早川はやるせなく思う。

 中途半端な打撃を与えるだけでは、米国の工業力によってすぐに回復してしまうだろう。昨年十一月、燃料の乏しい中、戦艦大和を出撃させてでも米戦艦部隊の撃滅を決意した連合艦隊司令部並みの果敢さを見せることは出来ないのか。

 早川と神の視線が衝突し、火花を散らす。

 大西参謀長は迷惑そうな表情を見せ、航海長を始めとする鳥海乗員は艦長と司令部の対立に露骨に目を逸らした。


「……ショートランドへ帰還だ。これ以上、燃料を無駄に出来ん。我々は、今後もソロモン戦線を維持せねばならんのだ」


 頑とした口調で、三川は艦橋全体に響くように断言した。

 後世、第八艦隊があと一時間南下を続けていれば、キンケードの第五十一任務部隊を捕捉出来た可能性が高いと言われている。

 しかし、それは後世の歴史家が考えた仮定の話に過ぎない。

 こうして、第八艦隊はショートランド泊地へ向けて反転することとなった。

 そして、この時の判断はガダルカナル沖での最後の激戦を引き起こす要因となっていくのである。


◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆


 ハルゼーは最初に移乗した駆逐艦ジェンキンスから重巡ルイヴィルに移乗し、遠ざかりゆくガダルカナルの島影を眺めていた。

 時刻は二月八日〇三〇〇時過ぎ。夜明けまで、それほど時間はない。

 すでに戦艦コロラドは沈没し、艦長以下の乗員は駆逐艦ジェンキンスに収容されている。そのため、ジェンキンスの甲板にまで将兵が溢れることになった。

 コロラドの電源は回復することなく、右舷への浸水増大によって自沈処理をする間もなく転覆沈没してしまったのだ。

 現在、艦隊は重巡一、駆逐艦三、高速輸送艦四の編成で、二十二ノットにて南下を続けていた。艦隊としては、かなりの高速航行である。特に旧式駆逐艦改造の高速輸送艦は、機関が焼き付かないかどうかが危ぶまれるほどであった。

 しかし、今は一刻も早くジャップの空襲圏内から離脱しなければならないのだ。

 結局、第一次ガ島撤収作戦は不完全な結果に終わってしまった。

 ジャップの重砲射撃による撤収海岸での混乱と同士討ち、そして続く夜間空襲。

 ニュージョージア島からやって来たと思しき敵編隊は吊光弾による光源の下、タイボ岬に小型爆弾の雨を降らせ、機銃掃射を繰り返した。

 当初の計画では、第一次撤収作戦では約五〇〇〇名の兵員を収容する予定であった。

 しかし、重砲と爆弾と機銃によって血の海と化したタイボ岬から脱出出来たのは、わずか二三〇〇名程度に過ぎなかった。混乱による時間の浪費もあったが、浜辺に集結した将兵に多数の死傷者が出たための数字であった。


「ガッデム」


 口の中で、ハルゼーは呟く。

 欧州のダンケルク撤収作戦と比べ、何とも無様な結果であった。だが、まだ撤収作戦は第二次、第三次を残している。何としても、海兵隊をガ島から撤収させなければならない。


「黄色い猿どもめ。この貸しは高くつくぞ」


 胸の内に渦巻く怨嗟の感情を、ハルゼーは言葉にして吐き出した。

 いずれジャップと合衆国の立場が逆転した時には、太平洋に浮かぶ島ごとジャップを沈めてやろうと思う。合衆国にはそれだけの工業力がある。いずれ、自分の思いが現実になる日が来るだろう。

 その時までは、そうした夢想で自身の復讐心を慰めるしかない。

 遠ざかりゆくガダルカナルの島影を眺めながら、ハルゼーはそう思った。


  ◇◇◇


 夜明けも近いラバウルの第十一航空艦隊司令部にて、陸海軍の将官が会談していた。


「このような時間に申し訳ない」


 温厚な表情を浮かべた丸顔の陸軍軍人は、そう言って頭を下げた。

 ソロモン、ニューギニア戦線を担当する第八方面軍司令官、今村均中将であった。


「いえ、前線では今も将兵たちが戦っているのです。我々も寝てはいられません」


 こちらは今村とは対照的に、眼光鋭く厳めしい顔立ちの海軍軍人、第十一航空艦隊司令長官・草鹿任一中将であった。


「まずは米戦艦を撃退した海軍の奮戦に祝意を表したいと思います」


「いえ、そちらからも航空隊を出していただいたお陰です」


 中央では何かと対立する陸海軍であるが、前線であるラバウルでは両軍の司令官の人柄も相俟って、深刻な対立は生じていない。対立していては、連合軍と戦うことなど出来ないと彼らは理解しているのだ。


