3歳の娘が書いた落書きが魔界に通じる魔方陣と相成りまして……(´・ω・`)
三歳になった娘に塗り絵をプレゼントした。
娘は甚く気に入り、クーピーで塗り塗り塗りと前衛的な着色を始めた。
──ぬりぬりぬり……
「うーたんね! ウサギさん好きなの♪」
「そうかそうか!」
スーパーで安売りしていた【スタープリンセス☆プリティラビット】の塗り絵をこれでもかと言うくらいに黒で染めていく娘。
──ぬりぬりぬり
「とーちゃん! みてみて!?」
「ん?」
娘は出来た塗り絵を盛大に広げ、私に見せてくれる。実に可愛い娘だ。
──ピッ……
「?」
今、塗り絵が動いたような気が…………
──バチバチバチ!!
「!?」
塗り絵が突如雷光の如く光り出した!!
──バーァァン!!
「危ない!」
「ぴあ!?」
咄嗟に娘を塗り絵から引き離すと。塗り絵から光柱が飛び出し放射状に広がった!!
「グヘヘへへへへェェェェ…………」
心の奥底を凍らせる様な甘言憎悪の呼び声が塗り絵から響き渡る。可愛らしいプリティラビットの絵から悍ましい邪悪の化身を彷彿とさせる片腕がニョキリと生え、我が家の机をガシリと掴んだ。
「とーちゃん!? とーちゃん!?」
「大丈夫だ。とーちゃんがついている」
そしてゆっくりと……ウサ耳頭の女の子が顔を出した。
「…………?」
まさか、塗り絵に描かれたプリティラビットの女の子が出てくるとは…………
「…………?」
女の子?は此方の反応が何か違うことに頭を傾げ、キョロキョロとしている。
「…………ウサちゃん?」
娘はプリティラビットの登場に一瞬で怯えが無くなり興味深く見ている。だが娘よ。奴の顔以外は完全に人外のソレだ。気を付けろ。
「なんやて!?」
プリティラビットは自分の顔を触り何か違うことに気が付いた。
「うわー!!!! 何だコレ!?何だコレ!?」
腰までを塗り絵から飛び出し、己の姿に驚く女の子?。私は何かのドッキリかと思いウサ耳を引っ張ってみた。
──ギュュュゥゥゥゥ……!
「あだだだだ!!」
「うわ! 本物だ!?」
「何すんねんドアホ!!!!」
「す、すみません!!」
咄嗟に深く頭を下げてしまう俺。平リーマンの性だ。
「魔界の頂点に君臨するはずのこのオレ様に何てことをするんだ!!」
「あのー……どちら様で?」
「見て分からんのかお前!?」
「その顔ではちょっと……」
どう見ても顔はプリティラビットにしか見えない。首から下は真っ黒で毛むくじゃらで悍ましいけどね……。
「ククカ……我はベールゼフブ。数多の魂を保有する魔界の実力者なるぞ!!」
「べ、ベールゼフブ!?」
「ンンン? 今頃恐れおののいても遅いぞ?」
「……って誰?」
──ズコッ
「って知らんのかい!!!!」
自称魔界の実力者は塗り絵から30センチ程度飛び出してはえらく威張っている。段々見た目には慣れてきたが気持ち悪いのは相変わらずだ。ぱっと見雑コラにも程がある。
「とりあえずこの魔法陣をなんとかせんかい! でないとオレ様このままやで!?」
「と、言われましても……何をどうすればいいのか……さっぱり?」
「この魔法陣を書いたのは誰や?」
「娘です」
「うーたんです!」
娘は私譲りの太眉をキリッとさせて手を上げた。
「何の偶然かお前の娘の書いた落書きがとんでもない魔法陣になってオレ様が酷い形で呼び出されたっちゅう訳や。お嬢ちゃんはよ直しや?」
「ふえ?」
「……まずココの線をもう少し延ばしてみ?」
ベールゼフブはチョンチョンと塗り絵の一部を指差した。しかし私は娘を離さない。
「大丈夫や。契約者には危害を加えられない決まりやからな……」
「そ、そうか……」
私は娘の手を離し、娘は嬉しそうに塗り絵へと向かった。
「ココをな、こうしてこう書いてな?」
「ウサたんウサたん♪」
「サタンやない、ベールゼフブや」
娘は珍妙な女の子の形をした悪魔と楽しそうに塗り絵を楽しんでいる。
「お次はコッチをチョンチョンと出来るか? 点の数が足りんのや」
「うーたんチョンチョンする♪♪♪」
娘は実に楽しそうだ。私も静かに娘の隣へと座る。
──ピーポーピーポー
「ピーポーだ!!」
──グチャグチャグチャァァ……
娘は救急車の音でテンションが上がり、赤色のクーピーで思い切り情熱を書き殴り始めた!
「ウギャァァァァ!!!!」
突如苦しみ出すベールゼフブ。見れば左腕が救急車のになっていた……。
「何をなさいますかぁぁ!?」
「くーくー車♪」
塗り絵には救急車と思しき赤色の四角形が何重にも折り重なり謎の模様と化している。
「コレでは恥ずかしくて魔界にかえれまへんー。何とかしておくんなましー」
心なしかベールゼフブの話し方までも変わってしまった様だ。
「二人ともーご飯だよ!」
キッチンで調理していた妻の声がする。今日のメニューは何だろな。
「ギョーザ! ギョーザ!!」
娘はいち早くキッチンへと向かった。
「お片付け出来たかな?」
「するー!」
──バタバタ
娘が駆け足で戻ってきて塗り絵を掴んだ。
「お嬢ちゃん?」
──バタンッ!!!!
娘はベールゼフブが飛び出したままの塗り絵を閉じた。ベールゼフブの姿は無くなり、塗り絵は乱雑におもちゃ箱へと入れられる。
「出来た♪」
クーピーも片づけ、私達は暖かい食卓を囲み食事へとありついた。
「……ぅぅ……酷いでありんす…………」
何やらおもちゃ箱から啜り泣く声が聞こえるが気のせいであろう…………
読んで頂きましてありがとうございました!!
(*'ω'*)