「現地の第十七方面軍より、先ほど電文が入りました。ガ島は米艦隊による短時間の艦砲射撃を受けたものの、飛行場はほぼ無傷。敵戦艦の砲弾はほとんどがルンガの平地に落ちたようで、航空部隊は地上要員も含めて、人的損害・物的損害ともに軽微なものに抑えられました」


「ええ、こちらも現地の航空隊司令より報告を受けています」


「しかし問題は、前線部隊です。我が重砲陣地が米巡洋艦による艦砲射撃を受け、十五糎加濃砲三門が破壊されました。弾薬の消耗と合わせて、ガ島の野戦重砲兵第七連隊には緊急の増援輸送が必要なのです」


「ふむ」草鹿は頷いた。「米軍の撤退作戦は、今回が第一次だとすると、第二次、第三次と続く可能性がありますな。陸軍にガ島の米軍の撃滅をお願いした手前、こちらとしても善処いたしましょう」


 ラバウルには現在、水上機母艦日進がおり、さらにショートランドには特設水上機母艦の神川丸、国川丸が在泊している。

 彼女たちは最近ではもっぱら、輸送船として扱われていた。日進は最大速力二十八ノット、神川丸と国川丸も、商船改造ながら約二十ノットは出せる。

 これらを用いればよいと、草鹿は考えた。


「輸送する部隊については?」


「ニューアイルランド島に野戦重砲兵第七連隊第一大隊が存在します。彼らを保有する重砲と共にガ島に送り届けていただきたい」


「相承りました。日進と神川丸、国川丸をカビエンに回航します。第八艦隊が帰還次第、輸送部隊の護衛を要請しましょう」


「助かります」そう言って、今村は頭を下げた。「これで、ガ島攻防戦に本当の決着をつけることが出来ます」


 攻防戦の趨勢は昨年十一月の第三次ソロモン海戦の勝利によって確定していたが、ガ島の米海兵隊だけが一定の兵数を維持したまま約二ヶ月にわたって放置されてきたのだ。第八方面軍にとって米海兵隊の存在は、ちょっとした懸念材料となっていた。

 ニューギニア北部で持久作戦をとり、次期セイロン島攻略作戦準備のため、陸軍にガ島へ増援を送るだけの余裕がなかったことが放置の原因であった(もちろん、兵糧攻めにして米軍の自然消滅を狙っていたという面もある)。

 また、第十一航空艦隊・第八艦隊としても南太平洋における通商破壊の他にガ島の封鎖を続けているというのは、兵力の分散にも繋がるので、ある意味で米軍による撤収作戦は問題解決のための渡りに船でもあったのだ(実際に、今回はガ島に来寇する米艦隊の迎撃のため、い号作戦は一時停滞を余儀なくされている)。

 とはいえ、今村も草鹿も、米軍を無血で撤退させてやるつもりは毛頭ない。ここで出来る限りの損耗を米軍に強要するつもりであった。

 かくして、日本軍によるガ島への緊急輸送作戦は決定された。

 史実の第三次ソロモン海戦第二夜戦で、戦艦二、駆逐艦四で日本艦隊を迎撃しようとしたアメリカ海軍ならば、戦力が戦艦一、重巡一、駆逐艦三となってもガ島突入を継続すると思い、このような戦闘結果とさせていただきました。


 さて、ガダルカナルでの米軍の撤収の模様と、それに対する日本軍の重砲射撃と夜間空襲はもう少し詳しく描写したかったのですが、この物語を執筆しようとした本来の動機から外れる上、無駄に話が長くなると思いましたので、カットいたしました。

 とりあえず、次回でアメリカ海軍によるガ島撤収作戦に端を発した物語は完結する予定です。


 皆さま、どうか今少しお付き合いくださいますよう、お願い申し上げます。


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